「我々は対中包囲網なんて作りません」?言行不一致じゃないですか!
「苦手」と指摘されていた外交分野において、たった1年でここまでの成果を上げたことは、正当に評価して良いでしょう。さきほどの『ワクチン接種で重症化が減り、意識は変わる=尾身会長』でも菅義偉総理大臣の記者会見に関する話題を取り上げましたが、これに続き、本稿では外交面についても簡単にレビューしてみたいと思います。
菅外交はFOIPと普遍的価値
さきほどの『ワクチン接種で重症化が減り、意識は変わる=尾身会長』では、菅義偉総理大臣の昨日の記者会見(下記リンク)に関し、コロナ関連の部分を確認しました。
菅内閣総理大臣記者会見
―――2021/06/17付 首相官邸ウェブサイトより
こうしたなか、本稿ではそれ以外の部分、とりわけ外交面に注目してみたいと思います。菅総理は会見で、外交については次のように述べました。
- 我が国は先頭に立って「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組を戦略的に進めてきた
- 史上初となる3月の日米豪印首脳会議の開催に続き、4月にはバイデン政権発足後初の外国首脳として訪米し、日米同盟の固い絆を国際社会に力強く示すことができた
- 英国でのG7でも「自由、民主主義、人権、法の支配」といった普遍的価値を共有するチームの一員として温かく迎え入れていただき、率直な意見交換を通じてリーダー同士の結束を確認し、その成果をしっかりと首脳宣言に反映できた
- 東京オリンピック・パラリンピックについては、G7としての開催への支持が表明され、首脳宣言にも明記された
- 尖閣諸島周辺を始め、日本の空と海は世界の中でも最も緊迫しており、過去の例にない状況にある
- 必要な警備力、防衛力を強化し、我が国の領土、領海、領空を守り抜いていく
…。
じつは、この会見、とても大切です。「菅外交」のエッセンスが詰まっているからです。
わが国(や隣国)のメディアのなかには、「菅総理がG7に溶け込めずに浮いていた」といった報道に終始していたものもあるようですが、これについては『英G7サミット、日本にとっての「成果と課題」とは?』でも報告したとおり、日本にとって重要な項目がサミット共同声明に織り込まれるという成果を上げています。
ことに、「自由で開かれたインド太平洋」、英語の “Free and Open Indo-Pacific” を略して最近では「FOIP」として定着しつつありますが、これは日本が「自由、民主主義、人権、法の支配」という「価値外交」に舵を切ったという証拠でしょう。
中国に対しては是々非々で
もちろん、その対象として、私たちが意識してしまうのは中国です。
中国に関し、『ビデオニュース』の神保氏が、長々要領を得ない質問を行っているのですが、これに対し菅総理の回答を紹介しましょう。少し長いので、これもパートに分けて紹介します。
「日米同盟、日本にとっては唯一の同盟国であります。ここを基本としながら、中国ですけれども、また中国も隣国であり、そして大国であり、このアジアだけでなく世界にも日中が果たす役割というのは極めて大きなものがあるというふうに思っています」。
この発言は、あくまでも「中国とは是々非々で協力する」というスタンスであり、「日本外交としての原則」のようなものでしょう。これはこれで正当な考えです。
しかし、次の発言は、いかがでしょうか。
「それと同時に、この間サミットの中で、やはり保障したのは、国際社会における普遍的価値です。正に自由、民主主義、人権、法の支配、こうしたものは、やはりどこの国であっても保障されなきゃならない、そういうふうに思っています。そうしたことにG7はしっかり対応していこうということを、この間の会合の中で、ここについてもG7の中で合意をしたということです」。
中国を筆頭に、国際秩序を守らない国、あるいは基本的価値を共有しない国に対する、なかなか強烈なパンチです。もちろん、国際秩序の破壊者は中国に限られませんが、G7の声明が「国際秩序を尊重しない国」に対する強い警告だったと考えるならば、この発言にはなかなかの重みがあります。
日本が世界秩序の擁護者たる覚悟を示す
そのうえで、次の発言です。
「いずれにしろ、日本にとっては正に隣国であり、極めて重要な中国については、安定した関係を日本としてはつくっていく、ここは大事だというふうに思います。ただ、言うべき点は、今、申し上げたことはしっかり主張する。これもまた世界のために大事だというふうに思っています」。
「世界のために大事」。
大変に大きく出ました。
普段から当ウェブサイトでは、「日本が基本的・普遍的価値を大切にすると宣言するならば、それらを軽視し、破壊しようと試みる不法な国家に対し、毅然と対処することが必要だ」と申し上げてきたつもりですが、菅総理がその認識を持っていることは間違いないと考えて良いでしょう。
だからこそ、一部のメディアは菅総理を「外交下手」、「G7で浮いていた」などと揶揄したり、「東京五輪は中止すべき」、「安心・安全について説明が不足している」などと批判したりするのでしょう。
某メディアの質問に見せかけた噴飯物の自説
こうしたなか、まことに噴飯物の質問が、これです。
「インターネット報道メディアの●●●の代表をしております●●と申します。よろしくお願いします。先ほど、G7サミットの質問もありましたが、私もそのサミットに関連して質問させていただきます(以下略)」
マスメディア記者の質問は長々と要領を得ないものが多いのですが、この人物の質問など、その最たるものでしょう。「サミットについて質問する」と言いながら、質問と無関係な自説(しかもかなり低レベルな代物)を滔々(とうとう)と述べる、という内容です。
途中で内閣広報官から「すみません、ご質問をお願いいたします」と遮られながらも、この人物は次のように述べます。
「米国の覇権を守るため、中国との戦争の先兵となることを自ら買って出るような、原発を抱えたまま破滅的な戦争に挑むというのは避けるべきではないかと思います。EUのように米中対立に冷静に距離を置く、そうした道というものも探るべきではないかと考えますが、それがまた従属国ではなく、主権国家の在り方ではないかと思いますが、総理のお考えをお聞かせください」。
「~と思います」、「~べきではないかと考えますが」、など、質問者の余計な主観が入り過ぎていますね。
「対中包囲網は作りません」?ウソおっしゃい!
ちなみに、これに対する菅総理の回答についても、紹介してみましょう。
「私は、正に主権国家の内閣総理大臣として、G7サミットに参加して、先ほど申し上げました国際社会の普遍的価値、このことについては、そこはG7の中で、全ての国々との中で共有しているものであります」。
くどいようですが、日本は普遍的価値について、G7とは共有していますが、中国とは共有していません(ついでにG7にゲスト国として招かれた某国とも共有していません)。この点については、菅総理の発言はまったくそのとおりでしょう。
「それと、マクロン大統領とも私、個別会談をしました。そこについては、対中包囲網など私もつくりませんから、まず。そこについてやはり普遍的価値を共有する国というのは極めて大事なわけでありますから、そこはしっかり対応していこうということで一致しております」。
この発言、多少の注意が必要です。
当ウェブサイトでも『英G7サミット、日本にとっての「成果と課題」とは?』などで指摘したとおり、FOIPを巡っては、米国、英国、カナダ、豪州と強くコミットした反面、フランスがスタンスを変え、やや慎重姿勢を示したからです。
ただ、菅総理の「対中包囲網など私もつくりません」云々の発言に対しては、「ウソおっしゃい!」と言いたい気持ちもあります。明らかに言行不一致だからです(笑)。
もっとも、あくまでも体面としては、そのように主張するのが正しいのでしょう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
個人的に、菅義偉総理大臣の経済政策には大きな不満があることは事実です。
ただ、先ほどの『ワクチン接種で重症化が減り、意識は変わる=尾身会長』でも報告したとおり、ワクチン接種が急速に進む現実があり、また、東京五輪も開催する方向でG7の支持が取れているという状況にあります。
考えてみれば、菅総理は北朝鮮の万景峰号を念頭に置いた「特定船舶入港禁止法」の議員立法での成立に尽力し、総務大臣時代には「ふるさと納税」の創設にも関わり、第二次安倍晋三内閣以降は官房長官として史上最長の政権を支えた人物でもあります。
厳しさを増す外交環境のなかで、安倍総理が体調悪化もあり、昨年9月に突如として辞任したことで、外交分野におけるFOIP、価値外交の後退を個人的に最も懸念していました。
しかし、少なくとも外交に関しては、課題がないわけではないにせよ、たった1年弱でFOIPクアッド首脳会合や外相会合、G7などの多大な成果をあげたことは正当に評価すべきではないかと思う次第です。
View Comments (18)
日本が享受する平和が「奴隷の平和」では駄目なのですか?
という問い掛けに対し、
日本と世界が享受する平和は「奴隷の平和」ではなく「真の平和」であるべき、
と菅総理が返したのだと理解しました。
自由民主主義国家として当然の事を言ったのだと考えますが、其れを良しとしない「心の祖国が特亜」な人々が今後も足を引っ張るのでしょうね。
言行不一致ではありません。
特亜包囲網を作ろうとしているのです。
〉従属国ではなく、主権国家の在り方ではないか
おまエラのいう主権とはどこの国に従属するかの
話だろう
主権国家としては、スパイ防止法制定、憲法改正、
敵基地攻撃能力始めとする自主国防力、輸出入管理強化、等々
やる事は山ほどあるけど全て賛成するんだな
菅外交は、安倍外交の延長線と言った印象で、それを上回る評価は有りません。
コロナ対策で頑張っているとは思いますが、普通じゃないかな。
菅さんでは無いと出来ないと思うような事は、見当たりませんね。
菅総理は戦略家ではなく、あくまでも実務家であるということを考えれば、今のところ大きな不満はありません。細かな点はいろいろあるでしょうが、まずまずの塩梅で政権を運営できていると思います。
問題は菅総理の「次」ですね。実務家にすらなれないバカでないことを切実に願いますが。
安倍外交の延長でも十分だと思います。全てが完了したわけでもありません。FOIPなどこれからどのように定着、発展させるかという面は、残っていると思います。菅総理の役割は、これらの実務的対応にあると思ってます。変な色気を出して独自性を発揮するのは、いただけません。
先のことは分かりませんが、次の世代(誰だろう?)への引継ぎが役割りだと勝手に考えています。最低、この1年プラス一期(3年)やっていただきたいです。
菅さんの功績は、他にもでっかいのがありますよ。RCEPです。
RCEPってのは、「中国版の大東亜共栄圏」みたいなにおいもしますが、日本と韓国とを結ぶ経済協定って、他にはなかったように思いますけどね。記憶違いでなければ。他には、日中韓FTAってのが動いてるけど、まだまとまってはいないと、思います。これは危ないし、余計なものだからやめたほうがいい。
で、RCEPですが、経済協定ってのは、貿易や投資に関わる紛争解決条項ってのがありますから、もし韓国が、日本企業に危害を加えたらRCEPの舞台で紛争解決してはどうでしょうか。裁判国はニュージーランドあたりで。
なんだか、北朝鮮のことはアメリカに、韓国のことは中国に行司をつとめてもらうような違和感もなくはないですが、中国の度量というものをはかる、いい機会になるかも知れない。発言するしないはともかく、世界中の国は中国に注目しているのです。本気でドルの覇権に挑戦するのであれば、それらしいふるまいをしないと世界中の国々をがっかりさせますね。
捕捉:国際的な紛争を解決しようとする場合、裁判国をオランダにするのはやめたほうがよさそうです。RCEPなら関係ありませんが。詳細はいちいち申しませんが、オランダってのも案外に危ない国のようですから。
>対中包囲網など私もつくりませんから
ウソついてるんじゃなくて、そのように意図しなくても、価値観外交の結果、そうなってしまうだけなんですよね。きっと・・。
同感です。FOIPの価値観のひとつ民主主義は、考え方や意見が違う者を排除してはならないのです。それがごく少数の意見であっても、その意見を尊重してよく考えてより良い結論を求めて合意を図る手続きですからね。そして皆で決めたことはみんなが守るのがルールです。だから考え方や意見の違う者を排除したら民主主義ではなくなってしまいます。言い換えれば、中国や韓国などでもこうしたルールを守るなら排除はされないということです。ただ彼らはそのようなルールを守らず自己の利益のみを求めて行動していて、ルールは他人が守るもので力(経済力、軍事力)に物を言わせて好き勝手な行動をして自己の利益を最大化するのが賢いという考え方なので結果として、民主主義のルールを守れないから仲間に入れないということだと思います。この視点から言えば「対中包囲網など私も作りませんから。」という菅総理の言葉には矛盾も嘘もありません。
マクロン大統領が掛け合い漫才ネタを振り込んでくれたことに、菅首相が話を合わせて場を盛り上げているのだと、当方は考えます。打ち合わせ済みでないとすれば、すばらしい阿吽の呼吸です。ザます婦人の会話のようなものです。
「えー、もー、対中包囲網なんて、滅相もございません」
「そうですことのよ」
連投すみません。
先の G7 会議、ホストのボリスジョンソン首相はマクロン大統領をかなり立てていたと当方は感じます。信をおいている人物、元気のいい鉄砲玉役として。この会議が米国か中国かどちらかを選ぶというものではないとマクロン大統領は声明しました。そのとおりですと膝を打つ思いなのは、アメリカ合衆国大統領以外の全員でしょう。ですから菅首相は追っかけでマクロン大統領に賛意を示してみせたのです。振り込んでしまった記者はあほうでしたね。
マスコミや立憲民主党や日共は、「菅総理はG7でも影が薄い」とか「何を言ってるのか分からない」「ぼっち」なんて散々な言い方をしてます。切り取りが激しいですね。
しかし、吠えれば吠えるほど負け犬に見えます。もう、立憲民主党はアカンやろ〜と思う。アチャヒ始めロートルマスコミも、終焉近い。今日は、かかりつけ医さんとその話しで盛り上がりました(笑)。
菅総理は控えめな発言ですが、ポイントは抑えている。大声上げたり、ドス効かしてハッタリかますのは、劇場型や左傾利敵行為の野党代表・委員長、自民のキングメーカー気取りの老人など、何も実績の無い者(実害のみあり)がやる事です。
菅総理は的外れでアサッテの方を向いた記者質問にも、国際社会における普遍的価値、自由、民主主義、人権、法の支配とおっしゃられた。「世界のために大事」だと。器が大きいわ。
自戒を込めて、姜大使の件で「選挙行っても自民党には入れない」と怒っていた皆さま、少しは怒りが鎮まったと思います(笑)。
安倍さんが、首相の外交能力のハードルをあげたということでしょう。
菅さんは、安倍さん以前の基準なら十二分な仕事をしています。外交経験が殆どなくて、ましてや今回は初めての国際会議ですしね。
ともあれ、ハードルがあがるのは良いことです。将来の首相候補たちはそれに応じて準備することでしょう。首相の外交力があがるのは、日本にとって良いことです。
一方、文大統領は外交の精神的勝利のハードルを著しくあげましたね。後任はその高くなったハードルと、現実の外交成果のギャップに苦しむことになるでしょう。
> 高くなったハードルと、現実の外交成果のギャップに苦しむ
大丈夫です。ギャップがあるなどと思わなければ良いのですから。
例えば、次回のG7に招待されなかったとしても、「韓国の実質的地位に嫉妬しているのだ」でOK。半万年属国で磨き上げた"精神勝利力"を甘く見てはいけません。
まあ、今回の「G8プロパガンダ」がどの程度成功し、「韓国にとっての真実」として定着させられるかにも依るでしょうが、多くの韓国人が信じたい内容であることは間違いないので、「真実」として定着する可能性も結構あるかと。
自由民主主義を追っていたらいつの間にか中国包囲網ができあがってしまった。どうしよう。
「カメラ近寄って。これは大変な発見です」
「わざとらしくやりおって ...」
木村幹教授の論考です。
https://www.newsweekjapan.jp/kankimura/2021/06/g.php?page=1
日本が韓国との対話を拒否するリスクについて書いています。
日本が対話の拒否をすることにより、国際社会で信用低下することを韓国は意図している可能性が高いですね。
拒否するのが間違っていたかどうかはともかくとして、拒否し続けるリスクは知っておくべきかと思います。
ここまで外交でまずまずの成果を収めている管政権も、このリスクを意識しながら今後の戦略を立ててほしいですね。