スエズ運河コンテナ船座礁問題と物流安保問題を考える
物流安保は経済問題であるだけでなくFOIPの実効性を試す実例
先般からの『一帯一路・日韓トンネル・鉄道共同体構想は「与太話」』や『日本がシベリア鉄道よりもFOIPを重視するのも当然』、『与太話としての日露・日韓トンネルと鉄道相互直通構想』などでも取り上げた話題が、「東西物流」です。こうしたなか、日本と欧州を最も効率よく結びつける重要なルートのひとつであるスエズ運河の通行止めを巡って、あらためて物流の安保を考えるべきではないかと感じた次第です。
目次
そもそも東西貨物輸送はどうあるべきか
当ウェブサイトでは『一帯一路・日韓トンネル・鉄道共同体構想は「与太話」』や『日本がシベリア鉄道よりもFOIPを重視するのも当然』を含め、かなり以前から、アジアと欧州を結ぶ航路・鉄路などについての考察を加えてきました。
以前からの議論の繰り返しで恐縮ですが、一般に物資の運搬手段は、理屈の上では海路、陸路(道路か鉄道)、空路が考えられます。
海路だと、コストが安いという長所はありますが、最大の短所は、時間がかかり過ぎることです。
たとえば日本の神戸から欧州のロッテルダムまでは、直線距離だとせいぜい9300キロメートルほどですが、海路の場合、マラッカ海峡やスエズ運河、ジブラルタル海峡などを経由する「最短ルート」を通ったとしても、2.1万キロメートルほど航行する必要があります。
この点、船会社のウェブサイトなどで調べてみると、コンテナ船で日本から欧州に貨物を送付する場合には、ルートや目的地にもよりますが、だいたい30~60日程度の時間が必要です。コンテナ船の速度は平均時速50キロ程度であり、ユーラシア大陸を大きく迂回する必要があるからです。
この点、本当に急ぎの荷物があるならば、一定水準以下のサイズであれば、空路という手段もあり得ますが、この場合はコストが非常に割高となるという短所があります。東京から欧州主要都市まで、シベリア上空経由でだいたい12~14時間、といったところでしょうか。
スエズ運河の封鎖
もしもスエズ運河が通れなくなれば…!?
この点、先日の議論では、「空路では速いがコストがかかる」、「海路は遅いがコスト優位がある」という点を踏まえ、「その中間をとって、陸路での輸送が実現するならば、理論的にはコスト優位があるはず」、「しかし諸般の事情で、現状、日本企業にとっては陸路より海路の方が魅力的」と結論付けました。
ただし、もしもスエズ運河を通ることができない状況が出現すれば、この議論が影響を受けてくる可能性があります。なぜなら、スエズ運河を経由しない場合に日欧で最短ルートの航路を取ろうと思えば、南アフリカの喜望峰を回る必要があるため、航行距離は2.8~2.9万キロメートルに増えてしまうのです。
単純に「スエズ運河が通れない分、喜望峰経由で8000キロメートルほど余分に航海しなければならない」、「コンテナ船の時速は50キロメートル」という仮定を置いて大雑把に見積もると、160時間、つまり約1週間は遅れる、というわけです。
そして、何らかの理由でスエズ運河が通れなくなり、その状態が長期化すれば、荷物の運搬が予想外に遅れるということであり、また、(あまり考えたくはありませんが)スエズ運河を経由しないルートで運航計画を立てざるを得なくなった場合には、必要日数はさらに伸びます。
さらには、「もしもスエズ運河が通れなくなったら?」というリスクが顕在化してしまった場合には、物流や保険などにも、少なからぬ影響が生じるかもしれません。
先週以来、大型船に塞がれたスエズ運河
そのリスクが、経済化してしまいました。
エジプトのスエズ運河で現地時間23日、大型コンテナ船が座礁し、完全に通行できない状況が続いています。FNNプライムオンラインのYouTubeアカウントに昨日掲載された動画によれば、この船舶は、ちょうどスエズ運河を塞ぐようにして座礁しています。
大変に困った状況です。
というのも、日経電子版に昨日掲載された次の記事によれば、座礁船が運河を遮断しているため待機している船舶は321隻にも達すると、エジプト政府・スエズ運河庁が明らかにしたからです。
スエズ大型船離礁、満潮でも難航 運河庁「メド立たず」
―――2021年3月28日 11:35付 日本経済新聞電子版より
まさに、東西物流が寸断される事態となりかねません。
船主は日本の正栄汽船
こうしたなか、座礁の原因やその背景、離礁のめど、今回の事故によるスエズ運河寸断状態が長引いた場合の経済への悪影響など、気になる論点はいくつもあるのですが、それらのなかでも特に気になるのが、責任の所在です。
これらについて考える前に、まずは『日本海事新聞』(電子版)の「2021年3月30日」版に掲載された『正栄汽船 檜垣社長が会見。「離礁後に原因究明・損害確定」』という記事などをもとに、事実関係を明らかにしておきましょう。
- 座礁した船舶は愛媛県の正栄汽船が保有している2万TEU型コンテナ船「Ever Given」号である
- 自己の詳細については調査中だが、同船はマレーシア・タンジュンぺラパス港を13日出港し、23日朝にスエズ運河に到着。同日、運河のパイロット(水先人)2人が乗り込み、運河を航行中、砂嵐に遭い座礁したとみられる
- 本船乗組員と船管理会社のレポートによれば、主機関や航海計器の不具合があったという報告は受け取っておらず、操船はスエズ運河のパイロットの指示の下に行った
- 船の所有権は正栄汽船にあるが、同社はその船に船員配乗やメンテナンスも兼ねて、台湾の長栄海運(エバーグリーン・マリン)に「定期貸船」しており、船員配乗とメンテナンスについては委託先のベルンハルト・シュルテ・シップマネージメント(BSM)が一括管理している
…。
つまり、所有者は日本の正栄汽船、運行は台湾の会社長栄海運(エバーグリーン・マリン)、船員配乗やメンテナンスはBSM社が請け負っている、というわけです。
どちらに責任があるのか
台湾エバー社「日本の船主に責任」
この点、台湾メディア『中央通訊』(日本語版)に先週掲載された次の記事によると、エバーグリーン側は25日夜、座礁やそれにより派生する第三者への責任に関連する費用、船体の損失などについては、いずれも「「船主(つまり正栄汽船)が責任を負う」との声明を発表したのだそうです。
スエズ運河座礁船 運航のエバー「船主が責任負う」愛媛の会社が所有/台湾
―――2021/03/26 14:39付 中央通訊日本語版より
一方、先ほどの日本海事新聞によれば、正栄汽船の檜垣幸人社長は、次のように述べたそうです。
「離礁費用、船の修繕費は当社が負担する。運河の閉鎖による減収などの損害については今後、法律に則って検討していく。海運業界には国際ルールがあり、加えてスエズ運河庁についてはエジプトの国内法が適用されるだろう」。
このあたり、実際のところはどうなのでしょうか。
企業会計基準委員会(ASBJ)のウェブサイトに掲載されている、一般社団法人日本船主協会が作成した『定期傭船契約とは』というPDFファイルの7ページによると、傭船契約には大きく次の3つの形態があるのだそうです。
- ①裸傭船契約(Bareboat Charter Contract、B/C)
- ②定期傭船契約(Time Charter Contract、T/C)
- ③航海傭船契約(Voyage Charter Contract、V/C)
傭船契約により責任がまったく異なる
この3つの契約について、「独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構」(JOGMEC)のウェブサイトで調べると、それぞれ次のような趣旨の説明が記載されています。
裸傭船契約
船主が船舶のみを用船者に貸与し、用船者は船長以下乗組員を任命し、彼らを通じて船舶の占有をなし、運送行為を行う契約であり、船舶の賃貸借契約のこと。
用船料が期間建てで決定されること、および配船の自由が用船者にあることは定期用船契約と同じであるが、裸用船契約においては、船舶の占有権が用船者にあること、また用船者がその任命した乗組員を通じて運送行為を行うという点が、定期用船契約とは異なる。
用船者は、用船期間中、本船の保守・管理に関する一切の責任を負い、本船の減価償却費および金利以外のあらゆる費用を負担する。
定期傭船契約
用船者が、長期にわたって船腹を必要とするときに締結される契約で、一定の期間を定めて船腹を用船し、用船料の支払は期間建てないしは日建てで行われる。
この場合、船主は、船長その他の乗組員を任命し、堪航性(たんこうせい)の保持につき十分な注意を払った船舶を、所定の港で用船者に引き渡す。用船者は、引渡しを受けた船舶を、契約に定めた航路内であれば自由に配船できる。
航海並びに運送行為自体を船主が行うことは航海用船契約の場合と同じであるが、本船の運航業務(積み揚げ地および航海速力に関する指示、補油の手配など)は用船者によって行われるという点で、決定的に異なる。
定期用船契約は、契約に定めた航行区域内で、積み揚げ地を特定せず、数カ月あるいは数年間、運送行為を行うものであるから、本船の速力、燃料消費量、載貨重量など経済的に重要な項目については船主が担保し、本船の引渡し、返船場所についても、契約に規定されている。
航海用船契約
積地から揚げ地までの運送行為を船舶の一部または全部を利用して行うことを目的として、用船者(荷主)と船主(運送人)の間に締結される運送契約のこと。
この際、船主は、船長その他の乗組員を任命した上で、用船者に対して船腹を提供し、その運送行為に関する全責任を引き受ける。通常、燃料費、港費、船員費などの運送行為にかかわるすべての費用は船主が負担し、用船者は、運送行為に対する対価として、運賃を支払う。
運賃は、通常、積高1トンあたりいくらという形で決められる場合が多いが、なかには積高に関係なく、一航海単位で決められる場合もある
これをわかりやすくまとめてみましょう。
契約の種類 | 概要 | 責任 |
---|---|---|
①裸傭船契約 | 船員を配乗せず、船舶(と船舶上の器機・付属の什器備品)のみを「裸」の状態で貸し出すこと。賃貸借契約 | 用船者は、用船期間中、本船の保守・管理に関する一切の責任を負う |
②定期傭船契約 | 船舶+船員を一定期間貸し出すこと。運送契約 | 本船の速力、燃料消費量、載貨重量など経済的に重要な項目を船主が担保する |
③航海傭船契約 | 特定船舶によって、特定貨物を、特定時期、特定区間内、特定の条件(運賃など)で、一航海の運送を引受ける契約。運送契約 | 燃料費、港費、船員費などの運送行為にかかわるすべての費用を船主が負担する |
(【出所】ASBJ資料、JOGMEC資料等を参考に著者作成)
日本の会社がコストを負担する可能性が高そう
この点、先ほどの『日本海事新聞』の記事によれば、船員配乗とメンテナンスについては、正栄汽船がベルンハルト・シュルテ・シップマネージメント(BSM)に「一括管理を委託している」、という趣旨の記載がありました。
また、同じ『日本海事新聞』の2021年3月26日付『エバーグリーン、正栄汽船から定期用船。強風で航路逸脱か』という記事によれば、この船舶はエバーグリーン側に「定期貸船している」と記載されています。
ということは、傭船契約形態は上記②に該当しており、もし今回の座礁が機械的なトラブルなどによるものであるならば、基本的には正栄汽船側がコストを負担すると考えられます。
したがって、「エバーグリーン側が乗り込ませた船員が操舵を担当し、その船員が明らかな操舵ミスにより座礁させた」、などの事情でもない限りは、「座礁やそれにより派生する第三者への責任に関連する費用、船体の損失などは正栄汽船が負担する」というエバーグリーン側の発表は、あながち間違いではありません。
ちなみに、先週25日付のロイターの記事には、「正栄汽船や保険会社に対し、数百万ドル規模の損害賠償が請求される可能性がある」とする「業界筋」の情報が掲載されています。
スエズ運河の座礁船、所有者と保険会社に数百万ドルの賠償請求も
―――2021年3月25日8:54付 ロイターより
つまり、船舶が座礁したことによる損害、積荷が損傷・遅延したことなどによる損害だけでなく、ロイターなどの報道によれば、「スエズ運河庁から座礁による収入面の損失補償」、「航路を妨害された他の船舶からの賠償」などの可能性が出ているということです。
もっとも、ロイターは「保険業界筋」の情報として、「同規模のコンテナ船は船体と機械設備について1億-1.4億ドルを補償する保険に入っている可能性が高い」、「2人の関係筋は座礁船は日本で保険がかけられている」、などと報じています。
もしも正栄汽船に求められる損害賠償額がこの保険の範囲に収まり、かつ、その全額が保険から支払われるのであれば、今回の件はそれで(表面上は)「一件落着」、ということでしょう(その後の保険料への影響などを別とすれば、ですが)。
安全保障と物流
WSJ「エジプトのシシ政権に危機」
こうしたなか、米メディアのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)には先日、こんな記事も掲載されていました。
スエズ運河通航不能、甘かったエジプトの拡張工事
―――2021 年 3 月 27 日 03:07 JST付 WSJ日本版より
WSJによると、今回の座礁事故に関連し、在任7年目を迎えたエジプトのアブデルファタハ・シシ大統領にとっては「就任以来最大ともいえる危機」的な局面だ、と指摘。とくに、シシ氏が過去に指揮した巨額の運河拡張工事に対し「厳しい視線が注がれている」としています。
これは、いったいどういうことでしょうか。
WSJによると、シシ政権は2015年、85億ドル(約9300億円)を投じた「新スエズ運河」を完成させたものの、想定された通行料収入の急増は実現しないまま、今回の座礁事故で「世界のサプライチェーンを大混乱に陥れる羽目になった」というのです。
つまり、今回の事故は、単に日本の船会社が損害賠償を払うかどうかという話ではなく、エジプトという国そのものの国際社会からの信頼に疑念が付きかねない状況だ、というわけです。
しかも、この「新スエズ運河」事業はスエズ運河の北側部分の幅を広げ、南北で行き交えるようにする事業だったのですが、不幸なことに、今回の事故が起こったのはレーンが1つしかない運河の南側部分だったということです。
WSJはエジプト政府が拡張工事に際し、この南側部分については「追加投資を行う価値はない」と判断して2つ目のレーンを整備するための工事を見送った箇所だったと指摘しています。
そのうえ、コロナ禍による国際貿易の失速で、スエズ運河自体の2020年における運航料収入も56億ドルと、2019年の58億ドルから減少。世界的な原油安の影響で喜望峰航路のコストが下がっていることに加え、地球温暖化による北極海航路開設という可能性が生じている点などを指摘しているようです。
航路多様化は必要だが…
ただし、個人的にはこのWSJの議論には、少々の粗さを感じてしまいます。
もちろん、最近の原油安などにより、喜望峰廻りの航路のコストが低下していることは間違いありませんし、地球温暖化が進行すれば(あるいは航行技術が上昇すれば)、北極海航路などの可能性も開けてくるでしょう。
ちなみに北極海航路を想定した場合、ルートにもよるものの、神戸港とロッテルダム港の航行距離は、だいたい1.3万キロメートルほどです。
神戸とロッテルダムの距離(概数)
- 直線距離…9200~9300キロメートル
- 北極海航路…13000キロメートル
- スエズ運河ルート…21500キロメートル
- 喜望峰ルート…28000~29000キロメートル
(【出所】地球儀等をもとに、著者作成)
たしかにスエズ運河ルートと比べ北極海航路は短めです。
神戸と並んで日本を代表する港湾都市である千葉県成田市からフランクフルトまでの飛行距離は、最短で9300~9400キロ程度だそうであり、航行距離だけで見たら、北極海航路はこの成田・フランクフルト間とさして遜色はなさそうです。
しかも、北極海はロシア当局に警備に加え、単純に寒い(?)ので、紅海などと異なり、海賊などもおそらくは出没しないであろうという期待感もあります。
しかし、だからといって「喜望峰ルート」「北極海ルート」がただちに「スエズ運河ルート」の代替となり得るかについては、かなり微妙でもあります。石油安が未来永劫続くとは限りませんし、また、北極海ルートについても、沿岸国が沿岸国だけあって、どうにも油断できません。
さらには、『日本がシベリア鉄道よりもFOIPを重視するのも当然』や『与太話としての日露・日韓トンネルと鉄道相互直通構想』などでも論じたとおり、シベリア鉄道構想と日本を陸路でつなげるなどの構想については、基本的に「与太話」と考えて良いでしょう。
もっとも、物流の安全は経済問題であるだけでなく、安全保障問題でもあります。その意味で、「スエズ運河封鎖」は、図らずも日欧の物流が寸断された場合の「予行演習」としては、ちょうど良い事例でもあります。
ことに、現在のわが国が推進しようとしている「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想が、中国の「一帯一路」構想との差別化を図ることができるかどうかが試されている局面でもあります。
差し当たっては、南半分の拡幅については「経済面」のみならず「安全保障面」からも、エジプトに思い切った支援を行うべきかどうかを検討する価値はあると思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
>コンテナ船の速度は平均時速50キロ程度であり・・・
現在のコンテナ船はそんなに速い速度で航行していません。
現在は燃料費をふまえ、速くても20ノット程度(約時速37キロ)です。
時速50キロは約27ノットです。
現在ある程度の大きさの船でこの速度で航行する船は軍艦等を除くとあまりないです。
気になったので調べましたら、サービススピード22.8ノット(42.2km/h)だそうです。定格出力は馬力で79,500馬力とのこと。(他諸元:全長約400m・幅約59m・22万t)これで2万コンテナを一度に運ぶと。陸上では不可能な数字ですね。
そして、27ノットといえば大和(15万馬力・約260m・約39m・64000t)の公試最大速度を連想しました。こちらも巡航速度・艦隊速度となると20ノットをかなり下回るはずですが。46cm砲9門と指揮機能がこの速度で移動してまわるというのもやはり、陸上では常識外れの戦力です。
船ってスゴイ。腐らない急がないモノを運ぶなら最強ですね。
あと運河の改修方針がマズかったんじゃとエジプト政府を批判する向きもあるようですが、30m縛りのパナマに比べたらすごい幅の広さですね。砂嵐というのは不運ながらも、考慮されていなければならないとは思いますが……
現在、各海運会社では各々が持つ定期航路のサービススピードは17-18ノットくらいではないでしょうか。燃料消費量の増加率は独特で船速を2倍にすると消費量は8倍になります。かつてよりは安くなったとはいえ最近の燃料(C重油)は1トン当たり400USDほどしますので船を定格通りに走らせるというのはもってのほかでなるべく遅く走らせるのがデフォルトのようです。このくらい大きな船は1日の消費量が100トン超えになるので1日10トン、20トンの節約でも大きなコストセーブです。仮に1日3-5トンでも1隻/1日あたり1200USDから2000USDのコスト削減になるのでこれが100隻あればと考えると遅く走らせたいと考えるのはムリもないんでしょうねえ・・・。30年近く前の燃料がバカ安(トンあたり100USD前後) だったころはイケイケドンドンでガンガン高速23-24ノットで走らせてましたけどね。その頃の船は今より小さくても10万馬力くらいのがゴロゴロしてましたが(そういえば馬力をきくと、鉄腕アトム並みですと答える営業さんがいました)今はこんなにでかくても8万馬力もないんですね。改めてみると時代を感じます。
凄いですね、ここでコメントする方々は。
ただただ読みいるばかりです。
全く知らないことばかり!
貴重な体験に基づく知識をご披露いただき本当にありがとうございます。
またしても脇の話ですが、北極海航路はコンテナ船の航路としてみるかぎりはたとえスエズ運河が使えなくなっても直ちに代替航路にはならないと思います。なぜなら夏しか使えない、アイスクラスのコンテナ船が必要(現在ULCSでそんな船はない)、ロシアのエスコート船をつけなければならない―高速で走れない、ロシア政府の胸先三寸で待機を指示されるなど結構制約が多いためです。さらにアジアのコンテナのハブはもはや日本などではなく、(コンテナ取扱数日本一の東京港でさへ、世界でみれば30位にはいるかどうか)上海や香港そしてシンガポールです。これらの港からオランダ、フランス、イギリスなどへ輸送する場合、距離的なメリットがあまりありません。(北極海航路の距離が喜望峰回りより多少短くてもそれを使用するまでに至るメリットが先述理由から乏しい。コンテナ船は走る距離もさることながらやはりリードタイムが肝要なので)
欧州某国駐在 様
北極海航路の代替性について意見します。
夏しか使えないこと:
夏季に限定しても安全保障上唯一の航路の代替可能性は貴重ですし、研究でも夏冬で航路を切替することでコスト的メリットを最大化するとあったように思います。
アイスクラスのコンテナ船が入用なこと:
バルト海、北米の一部を除きアイスクラスのコンテナ船が少ないのは、まさに現状北極海航路が存在しなかったからでしょう。
ロシア領海の制約があること:
ロシア領海を航行する安全保障については今回のスエズで示された図式と同じで、代替航路の安全保障事情が異なるのは当然と思います。
コンテナハブは上海他で日本でないこと:
コンテナ取扱量については2018年の数値ですが日本が6位、韓国が4位。中国1位、シンガポール3位に圧倒されていますが、ハブでなく仕向地としてもそれなりの取扱はありそうに思います。日本の場合はデカいコンテナ船が入港できないためにハブ港で積替えしてる事情もありますし。
https://www.mlit.go.jp/common/001358397.pdf
拙い素人考えで恐縮です。
ご確認いただいたとおりなので直ちに定期航路(コンテナ)の代替にはならないということです。
特に夏冬のシーズンによって極東―欧州間での寄港地がコロコロ変わるようでは客の立場からみればちょっと使いたくないですね。
一方で不定期航路では十分魅力ある航路だと思います。
バルカーやタンカーではそれなりの航行実績があるのはその証拠でしょうね。
ただ沿岸国は漏油事故などが起きたときの処理を考えると寒い海では揮発分も少ないので処理が進みにくいこともありあまり走ってほしくない意向もあるようですね。
上海発のイギリスならフェリクストゥ、ドイツならハンブルグ行きでしょうかね。
傭船契約やアライアンスだったり相変わらず化石のような業界といった印象を受けます。
水先案内人のお爺さんはクビになるのか否か。あれだけ大きいと爆破も出来ないでしょうし大変ですね。
掛かる不幸な事故において事後処理は日台連帯責任となり、よって両者の結びつきはなお一層強まることあれ険悪となり得ないことに当方は安堵を覚えます。損切り国家と損切り国民とは違うのです。
更新ありがとうございます。
航空から撮った画像で見ても、スエズ運河の幅員って狭いんですね。大型船の行き違いはやっとでしょう。散々何10年も稼いだ間に、拡幅や海底を深く掘るとか、改善して無いのでしょうね。せめて東行き西行きの2本あってもおかしくない。高い料金をプールして改良しないのは、お国柄ですね。パイロットも、どの程度のスキルの方か、調査して欲しいです。
スエズ運河の当該水域では、大型船の行き違いは生じません。
簡単に言うと、北航船団、南航船団を組み、時間を分けて交互に通航し、行き合いは南北出入り口及び途中の広い水域で行います。
ちなみに水路の幅は、一般に行き合いがある場合は通航船の長さ分、行き合いが無い場合は通航船の長さの半分が「最低基準」です(国内法令:港湾の施設の技術上の基準の細目を定める告示30条https://www.mlit.go.jp/common/001230746.pdf)。
今回は船の長さが400m、水路幅が約200mで基準ギリギリ。もちろん水路側端は水深が浅くなっている可能性はあります。
いずれにしても、船舶大型化に航行環境整備が十分追従しているかは?です。余談ですがこのような状況は日本国内でも生じています(港名は伏せます)。
>船舶大型化に航行環境整備が十分追従しているかは?です。
考慮する事項は航路幅だけではありませんので日本国内どころか世界的と肌感覚で思います。同じく港名は伏せますが(書きたいのは山々なれど)。
海運業様
レスありがとうございます。
なるほど一方通行のような、鉄道で言えば閉塞区間を設けてぶつからないようにするのと、同じですね。
しかし私、子供の頃「日章丸」の写真を見て、なんとデカイのか!何で何も甲板に無いのか(笑)?最後尾にチョコっと操舵室等あるだけなのか?と思った記憶があります。今回は400メートルですか。運河もギリギリにしないで拡幅するかコンテナ船をスリムにするか、、どちらも無理ですネ。
陰謀論めいた話になりますが、武漢肺炎といい、この事故といい、
自由主義陣営に甚大な被害を与える方法を、
中共は上手に見つけますねぇ。
素人考えで、
①スエズ運河の拡幅にADBの融資をつけるか、日本の借款をつける
②原子力潜水貨物船(戦略原潜前期型)を開発し北極航路を米加と共同で開発する
数万トンと数十万トンの差はあるけれど陸路よりは良いと思います。
を夢想しています。
> そのリスクが、経済化してしまいました。
文脈から推測して、「顕在化」のタイポだと思います。
スエズ運河所属の水先案内人が操船中に天候が関連した事故ですので、船舶の運航会社や所有者が責任をとらせられる可能性は低いと思います。
エジプトの国内法については検索中ですが、日本では以下の判断がなされるようです。
少し長くなりますが、国土交通省の広報サイトからの引用です:
https://www.mlit.go.jp/kaiji/mizusaki/08/shiryou5.pdf
———————————————————–
(1)民事上の責任
・ 現行の水先約款においては、水先人の過失の場合にあっては水先料金相当額を、
水先人の故意・重過失の場合にあっては損害実額を、水先人が負担することとされ
ている (別添資料1-4) 。
・ そもそも、水先人の助言に従い船舶を運航したにかかわらず、事故が発生した場
合に考えられる水先人に対する民事上の請求権としては、民法上の不法行為責任と
債務不履行(不完全履行)責任が考えられる。
・ いずれの場合も、水先人の民事上の賠償責任の有無を判定するに際しては、船長
が負う運航に関する責任と助言である水先人の行為の性質を踏まえた上で、水先人
の行為と事故による損害との相当因果関係の存在が論点となるが、具体的な訴訟事
案が存在せず、確立した法解釈は存在していない。
・ 仮に、上記相当因果関係があるとされた場合について、水先人の民事上の責任を
追及された場合に備え、現行約款においては 「船長又は船舶所有者は、…水先人 、
の業務上の過失により…生じた損害については水先人の責任を問わない」とされて
いるところであり、船長との関係では、当該約款に従い水先人は船長に対する民事
上の責任を負わなくて済むこととしている。
・ 一方、第三者との関係については(例えば、事故に伴い第三者に損害を生じさせ
た場合 、水先人の故意・過失の存在及び ) 行為と損害との相当因果関係が認められ
れば、水先人の民事上の責任は免れないものとなりうる。
・ この点については、現行約款においては 「船長又は船舶所有者は、…水先人の 、
第三者に対する債務…については、水先人にこれを補償する 」こととされ、水先 。
人が第三者に対して民事上の責任を負う場合に備えた措置を講じている。
・ このような中で、今般、船社等関係者から水先人の責任自覚を通じた水先人の業
務の品質向上等を図るべきとの意見も出されているところであり、約款のあり方を
含め、議論を進めることが必要である。
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補足です。
国内における水先人の賠償責任については、平成2x年のとある座礁事故を契機に(水先人の重過失を争点に)議論となりましたが、最終的に水先人への賠償請求は棄却されました。
その後、水先約款改定で「水先人の故意または損害発生のおそれがあることを認識しながらした無謀な行為その他の故意と同視しうる顕著な過失に基づくについて」は免責されないこととなっています(http://www.tokyobay-pilot.jp/pdf/yakkan_j2019.pdf)。
すなわち、水先人が事故を防ごうと努めている限り、当該水先人に賠償請求はできないものと考えられます。あくまで国内の状況です。
こんなニュースも。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a401763591bba4a2f65d97be9cd6086e8b9508b1
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