ユネスコ記憶遺産の改革は勝利の「一里塚」に過ぎない

「朗報」があります。ユネスコ「世界の記憶」(あるいは俗に「世界記憶遺産」)を巡って、ユネスコの制度改革が昨日、承認されました。これは、「南京大屠殺」や「慰安婦問題」を筆頭に、事実に基づかないウソの資料が記憶遺産登録されてしまうことを防ぐための仕組です。日本外交はとりあえずの勝利をおさめた格好ですが、ただ、ここで終わりではありません。

2021/04/16 17:00 追記

本文の誤植を修正しています。

世界の記憶とは?

以前の『ユネスコ「世界の記憶」への慰安婦資料登録阻止=産経』では、「世界の記憶」(俗にいう「世界記憶遺産」)に関する話題を取り上げました。

これは、ユネスコが「世界の記憶」を巡り、「だれでも申請できる」という状況を改めたうえ、「申請は事実に基づき、偏向のない記載で行う」、「立証不可能な主張、主義や思想の宣伝は排除する」などの新基準を伴った制度改革案をまとめた、とするものです。

ユネスコのウェブサイト “Memory of the World” によると、そもそもこの「世界の記憶」とは、1992年に創設された制度で、「世界のさまざまな地域でのドキュメンタリー遺産」に対する保存、参照を容易にするためのプロジェクトです。

いわば、古文書や書物といった歴史的史料などが、戦争や社会混乱、貧困などによって散逸してしまうことを防ぐというもので、登録済みの「世界の記憶」については、ユネスコのウェブサイト “Registered Heritage” のページで確認することが可能です。

ただ、これについては2017年以降、新規登録作業が中断しています。

そのきっかけとなったのが、2015年の中国による「南京大屠殺文書(Documents of Nanjing Massacre)」の登録です。

これについては2017年5月7日付・産経ニュース『ユネスコ分担金を再び留保 政府、記憶遺産審査の即時改善求める 「慰安婦問題」推移見極め』によると、「中国の申請内容に選定基準の真正性などに問題があった」、「審査が透明性や公平性を欠いていた」として日本政府が反発。

そのうえで、日本政府が関係国とともに審査方法の改善などをユネスコに要求するとともに、ユネスコ分担金(2015年は38.5億円、2017年は34.8億円)の拠出を一時保留にしたことなども話題となりました(いずれも現在は支払済み)。

制度改革の概要

これを受けて、このほどまとまった改革案では、次のような内容が盛り込まれました。

  • これまでは個人や民間団体が自由に申請可能だったが、申請を行うことができるのは国に限られる
  • 登録までのプロセスで加盟国に発言権はなかったのを改め、ユネスコ事務局が申請案件を提示し、ほかの国は最大90日以内に異議申し立てが可能
  • 異議が出た案件については関係国が対話することとし、その対話は無期限で、異議が取り下げられない限り審査は棚上げされる

つまり、関係国が異議を取り下げなければ、その文書の記憶遺産登録は阻止される、というものです。

中朝韓などが大好きな「歴史プロパガンダ」に関連する文書について、今後は登録を阻止することが可能となるでしょう(もっとも、これまで当ウェブサイトにて調べた限り、「すでに登録されたものの抹消」に関する新たな手続は盛り込まれていないようですが…)。

こうしたなか、読売新聞オンラインに本日掲載された次の記事によると、この改革案が15日、正式に承認されました。

日本政府が主導、ユネスコ「世界の記憶」審査改革案を承認…慰安婦など政治利用防ぐ

―――2021/04/16 11:37付 読売新聞オンラインより

もちろん、この異議申立制度も承認され、「当事国の対話で合意できなければ登録しない仕組み」が整いました。また、異議がない場合も、最終決定する権限は、従来の事務局長から執行委員会に移されるのだそうです。

ただし、中韓(や日本)の市民団体などが申請中の「慰安婦問題関連資料」は「過去の申請のため新制度の対象とはならない」とされており、これについては「ユネスコが今後、どう取り扱うかについて方針を示す」、と記載されています。

このあたりも以前紹介した産経ニュースの報道とほぼ同じでしょう。

ゼロ対100理論の一環:闘争はまだまだ続く

もっとも、くどいようですが、当ウェブサイトとしては、本件については「日本外交の全面勝利」とは言えないと考えています。

もちろん、今回のユネスコ改革のきっかけとなった、日本政府による分担金留保や関係国への働きかけについては、高く評価して良いでしょう。その意味では日本の有権者・納税者の1人として、外交当局者の労をねぎらいたいと思います。

しかし、それと同時に、今回の事例の構図は当ウェブサイトで以前から提唱している、中国や北朝鮮、韓国といった無法国家が日本に対して闘争を仕掛けてくる際の屁理屈である「ゼロ対100理論」そのものです。

この「ゼロ対100理論」とは、自分たちの側に100%の過失がある場合でも、インチキ外交の数々を駆使して「相手にも落ち度がある」などと言い募り、過失割合を「50対50」、あわよくば「ゼロ対100」に持ち込もうとする、中国や北朝鮮、韓国に特有の屁理屈のことです。

このロジック、以前から当ウェブサイトで何度も繰り返して指摘してきたものであり、今年2月に刊行した拙著『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』にも転載した論点ですので、当ウェブサイトをご愛読いただいていれば、多くの方がご認識になられていることと思います。

とくに困った問題が、その得失表です(図表)。

図表 ゼロ対100理論における得失表
ケース相手の得失日本の得失
100%、相手が勝った場合100の利得100の損失
日本と相手が引き分けた場合50の利得50の損失
100%、日本が勝った場合ゼロゼロ

(【出所】著者作成)

明らかに理不尽な論点であることがおわかり頂けると思います。

つまり、日本からすれば、今回のように100%に近い勝ちをおさめたとしても、「新たに得るもの」は何もありません。すなわち、今回のケースだと、ユネスコの「世界の記憶」に「日本を不当に貶めるもの」が登録されなくなったというだけの話だからです。

もう少しきちんと言えば、中国、北朝鮮、韓国にとっては、「今後、日本を不当に貶めるものをユネスコの『世界の記憶』という仕組みを使って登録することができなくなった」だけの話であり、また別の手段を探せば済むはずです。

日本政府が先日、福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を決めましたが、これに関して「国連人権委員会」の「独立『専門家』(?)」の口から「汚染水の海洋放出は人権侵害だ」などと意味不明なことを言わせるのも、日本を貶める工作の一環に過ぎません。

このように考えていくならば、やはり、拙著『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』でも申し上げたとおり、悪意を持って日本を貶める国家に対しては、その不法行為の対価を負担させるための努力が必要です。

とくに中国に関しては、東シナ海・南シナ海での無法、新疆ウイグル自治区などにおける人権侵害などを含め、全世界に対してさまざまな不法行為を働きかけています。「南京大屠殺」関連文書も、こうした不法行為の一環と見るべきでしょう。

だからこそ、そのような無法国家の行動を許さず、諸外国と連携して中国の不法行為を封じ込めて行かねばなりませんし、そんな中国に協力する韓国や北朝鮮についても、いずれ何らかの形でその対価を支払わせなければなりません。

その意味では、ユネスコ改革はその長い闘いのほんの一幕に過ぎないのです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. だんな より:

    重箱の隅です。
    >「過去の真正ンおため新制度の対象とはならない」
    過去の申請のため 

    申請は取り消さないと思いますが、承認システムは新システムに移行するのが、一番シンプルだと思います。

  2. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    まったく日本は太平洋戦争に負けた事の、疵がまだ続きますネ。だからアノ軍部、特に陸軍の暴走は、、なんて言っても日本の時間と名誉と兵隊・後方市民は帰ってきませんが。

    よりによって朝鮮、中国という統治していた国や地域から、これだけ恨まれタカラれるとは。相手が尋常では無いのは分かってますが、他民族に簡単に手を貸してはいけない、日本人の余った労働力を移転させ、版図を広げようとしてはいけないという見本です。ヤルなら正々堂々ではなく、とにかく勝つしかないんです。

    さて、ユネスコですが、私は脱退するか廃止するのが一番良いと思います。でも日本だけ孤立するのはマズイ。それなら今回の「だれでも申請できる」という状況を改めたうえ、「申請は事実に基づき、偏向のない記載で行う」、「立証不可能な主張、主義や思想の宣伝は排除する」などの新基準をは賛成です。

    これだけでも、今後のでっち上げは激減するでしょう。出来れば過去分も抹消したいですが、中国共産党と朝鮮勢力を潰してやっと動き始める程度でしょう。

  3. sey g より:

    外交は、外国での売買交渉に似ています。
    半分に値切って得したと思っても、普段の5倍の値段で買ってたりする奴です。
    韓国は、何もない所で100要求して、日本側は50にしてお互い様だと勝った気でいる。
    これの原因は、その物の本当の価値がわからないからです。
    100押されてて50押し返したら真ん中ではなく、最初の位置から50押された所だと認識出来ないと駄目です。
    日韓ワールドカップもそう。アジア初のワールドカップが欲しければ、韓国単独でやってもらってもいいんです。
    失敗しても成功しても、もう日本は関係ないと割りきったらいいんです。
    ただ、最近は韓国とは 付き合わなくてもいいという正しい価値観を持ってる様なのでこのままで行って欲しいてす。

  4. 禹 範坤 より:

    南京大虐殺?太平天国の噺かな?
    それとも国共内戦での、共産匪賊の蛮行ですかw

  5. H より:

    お題がズレますが、
    麻生太郎財務相が16日の閣議後の記者会見で
    原発処理水に関して中国側が『太平洋は日本の
    下水道ではない』と言った事について、
    「じゃあ中国の下水道なのかね。みんなの海じゃ
    ないのかねと思うね」と言ったそうです。

    「歴史は中韓のものなのかね」
    誰か言ってくれないかなぁ
    まあ、言っても奴等は我らより下の日本が
    何を言うのか、でしょうが

  6. 匿名 より:

    南京大屠殺関連文書って未だに全部閲覧できないんでしたっけ?記憶遺産の意味がないなあ・・・

  7. たい より:

    第二次世界大戦の中国の犠牲者は1〜2000万と言われています。
    日本軍に殺された民間人もいるのかもしれません。
    南京事件については政治的プロパガンダに利用されすぎて、実相を掴むのが極めて困難です。

    中国軍に殺された民間人もいないとはいえません。
    黄河決壊事件ではかなりの犠牲者が出たという話です。
    国共内戦も第二次世界大戦の一連の流れであると、捉えられているのかもしれません。
    中国側犠牲者のかなりの部分が、日本軍の行為によるもの以外の可能性があるのではないかと推測しています。

  8. PONPON より:

    ユネスコは本部がパリにあり、設立当初からフランスの影響力が強い組織なので文化歴史を純粋に貴ぶ気風が強く、韓国等の政治的な動きを排除する傾向が強い。
    また欧米の中でもフランスは幕末から現在に至るまで日本の文化に対する造詣&評価が高く、また各種世論調査でも欧州の主要国の中で最も親日度が高い。

    事実無根の歴史問題や人権を振りかざして貴重な文化歴史を冒涜する韓国などは、文化大国&欧州の歴史の中心地であるフランスにとって取るに足りない存在であり、それはフランス国内に慰安婦像が全く設立されなく、話題にも上らないことにも表れているように思います。
    ドイツとは好一対ですな。

    1. PONPON より:

      >ドイツとは好一対ですな。

      好対照のまちがいでした。

    2. ちょろんぼ より:

      いつもお世話になっております。

      PONPON様 大丈夫です。 もう少しすれば、仏国にもいわゆる慰安婦像が
      立ち始めますよ。
      慰安婦像は売春容認国及び売春婦輸出国が持たざるを得ない「聖遺物」なんですから。
      独国ではどこかの博物館に売春婦記念物として公開されているそうですし、
      仏国や他の国でも売春容認国又は売春婦輸出国にこれから立ち続けるでしょう。
      米国も売春容認国又は売春婦輸出国だから、立っているのです。

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