いったいどういう風の吹き回しでしょうか。自称元徴用工問題を巡り、韓国政府・外交部関係者は昨日、問題解決に向けて「日本側と協議を続ける」と発言したようです。おそらくその原因は、「考えさせる責任」を、菅政権が韓国側に転嫁したからではないでしょうか。もしそうだとしたら、これは日韓関係にとって、非常に良い変化だと言わざるを得ません。もちろん、韓国側から問題を解決するための妙案が出て来るとは思いませんが…。
あらためて:三菱重工の2本の訴訟を振り返る
昨日の『韓国高官「度量の広い宣言を」/公示送達小出しの狙い』では、訪日中の朴智元(ぼく・ちげん)韓国国家情報院長が自民党の二階俊博幹事長に、「韓日両国首脳による度量の広い共同宣言を発するべきだ」と提案した、とする話題を取り上げました。
ただ、昨日の記事では、その話題に加えて、「オマケ」と称するミニコラムを設けました。具体的には、自称元徴用工問題に関連し、三菱重工業の在韓資産差押え・売却に関連する公示送達の期日が到来した、とする話題です。
当ウェブサイトの過去記事に加え、サンケイビズの11月9日付『三菱重工の韓国内資産売却 公示送達の効力が10日午前0時に発生』などの日韓のいくつかのメディアの報道をもとに、事実関係を確認しておきましょう。
そもそも三菱重工に対しては、今から約2年前の2018年11月29日、韓国の最高裁に相当する「大法院」で、合計2本の確定判決を言い渡されています(『【速報】またしても韓国で自称元徴用工に損害賠償命令』等参照)。
片方は「日本による植民地時代の戦時中に強制徴用され、三菱重工で働かされた」と自称する5人に対し、1人あたり約800万円の支払いを命じた判決、もう片方は元女子勤労挺身隊員やその遺族ら合計5人に対し、1人あたり約1000万円の支払いを命じた判決です。
今回の公示送達はこのうちの「元女子勤労挺身隊員」の方の判決に関連するもので、韓国・大田(だいでん)地裁が三菱重工に対し、韓国国内資産の売却に関する意見を聞くための「審問書」を送付するための手続です。
具体的には、三菱重工側がその審問書を受け取らないとして、大田地裁は9月7日に審問書をウェブサイトなどに掲載し、昨日、すなわち11月10日午前0時をもって三菱重工側にそれが届いたとみなされた、というのが昨日までの経緯です。
公示送達の本当の意味
ただし、三菱重工はすでに韓国の事業拠点を引き払っており、差し押さえられているのは同社の特許権6件と商標権2件です。報道によれば「7000万円少々に相当する」、などとしていますが、これらが本当にその値段で売れるのかどうかは別問題でしょう。
というよりも、どうも韓国メディアの報道を眺めている限り、さらに時間はかかりそうです。というのも、昨日効力を生じたこの公示送達だけでなく、10月29日にも、資産差押えに関する公示送達がなされているからです(効力を生じるのは12月30日)。
したがって、韓国の裁判所はこの2本の公示送達の効力が揃う年末以降(ということは来年以降でしょうか?)、資産売却に関する判断を下すのではないか、といった見方も出ています(※個人的にはこの手の「やるやる詐欺」、いい加減、飽きて来てしまいましたが…)。
さらにいえば、一般に「公示送達の期日の到来」とは、単純に「相手に書類が届いたことにする」というだけの意味しかありません。そこから売却命令を下すのはまた別の判断ですし、今回のように換金が難しい資産の場合、実際に現金化が完了するまでには、鑑定評価を含め、さらに時間とコストが掛かります。
もっとも、『語るに落ちる:韓国側の狙いは「資産売却」ではない!』などでも繰り返し説明して来ましたが、韓国側の本当の狙いは、おそらくは資産売却ではありません。日本からの譲歩を引き出すことです。
そもそも論ですが、韓国国内で実際に資産差押え手続にまで踏み込まれた事例は、知的財産権の差押を喰らっている三菱重工だけでなく、日本製鉄と不二越(ともに非上場株式)をあわせて、合計3つあります。
しかし、これらの3件、いずれも共通しているのが、換金が非常に難しい資産ばかりである、という点です。
三菱重工の場合、特許権はまだしも、あのスリーダイヤの商標権を裁判所が競売にかけたところで、いったい誰が買うというのでしょうか。思いつくとしたら、「韓国政府が自称元徴用工救済のために買い上げる」、「三菱重工に対する嫌がらせとして競合他社がそれを買う」といったパターンでしょうか。
また、非上場株式(しかも日韓の大企業同士の合弁会社)については、売却しようにも買い手がつくかどうかわからないという事情に加え、万が一、買い手がついたとしても、その次に大変な事態が生じます。そもそも売却しても名義変更ができないうえに、合弁契約が解消される危険性もあるからです。
つまり、自然に考えて、これらの資産の売却は、日本企業に打撃をもたらすというよりはむしろ、韓国にとってこそ、一種の「セルフ経済制裁」のようなものでしょう。
菅総理の老獪さ
もっとも、今朝の『菅総理「日韓関係健全化のきっかけ要求」の本当の意味』で報告したとおり、どうも菅義偉総理の方針は、「どうすれば良いか、韓国に自分自身で考えさせる」というものであるようです。
つまり、「日本にとって受入可能な措置を韓国側が講じなければ、菅総理は日中韓3ヵ国サミットには参加しない」といった具合に、「日韓間にどのような問題があって、それらを解決するにはどうすれば良いか」を、すべて韓国側に考えさせる、というわけですね。
じつは、これは戦後日韓関係史における、韓国側の常套手段でした。
韓国側が歴史問題を持ち出し、「日本が誠意を見せろ」と要求。外務省あたりがマジメに韓国の気持ちを一生懸命に忖度し、国際法違反とならないようなかたちで頑張って決着させたら、しばらく経って韓国側が「こんなのでは解決になっていない」などとして、ちゃぶ台をひっくり返す、というわけですね。
慰安婦問題などはその典型例で、たとえばこれまでも、1996年に設立された「アジア女性基金」(※事業終了により2007年に解散済み)、2016年に設立された「和解・癒し財団」と、少なくとも2つの財団が設けられました。
このうち「和解・癒し財団」のほうは、『今これをやるか!? 慰安婦財団解散の衝撃』などでも触れたとおり、2019年7月頃までには財団自体が解散され、日本政府が拠出した約10億円の残余財産が宙に浮いた状態が続いているのだとか。
安倍晋三総理はこうした韓国の手口を理解していたのか、歴代政権のなかで、安倍政権の対応はわりとマシだったとは思いますが、その安倍政権ですら、「和解・癒し財団」の解散で、自身がリスクを負って2015年12月になした慰安婦合意を事実上反故にされるという煮え湯を飲まされているのです。
その意味で、菅総理の韓国に対する一連の対応も、韓国のやり口を熟知したうえで、その上を行っていると思いますし、これについては素直に評価したいと思います。
韓国外交部「日本と協議続ける」
さて、昨日夕方、韓国側からさっそく興味深い反応が出て来ています。
三菱重工の資産売却手続き進行 「日本と協議続ける」=韓国外交部
―――2020.11.10 17:13付 聯合ニュース日本語版より
韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)によると、この三菱重工の公示送達に関連し、韓国政府・外交部の当局者は10日、次のように述べたのだそうです。
「各界のさまざまな意見を聴取し(中略)日本側と解決策を見つけるため(中略)今後も協議を続ける」。
つまり、この問題を巡って、韓国側が日本と外交協議を行う、ということです。いったい、どういう風の吹き回しでしょうか。
もちろん、「解決策を見つける」義務があるのは「日韓双方」ではなく、一方的に韓国側だと思いますが、それでもいちおう、韓国政府から「日本側と解決策を見つける」という発言が堂々と出てくるようになったのは、なかなか興味深い現象です。
というのも、これまで韓国側は、「三権分立」を騙り、「司法府の判断に政府は介入できない」と突っぱね続けてきましたし、実際、日本側が付託しようとした仲裁手続についても、韓国政府は無視したからです(『「河野太郎、キレる!」新たな河野談話と日韓関係』等参照)。
さらに不思議なことには、「安倍晋三政権から菅義偉政権に交代したことで、韓日関係は良い方向に動く」という思い込みが、韓国側でも見られました。それが、外交部当局者が「日本と協議を続ける」と述べたというのは、彼らの側にも動揺が広がっている証拠でしょう。
やはり、菅政権に代わっても日本の対韓外交姿勢はまったくブレず、それどころかさらに突き放した形に切り替わっていることで、韓国政府側にも焦りが見られるのかもしれません。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
もっとも、だからといって日本側が満足できるような解決策が韓国側から出て来るとは考えない方が良いでしょう。その意味では、一歩、また一歩と、日韓両国が着実に疎遠になっていくのも仕方がない話なのかもしれませんね。
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この時間に来ると思ってだけど、お題が予想と違いました。ネタ系だと思って、楽しみにしてたのに。
韓国外交部「日本と協議続ける」は、ずっと言ってる話で、「日本と解決策を見つける」は、日本に解決させると同じ意味だと思います。
実際韓国は中国の北東方面戦略、つまり尖閣で殴りながら日中韓三カ国の協議で高圧的交渉に出る中国式ツートラックの実現の障害を引き起こしている問題の解決を中国から迫られているのかもしれませんね。
中国としてはそのあたりアメリカが混乱下にあるうちに出せる手を打っておきたいでしょうし。
日本としてはそのあたりの事情をみて極力解決を遅らせるべく図っていたりして。
この場合、敵の敵は味方でもなく最も厄介な敵なので、直近の敵はクッションにするのが一番、無能なら更に結構。
バイデンさんが新政権を握った時の体裁作りをしているだけのように思いますが。
中国が日中韓首脳会談をやりたいので、せっつかれてんじゃないすか?
うまいこと開催にこぎつけたら、どうせまた元通り、と見た。
日中韓首脳会談、日中韓首脳会談、って年末に向けて一万回ぐらい
言ってきそうな気がす…
自分、ですが、
ありゃ、先行コメントを良く確認しないで投稿してしまいましたが、
匿名さんと、大体被っちゃったみたいで…
差押えられてる商標はグループシンボルのスリーダイヤではなくて重工の独自マークだったと思います。
スリーダイヤだったら、三菱UFJをはじめグループ各社による脱韓国の大義名分になるんでしょうけどね。
*今年もポッキーを買ってかえります。
差し押えられた商標権は「MHI」のようです。
https://www.tm106.jp/?p=20573
正直、何処で使っているか分かりません。
スリーダイヤに関しては、基本的に三菱商事が保有しているようです。
#一部、三菱電機と共有
#赤くないのは三菱で鉛筆保有もあります。
>カズさん
そもそもスリーダイヤは重工が持つ商標ではありません。
まぁ御三家の残る2つ、銀行と商事や、郵船と事を構える覚悟があるのか知りませんが。
TY様 みったぁ様
詳しい解説をありがとうございました。
更新ありがとうございます。
「日本と協議を続ける」とはまた面妖な。韓国と日本が協議をする事なんて、何も無い。ただ半島内でどうするか決めるだけだ。例えば、徴用工の日本企業資産現金化をするのか辞めるのか、韓国からの謝罪も合わせて行なうのか。
それぐらい自分の頭で考えなさい!マジ分からんの?
相変わらず韓国は、目ても覚めても寝言を言ってますね。重症です。
>「日本と協議続ける」
韓国が日韓請求権協定を破らない限り、これは韓国の国内問題です。
勝手に韓国で解決策を考えるべきです。
日本は損害を受けない限り関係ありませんし、内政干渉すべきでないでしょう。
日本にあるのは、制裁する状況になるか、制裁しなくて済むかだけ。
しかし、金目ほしさに解決済みの問題をほじくり返した挙句ドツボにはまって、日本と協議したいなどと言う顛末は、日本の静観具合と相まって面白い見世物です。
先を読めば、韓国に解決する能力はありませんから、日本にとってどのようにお灸をすえるのか、東アジアの安定のために韓国をどのように扱うかは考える必要があります。
というのも、韓国の常とう手段は、国内問題であっても恥も外聞もなく他国に助けをもとめること。
先々、日米にそっぽむかれたら、中国かロシアにでも泣きつくでしょう。
それが、朝鮮スタイルです。
やることは、今も昔も閔妃なので、周りの国が冷静に対応しないと迷惑を被ります。
もうここに至っては現金化されようが、されまいが日本政府の方針は一緒じゃないかと思います。
「制裁する!」って宣言して制裁するか、静かに潜って制裁するかの違い。
どっちに転ぼうが韓国という国のカントリーリスクは消えず、日本政府の冷遇を見て各日本企業が日本政府に忖度するだけだと思う。
これからはすぐ逃げ出せる業種の企業だけが韓国に残るだけになるのではと思います。
「日本と協議続ける」って協議する内容ではないでしょう?
韓国国内の問題解決に対して、何故日本との協議が必要なのでしょうか?
韓国国内で「日韓請求権協定」に違反する事例が発生しているのを解決するのは韓国国内の問題であり、解決する必要があるのは韓国政府の問題のはずです。
日本政府が言ってるのは「日韓請求権協定の違反をなんとかしろ」と言う事ですよね?
日本と協議を続けるって「日本政府ちゃん!裁判所が暴走してるの!韓国政府ちゃんの手には負えないのね!だから日本政府ちゃんは、裁判所ちゃんの言うとおりにして!」って言ってるようにしか見えないのが正直なところです。