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    Categories: RMB金融

日本が乗り遅れたAIIBというバスの「お寒い現状」

土曜日だからこそじっくりと読みたい、あの怪しい国際開発銀行の実態

当ウェブサイトで「定点観測的」に報告している論点のひとつが、中国が主導する国際開発銀行である「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の動向です。AIIBが公表した2020年12月期の財務諸表によると、融資実績額は前年同期比で一気に約3倍に増えました。実額でいえば約60億ドルです。ただ、残念ながら、この増加分の大部分は、コロナ緊急融資で説明がついてしまうのです。

国際開発銀行(MDB)とは?

国際開発銀行(MDB)総論

俗に、「国際開発銀行」とは、途上国支援などを目的に設立される国際機関のことであり、バーゼル銀行監督委員会(the Basel Committee on Banking Supervision, BCBS)は “Multilateral Development Banks” 、あるいは「MDB」などと呼んでいます。

このMDBは世界にいくつかあるのですが、そのなかでもとくに有名なのが、米国が主導する世界銀行(世銀)でしょう。ちなみに世銀といえば国際通貨基金(IMF)と非常に密接な関係を持っており、毎年、合同で年次総会を開いています。

一方、アジアにおけるMDBの筆頭格といえば、日米が主体となって設立したアジア開発銀行(ADB)がその代表例です。MBDには世銀、ADB以外にも、旧東欧・旧ソ連諸国を支援する欧州復興開発銀行(EBRD)やアフリカ諸国を支援するアフリカ開発銀行(AfDB)などがあります。

おもなMDBを、図表1にまとめてみました。

図表1 おもな国際開発銀行(MDB)
銀行名 概要 設立年・加盟国
世界銀行(WB)=1945年設立 途上国における貧困の削減・繁栄の共有の促進を使命とする世界最⼤の援助機関 1945年設立・189ヵ国加盟
米州開発銀行(IADB) 中南米・カリブ(LAC)加盟諸国の経済・社会発展に貢献することを目的とするMDB 1959年設立・48ヵ国加盟
アジア開発銀行(ADB) 世界最大の貧困人口を抱えるアジア・太平洋地域の貧困削減、平等な経済成長を実現することを最重要課題とするMDB。日本は設立以来、最大の出資国として貢献 1966年設立・68ヵ国加盟
欧州復興開発銀行(EBRD) 中東欧の旧社会主義国・旧ソ連構成国の市場指向型経済への移行並びに民間及び企業家の自発的活動を支援するためのMDB 1991年設立・69ヵ国・2機関加盟
アフリカ開発銀行(AfDB) アフリカ諸国の経済的開発及び社会的進歩に寄与するためのMDB 1964年設立・81ヵ国加盟

(【出所】財務省『国際開発金融機関(MDBs)~世界銀行、アジア開発銀行等~』や各MDBのウェブサイト等を参考に著者調べ)

また、これら以外にも多くのMDBが存在していますが、いずれも途上国支援などを目的とした、おもにインフラ金融などを取り扱う国際的な金融機関であり、各国政府などが参加している、などの特徴があります。

MDBは「カネを貸して、はい、お終い」ではない!

では、MDBと民間金融機関の最大の違いは、いったい何でしょうか。

ここで重要なポイントがあるとしたら、MDBに期待される役割は、たんに途上国におカネを貸すだけではない、という点です。財務省『国際開発金融機関(MDBs)~世界銀行、アジア開発銀行等~』によれば、MDBの役割は次のとおりです。

金融支援・技術支援・知的貢献を通じて途上国の貧困削減や持続的な経済・社会的発展を総合的に支援すること」。

つまり、一般にMDBは出資国などが主導権を持ち、単なる「カネの支援」に留まらない、途上国などに対する総合的な支援を行っています。

日本は米国と並んでADBの筆頭出資国ですが、ADBは外務省や国際協力機構(JICA)、株式会社国際協力銀行(JBIC)などとも連携し、さまざまな途上国支援を実施しており、この途上国支援の世界では、日本は一日の長を持っているのでしょう。

実際、こうした途上国支援の実績を積んできたためでしょうか、アジア諸国で世論調査を実施すると、中国、北朝鮮、韓国を除くほとんどの国で「最も好きな国」ないし「最も印象の良い国」に日本の名前が挙がります。

また、MDBを通じた融資は、支援を受ける側にとってもメリットがあるものです。一般にメインの支援国(たとえば日本)だけでなく、資金面などで支えるそのほかの国の目が入ることで、支援の透明性が高まるというメリットも考えられるからです(※ただし、これは著者の私見です)。

昨年6月のG7声明は「債務で相手国を縛るな」

いずれにせよ、安定的な途上国支援の仕組みは必要なのですが、それと同時に、相手国が返せないほど多額のおカネを貸し付け、融資が焦げ付いた瞬間、相手国のインフラなどを差し押さえる、といったヤクザまがいの融資が行われるようなことがあってはなりません。

ことに、大きな災害、戦争、疫病蔓延などが発生すれば、さまざまなしわ寄せは一般に最も弱い人、最も弱い国を直撃します。

こうしたなか、昨今は世界的な武漢肺炎・武漢コロナウィルスの蔓延により、世界経済に大きな停滞が懸念されています。あまりメディアには注目されていませんが、G7財相会合は昨年6月、『債務の透明性及び持続可能性に関するG7財務大臣声明』という声明を出しました。

声明では次のようなことが謳われています。

  • 新型コロナウイルスは、多くの低所得国における既存の債務脆弱性を悪化させ、長期の開発金融にかかる債務の持続可能性及び透明性の重要性を強調している
  • 最貧国のために、公的な二国間の債務の支払を2020年末まで、場合によってはそれよりも長く猶予すること(中略)債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)を実施していくことにコミットしている
  • 我々は(中略)DSSIを実施するとともに、すべての公的債権者にも実施を求める
  • 我々は、時宜を得た債権者間の調整と公平な負担分担の促進を含め、債務の持続可能性及び透明性を確保するために、G20、パリクラブ関係国、IMF、世界銀行、及び、その他の債権者と協働を続ける

要するに、武漢肺炎の蔓延で途上国が借金を返せなくなるような事態になったとしても、それによって相手国をコントロールしたりするなよ、という牽制のようなものですね。

AIIBの現状・最新版

AIIBとは何者か

さて、国際開発銀行(MBD)のひとつに、2015年に設立され、2016年から活動を開始した「AIIB」という組織があります。口の悪い方は「アジア・インチキ・イカサマ銀行」などと称していますが、実際には「アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank)」の略だそうです。

さて、このAIIB、その名のとおり、設立趣旨は「アジアのインフラ整備にかかる資金供給」なのだと思いますが、見た目は非常に派手です。

AIIBのウェブサイトによると、2015年12月に発足して以来、加盟国は順調に増えており、今年3月30日にアルゼンチンが参加したことによりメンバー国は86ヵ国に達し、出資約束額も967.6億ドルだそうです(図表2)。

図表2 AIIBの出資額と参加国数の推移

(【出所】AIIB “Members and Prospective Members of the Bank” を参考に著者作成)

アジアの発展に貢献するために、ここまでたくさんの国が参加してくれているというのは、なんと素晴らしい話でしょう。

日本は参加していない!

ところが、不思議なことに、この素晴らしいMDBに、日本は参加していないのです。

AIIBの参加国と出資約束金額・出資割合について、上位10ヵ国を列挙したものが、図表3です。

図表3 AIIBの主要参加国(出資約束金額上位10ヵ国)
出資約束額 出資割合
1位:中国 297.80億ドル 30.78%
2位:インド 83.67億ドル 8.65%
3位:ロシア 65.36億ドル 6.76%
4位:ドイツ 44.84億ドル 4.63%
5位:韓国 37.39億ドル 3.86%
6位:豪州 36.91億ドル 3.81%
7位:フランス 33.76億ドル 3.49%
8位:インドネシア 33.61億ドル 3.47%
9位:英国 30.55億ドル 3.16%
10位:トルコ 26.10億ドル 2.70%
その他 277.61億ドル 28.69%
合計 967.60億ドル 100.00%

(【出所】AIIB “Members and Prospective Members of the Bank” を参考に著者作成)

AIIBの筆頭出資国は中国であり、また、図表には出ていませんが、議決権比率も26.5726%と、「拒否権」(25%)を超えているのだとか。

また、その他の上位出資国を眺めてみると、インド、ロシア、韓国、豪州、インドネシア、トルコなど、アジア・太平洋の地域大国に加え、ドイツを筆頭に欧州の大国も1枚噛んでいることがわかります。

日本と米国という2つの国が入っていません。これは、じつにおかしな話です。AIIBには現時点で全世界から86ヵ国が出資していますし、ボリビアやベネズエラなど、現時点で参加意思を表明している国もいます。これらの国がすべて参加すれば、参加国は100ヵ国を優に超えるわけです。

なぜ日本と米国はいまだにこのAIIBに参加しようとしないのでしょうか?

このままだとバスに乗り遅れてしまうのではないでしょうか?

バスに乗り遅れた日本

じつは、日本はとうの昔に、この「AIIBバス」に乗り遅れてしまっています。

2015年にAIIBが出発する際も、いくつかのメディアで「このままだと日本はバスに乗り遅れてしまう」、といった警告がなされていたにも関わらず、です。

たとえば、在日中国人ジャーナリストの方が、2015年4月2日付でウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』にこんな記事を寄稿されています。

日本は中国に対する冷静さを欠き、AIIB加入問題で流れを読み間違えた

―――2015.4.2 0:00付 ダイヤモンドオンラインより

この人物は、日本がAIIBに参加していないことを「日本が流れを読み間違えた」と指摘。また、いくつかのメディアに出演し、

AIIBに加入する国がもっと増えてくると思う。中国主導かどうかといった問題よりも、国際銀行の設立にかかわった経験をもつ先輩役の日本もアジアインフラ投資銀行に参加すべきだ

などと主張したところ、こうした主張が一蹴され、あるいは一笑されるケースが多かったとしつつも、「実際には48ヵ国・地域が加入を申し込んだ」、などと指摘し、「バスに乗り遅れるかもしれない」と強く警告していました。

さらに、この人物はその数年後も、同じくダイヤモンドオンラインにこんな記事を寄稿されています。

中国嫌いが災い、AIIBを巡る世界の流れに日本は乗り遅れた

―――2017.2.2 5:00付 ダイヤモンドオンラインより

リンク先記事には、だいたい次のような主張が含まれています。

  • 2016年9月1日、ロイターはカナダがAIIBに加盟申請する方針だと報じたし、ホワイトハウスのアーネスト報道官も、米国とカナダの当局者はAIIB加盟について連絡を取り合っていると記者団に説明した
  • 2017年1月下旬には、中国の環球時報などのメディアが相次いで「中国主導のAIIBにカナダ、アイルランド、スーダン、エチオピアなど25ヵ国が新加入へ、米国加入の可能性も」といった内容のニュースを配信した
  • AIIBの金立群総裁は、今年1月24日付英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューに対し、「今年は新たな参加予定国には含まれていないが、トランプ大統領率いる米国が加盟する可能性もある」と述べた
  • 実際、愚直に米国に追随して行動する日本も、こうした米国の変身ぶりに度肝を抜かれている

いわば、頑なにAIIBに参加しようとしない日本について、「米国がAIIBに参加したら日本はハシゴを外されるぞ」という警告ですね。今になって思えば、2015年にバスに乗り遅れた日本を、2017年の時点でAIIBは待ってくれていたのかもしれません。

そのうえで、記事では、日本が「AIIBに加盟するかどうか」という具体的な案件への対応策という次元の問題もさることながら、「落ち着いて冷静に」日中関係を見つめる姿勢を保っていくことが重要だ、と戒めているわけです。

反面教師としては非常に良質

以上、「日本がAIIBに乗り遅れた」論に関する冗談は、このくらいにしておきましょう。

結論からいえば、リンク先の記事、「バスに乗り遅れるぞ」論の筆頭格としては、大変に参考になります。もちろん、ここで「参考になる」、というのは、「反面教師で」、という意味です。正直、ここまで清々しいほどに「読み応え(?)」のある記事というものは、最近ではあまり見かけません。

もっとも、いずれの記事も「読み応え」があるのは、その薄っぺらい内容そのものというよりも、インターネット環境が普及する以前、まだ読者の厳しい批判の目にさらされていなかった時代のマスメディアの論調のうさん臭さを知ることができる、という意味において、です。

先ほど引用したダイヤモンドの記事、あまり厳しいことを言いたくはないのですが、著者の方に金融の専門知識や金融商品会計(IFRS9)、バーゼル規制などの知見があるようには思えません。

それなのに、「日本がAIIBに参加しなかったことは日本がインフラ金融の世界から取り残されることにつながりかねない」などと軽々しく述べてしまうのは、いかがなものかと思います。

ツッコミどころは大量にあるのですが、記事の文章を利用しつつも、ヒトコトだけ反論させていただくならば、「日本が現時点に至るまでAIIBに参加していない」という事実自体、日本政府が「落ち着いて冷静に」日中関係を見つめた結果の判断です。

考えてみれば当然ですが、日本は米国と並び、国際インフラ金融の世界でかなりのノウハウを蓄積しており、これに加えて「質の高いインフラ投資」を推進するため、2015年5月以降は安倍晋三総理大臣が支持した『質の高いインフラパートナーシップ』を理念として掲げています。

わかりやすくいえば、日本政府の融資スタンスとは、「使いやすくて長持ちし、環境に優しく災害の備えにもなるようなインフラ」、「アジアの国々をつなぎ、現地の雇用を生み出し、スキルを高め、暮らしを改善するインフラ」の支援にあります。

このあたり、AIIBが開発という美名のもとに行われる、事実上の中国の世界侵略計画を実現するための組織ではないかとの疑いを持たれているのとは大きな違いです(※もっとも、日本政府の宣伝も下手くそ過ぎて、もどかしい気がしますが…)。

AIIBの現状

AIIB、融資額がいきなり3倍増!

さて、そのAIIBは現在、どうなっているのでしょうか。

結論から言えば、融資額は前年同期と比べ、いきなり3倍に増えました。

現在、AIIBには財務諸表は2020年12月までの財務諸表(単体・PwC香港の監査意見付)が公表されています。これをベースに、本稿でもAIIBの最新状況について、主要論点を簡単に確認しておきましょう。

まずは、AIIBの融資実績です。

本稿ではAIIBの財務諸表に記載されている「時価評価されていない金銭債権・債券」(それぞれ原文では “Loan investments, at amortized cost” と “Bond investments, at amortized cost” と表記)の金額を「融資実行額」と仮置きしてみます。

すると、2020年12月期の融資実行額は87.7億ドル(うち債権が82.8億ドル、債券が4.7億ドル)で、2019年12月期の27.5億ドル(うち債権が22.7億ドル、債券が4.8億ドル)と比べ、融資額が一気に3倍以上に膨らんでいることがわかります(図表4)。

図表4 AIIBの「融資実行額」(2020年12月時点と、2019年12月との比較)
項目 2020年12月 前年同期比増減・増減率
資産合計 320.8億ドル +94.5億ドル(+41.76%)
本業の融資と思しき金額(①+②) 87.7億ドル +60.2億ドル(+218.65%)
うち償却原価法適用貸出(①) 82.8億ドル +60.0億ドル(+264.11%)
うち償却原価法適用債券(②) 4.7億ドル ▲0.1億ドル(▲2.24%)
余資の運用と思しき金額(③+④+⑤+⑥) 225.7億ドル +34.9億ドル(+18.30%)
うち現金・現金同等物(③) 27.0億ドル ▲4.1億ドル(▲13.21%)
うち定期預金(④) 132.1億ドル +13.4億ドル(+11.32%)
うち売買目的投資(⑤) 66.5億ドル +25.6億ドル(+62.40%)
うちファンド預託金(⑥) 0.0億ドル +0.0億ドル(+394.41%)

(【出所】AIIB財務諸表り “Loan investments, at amortized cost” と “Bond investments, at amortized cost” の合計額より著者作成)

(※余談ですが、AIIBのバランスシートには余資(現金・現金同等物や売買目的投資、定期預金などの残高)が多すぎるのも気になるところです。外資系証券会社のカモにされていなければ良いのですが、心配ですね。)

融資額が3倍増!

いったい、どういう事情があるのでしょうか。

プロジェクト承認件数をADBと比べてみる

結論からいえば、この融資の激増は、コロナによるものと考えて差し支えないでしょう。

ここで、AIIBの「プロジェクトリスト」のページから、2016年に活動を開始して以来、AIIBが承認したプロジェクトの件数・金額を一覧にしたものが、図表5です。

図表5 AIIBのプロジェクト承認状況
連番 承認件数 承認金額合計
2016年 8件 16.94億ドル
2017年 15件 25.03億ドル
2018年 12件 33.03億ドル
2019年 28件 45.47億ドル
2020年 45件 99.81億ドル

(【出所】AIIBの “Our Projects” より著者集計)

いかがでしょうか。

2020年だけで45件、金額にしてじつに100億ドル近くが承認されているのです。2019年と比べ、承認件数は比べて17件も増えていますし、承認金額に至っては、じつに倍以上です(※ちなみに現時点における「2021年」のデータは、承認件数が10件、承認金額合計は20.19億ドル)。

ところが、ここでひとつ、面白い特徴があります。

案件名称に “COVID-19” が含まれているものをカウントすると、2020年は21件・62.1億ドル、2021年は7.8億ドル・7件に達しているのです。普通の人であれば、ここでふと疑問に感じるのではないでしょうか。

あれ?AIIBって『インフラ投資銀行』じゃなかったっけ?

実際、コロナ関連の案件を除外すると、AIIBの2020年における承認件数は24件に過ぎず、金額も2019年なみに留まります(図表6)。

図表6 プロジェクト名に “COVID-19” 含まれているものを除外して図表5を再集計したもの
連番 承認件数 承認金額合計
2016年 8件 16.94億ドル
2017年 15件 25.03億ドル
2018年 12件 33.03億ドル
2019年 28件 45.47億ドル
2020年 24件 37.71億ドル

(【出所】AIIBの “Our Projects” より著者集計)

なんのことはありません。コロナ関係の融資を増やしたことが、AIIBの融資実行額急増の理由だったのではないかと思えてなりません。

なお、図表4に示した「融資実行額」は、図表5、図表6のプロジェクト承認金額合計とはおそらく一致しません。その理由は、図表4が融資実行ベースであり、図表5・図表6がプロジェクトの承認ベース、つまり将来実行する融資を含めた金額だからです。

出資約束額との比較

さて、たしかにAIIBの融資実行額はこの1年間で急激に伸びたことが確認できるのですが、ただ、それと同時に、融資実行額はまだまだ出資約束金額と比べると、両者には大きな開きがあります(図表7)。

図表7 AIIBの出資約束額と融資実行額

(【出所】AIIB財務諸表等を参考に著者作成)

たしかに、2020年9月から12月における融資実行額が「ジャンプ」していることはわかりますが、それでも融資実行額はまだ100億ドルにすら満たず、融資実行額(グラフ中の「A」)の出資約束額(グラフ中の「B」)に対する割合は10%にも達していないわけです。

「競合」するADBとの比較

さて、比較ついでに、プロジェクト承認件数について、おなじアジアの国際開発銀行である「アジア開発銀行」(ADB)とも比較しておきましょう(図表8)。

図表8 ADBとAIIBのプロジェクト承認件数比較
ADB AIIB
2010年 424件 0件
2011年 379件 0件
2012年 378件 0件
2013年 424件 0件
2014年 377件 0件
2015年 313件 0件
2016年 424件 8件
2017年 314件 15件
2018年 368件 12件
2019年 357件 28件
2020年 415件 45件
2021年 28件 10件

(【出所】ADBについてはプロジェクト検索ページ、AIIBについてはプロジェクト一覧のページなどを参考に著者作成)

ADBについてはこの10年間、毎年300~400件程度で推移していますが、AIIBについては昨年、やっと45件に達したものの、ADBと比べればやはり件数としてはかなりの見劣りがします。

AIIBと一帯一路

さて、このAIIBという組織を巡って、実情を調べていくと、いろいろとお寒い内情が判明します。

ちなみにAIIBがスタートしたのは2015年ですが、この2015年といえば、人民元の国際化が腰砕けになった年でもあります(『数字で読む「人民元の国際化は2015年で止まった」』等参照)。

それだけではありません。

昨日の『豪政府「一帯一路」協定破棄を決定も、実害はほぼない』でも報告しましたが、中国共産党が「鳴り物入り」で進めていたはずの「一帯一路」構想も、事実上、頓挫しそうになっています。

実際、現時点においてAIIBのウェブサイトで確認できる166件のプロジェクトを眺めてみても、「中国の西安から東欧まで至る」という、例の一帯一路構想に沿ったインフラ建設プロジェクトが計画的に推進されているようにはとうてい見えません。

どちらかといえば、ADBや世銀との「協調融資」(あるいは「おこぼれ」)を貰っているようなものが多く、とうてい、中国が「一帯一路」で「世界をインフラ金融の世界から侵略している」ようには見えないのです。

結論的には、現在のAIIBはコロナ禍の影響で多少融資が伸びているものの、「一帯一路関連プロジェクト」などに対する与信はほとんどなく、また、当初期待されていた人民元建ての融資というものも実行されている形跡はありません。

結局のところ、日本が乗り遅れたバスは、出発したものの、その直後にエンストしたようなものなのかもしれませんね。

いずれにせよ、AIIBが「開発という美名のもとに行われる、事実上の中国の世界侵略計画を実現させる」という疑いは、現時点においては完全に払拭されていると言っても過言ではありません。

ただし、それは「世界侵略をしようと思ったけれども能力がなくて頓挫した」というだけの話なのかもしれませんが…。

新宿会計士:

View Comments (19)

  • 海外で活動する中国人には本国から指令が都度出ており、現地で工作活動をしていると報道があります。優秀であればあるほどに、覚えめでたく引き上げられて、出世するのだそうです。
    日本留学してのちに就職日本社会に溶け込んでいる人物こそ大陸の向こう側からみて恰好のエージェントというわけです。
    学生不足で経営難な大学が外国人受け入れに熱心なのは、果たして本朝の将来に本当に役立つことなのでしょうか。

    • 太平洋戦争時、米国が日系人を強制収容したのは、日本の諜報活動網を封ずるためだったという話があります。
      万一日中ないしは米中衝突になった際は、何らかの手を打つべきなんでしょうね。

      • いつもお世話になっております。

        たい様 それだけでは、日本人が米国に帰化した人達(二世を含む)を
        強制収容した事の理由になりません。
        同時期に米国と戦争をしていた独国及び伊国人が何故強制収容され
        なかったのか理由を詳しく記載すべきです。
        又、アジア人種に対するなら、何故アジア人種全部が強制収容されなかった
        のかも。
        私の案では、日本人に対する人種差別です。

        •  個人的な見解ですが。
           日本人強制収容が主にアメリカ西海岸地域で行われたことが注目点でないかと思います。

           ベースにあったのは、大陸横断鉄道建設のため西海岸地域に大量輸入された中国人クーリーによってアメリカ人労働者の仕事が奪われたことによる黄禍論。
           日本の中国大陸進出に関連づけて、中国人クーリー問題は日本のせいだという話に転換。
           そこに日本とハワイの友好的歴史に対する疑念が加わり、日本がアメリカ西海岸への侵攻を企んでいるに違いないという決めつけ。
           なぜなら、日本は真珠湾を攻撃してハワイを制圧しようとしたではないか。日本の真の目的はアメリカ侵略である。
           これらが政治的思惑の中で重層的に発展して日本人強制収容(と財産取り上げ)という発想に至ったのだと考えています。

           中国人クーリーはドレイ商品であって日本人じゃないからアメリカでは人権もないし脅威ではない。
           よって、とにかく日本人を探して捕まえておけ。
           こんなとこだろうかと。

           朝鮮人はどうだったのかは知りません。
           当時は日本人として扱われたのでないでしょうか。
           イアンフチョーヨーコー念仏が効かなくなれば、いずれ「日本がアメリカに強制連行したせいで収容所に入れられた」などと、元日本人強制収容問題を繰り出すのかもしれません。
           いまから楽しみですね。

    • citizenship を獲得するセレモニー(手続き)のひとつに、聖書に手のひらをおき宣誓するというものがあるそうです。先の大戦において生まれ故郷を棄てて合衆国市民となった日本生まれの一部は優秀さ勤勉性を認められて対日工作に従事したひとたちもいたそうです。
      ここで明らかにしておきたいのは、当方は人生の選択を非難するものでないということです。実際のところ住んでいられなくなった祖国の過ちを海の向こうから正そうとする2世3世合衆国市民は多い(CIOエージェントになる)「引き裂かれた自我」として、映画のプロットに使われることがあります。

      • ハワイは別にして、アメリカ本土では日系よりドイツ系やイタリア系のほうが遥かに激しく諜報活動してたんですが。ヨーロッパ本土での連合国側・枢軸側双方の諜報活動の激しさを考えればアメリカ本土で枢軸側のドイツやイタリアが大人しくしている筈がありません。白人と明確に異なる容姿の日系人よりもドイツ系やイタリア系のような白人のほうが白人国家のアメリカでは遥かに容易に諜報活動できましたし。

        また日本国籍を持つ1世でなく既にアメリカ国籍を持つ2世以降の日系人さえ信用せず、踏み絵を踏ませるかの如く日系人だけで編成し激戦地に投入され続けて損耗率も最も高かった部隊として442連隊戦闘団が有名ですが、ドイツ系やイタリア系のアメリカ人に対してこういう踏み絵を迫ったりはしていません。

        はにわファクトリーさんが個人的にどのような信条をお持ちかは貴兄の御自由ですが、事実として日系人に対する強制収容も日系2世らに踏み絵を踏ませた442部隊も完全に日本人とその子孫に対する人種差別以外の何物でもありません。

    • 共産チャイナや韓国(そして恐らくは北朝鮮も)は各々の在外国民に対して本国政府の命令(当然ながら諜報活動や破壊活動も含む)に従うことを義務付ける法律を制定済だったと思いますよ。

      ですから在日共産チャイナ人や在日韓国人(そして恐らくは在日北朝鮮人も)は日本がそれらの国と事を構える事態となった場合、日本国内で諜報活動や社会インフラに対する破壊活動を必ず行うことが彼らの祖国の法律で約束されていると我々日本国民は理解し想定して、有事における彼ら在日特亜国民への対処法を十二分に準備しておくべきです。(だから私は以前から有事に彼らを強制的に収容隔離するための孤島を確保して収容設備を建設すべきだと主張しているのです)

      >学生不足で経営難な大学が外国人受け入れに熱心なのは、果たして本朝の将来に本当に役立つことなのでしょうか。

      それら経営難の大学を存続させるために我々日本国民が納めた税金がどれだけ無駄に(日本社会にとって何のメリットもない形で)浪費されているか考えれば結論は明らかですね。そういう最底辺の大学を潰したところでそこの理事会や教員や職員ら、そしてそこに天下りしている最低省庁(何せ「面従腹背」を座右の銘などと公言する下衆な前川を事務次官にするレベルを最低と呼ばずして何と呼ぼう)の文科省のクズ官僚共以外は誰も困りません。

      そういう定員の大半を外国人留学生に頼り国の補助金で何とか経営を維持している最底辺大学は速やかに全て潰して、それで浮いた資金を先端科学技術の研究開発予算に回したほうが日本の将来にとって桁違いに有益です。

      そもそも大学を選ばなければ誰でも大学に入学できる、言い換えれば大学の定員総数が高校生1学年の人数を上回っている現状は明らかに異常で大学の定員が多すぎる、言い換えると大学を認可し過ぎ補助金をばら撒き過ぎて、補助金という名の税金が確実に無駄になっているのです。

      何しろ日本国内には行くべき学生が存在しない人数分まで補助しているのですから。

  • コロナで苦しむ途上国を助ける必要がありますが 麻生大臣の「新型コロナウイルスの影響で財政が悪化している途上国をどう支援するかで特定の国(中国と思われる)への返済にまわされたら意味がない」も至極真っ当な発言です。このあたりの工夫はしっかりされたのでしょうか。気がかりです。

  • 更新ありがとうございます。

    いやぁ、AIIB号バスに乗らなくて良かった。あんときゃ鳴り物入りで、日本の「専門家」も「何故参加しないのか」「米国に追従が過ぎる」、、安倍総理憎しの方も居たのでしょうが、エンストして窓も開かないエアコン止まったAIIBバスなど、今なら「密」で殺人バスになってます。

    AIIBは“COVID-19” 対策支援銀行ですか(笑)。自分で撒き散らしながら、融資をする。インフラと何の関係があるのでしょう?

    国際インフラ融資はADBに任せておけばいいんです。もっとも、審査が厳しいのか、計画が杜撰な案件は却下されるでしょうが。そういう底辺国相手は、また別の開発融資機関を作るか、ですね。

  • 膨大な金額の援助を日本から受けた中国が、いま日本にどういう態度をとっているかをみれば、中国も自分たちが援助している国からどういう扱いを将来受けるか、覚悟ぐらいしているはずです。

    中国からの借金なら、アメリカも戦争になったらチャラにできますし、他の国も戦勝国になれればそんなものどうとでもなります。

  • 2015年頃、「バスに乗り遅れるな!」と声高に叫ぶ方々が少なくありませんでした。日経や朝日などのマスメディア、進歩的と言われるような経済評論家の皆さんが多かったように記憶しています。(読売や産経はどうだったかな......記憶にありません)
    しかし、それらの方々は、その昔、日独伊三国同盟締結前にも「乗り遅れ警戒論」が朝日などで声高に叫ばれていたことをご存じないのでしょうか。そして三国同盟の結末は、皆さんよくご存じのとおりです。

    まあ、AIIBの物語はまだ完結したわけではありません。もしかしたら、この先にバラ色の展開が待っていることだって、絶対にないとは必ずしも言い切れない可能性もけして無きにしも非ずと考えられる余地だってあるのかもしれません(ゼェゼェ)。
    「失敗は成功の準備運動」(from 『始まりは君の空』by Liella!)だそうなので、まだ失敗したとは必ずしも(中略)AIIBの未来を、生暖かく見守りましょう。

    それにしても、当時青筋立てて参加を叫び、政府や財務省を無能呼ばわりしていた方々に、現状をどう思っているか是非聞いてみたいものですね。

    • 当時青筋立てて参加を叫び、政府や財務省を無能呼ばわりしていた方々・・・思いつくのは鳩山、岡田、蓮舫、江田の各氏、
      志位委員長を初めとした共産党の各位。
      古賀茂明、天木直人、孫崎亮、近藤大介、岩上安身、浅田彰、高野孟の各氏。大谷昭宏、青木理等など。

      • 批判ばかりで建設的な意見を聞いたことのない方達ばかりですね。
        でもマスコミ好みの方達でもあります。
        日本のマスコミが如何に腐っているのかという事を改めて実感させられます。
        マスコミを含めてこの方たちは日本を少しでも良い国にしたいという気持ちは無いのでしょうか?

        毎日何を考えて生きているのか全く不思議な方達です。

  • AIIBは中国の習性が如実にあらわれています。
    中国は長期的展望をたてるのは得意です。
    どの様な行動をすれば、世界征服出来るか?と。
    しかし、その目的のために一歩づゝ実績を積み上げる事は出来ません。
    今のGDPも外国の企業を受け入れて働かせてるだけです。
    外国の力が無ければ、GDPを成長させる事も不可能でしょう。

  • 日本がAIIBに参加しなかった理由は「運営のガバナンスと透明性が確保されていないから」だったと記憶しています。中共の便利なサイフになるだけだから、ということかもしれません。
    FOIPはルールを守ることを重視していますが、当時から一貫しているわけですね。

    「バスに乗り遅れる」「アメリカの顔色を伺って入らない」と解説していた人々は、日本がFOIPを先導しているの現在でも、同じことを言うんでしょうかね?
    言うんでしょうね。
    (そういえば田原総一朗とか、さっぱり見かけなくなりました)

  • 誰だって、ADB(銀行)に先んじてAIIB(サラ金)に駆け込んだりはしません。
    新規の加盟国は藁にも縋りたいくらい窮した国ばかりなのでしょうね・・。

    かつては、日本からのODAを受けながら、他の途上国にODAを発してた中国。
    AIIBで二匹目のドジョウは現れなかったのかと・・。

    運転者(日米)不在のバスはデカいタンクに燃料(出資)の補充もままならず、走行(融資)も惰性で僅かに進むだけ・・。

    名前は、バンク(銀行)
    走路も、バンク(傾斜)
    進路は、バック(後退)
    タイヤはパンク(破裂)
    バスにはハンドルありません。

  • ワタシは場違いな発言、そして空気読まない……、
    テン、テン、テン。以下省略。

    アジアインチキイカサマギンコウ(間違っていたらゴメンなさい。)
    武漢肺炎(武漢肺炎ではBKKの飲み屋さんでは通用しません。で、ワタシはウーハン風邪です。余談ですが、バンコクではウーハンカゼ、ウーハンコロナで、若いお姉ちゃん、年をとったお姉ちゃんと大いに盛り上がりました。あの頃が懐かしいです。生きているうちに、も〜一度バンコクの土が踏みたいと、思っています。)

    武漢ウイルスなんて発言をする、この板がダイ好きです。
    タブンですがキット、シンポ的なシンポ的なブンカジンはマユをひそめるでしょう。私はブンカジンさんより、西施さんが眉を顰めるのが見たいです。

    蛇足です。
    駄文でした。申し訳ないデス。