本稿は毎週の「資料集」です。『速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』などでも報告したとおり、米連邦準備制度理事会(FRB)は現在、日英欧瑞加5ヵ国・中央銀行に加え、外国の9つの中央銀行・通貨当局(FIMA)と為替スワップを締結しています。当ウェブサイトではこの「FRB-FIMA為替スワップ」に関して、その実行残高を定期的に報告しているのですが、今週、ついに残高が3000億ドルを割り込みました。
2020/06/19 21:06追記
図表2を差し替えました。
FIMA為替スワップ
『速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』などでも報告したとおり、米連邦準備制度理事会(FRB)は外国の14の中央銀行・通貨当局(FIMA)と為替スワップ協定を締結しています。
この為替スワップは、通貨スワップと異なり、「通貨当局同士」が通貨を交換する協定ではありません。あくまでも相手国・地域の通貨当局を通じ、相手国の金融機関に対して外貨を供給するための契約であり、一般に “Bilateral Liquidity Swap Agreement” などと呼ばれます。
なお、国際金融協力の世界における通貨スワップや為替スワップと、デリバティブの世界における通貨スワップや為替スワップについては意味合いが異なりますので、これについては『【総論】4種類のスワップと為替スワップの威力・限界』あたりをご参照くださると幸いです。
なお、一般には「為替スワップ」ないし「流動性スワップ」でも通用するのですが、いわゆるデリバティブの「為替スワップ」(Buy-Sellあるいは “FX swap” )と区別するため、本稿では敢えて、「FIMA為替スワップ」と呼称したいと思います(※ただし、この表現は一般的なものではありません)。
最新残高は2770億ドル、うち日欧韓で8割超
現時点における米FRBとのFIMA為替スワップは、日英欧瑞加5ヵ国の中銀が常設型で金額上限を設けていないタイプのものを保有しており、それ以外の9つの中銀・通貨当局は、期間6ヵ月以上、上限600億ドルないしは300億ドルの為替スワップを3月に締結しています。
米FRBとのFIMA為替スワップ
- 常設・金額上限なし…日本、英国、欧州、スイス、カナダ
- 期間6ヵ月~・金額上限600億ドル…豪州、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポール、スウェーデン
- 期間6ヵ月~・金額上限300億ドル…デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド
また、ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” に、3月2日以降の入札実績がすべて公表されています。
見たところ、このエクセルファイルはおおむね週1回、現地時間の木曜日に更新されているようであり、現時点で公表されているデータは6月17日(水)入札実施・6月19日(金)貸付実行分までのもので、これをまとめたものが図表1です。
図表1 6月19日(金)時点の各中央銀行のFIMA為替スワップ借入残高
相手先 | 元本と構成比 | 平均金利・日数 |
---|---|---|
日本銀行 | 1713.80億ドル(61.9%) | 0.33%/73.59日 |
欧州中央銀行 | 449.37億ドル(16.2%) | 0.32%/83.91日 |
韓国銀行 | 187.87億ドル(6.8%) | 0.62%/83.89日 |
スイス国民銀行 | 97.57億ドル(3.5%) | 0.32%/83.54日 |
シンガポール通貨庁 | 94.86億ドル(3.4%) | 0.50%/83.08日 |
イングランド銀行 | 76.95億ドル(2.8%) | 0.32%/73.99日 |
メキシコ銀行 | 65.90億ドル(2.4%) | 0.77%/84.00日 |
ノルウェー銀行 | 54.00億ドル(2.0%) | 0.34%/84.00日 |
デンマーク国民銀行 | 17.65億ドル(0.6%) | 0.33%/84.81日 |
豪州準備銀行 | 11.20億ドル(0.4%) | 0.32%/84.00日 |
カナダ銀行 | なし(0.0%) | ― |
NZ準備銀行 | なし(0.0%) | ― |
リクスバンク(スウェーデン) | なし(0.0%) | ― |
ブラジル銀行 | なし(0.0%) | ― |
合計/平均 | 2769.17億ドル(100.0%) | 0.36%/77.21日 |
(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)
トータルの金額は先週・12日時点の3526.02億ドルから756.85億ドル減って2769.17億ドルですが、そのおもな要因は、だいたい次の2つで説明が付くと思います。
- 日銀の借入残高が2129.62億ドルから1713.80億ドルへと415.82億ドル減ったこと
- ECBの借入残高が695.69億ドルから449.37億ドルへと246.32億ドル減ったこと
一方、順位には変動が生じており、イングランド銀行が前週の4位から今週は6位に転落しています。このため、韓国銀行、シンガポール通貨庁、スイス国民銀行の3者が、日銀、ECBに続き、FIMA為替スワップ借入額の上位に浮上しています。
なお、借入額の推移についても確認しておきましょう(図表2)。
図表2 FIMA為替スワップの借入額推移(2020/06/19 21:06差替え)
(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)
非常設型スワップの返済予定表
さて、以下では個別の中央銀行・通貨当局の借入額についてチェックしていきましょう。
非常設型のスワップ締結国に関していえば、最も多額の借入を行っているのが韓国銀行で187.87億ドル(全体の6.78%)、2番目に多くの借入を行っているのがシンガポール通貨庁で94.86億ドル(全体の3.43%)です。
また、常設型スワップ締結国のなかではカナダ銀行、非常設型スワップ締結国のなかではNZ準備銀行、リクスバンク(スウェーデン)、ブラジル銀行の借入残高が引き続きゼロです。
以下では、「非常設型スワップ」締結国9ヵ国のうち、6月19日時点で借入残高が存在している韓国、シンガポール、デンマーク、メキシコ、ノルウェー、豪州の各国について、今後の「返済予定」を確認してみましょう。
まずは韓国銀行です。韓国銀行は6月12日時点で187.87億ドルを借り入れており、加重平均金利と日数はそれぞれ0.62%と83.89日ですが、その返済予定表は図表3のとおりです。
図表3 韓国銀行の返済予定表
借入日/返済日 | 金額 | 金利/期間 |
---|---|---|
4月2日(木)借入/6月25日(木)返済 | 79.20億ドル | 0.91%/84.00日 |
4月9日(木)借入/7月2日(木)返済 | 41.40億ドル | 0.53%/84.00日 |
4月17日(金)借入/7月9日(木)返済 | 20.15億ドル | 0.36%/83.00日 |
4月23日(木)借入/7月16日(木)返済 | 21.19億ドル | 0.34%/84.00日 |
4月29日(水)借入/7月23日(木)返済 | 12.64億ドル | 0.33%/85.00日 |
5月8日(金)借入/7月30日(木)返済 | 13.29億ドル | 0.29%/83.00日 |
合計/平均 | 187.87億ドル | 100.00%/84日 |
(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)
次に、シンガポール通貨庁(MAS)です。MASは6月4日時点で95.71億ドルを借り入れており、加重平均金利と日数はそれぞれ0.50%と82.55日で、その返済予定表は図表4のとおりです。
図表4 シンガポール通貨庁(MAS)の返済予定表
借入日/返済日 | 金額 | 金利/期間 |
---|---|---|
6月17日(水)借入/6月24日(水)返済 | 1.13億ドル | 0.35%/7.00日 |
4月1日(水)借入/6月24日(水)返済 | 21.75億ドル | 1.09%/84.00日 |
4月15日(水)借入/7月8日(水)返済 | 31.49億ドル | 0.34%/84.00日 |
4月29日(水)借入/7月22日(水)返済 | 25.06億ドル | 0.33%/84.00日 |
5月13日(水)借入/8月5日(水)返済 | 14.43億ドル | 0.30%/84.00日 |
5月27日(水)借入/8月19日(水)返済 | 0.50億ドル | 0.30%/84.00日 |
6月10日(水)借入/9月2日(水)返済 | 0.50億ドル | 0.32%/84.00日 |
合計/平均 | 94.36億ドル | 0.50%/83.08日 |
(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)
同様に、デンマーク国民銀行、メキシコ銀行、ノルウェー銀行、豪州準備銀行についても残高をまとめておきましょう(図表5)。
図表5 その他の中央銀行
借入日/返済日 | 金額 | 金利/期間 |
---|---|---|
デンマーク国民銀行 | ||
4月8日(水)借入/7月2日(木)返済 | 14.25億ドル | 0.33%/85.00日 |
4月17日(金)借入/7月10日(金)返済 | 0.40億ドル | 0.45%/84.00日 |
6月19日(金)借入/9月11日(金)返済 | 3.00億ドル | 0.34%/84.00日 |
デンマーク国民銀行 合計 | 14.65億ドル | 0.33%/84.97日 |
メキシコ銀行 | ||
4月3日(金)借入/6月26日(金)返済 | 50.00億ドル | 0.91%/84.00日 |
4月8日(水)借入/7月1日(水)返済 | 15.90億ドル | 0.36%/84.00日 |
メキシコ銀行 合計 | 65.90億ドル | 0.77%/84.00日 |
ノルウェー銀行 | ||
3月30日(月)借入/6月22日(月)返済 | 10.75億ドル | 0.37%/84.00日 |
4月6日(月)借入/6月29日(月)返済 | 5.00億ドル | 0.32%/84.00日 |
4月20日(月)借入/7月13日(月)返済 | 2.75億ドル | 0.33%/84.00日 |
4月27日(月)借入/7月20日(月)返済 | 35.50億ドル | 0.33%/84.00日 |
ノルウェー銀行 合計 | 54.00億ドル | 0.34%/84.00日 |
豪州準備銀行 | ||
4月3日(金)借入/6月26日(金)返済 | 6.00億ドル | 0.32%/84.00日 |
4月14日(火)借入/7月7日(火)返済 | 5.00億ドル | 0.33%/84.00日 |
5月1日(金)借入/7月24日(金)返済 | 0.20億ドル | 0.30%/84.00日 |
豪州準備銀行 合計 | 11.20億ドル | 0.32%/84.00日 |
(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)
金融不安は去ったかに見えるが…
以上より、FIMA為替スワップの残高については毎週、定点観測的に眺めているのですが、非常設型スワップ締結国(9ヵ国)に関しては、今週の新たな引出はシンガポール通貨庁(MAS)が6月17日に借り入れ、6月24日に返済を迎える短期資金1.13億ドルに過ぎません。
MAS以外にFIMA為替スワップを引き出した中央銀行は、いずれも日銀、ECB、イングランド銀行(BOE)、スイス国民銀行(SNB)という「FIMA為替スワップ常設国・地域」だけであり、これだけを見ると、金融不安は去ったかにも見えます。
その一方で、FIMA為替スワップについては3月中旬の「金融市場の緊急避難」としての役割を果たしたものの、現時点ではその役割は薄れており、実際、9つの中央銀行・通貨当局はこのFIMA為替スワップをさほど使っている様子もありません。
結局、このFIMA為替スワップについては、邦銀勢が「安い資金調達手段」として使っているのを除けば、現状では「危機対応」としての意義は薄れていると考えられます。
その意味で、「非常設型FIMA為替スワップ」については予定どおり9月でアンワインドされるかどうかについては、まずは来週25日に韓国銀行が79.2億ドルという比較的巨額の資金をロール(借換)なしに償還することができるかどうかという点から注目したいところです。
もっとも、「ポストコロナ」の経済危機が各国で本格化する可能性もあるため、9つの中央銀行・通貨当局の非常設型FIMA為替スワップが継続するという可能性もないわけではありませんが…。
View Comments (8)
なぜ日本がそれほどスワップを行使する必要があるのか→そこに低利の与信枠があるから
というのは、納得がいくのですが、では
なぜ韓国がそれほどスワップを行使する必要があるのか→だって低利の与信枠があるからもったいないでしょ!べっ、別にドルに困ってるわけじゃないだからね!
となるのかが疑問です。
自分も勘違いしていたことなんですが、韓銀は25日の返済を自分の意志で借り換えができないんですね。
そもそも市中銀行のためのスワップだから、市中銀行に借り手がいないと韓銀もFRBから新規借り(借り換え)ができない。
つまり、韓銀はFRBに返すドルを市中銀行から集められなかった場合、自分の懐からドルを返さないといけない。たとえスワップ枠がまだ残っていても、それは市中銀行のための枠だから、韓銀は利用することができない。
〇 市中銀行(借りたい )→韓銀(中継 )→FRB(貸します)
× 市中銀行(借りたくない) 韓銀(借りたい)→FRB(貸します)
まあだから(韓銀が自分の意志で借りられる)日本との通貨スワップ協定を~と散々求めていたのでしょうけれどね。
韓銀が市中銀行に募集をかけるとしたら、土日を挟むので今日ぐらいに報道が無いと間に合わないはず。
実際、韓銀が市中銀行に対し返済猶予を与える的な報道が出ているようなので、韓銀からFRBにドルが出ていくのはほぼ間違いないと思います
市中銀行(返済待って)→韓銀(いいよ )→FRB(はよ返せや)
韓銀(代わりに払います)→FRB(よかろう)
直接は関係無いと思置いますが、李度勲(イドフン)という南北関連の本部長が米国時間17日に「電撃」渡米しているそうです。関連した話も行われているのではないでしょうか(それにしても、駐米韓国大使っていないんですかね。わざわざ本国から電撃渡米してくる人がよくいるような気がしますが)
リーマンショックの時,ドル資金の流れが突然ショートしたために世界的な経済混乱が起きたことを教訓に,今回は早手回しに潤沢なドルの提供手段を用意しておいたのが,案に相違して,実際に使われたのは日銀の目的外使用ばかりの祖粗末といった理解で良いのでしょうか.ドルショートじゃなく,ドル需要の減退が今の経済収縮の実態でしょうからね.
ところで,図表2のスワップ借入額の推移を示すグラフで,6/18の合計値が本来の値より500億ドル分少なくなっており,その分だけ「その他」の額が小さく表示されいると思います.ご検討ください.
伊江太 様
ご指摘のとおり、6月18日、19日の数値が間違っていましたので修正しました。ご指摘を賜り大変ありがとうございました。
引き続きのご愛読並びにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
急ぎすぎると叱られた。どこか削ろう!
>日銀の目的外使用ばかり
日本円やユーロはハードカレンシーであり通貨そのものが担保の本物の通貨スワップであり(←さほど勘違いではないと思います)
NY連銀にある口座(日本やユーロ圏の巨大銀行名義口座)に直接入金される。←立読みの記憶
日英米瑞欧の為替スワップは、中央銀行と外国の巨大銀行とのスワップであり、今回日銀は口利きくらいはしたかもしれませんが、実質的にはⅠドルも関係ないのではないでしょうか。
これで、どうだ。発信できるかな?
大韓民国
は
4月に米国公債を90億ドル積み増しているようです。
これは6月25日に返済するためのものなんじゃないでしょうか。
あれっ... 訂正します
X 4月に米国公債を90億ドル積み増し...
○ 4月中に・・・を92億ドル・・・・・
約二百億ドル借金して多分10億ドルくらい返して、92億ドル米国債?を購入したみたいですね。
為替スワップで我が国の都市銀行が円と交換して受け取った莫大なドルは死蔵されているのではなく、市場に放出されている。
FRBが市場にドルを放出しようが、我が国の都市銀行がドルを放出しようが、ドルはドル。
ECBの為替スワップの莫大なドルも同じ。
アメリカは、『円』『ユーロ』『ポンド』などの巨大通貨(ハードカレンシー)を利用して世界中に膨大なドルを供給している、なんと米国債を発行することなく莫大なドルを世界中にばらまいた。
なんとまあトランプ政権には余程頭の良い方々が揃っているんでしょうね。
一方、FRBがスワップで手にした莫大な『円』も『ユーロ』も満期日返還用に死蔵され、その分円市場もユーロ市場も縮小...なんてチンケなレベルじゃないか、どちらも巨大過ぎる市場なのだろうから。