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韓国シンクタンク「通貨スワップ資金を証券会社にも」

金融市場では、最盛期では4000億ドルを超えていた為替スワップに基づく米ドル資金流動性供給入札の残高が、1300億ドル弱にまで減少しました。武漢コロナ禍が世界的に収束したわけではないにせよ、とりあえず金融市場的には「危機的局面」は脱した、ということなのでしょうか。こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日、「韓米通貨スワップの資金を証券会社にも貸し出すべき」という、何やら理解に苦しむ主張が掲載されていました。

為替スワップ≠通貨スワップ

速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』を含め、当ウェブサイトでは以前から、米国が3月19日に世界9ヵ国・地域の中央銀行・通貨当局と締結した流動性スワップ契約については「通貨スワップ」ではなく「為替スワップ」である、と申し上げて来ました。

米FRBとのFIMA為替スワップ
  • ①常設・金額上限なし…日本、英国、欧州、スイス、カナダ
  • ②期間6ヵ月~・金額上限600億ドル…豪州、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポール、スウェーデン
  • ③期間6ヵ月~・金額上限300億ドル…デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド

この点、『「発売記念」あらためてスワップについてまとめてみる』などでも述べたとおり、本来、通貨スワップと為替スワップは「外貨(米ドルなど)を入手する」という意味では似ていますが、スワップで入手した通貨の行き先が民間金融機関に限られているという点で、為替スワップは通貨スワップと大きく異なります。

つまり、この為替スワップは「米FRBとFIMA為替スワップを締結している国の金融機関が、米FRBから直接、ドルの3ヵ月までの短期資金を借り入れるためのファシリティ」であり、「その国の通貨当局がドルを手に入れるための協定」ではありません。

また、この米FRBによる為替スワップについては、一時期、世界の金融機関の借入額が4000億ドルを超えた局面もあったのですが、金融市場(米ドル短期ファンディング市場)の落ち着きもあるのか、最近では1300億ドル弱にまで減少しています。

このため、個人的な見立てでは、FRBはこの為替スワップのうち、上記②、③については当初の予定どおり今年9月で終了させるのではないかと踏んでいます。

意図的に通貨スワップと誤記する韓国

さて、上記②、③のなかには、本来「為替スワップ」と表記しなければならないものを、通貨当局がなかば意図的に、わざわざ「通貨スワップ」と誤って公表している、という国があるようです。それが、『韓銀、為替スワップを通貨スワップと意図的に誤記か?』でも触れた、「あの国」です。

この米韓為替スワップは、通貨スワップと違って、「韓国銀行がFRBから直接米ドルを入手して為替介入やドル建て国債の償還などに使う」、といった使い方はできません。

あるいは「4000億ドルを超える外貨準備を保有している」とうそぶいているわりに、その実在性が疑われている韓国において、ドル資金不足に陥った企業などに対し、韓国政府ないし韓国銀行が直接、スワップ資金を貸し出す、ということはできません。

あくまでも、米FRB(厳密にはニューヨーク連銀)と取引がある民間の適格金融機関に対し、FRBが出身国の通貨を担保にして最長3ヵ月(≒84日間)の短期資金を貸し出す、というのが、米国のFIMA為替スワップなのです。

韓国シンクタンク「証券会社にも外貨を貸してあげて」

こうした米韓為替スワップの限界について、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日、こんな記事が掲載されていました。

韓国資本市場研究院「韓米通貨スワップ資金、銀行以外の金融機関への供給案も講じなければ」

韓国資本市場研究院のイ・スンホ研究委員が、銀行以外の金融機関にも韓米通貨スワップ資金が供給されるよう方策を講じるべきとの考えを明らかにした。<<…続きを読む>>
―――2020.07.22 12:04付 中央日報日本語版

これは、韓国の「資本市場研究院」の「選任研究委員」が21日、『韓国証券会社の外貨流動性危機に対する評価と課題』と題する報告書で、韓国の証券会社もこの「韓米通貨スワップ」(※原文ママ)による流動性供給を受けられるようにすべきだ、などと述べた、とする話題です。

「選任研究院」という表現、最初は「『専任』研究員」の誤植か、とも思ったのですが、ときどき韓国メディアに出てくる表現でもあるので、おそらくこれが正しいのでしょう。ただ、「韓米通貨スワップ」とある部分は、「米韓為替スワップ」の誤りでしょう(例の「確信犯」だと思います)。

それはさておき、韓国資本市場研究院のレポートでは、韓国では証券会社が外貨不足になったときに備え、「外貨準備高や韓米通貨スワップ資金などを利用した外貨貸付」が銀行以外の全金融機関に供給できる策が必要だ、などと論じているのだそうです。

なんだか意味がよくわかりません。

なぜ証券会社に外貨資金繰りが必要なのでしょうか。

この点、日本でもG-SIBsに準じた大規模な証券会社が数社ありますし、外資系の証券会社も所在していて、彼らが大々的な外貨調達を行っていることは事実です。

しかし、それは彼ら大規模証券会社のビジネスモデル上、たとえばマーケットメイクの必要上、外貨建てトレーディング資産などのポジションを持たねばならない、顧客と相対で通貨・ベーシススワップ取引を行っている、などのファンディングニーズがある場合に限られます。

日本でもリテール専業証券会社は一般に大々的なポジションを取らないのが常ですが、これは証券会社の本質が「投資家」ではなく「ブローカー」(仲介業者)であることから、ある意味では当然のことでしょう。

そして、韓国の場合、グローバルな活動をしている大規模証券会社はありません。

なんだか不思議ですね。

このあたり、韓国の金融システムにはまだまだ闇が多そうですが、今後の研究テーマでしょう。

為替スワップの延長はないと思いますよ

さて、冒頭にも少し申し上げましたが、現在、少なくとも米ドルの短期融資市場では、資金繰り不安はかなり解消しており、米国が9つの中央銀行・通貨当局と交わした期間半年の為替スワップ協定については、役割を終えつつあるのではないかと個人的には考えています。

そうなると、「最低半年は続ける」という当初は触れ込みを信じるならば、9月19日までこの為替スワップが存在するものの、それ以降は延長されずに終了する(※その時点で融資残高が残っている場合、経過措置として返済期日まで延ばされる)と考えるのが自然ではないでしょうか。

また、『【為替操作の賜物?】韓国の外貨準備高が史上最大に 』でも触れたとおり、韓国銀行には4000億ドルを優に超える外貨準備が存在するはずですから、証券会社に対する外貨融資は韓国の国内法を整備して、ご自慢の外貨準備から賄う、というのが正解なのでしょう。

それにしても、グローバルなマーケット業務などを展開しているわけでもない韓国の証券会社が、巨額の外貨を調達して、いったい何に使っているのかについては、興味が尽きないところでもあると感じる次第です。

新宿会計士:

View Comments (20)

  • あくまでもスワップで調達した外貨資金を出す中央銀行の取引相手は市中銀行です。必要であれば証券会社も間に入る市中銀行に依頼すればスワップの外貨を取ってきて貰えばいいのです。そもそも市中銀行は隅々にまでドルを行き渡らせるためにスワップの外貨資金をとってきてるわけですから、証券会社でも一般企業でも外貨が欲しければそこから調達すればいいのです。特にスワップは緊急措置ですから、資金の金利の安い高い(市中銀行のマージンが入るかどうか)の問題ではなく、ドルが確保できるかどうかの問題なはずです。

    • Gさま

      私も同じ考えです。

      むしろ銀行を通さずに外貨供給しなければならない事情とは?・・ってところです。

      在り得るとすれば「証券会社の預かり外貨を為替介入に拝借してる」くらいでしょうか?

      ソンナバカナ⁉

      • カズさま

        あっ!!!

        私が真面目過ぎました。そうですねそれですね。政府に還流するために必要な操作ですかーなるほど。

  • 証券市場から外資の逃避が止まらないニダ。
    もう限界ニダ。
    そんな風にも聞こえますが、まさかね。

    不思議の国が考えることは、常人には理解できません。
    いつものうわ言、もとい、寝言なのでしょう。

    • > 証券市場から外資の逃避が止まらないニダ。
      > もう限界ニダ。

      私もそう思います。
      ここ4~5ヶ月でKOSPIは、かなりの外国人投資家が、かなりの額を売り越しているようです。

      株の事はよくわかりませんが、通常外国人投資家は、その国の通貨で株を買って、売った場合もその国の通貨で払い出し、それを為替市場で自国通貨に換えると思われますが、この「為替市場で自国通貨に換える」のがウォン安誘導になるため、「証券会社は外国人投資家にはドルで払い出せ!」って命令しているような気がしますw

      そんなはずないか(笑)

      仕組み違ってたらゴメンナサイ。

  •  「私は韓国の証券株式会社経営陣である。今、資産を韓国から海外に
    移している。そのためにも米ドルが必要なのだ」
    と言ったら、山田君、座布団一枚、くれますか。

     おあとがよろしいようで。

    • 引きこもり中年 様

      ワタシは山田くんでは有りませんが、座布団の進呈を得意としています。
      大判振る舞いを継続中です。

      引きこもり中年 様に座布団11枚です。

  • 更新ありがとうございます。

    う〜ん。『韓米通貨スワップの資金を証券会社にも貸し出すべき』意味不明な発言ですな(失笑)。証券市場から外資が逃げる。外国人も逃げる。韓国人も逃げる(爆笑)。でも日本には来ないでな!

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (なにしろ、自分でも『まさか』と思うので)

     「韓国の証券株式会社に米ドルを調達させて、いざとなれば、その米ド
    ルを韓国政府に献上させるつもりではないか」と、考えるのは考えすぎで
    しょうか。(本当は、証券株式会社ごとでも良いのですが、それだとアメ
    リカからクレームが入りそうなので)

     駄文にて失礼しました。

  • まあ逆に言えば、今回の米韓為替スワップは韓国にとってなんの効果もなかった証拠かもしれません。なんか美味しいことが起こってれば文句も何も出ないはずなので。

    • Gさま
      今回のスワップは、韓国にとって、株安、通貨安を回避できて、とても役に立った時思います。
      その上、為替介入で儲けていると思われます。
      ここしばらく(その前は株高誘導)、韓国の経済破綻を防いでいるのは、アメリカだと思います。

  • ひょっとして、これが関係しているのかも知れません。

     「money1.jp」の記事は現在、googleにつなげただけで私のスマホに割り込んできますが、本日、同じくスワップ資金の証券会社への流用をテーマにしていました。
     で、2020.03.28付の過去記事「韓国の証券会社に迫った危機的状況【その2】1兆ウォンの追い証」に目を通してみました。
     新宿会計士様は本日の記事で、「これは証券会社の本質が「投資家」ではなく「ブローカー」(仲介業者)であることから・・・」と、当然と言えば当然なことを断じておられますが、どうも韓国証券会社は、「投資家」でもあるようです。
     以下、一部引用します。
     このELSという金融派生商品で面白いのは、投資家が直接投資するのではなく、いわば間接投資のような仕組みになっており、市場と向き合うのは投資家ではなく、これを組成して販売している証券会社だという点です。
     引用ここまで。
     で、その結果韓国では、証拠金不足に陥った証券会社が「追い証」を求められている・・・という記事でしたが、頭が混乱する話で、申し訳ありません。

    • このELSというやつは、曲者の様ですね。
      新宿会計士さんの出番かもしれません。

      • 私が上にあげた記事はあまり関係なく、
        CB223様があげられた記事の最後の部分、『中央日報』の記事からの引用がポイントのようですね。
        「券会社は、ELSを発行すると、加入者に利益を与えるためにヘッジ(危険回避)をする。ヘッジは大きく二つの方法がある。損失や利益を外国系証券会社等に渡す「バックトゥーバックヘッジ」と直接投資方式の「独自のヘッジ」だ。通常、中小の証券会社はバックトゥーバック、大手証券会社は独自のヘッジ比率が高い。特に『三星証券』と『韓国投資証券』、『未来アセット大宇』は独自のヘッジ比率が高いと伝えられる。金融投資業界によると、独自のヘッジアカウントを保有している国内証券会社の残高は20兆ウォンを超えるものと推定される。」

        ブラック・ショールズのオプション価格の算出理論以来、様々な金融派生商品ができていますが、現実世界ではリスクを完全にヘッジするのは難しいようです(その方面のノーベル賞学者が集ったLCTMでさえ破綻為ました)。特に市場が急変する場合には、直線的なイメージで設計されたデルタヘッジが通用せず、放物線のような曲線的なガンマヘッジが必要になったりして、ヘッジの設計そのものが破綻したりするようです。
        数学的思考や論理的思考に弱い韓国人が行うヘッジでは、市場の急変に対応できず、損失を抱え込んだということでしょうか。

      • もう少し深掘りしておきましょうか。

        先に述べたブラック・ショールズモデルは金融派生商品の出発点に過ぎず、限られたものにしか適用できませんでした。

        適用範囲を広げたのは二項モデルという考え方で、これにより幅広い金融派生商品が生まれました(二項モデルは量子力学とイメージ的に近いものがあり、私にはこちらの方が直感的についてゆけます)。
        その後、さらに優れたモデルが生まれたか否かは把握していませんが、金融派生商品のリスクは、元となる金融商品の売買により無リスクにできると考えられています(いました)。

        ただ、それにはいくつかの前提条件があります。
        特に重要なのは、市場に十分な流動性があり、元金融商品を好きな量だけ売買できるという前提です。
        ところが、武漢肺炎による経済リスクに怯えた市場からは流動性が失われ、売りたくても売れない状態が発生しました。この結果、金融派生商品のリスクを元金融商品の売買でゼロにすることができなくなったと推測できます。
        独自のヘッジを行っていた世界中の金融機関がダメージを負ったと思われますが、韓国の場合、(いつものように)分不相応な大きなポジションを持った結果、危機に貧している可能性が高いのではないでしょうか ?

        金融関係はあまり詳しくないので、間違ったことを書いているかもしれません。

        新宿会計士様や読者様に、お叱り、訂正いただければ幸いです。

      • CB223様が投稿されている「MONEY.1」の「韓国の証券会社に迫った危機的状況【その2】の中に 「ELSの中には海外の株式指数などに連動している商品もあって、これは当然ドル建てでお金を突っ込みますので、証拠金もドルで入れないといけないからです。」とあります。

        韓国の証券会社は利益を出すために 自ら「レバレッジを効かせた信用取引」をしているようですね。 そしに、マージンコールの累積が1000億円規模なんて、、、。 どんだけ「テコ」使っているんだ?  

    • CB223様
      ウリもその記事を読んでいるニダ。🐧
      ルーチンの「外国人投資家がぁ〜」は流石に面倒で目を通さ無いニダ。🐧(外国人投資家が幾ら幾ら売り越して、アリが幾ら幾ら買い越したという記事)
      証券会社が他の金融業務に手を出したら、韓国以外ではOUTだと思うニダ。🐧
      韓国では、合法なのニカ?🐧

      韓国の金融機関の皆様、どうか日本語で説明して下さいニダ。🐧

    • 集めた資金を証券会社が一任されて運用してるファンドトラストのようなものでしょうか?

      それならば、投資額までの元本割れは投資家の自己責任。発生した追証は証券会社の損失負担みたいな気がします。

      国際信用にも直結する貿易代金決済や外貨建債券の満期決済なんかとは違って、相場での損失補填にスワップ資金を融通して欲しいなんてのはどう考えても筋違いのような気がするんですけどね。

  • 韓国の事ですから、ズルして儲けるための何かだと思います。
    今回のスワップは、新宿会計士さんも延長無しと見ているという事で、安心しました。