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非上場株式の売却を「時限爆弾」と呼ぶ韓国メディア

日本企業の在韓資産売却がいまだ実現しないのはなぜか』などでも報告した、韓国側で差し押さえられている日本企業の資産の売却手続に関する記事が、本日も韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載されています。基礎的な知識なしに書かれた記事は、そのまま読んでも疲れるだけなのですが、いいかげん「売却スルスル詐欺」はやめて、いっそのこと「その一線」を早く越えてほしい、といった淡い期待を抱いている自分を発見することもあります。

非上場株式の売却は非常に困難

非上場株式などというものを差し押さえたとして、はたして簡単に売却することができるものなのか――。

当ウェブサイトではかなり以前から、この「そもそも論」についての考察を掲載して来ました。

詳しい内容については『時間もカネもかかる 非上場株式の競売が困難である理由』あたりをご参照頂きたいのですが、簡単にいえば、非上場株式は第三者に売却するためにカネをかけて鑑定評価を行う必要があるほか、うまく売却できたとしても「譲渡制限」に引っかかる可能性がある、ということです。

いろいろと事例を調べていくと、わが国の場合は国税庁が滞納した税金のカタに非上場株式を差し押さえて競売にかける、などの事例があるようですが、それができるのは、国税庁が申告書を通じて非上場会社の財務状態を把握しているからではないでしょうか。

しかし、純粋に民間人同士の債権債務関係において、たとえば「AさんがBさんにカネを払わない」という理由で、BさんがAさんの保有しているC社の非上場株式を差し押さえたとして、それを売却することは非常にハードルが高いです。

なぜなら、C社の財務状態の詳細は一般公開されていないことが多く、Bさんが差し押さえたC社株式を裁判所の競売などの手続で売却しようとしても、そもそもC社の株式の最低入札価格などを決めるためには財務デューデリジェンスなどを実施する必要があるからです。

さらに、このC社が大企業同士の合弁会社(JV)だった場合には、下手をすれば財務デューデリジェンスだけで数週間から数ヵ月の時間が必要でしょうし、デューデリジェンスの実施対象企業が協力しない可能性もありますし、株式売却に先立ち、C社が配当などの形で資産を吐き出してしまうかもしれません。

日本製鉄とポスコの合弁会社

何の話を言っているのかといえば、日本製鉄が30%、韓国・ポスコが70%を出資する合弁会社・PNR社の株式のことです。

自称元徴用工判決問題に関連し、日本製鉄のPNRに対する持分の一部が原告側によって差し押さえられている状況にありますが、おそらく一般的なJVであれば、JV契約書に出資比率に加えて譲渡制限条項が含まれているはずであり、また、PNR社の定款上も譲渡制限が設けられているはずです。

自称元徴用工ら原告側がPNR株式を裁判の手続で売却するとなれば、(日本の一般的な手続だと)まずは将来キャッシュ・フローや簿価純資産などをもとに、売却対象であるPNRの株式の価格を算定しなければなりません。

この段階で、はたして日本製鉄の資本が入っているPNRが強制売却手続に協力するでしょうか。

また、韓国は法治国家ではありませんので、強制売却手続で財務デューデリジェンスの実施をしなくても良い、などと裁判所が決定する可能性はありますが、財務デューデリジェンスを実施していない状態で、その会社の株式を買う人が出現するかどうか、という問題があります。

相手は法治国家ではない!ならば…

つまり、常識的に考えたら、PNRの株式売却には①時間とカネのかかる財務デューデリジェンス(バリュエーション)、②買い手を見つけて来る、という2つのハードルが待ち構えているのですが、ここで思わぬ伏兵があります。

日本企業の在韓資産売却がいまだ実現しないのはなぜか』でも説明したとおり、基本的にこれらの資産の売却・換金が難しいのは事実ですが、それと同時に韓国には「国民情緒法」という、大韓民国憲法や国際法を上回る万能の法律が存在していることを忘れてはなりません。

国民情緒法が憲法の上位にある韓国のことですから、採算などを度外視して、公的年金基金などが国民情緒を忖度して、財務デューデリジェンスも行われていない株式をデタラメな価格で買い取る、という可能性はあるでしょう(※個人的にはこの可能性が最も高いと思います)。

ただ、それでもPNRの株式の強制売却がなされるならば、日本製鉄側には対抗手段はいくらでもあります。

ここで、PNRの株式を買い取った人物ないし組織を「X」とでもしておきましょう。

そして、このXはPNRの株式を1億円で買ったとします。

しかし、(おそらく)PNR株式には譲渡制限条項が付いているため、PNR社としては株式の名義書き換えを拒否することができますし、日本製鉄から株式を買い取ったXではなく、あくまでも日本製鉄を引き続き株主として扱うことになります(いわゆる「第三者対抗要件」の論点)。

つまり、株式の強制売却が実現し、PNRの株式の一部を手放さざるを得なくなったとしても、日本製鉄は引き続きPNRの議決権の30%を保持し続けるのです。その間に、JV契約書と議決権の30%の支配力を使い、PNRのめぼしい資産を配当などの形で吸い上げてしまえば良いのです。

つまり、相手が法治国家ではないならば、日本企業としても、会社法の仕組みでできる最大限の嫌がらせを仕掛けるのが正解だ、ということです。

XはPNRの株主になれるのか?

ついでに、XがPNRの株主になることができるのかどうか、Xが支払った金銭は回収できるのか、という点についても考えてみましょう。

Xとしては、せっかくPNRの株式を取得したのに、このままだとPNRの株主としての権利(議決権、配当請求権など)を行使することができません。

そこで、XはPNRの取締役会に対し、「今回の譲渡を承認しろ」と要求することはできます。しかし、このような要求にPNRは、必ずしも応じる必要はなく、①Xへの譲渡を承認するか、②第三者(たとえば日本製鉄やポスコ)を売渡し先として指定するか、③自社が買い取るか、という選択肢があります。

常識的に考えたら、PNR側は日本製鉄の意向を汲み、②か③の選択肢を取るでしょう。もし①の選択肢を取ったならば、日本製鉄はポスコとの合弁契約を破棄し、会社自体を韓国から撤収しかねないからです。

そして、②、③の選択肢を取った際には、売り渡し価格を決めるために、再び財務デューデリジェンスが実施されます。ここで再びコストや時間がかかってしまうわけですし、何ならその間にPNRが保有する現金などを全額、ポスコ、日本製鉄に7対3の比率で配当金として移転させてしまえば良いのです。

あるいは、もっと陰湿な嫌がらせをするなら、ポスコと日本製鉄がPNR以外にももう1社、ケイマン諸島あたりに合弁会社を作り、PNRから営業譲渡をして、PNRを中身スッカラカンのもぬけの殻にしてしまうかもしれません。

報道されている内容から彼らの行動を読む限り、自称元徴用工やその原告側(あるいは裁判所)が会社法制に詳しいとも思えませんし、このあたりの「資産保全対策」ができているようにも見受けられません。

中央日報「両国政府が破綻しないように介入する義務」

以上より、当ウェブサイトとしては、韓国側で現在発生していることは、結局は自称元徴用工側が

このままだと株式を売却するぞ、売却するぞ、今度こそ本当に売却するぞ、本当に良いのか?売却しちゃうんだぞ~!!

と日本企業を揺さぶる、単なる瀬戸際外交に過ぎないと見ているのです。

「ギャラリー」のひとりとしては、「どうでも良いからさっさと売却しろ」という感想しか持たないという人も多いのですが、瀬戸際外交の瀬戸際外交たるゆえんは、偉そうに「売却するぞ」などと言いながら、絶対に売却しない点にあります。

(※余談ですが、このあたり、「ICBMを発射するぞ!」だの「ソウルを火の海にするぞ」だのと威勢の良いことを言いながら、米軍などの反撃が怖いから絶対に攻撃してこない意気地なし国家とやっていることはまったく同じですね。)

こうしたなか、最近、韓国メディアで「年内に資産売却」などとする記事が少しずつ掲載されているようです。

「52億ウォンの時限爆弾」差し押さえ申請に入った日本企業の韓国内資産初めて確認(1)

今月3日、大邱(テグ)地裁浦項(ポハン)支院が日本製鉄の韓国内資産であるPNRの株式の差し押さえ手続きに入るという内容を公示送達することで韓日関係にもう一度のうず巻きが予告されている。<<…続きを読む>>
―――2020.06.16 07:21付 中央日報日本語版より

韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載された記事によると、公示送達手続が取られた例のPNR株式以外にも、韓国全体の裁判所で差押・現金化命令が申請された日本企業の資産は、日本円で約4「憶」6500万円に達しているのだそうです(「憶」の誤植は原文ママ)。

これについて中央日報は

  • 今後韓日関係が『52億ウォンの時限爆弾』にかかっていると言っても過言ではない

としたうえで、

  • 強制徴用問題がこのように深刻な状況に達したのは両国政府の自尊心との戦いのためでもある
  • 司法手続きには政府が介入することはできないが、判決が下された後には政府には両国関係が破綻に達しないように管理する義務がある

などと述べているのです。

2000文字近い、無駄に長文の記事ですが、言いたいことを要約すれば、この自称元徴用工判決問題を巡り、「韓日両国政府が」解決せよ、といったところでしょう。呆れて物も言えません。

文在寅政権ならできる!アイキャンフラーイ!!

当たり前の話ですが、そもそも論として自称元徴用工判決問題は、韓国の国際法違反の問題です。解決する義務は100%、韓国政府の身にあります。

日本の裁判所が「ポツダム宣言は無効だ」と宣言したところでポツダム宣言が無効になったりしないのと同じで、韓国の裁判所が日韓請求権協定で解決済みの問題を「解決していない」と宣言したところで、国際法上は意味がありません。

そして、日本政府は日本企業に不当な不利益が生じた場合には対抗措置を講じると警告していますが、韓国側で北朝鮮とソックリな瀬戸際外交が展開されている目的は、結局、正攻法で戦っても勝ち目がないからこそ、「売却スルスル詐欺」で日本企業と日本社会を脅すことにあるのです。

瀬戸際外交の瀬戸際外交たるゆえんは、「売却するぞ、売却するぞ」と宣言しながら一歩ずつ手続を進め、「越えてはならない一線」を絶対に越えないことにあります。

韓国の瀬戸際外交の一例である日韓GSOMIA破棄騒動を巡っても、昨年11月22日、日韓GSOMIA(※正式名称は『秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定』)の破棄を土壇場で撤回したのは、その典型例でしょう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ただ、個人的にはやはり、いつまでも不安定な状況を作ってモヤモヤさせる韓国や北朝鮮のやり方は、気に入りません。その原因は、韓国がいつまでも「ブルーチーム」に所属しているふりをしながら、「レッドチーム」とのあいだでどっちつかずの態度を続けているからでしょう。

いっそのこと、スッキリと「レッドチーム」、「ブルーチーム」に別れた方が、日本にとっても韓国にとっても幸せなのではないかという気がします。

やはり、韓国が文在寅(ぶん・ざいいん)政権でいる間に、清水の舞台から飛び降りた気持ちになっていただき、その「一線」を越えてほしいなぁ、という淡い期待を抱いている自分がいるのもまた事実なのです。

新宿会計士:

View Comments (17)

  • 現金化の話は、韓国マスゴミは盛り上げてますが、大分陳腐化したように思います。
    記事から気になった所を引用します。

    日本側が追加訴訟にも「判決を受け入れられない」と持ちこたえれば、「国内資産の差し押さえ→強制処分」の悪循環が果てしなく繰り返される可能性もあるということだ。

    韓国人は、何故現金化された企業が、いつまでも韓国にいると思っているんでしょうかね。
    NO JAPANをしていて、ただでさえ日本企業の脱韓が、進行しているというのにね。
    「国内資産の差し押さえ→強制処分」の後は、→日本政府の制裁、日本企業の撤退になると思います。
    国際法違反の国の情治判決に、果てしなく付き合う訳が無いとは、考え無いんですよね。

    最後の
    世宗(セジョン)研究所のチン・チャンス日本センター長は「司法手続きには政府が介入することはできないが、判決が下された後には政府には両国関係が破綻に達しないように管理する義務がある」と話した。
    と言っても、
    判決出させたのは、文政権ですからね。

  • 現状のままがベストだと思います。
    約束守れの一言ですべての要求を突っぱねられる。
    米が何か言ってきても「日本側はあなた方が斡旋した合意の義務を全て履行済みだ」で終わり。
    やっかいな韓国の相手も全部米国に押し付けることができている。
    今がとっても楽なポジションだと思います。

  • 自分で作った爆弾を、自分からタイマーのスイッチをオンにして、早く日本が止めろっていっているようものですね。日本は防護壁で守っていれば良いかな、と。

  • 「時限爆弾」なんですか?🐧
    私には特定の隣国自体が「信管の作動した不発弾」に見えます。🐧
    それも0.5秒遅延瞬発信管ではなくてVTかCVTの不発弾、危なくて近寄れません。🐧
    「不発弾」と付合いも出来ないので、海の向こうで勝手に爆発して下さい。🐧
    ブルーチームの不発弾処理班も手間が省けます。🐧

  • 先回の慰安婦合意の10億円と今回の5億円を手切れ金として気持ちよく韓国を敵国認定すればよろしいかと。
    そのためには米国への根回しと煽動されやすい韓国民に向けた燃料投下が必要ですね。
    軍事的にも経済的にも戦争はあちらさんから仕掛けさせるのが上策です。

  • 更新ありがとうございます。

    『4億5,000万円の時限爆弾』ん〜1円も韓国の取り分はネーヨ。もう貰ったみたいな中央日報の口ぶりだが。

    国民情緒法が憲法の上位にある韓国のことだから、日本に勝つというプライドと愚民迎合の為、採算を度外視して買い取る事ぐらいしかねません。

    でもケイマン諸島あたりに合弁会社を作り、PNRから営業譲渡をして、PNRを中身スッカラカンにするのは面白い手ですね。さーすが会計士さん!スレスレな事を良くご存知だ。ま、韓国は『やるぞ、やるぞ』ではなく早くヤレヨ〜‼︎

  • 会計士様

    清水寺に失礼です
    清水の舞台から飛び降りるなんて
    そんな高尚なマネ出来ません
    絞首刑台の上にのっているのが
    わからないなら、後は足下の床を
    外してやればいい

  • 韓国メディアが「時限爆弾」と呼ぶ非上場株式の売却ですが、日本政府が「実害あれば何らかの報復」と公言している以上、日本人の私としては不謹慎な期待を抱いております(笑)。

    8月でしたっけ?私の希望はこちらのメンバーであられる韓国在住日本人様がそれに巻き込まれないこと。無事に帰国されることだけです。

    ああ、GSOMIAの破棄はどうなっているんです(怒)?

  • 新宿会計士様

     「売却するする詐欺」ではなく、「売却したした詐欺」というのはどうでしょう?
     韓国裁判所が、差押資産を適当な(いい加減な)最低価格で競売にかける。
    次に、会計士さんが想定した韓国年金基金が応札して売却が成立し、売却代金が納入されてめでたく売却決定。
     韓国裁判所は、売却代金を限りに原資として原告らに配当して原告らに不満なし。
     落札人(韓国年金基金)と第三債務者合弁企業には、当該株式の名義書換え命令書を発布して、裁判所は、後のことは知らんぷり。
     これなら、①売却してやった!やった!やった!と、メンツが立ち、
    ②裁判所の命令に従わずに名義書換をしない合弁企業が悪い!という言い訳が成立し(?)、
    ③もう他に差押する戦犯企業の財産が見当たらないから、これに続く自称元徴用工たちはあきらめるんですよ!と後続を断ち、
    そして、④これで一息つけるから、作戦を練り直すニダ!

  •  文在寅大統領とその仲間達にこの難局を切り抜けるウルトラCは無いですね。

     このまま放置して次の政権に擦り付ける。このような政策ばかりですから、この問題も次政権のissueとなるでしょう。

     結局は売却できないので、自称元徴用工は天寿を全うします。残されたのは彼らの子孫ですから、その子孫が金をせびりる訳です。

     仮に売却が上手く行って、金を手にしたら、全世界の韓国人が韓国で裁判し、日本企業資産の差し押さえを始めるでしょう。これは在日韓国人も同じです。なんせ、違法な併合による精神的苦痛に対する慰謝料ですから。そうなると、在韓日本企業は全社撤退です。

     これは全て文在寅大統領が悪いのです。廬武鉉政権時に文在寅は民情主席として政権に関わっており、その際徴用工に対する仕分けを行いました。それ以前に三菱重工業の訴訟の際には、原告代理人の一人が文在寅大統領です。訴訟が2000年で仕分けが2005年ですから、自分が原告代理人になっている自称元徴用工を仕分けし、徴用工として認めなかったことになります。こうなると支離滅裂です。

     韓国には「矛盾(무순)」という言葉がりますが、盲目的な韓国人や文在寅大統領とその仲間達の頭の中にはそのような単語は存在しないのかも知れません。

     駄文にて失礼します。

       

    • 韓国在住日本人様 早くお逃げなさいませ。

      お話では、廬武鉉政権時に文在寅氏は原告代理人として徴用工として認めなかった人間を今回は認めていると言うことですかしら?であれば、廬武鉉政権時の自身の仕事を自身が否定していることになります。たしかにクラクラしますよね(笑)。それに、半島民全員の精神的ダメージを保証しろなんて適うハズもない主張をしている。

      ここで、私は再び持論を展開いたします。これは北朝鮮の主張なのだと。少なくとも民主主義の洗礼を受けた国の人間の発想ではありませんもの。このような主張は、どこにも通用しないですよね。であれば、後は、世界中から見捨てられ、国家破綻する道しかありません。

      どうなるのかしら?今の韓国は日米だけでなく、全方位の国々に問題をまき散らしています。正気の残った人間が棄国し移民しようとしても、どの国が彼らを受け入れます?

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