輸出管理で考える「中国への炭素繊維輸出で流出事案」
日本企業が意識しなければならない「中国リスク」は増え続けているのでしょうか。経産省は一昨日、輸出許可を得て中国に輸出された日本製の炭素繊維が流出するという事案が発生した、と発表しました。日本企業が現地で採用した従業員が別の事業者に複数年にわたって横流ししていたとの報道もありますが、これについてどう考えるべきなのでしょうか。
輸出管理レジーム
輸出管理を巡る外為法第48条第1項の規定については、当ウェブサイトではこれまでも何度か取り上げて来た論点です。
【参考】外国為替及び外国貿易法 第48条第1項
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
これは、「軍事転用されるかもしれない製品や技術」などが軍事転用されることを防ぐための仕組みで、世界貿易機関(WTO)のルール上も、自由貿易の例外として認められているもので、詳しい仕組みについては『輸出管理の仕組みをまとめてみた』などでもまとめています。
ところで、この輸出管理の仕組み、昨年7月に日本政府が韓国に対する輸出管理を厳格化・適正化する措置を講じると発表したことで注目を集めましたが、これは「輸出制限措置」、「禁輸措置」ではありません。あくまでも国として決めたルールに従っている限りは、ちゃんと輸出許可が出続けるからです。
ただし、現在の輸出管理のルールがこのままで良いかどうかについては、また別の論点でしょう。
ことに、現在は「リスト規制」、「キャッチオール規制」という2つの基準で製品や技術の輸出をコントロールしていますが、世の中は常に変化し続けており、新たなテクノロジーが出現してくると、時代に応じ、「リスト規制」品目を追加していく必要が出て来ます。
また、日本は世界各国を輸出管理上の「グループA」~「グループD」の4つに区分して管理していますが(図表。なお、「グループA」が旧「ホワイト国」)、この分類がこのままで良いのか、という議論もあるでしょう。
図表 グループ別の輸出管理
グループ | 対象国・地域 | 具体的な内容 |
---|---|---|
グループA | 国際的な4つの輸出管理レジームのすべてに参加している29ヵ国(※日本を除く)のうち、トルコ、ウクライナ、韓国以外の26ヵ国 | リスト規制品については、「一般包括許可」が認められる品目も多い。また、グループB~Dと異なり、グループAにはキャッチオール規制が適用されない |
グループB | 4つの輸出管理レジームのどれかに参加している国のなかから指定される。韓国以外の具体的な国名は経産省資料に記載されていない | リスト規制品に「一般包括許可」は認められないが、「特別一般包括許可」、「特定包括許可」などの仕組みが使える場合がある |
グループC | グループA、B、Dのどれにも該当しない国 | リスト規制品については、「グループB」と比べると「特別一般包括許可」などの対象品目は少ない |
グループD | いわゆる「懸念国」。アフガニスタン、イラク、北朝鮮、イランなど11ヵ国 | リスト規制品の輸出はすべて個別許可を取る必要がある。また、より厳格なキャッチオール規制が適用される |
(【出所】輸出貿易管理令および経産省『リスト規制とキャッチオール規制の概要』などを参考に著者作成)
中国は「グループC」
こうしたなか、「世界の工場」を自認する中国は、日本から見てどのグループに入っているのでしょうか。
経産省が公表している資料にはグループBとCの詳細な国名一覧が含まれていないのですが、『中国網』(日本語版)に昨年8月に掲載された次の記事などから判断する限りは、中国は「グループC」に区分されていると考えて良いでしょう。
日本が中国を輸出対象国の「グループC」に、何を意味するか?
日本は貿易立国の国であるが、軍需製品の輸出については米国や欧州の主要国と同様、一部の国(中国など)に対して規制を行っている。同盟国に対する規制はなし。日本は米国や韓国などの「ホワイト国」に対しても特殊な規制を行っていないが、韓国は今月28日よりホワイト国から除外される。<<…続きを読む>>
―――2019-08-18 09:00付 中国網日本語版より
(※なお、中国網の記事では「規制を行っている」と記載されていますが、日本が実施しているのは輸出「規制」ではありません。輸出「管理」です。)
じつは、中国は国際的な4つの輸出管理レジーム(原子力供給グループ、オーストラリアグループ、ミサイル技術管理レジーム、ワッセナーアレンジメント)のうち、「原子力供給グループ(NSG)」に参加しています。
経産省の資料の説明だと、いちおう、中国は4つのレジームのうちの1つに参加しているため、グループBに区分される資格のうちのひとつは存在しているのですが、ただ、現時点において日本政府が中国をグループCとして扱っていることは間違いないでしょう。
経産省「東レインターナショナルの炭素繊維が流出」
さて、中国に対する輸出管理を巡っては、経産省が一昨日、こんな事案を発表しています。
中国における炭素繊維の流出事案について
東レインターナショナル(株)より、同社が外国為替及び外国貿易法に基づく輸出許可を取得して中国に輸出した炭素繊維が流出した旨の報告を受け、本日、東レインターナショナル(株)に対し、貿易経済協力局長名により再発防止と厳正な輸出管理を求めることなどを内容とする警告を行いました。<<…続きを読む>>
―――2020年12月22日付 経産省HPより
経産省によると、東レインターナショナル株式会社からの報告に基づき立入検査を実施した結果、中国に輸出した東レ製の炭素繊維の一部が、許可を取得した輸出先以外の事業者に流出している事実を確認した、としています。
経産省はまた、こうした事態を招いた背景には、次のような内部管理体制の不備があったとしています。
- ①契約当事者として外為法の輸出許可を要する貨物に関して顧客や用途を確認する取引審査を厳格に行うべき立場であったにも関わらず、中国の現地子会社及び現地社員に取引審査を一任していた
- ②輸出先等の取引審査を適切に実施していなかった
そのうえで同日、東レインター側から再発防止策の提出があり、経産省から警告書が交付されるとともに、「外為法上の規制対象貨物等の輸出等を行う国内事業者に対して、本件も踏まえた厳正な輸出管理の徹底を広く注意喚起する」という観点から、これを公表したとしています。
一般に、炭素繊維は軽いうえに強度があり、最近では航空機・ミサイルなどにも利用され、軍事転用が可能であることから、輸出には許可が必要です(JETRO『炭素繊維を輸出する際の規制:日本』等参照)。
新たな中国リスク
こうしたなか、本件については時事通信に、こんな記事が配信されています。
経産省、東レ子会社に警告 中国で炭素繊維流出
―――2020年12月22日19時04分付 時事通信より
時事通信によると、同社が輸出した炭素繊維が、数年間にわたり、無断で別の複数の事業者に横流しされていたとし、「中国で採用された従業員が炭素繊維を横流ししていた疑いが強い」、と報じています。
東レインターはこの従業員を懲戒解雇したうえ、法的措置も検討しているとのことですが、やはりそもそも論として「グループC」の国で事業を営むということは、この手のリスクを企業が抱え込む、という話でもあります。
だいいち、今回経産省が公表したのは「国内事業者に対し、輸出管理徹底を広く注意喚起する」という意味がありますが、本件が氷山の一角ではないと言い切れるものでもありません。
その意味では、日本企業にとっても、2010年のレアアース禁輸騒動以外にもさまざまな「中国リスク」を強く意識しなければならない局面なのかもしれませんね。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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韓国に入れ上げている東レが中国でもやらかした、と…
末端社員の問題ではなく、上層部のお花畑意識が現場にも降りてきていると見るべきでしょう。
明確に罰するべきでは無いでしょうか?
新宿会計士様も仰っておりますが、氷山の一角だと思います。警告だけでは「もっと見つからない様に気を付けよう」位にしか思わないでしょうね。同じ様な事していらっしゃる方々は。
更新ありがとうございます。
緩い処罰だなぁ〜。「警告書と他事業者への注意喚起」だけ?(嘲笑)。「現地採用の従業員がー」なんて、今頃言っても遅いわ。採用した者にもお灸据えなさい!さらに極論ですが、安物アパレル販売や百均のバイトやスーパーのパートじゃないんだから、雇うな!とは言え無いが、十分ヒトを見ないと。
江戸時代の盗賊集団は、仲間を繁盛している商家に雇って貰い、丁稚から始めて数年間じっとしてるそうです。真面目に働き、その間に内側からの閂の開け方、千両箱の位置、鍵は主人が何処に置いてるかを知る。
ある日突然、それも家人の少ない日を狙って、夜中に盗賊共が現れて寝ている家人を殺害し、金をふんだくって火をつけて逃げる。内通してたのは、信用してた奉公人だった、、、という事がよくあったそうです。
また、内通の奉公人は、死体が無い事を怪しまれないように、自分もキズつけられたり、何人かを生かしたりして、撹乱する手もあったようです(すみません、鬼平犯科帳から丸写しです 笑)。
中国人と朝鮮人ならやりかねません。人を殺めることに抵抗無いもの。特に日本人なら。自分が良ければいい、自分さえ良い暮らし出来たらいい民族ですから。気をつけよう!日本人は優しすぎる!
>中国人と朝鮮人ならやりかねません。人を殺めることに抵抗無いもの。特に日本人なら。自分が良ければいい、自分さえ良い暮らし出来たらいい民族ですから。気をつけよう!日本人は優しすぎる!
日本人が優しすぎるなら、ひと括りにした差別感にまみれた書き込みはしないですよ。こういうのを書くと自国を傷つけるだけだと理解できないのが不思議。って書かれるとめがねのおやじさんはハラが立つと思うのだが、書き込みなんてしない多くの見てるだけの人は結構思ってるよ、いい加減にしてくれって。脅威に対抗するのと差別感たっぷりで糾弾するのは全く違うからね。それなりの歳なのだろうから早く気付いてね。
匿名様
ありがとうございます。腹は立ちませんが、「日本人はひと括りにした差別感にまみれた書き込みはしないですよ」いえ、します。中には良い人が居る〜と意見があるでしょうが、全体から見たらホンマに少ないです。私の仕事の経験上です。
「こういうのを書くと自国を傷つけるだけだと理解できないのが不思議。」「書き込みなんてしない多くの見てるだけの人は結構思ってるよ、いい加減にしてくれって」いや、いい加減にしてくれーて、声聞きませんよ。私には。中韓、いい加減にしろ!と思わない方が不思議。私の意見を見てるだけでコメントしない、言わない、或いは言っても「匿名」さんの方には、相手しませんから。
私は長年、少なくとも新宿会計士様に5年間以上お邪魔しております。カニかエビか知らないがちょろっと書き込みした人とは違うと、思ってます。私が辞める時、それは新宿会計士様から直接引導渡されたら黙って去ります。どうでもいいけど、皆さん私には「匿名」ですね(爆笑)。何故?HNぐらいオジイの私でも付けてまっせー(笑)。
ここに訪問される方は至って真面目、いろいろな方面のエキスパートがいらっしゃいます。出来るだけ書き方には注意してますが、それでも私の書く内容が気に入らない方が居る。でも、今まで通り、好きにやらせていただきます。残り人生、「それなりの歳の人なんだろうから」(匿名さんな、言うたよな!)人生のあと半分、10年ほどです。やらせていただきます。
>安物アパレル販売や百均のバイトやスーパーのパートじゃないんだから、雇うな!とは言え無いが⋅⋅⋅⋅⋅
流通小売業です。本題とは違う話で恐縮ですが、販売管理理論や陳列方法、特にレジの電源の立ち上げから精算処理、各種カードの処理やトラブルをすべて把握してるのはプロフェッショナルな仕事で、そう沢山はいません。
失礼かと存じますが、彼等の名誉のためにも一言申し添えたいと思います。
きたたろう様
言葉足らずですみませんでした。私も関わったことがあるので、不特定多数のお客様を相手にする流通小売業の煩雑で高度な知識を必要とする業務内容は、理解しているつもりです。
例えばレジ一つにしても、扱うアイテムが余りにも多過ぎる為、ただスキャニングするだけでなく、2個よりどりとか、いちいちキー操作してからDMのコードを通してから、割引掛けるとか、集中してないと、操作を間違う危険性が高いです。
私は経営者が雑費(パート、アルバイト、短期間従業員ら給料)に、投じる経費が少な過ぎと思います。だから、出来る子から辞めて行く。
クレジットカードの中止、違算処理、その時ポイント還元はどうなるか、熟知している人は大切な店の資産です。その割に貰える金銭は低い。
また朝のレジの立ち上げから夜のZキー入力して精算業務終了まで、滞りなく出来るメンバーを毎日揃える事は難しいですね。
「百均や安物アパレルやスーパーレジ」と揶揄したのは、高度な処理を出来ない方の事です。また発注や振替やメーカーへの返品処理等が出来ない方の事です。
精通したプロの方は、頭が柔らかく、吸収が早いんでしょうが、素晴らしいプロと思っています。そういう人達の励みになるように、時給をほぼ一律から1,500円、2,000円にUPすることが出来れば良いですね。
社員も業務量の割に飛躍的にサラリーが増えない事は、気の毒と思っています。
ご丁寧なレス有り難うございます。また素晴らしいコメントお待ちしております。
会計士様,更新ありがとうございます。
むかしむかし,東レ会長の榊原定征=崔定征は,経産省の再三の要請を無視して韓国に最重要技術を移転した。また,東レの研究所・工場は,弾道ミサイル技術の心臓部を北朝鮮に提供した。このため,榊原定征は韓国の「金塔産業勲章」を,東レ経営研究所社長の飯島英胤は韓国の「光化章」を受章した。
…と,ありました。
だから今回の経産省のぬるま湯は「何をいまさら…」なのです。
”カーボンコピー(古い?)の控え”を確認してなかったのですね。
っていうか、情報の漏洩だから納品書も領収書もなかったのですね・・。
炭素繊維って高純度フッ素みたいに届け出必要ないのかね?
ありがとうございます。
東レですね…
なんために旭日大授賞が受勲されたのか、榊原定征氏はその意図を完全に読み誤ったのかもしれません…
私は東レや東レインターと取り引きがあり、なおかつ東レの中国工場も視察し現地の総支配人の方とも会食させてもらった経験からコメント致します。
まず、東レの中国工場では、経営の立場と現場の立場のトップは日本人が握っています。その上で、現場監督的なポジションは中国人に任せていますが、今回「中国で採用された従業員が炭素繊維を横流ししていた疑いが強い」という報道には少し違和感を覚えます。
工場で生産するには生産計画があり、サンプルのような数100メートル単位の生地を作るのであればまだしも、数年間にわたってそれなりの量を生産して横流しにしていたのであれば、現場監督レベルだけではなく、日本人のトップも必ず把握していたはずで間違いありません。つまりは組織ぐるみで行っていた事かと思われます。
そもそも日本経団連のトップが東レの会長だったので、東レに対して警告以上の処置をとることが出来ないのが現状かと思われます。
中国側としては、東レに現地の工場の土地を与える代わりに今回のような生地を得る。東レとしては、物凄く高い軍用生地を安定して買い取ってもらえるというお互いWin-Winの関係だったのでしょうね。
貴重な情報ありがとうございます。
東レはある種、確信犯(故意犯に非ず)だと見ていました。
情報の通りなら故意犯の可能性もありますね。
どちらにせよ、経団連のどうしようも無さを見て嘆息します。
いつも貴重な情報をありがとうございます。一時期、この分野の商売に
関わっていた端くれ、ササクレの一人として初めての投稿、コメントです。
今回の問題はグループの商事会社が舞台となった訳ですが、お会社は
製造部門と販売部門、さらにはグループの商事会社と運営がキッチリ
切り分けられています。商事子会社の現地採用社員、さもありなんです。
が、本体、本社の営業部門と製造部門、味噌も〇そも一緒にした議論は、
角度が付いた、本筋からずれた議論になってしまいそうで、違和感を
感じます。
東レも東芝並みの目に遭うべきなんですよね・・・。
韓国に見せつけるように厳しい処罰が下ると、韓国の勉強になるかな。あ、ならないですね。都合の悪い事はすぐ忘れるので。
個人的な感想としては警告書が出た以上、当分包括許可は出ないな、です。
当然得ていた包括許可は取り消されます。やらかしたのが違う事業部でも関係ない。
なので、個産品でなく量が出る製品を扱っている東レにとっては全て個別許可となると、結構厳しいのではないでしょうか。