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「統一朝鮮中立化」という妄想と「核武装」という悪夢

韓国の「左派メディア」として知られる『ハンギョレ新聞』(日本語版)に昨日、「朝鮮半島の中立」を目指す民間団体に関する話題が出ていました。この団体の韓国社会に対する影響力がいかほどのものなのかについては評価が必要ですが、ただ、火曜日の『鈴置論考の「韓国核武装中立」が絶対容認できない理由』などでも触れた「朝鮮半島の核武装中立化」という悪夢については、常に意識しなければならないことは間違いありません。

韓国の核武装中立という悪夢

火曜日の『鈴置論考の「韓国核武装中立」が絶対容認できない理由』では、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏の手による、「韓国が核武装・中立を選ぼうとするのではないか」とする議論を紹介しました。

バイデンに脅されて韓国が選ぶ核武装中立 日本にも突き付けられる新たな踏み絵

保守が「米国への回帰」を唱えれば、左派は「中立」を訴える。バイデン(Joe Biden)政権の突き付けた踏み絵が韓国社会を二分した。韓国観察者の鈴置高史氏は「核武装中立」が落とし所と見る。<<…続きを読む>>
―――2021年2月22日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

この10年以上、一貫して「米韓同盟の消滅」、すなわち「韓国は離米従中の道を歩む」と予言し続けてきた鈴置氏の議論だけに、説得力が格段に異なります。

この論考、決して日本人にとって耳障りの良い議論ではありませんが、それでもとくに「韓国が核武装中立を選ぶならば、日本も相応の覚悟が必要だ」とする点については、もっと知られるべき論点であることは間違いありません。

ハンギョレ新聞論考と日本

その一方、水曜日の『韓国メディア「これから米国は韓国に何を要求するか」』では、ハンギョレ新聞の「統一外交チーム」記者である「キル・ユンヒョン」氏(※本稿ではあえてカタカナでこのように表記します)の「バイデン政権が韓国にFOIPへの参加を要求する可能性は低い」とする論考を取り上げました。

[ニュース分析]バイデン政権は韓国に「クアッド参加」を要求するか

―――2021-02-23 09:36付 ハンギョレ新聞より

わが国の、とくに保守系論壇には、『ハンギョレ新聞』というだけで拒絶反応を示す人もいるのですが、リンク先の記事に関して言えば、私たちの国・日本の立場とは相いれない部分があるにせよ、一読の価値は十分にあります。

というのも、米国が韓国に対し、具体的に要求したことと、まだ明示的に要求していない(けれども本音では韓国に対して望んでいるであろう)ことを明確に峻別し、それぞれの意味を十分に判断せよ、というのがキル・ユンヒョン氏の示唆だからです。

いずれにせよ、結論的には、韓国は自分の意志で「離米従中」という道を選ぶ可能性が高いでしょうし、そうすることを止める権利は、私たち日本人にはありません。

いや、むしろ個人的には、日韓併合という明治期の致命的な判断ミスを二度と繰り返さないために、日本にはもっと知恵と勇気が必要だと思いますし、また、数々の国難を乗り越えてきた日本人であるならば、それが可能だと信じているのです。

その第一歩こそが、迷走する朝鮮半島から距離を置くことであり、その意味ではあちらから一方的に反日を仕掛けてくれている文在寅(ぶん・ざいいん)政権は、日本にとって都合がよい、という言い方もできなくはないのかもしれません。

朝鮮半島中立化を求める人たち

さて、ハンギョレ新聞といえば、韓国の「左派メディア」として知られているのですが、あまり目立たないなりにも、こんな記事が掲載されていました。

[インタビュー]「南北の国力と自主意識の高い今が『中立化宣言』の適期」

―――2021-02-24 10:43付 ハンギョレ新聞日本語版より

これは、「朝鮮半島の中立化を推進する人々(中推人)」という団体の「イ・ヒョンベ常任代表(※)」が来る3月1日正午、ソウルのタプコル公園で「朝鮮半島永世中立化宣言文」を読む予定だ、という書き出しで始まるインタビュー記事です(※漢字がわからないので、原文どおりに表記しています)。

記事タイトルに「南北の国力が高い今」とありますが、在外公館まで閉鎖に追い込まれつつある北朝鮮の国力のどこが「高い」のか、よくわかりません。しかし、この「中推人」は次のような宣言文について、今月からオンライン署名を受け付けるのだそうです。

朝鮮半島の中立化だけが、統一を妨げる相互不信と軍事的対峙という障害を解消し、周辺大国の利害関係から始まった抑圧の手綱を断ち切る唯一の道だ。(中略)中立化の道は、単にわが民族の生存だけのためではなく、米国や中国、ロシア、日本などを含む近隣諸国の共同利益にも合致する」。

「朝鮮半島の中立化」。

この団体が韓国社会においてどの程度の発言力を持つのかについては見極める必要がありそうですが、このようなことを堂々と言い始める団体が出現したことに加え、韓国の大手紙であるハンギョレ新聞がこれを報じたという事実は、非常に興味深いものです。

正気の沙汰とは思えない「中立化プロセス」

記事によると、このイ・ヒョンベ氏は、朴正煕(ぼく・せいき)政権時代の1974年に「民青学連事件」で死刑宣告を受けた7人の1人だそうです。のちに無期懲役に減刑され、1978年8月15日に釈放されたという経歴の持ち主です。

そんな彼が「中推人」の結成に乗り出したきっかけは、中国によるいわゆる「THAAD制裁」だそうです。その状況を見て、「北朝鮮核問題を解決し、米中対立の被害から抜け出す道は中立化しかない」と判断したのだとか。

そのうえで、イ・ヒョンベ氏は、次のような「朝鮮半島中立化プロセス」を提唱します。

  • ①南北の同事中立化宣言
  • ②南北国家連合の公正と中立化・統一に備えた協議の実施
  • ③南北米中などの朝鮮戦争における交戦国による平和会談

正直、THAAD制裁は米国の同盟国でありながら中国への経済面の傾斜を強め過ぎた韓国の自業自得という側面が強いと個人的には考えているのですが、このあたりも含め、韓国がどう判断するかは韓国人の自由です。

ただ、言葉は悪いのですが、もし彼が本気でこれを提唱しているのだとしたら、学識も現状認識力も決定的に不足しているように思えてなりません。そもそも論として北朝鮮の核問題解決の具体的な提案も欠落しているにも関わらず、米国が朝鮮半島の中立化を認めるという点で認識が甘いと言わざるを得ません。

いちおう、イ・ヒョンベ氏は、北朝鮮核問題については「南北の人々が大同団結し、大衆運動で中立化を成し遂げてこそ解決できる」などと述べているのですが、そこには具体性も何もありません。あるいは、極論すれば、「北朝鮮の核を『民族の核』にするぞ」という宣言に他ならないでしょう。

お望みならば…

というよりも、この人物の発言は無責任すぎます。現在、北朝鮮で人々がどのような抑圧を受けて過ごしているのか、まったく言及していないからです。それどころか、中立化に向けて、彼は次のように述べます。

中立化に進む最大の困難は、韓国で人々の意識を(中立化の方に)団結させることです。次に、北朝鮮の人たちに協力を求めることです。その次が外国勢力です」。

なんだか、凄い認識ですね。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、真面目に日本の立場に立って、「最悪のシナリオ」のひとつを考えておくならば、それは「日本のすぐ隣に核武装した経済大国が出現すること」です。しかも、その国は異常な反日を前面に出す、日本にとっては敵対的な国です。

当ウェブサイトを通じ、「いずれ日本は日韓関係に決着をつけなければならない」と申し上げているのも、こうした危機意識が根底にあるからです。今週金曜日に刊行予定の『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』も、「対韓制裁論」について議論しています。

【参考】『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』(新宿会計士 著)

(【出所】アマゾンアフィリエイトリンク)

正直に申し上げるなら、韓国が「米韓同盟」を破棄するのも、北朝鮮と統一国家を形成するのも、あるいは中国の属国になるのも勝手にすれば良いと思いますが、核武装は絶対に回避しなければなりませんし、理想をいえば、経済大国としての地位も奪っておくべきでしょう。

その具体的な手段としては、現在の日本に今すぐできる「サイレント経済制裁」、「消極的経済制裁」、「セルフ経済制裁」を駆使することに加え、日米同盟を基軸としつつ、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の実現、日英同盟の復活などを急ぐことが必要です。

また、本書では書ききれませんでしたが、前著『数字でみる「強い」日本経済』でも述べたとおり、日本は減税を柱とした経済の復活に向けて動かねばなりません。

つまり、「強い日本経済を復活させたうえで、中国・韓国など基本的価値を共有し得ない国を除外した連合体を形成すること」が、現在の日本にとって最も求められている道ではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (39)

  • 統一の結果もたらされる「北韓暮らし」を韓国人が容認するかなぁ
    最悪の機会に最悪の選択をするのがアソコだから、あるいはw

    核武装に関しては、日本の核配備を誘発しかねないので
    地続きの国々から圧力が掛かるでしょう

  • 「ソウル支局は半島非核化の先鋒たれ」

    会計士だから著せるソウル支局啓蒙の書。
    ソウル支局こそ国益の守護者たれ。
    ぬるい仕事で手を抜くな。
    大先輩が諭す理想のジャーナリストはこれだ。
    店頭出版まであと1日。

    (朝からお目汚し失礼いたしました…)

  • 対等の概念が無いのに、中立は無理でしょう。
    中国べったりの中「ウリは中立ニダ」という詭弁を使い続けるだけだと思います。
    核武装させれば、何とかに刃物になるに決まっています。

    • だんな様
      核を持たせたなら、北より危険な民衆ですからね。
      何としても日本に核をおみまいしたい一心でその結果国が無くなることまで考えが及びません。
      でも北にしても体制を覆しかねない南北統一を望んでいるとも思えません。
      望むどころか避けてるように思えます。
      そりゃそうですよ、「さあど」「さんふ」「じいそみあ」「いあんふがー」「ちょうようこうがー」「あべがー」「すががー」
      「いらんがー」「がががががー」と辺り構わず地雷を踏みまくる連中とは疎遠でいたいと思う気持ち…痛いほどわかります。

  • 更新ありがとうございます。

    中推人だか何か得体の知れない人だが、イ・ヒョンベ氏は、ちょっと現状認識が甘く、まともな教育を受けてないか、或いは惚けかけの老人かとしか思えません。

    彼の言う「朝鮮半島中立化プロセス」、
    ①南北の同時中立化宣言
    ②南北国家の公正と中立化・統一に備えた協議
    ③南北米中などの朝鮮戦争における交戦国による平和会談

    どれも出来ませんって(笑)。こんな形で周りが認め、統一したら、核を振りかざして周辺国ーーー特に日本も対抗上戦術核を持つ事になる。また、半島内は南北で諍いが起き、第二次朝鮮戦争が起きる。

    あらかじめ、こう言う動きは潰すべきです。ハンギョレは期待してんのか?(笑)

  • イ・ヒョンベ氏が語る「朝鮮半島中立化プロセス」は、かつて金正日総書記がぶち上げた「高麗連邦構想」とほぼ同じものと言っても良いでしょう。簡単に言えば、「お里が知れる」で完了です。民間団体を装ってはいるものの、文在寅政権中枢と気脈を通じ合っているであろうことも明白なので、要は、「文在寅の夢」実現に向けた別動隊というだけの代物ですね。

    なお、アメリカが朝鮮半島中立化を容認する可能性は、必ずしも全くのゼロではないと思います。ただし、そのための絶対条件として、朝鮮半島全域の軍事的、経済的無力化があります。その上で、中立を保障するために、関係国の軍事基地を朝鮮半島に設置する(日本はぜひ辞退しましょう)くらいの措置が取れれば、あるいは可能かもしれません。

  • 統一したら、貧困大国ができあがるだけだと思うんですけどw
    それでも軍備はやめられない!

    • ふと思いついてしまった、まずはワンコーラス版。

      原曲はBPM=280という、かな~りキテいる曲。でも、発売当時、オリコン・ウィークリーで1位を取ったんですよ。

      放課後ティータイム: GO! GO! MANIAC!
      https://www.youtube.com/watch?v=EV-bDK_aipw

      やばい 止まれない 止まらない
      昼に夜に朝にannouncing so loud
      好きなことしてるだけだよ Koreans Go Maniac
      あんな爆弾 こんな空母
      作っていきたいんだ もっともっと
      北と一緒にね Chance Chance 願いを
      Jump Jump 掲げて
      Fun Fun 想いを Shout Shout 伝えよう
      バレちゃったら人のせいにして、もっかい!

      # 気合が乗ったら、そのうちフルコーラス版を「雑談」にでも上げるかも......

  • 彼らの言う「中立化」は、実質は朝鮮半島の「孤立化」のことでしょう。

    以下、想像してみました。

    北朝鮮に吸収されて韓国は無くなり、朝鮮半島に一つ国家ができあがった。
    彼らは、南北合体を謳い「中立化」を宣言。
    新国家・新朝鮮が誕生した。

    国際社会は新朝鮮は単に北朝鮮の拡張した国家と見なし、引き続き制裁の対象になる。
    初期は、北朝鮮への対応と同様に、中露が融和的に働きかけ、日米が圧力強化を主張をする。
    しかし、中国の宗主国としての振る舞いと、新朝鮮の驕りにより軋轢が生じ、結局は北朝鮮と同様の制裁が続くこととなる。
    国際社会は、制裁一部解除の条件として非核化と拉致被害者の解放が新朝鮮に要求するが、結果いかんを問わず制裁は緩むことが無い。

    新朝鮮は、富める者と貧しい者の合体により、治安の悪化、格差の拡大、人権問題の悪化が急速に進む。
    国内の経済は安定せず、食料難による飢饉、公共工事ができないことによる災害が多発。
    人心を安定させようと情報遮断と情報操作を行い、他国への威嚇を繰り返す。
    核を持っていない日本を「弱い相手」と見なし、より横暴になり金の無心が激しくなる。
    豊かになった経験のある彼らは貧しい暮らしに耐えられることもなく、デモ、ストライキ(や闇で像を作る)が起こる。
    彼らを不穏分子として監視の対象とし、私財は強制的に徴収される。
    不法逮捕、収容所送り、強制労働が行われ、亡命や暗殺が横行。
    彼らの「恨」の矛先は相駆らず日本だが、亡命しようとする行先国もあこがれの日本。
    そのために、不審船がたびたび北陸のいたるところで見つかる。
    新朝鮮は国内の状態を自力で立て直すことを目指す尊王派と、他国(米or中or露)を招き入れようする開国派が互いに牽制しあう。
    結局は軍事クーデターにより、新政府が樹立。
    米中で朝鮮半島に関する主導権争いが起こるが、直接の軍事行動はしない。
    朝鮮半島内で米中代理戦争(内紛)がはじまる。

    元の木阿弥、分割統治が決まる。

    世界は、コロナ不況を特需により脱出し、どさくさに紛れて拉致被害者の救出が成功し、竹島は日本への帰属がきまった。
    しかし、中国が朝鮮半島の北部への影響度がより強まる事態となった。

    国破れて山河在り。

  • そもそも従北派の妄想だから、なぜ統一に向かわなければならないかが説明されてないのよね。

    ただ、こんな勢力が大統領筆頭かなり浸透しているのが今の韓国。普通の国家とはみなさないのが正解ですね。

  • A.万事解決で首脳の握手。
    B.首脳の握手で万事解決。

    A.和解の実現で終戦宣言。
    B.終戦宣言で和解の実現。

    A.非核化実現で南北統一。
    B.南北統一で非核化実現。

    A.信頼構築で通貨スワップ。
    B.通貨スワップで信頼構築。

    *根本的に何かが違う・・。

    この思考だと、
    A.平和社会でお花摘み。
    B.お花摘みで平和社会??
    m(_ _)m(まさかまさか)

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