X

トランプ氏「米中断交すれば5000億ドル節約」

本稿は「速報」です。ドナルド・J・トランプ米大統領が米メディア『フォックス・ビジネス』のインタビューで、米中断交に言及したことが話題となっています。これについていくつかのメディアの報道などを手掛かりに、「米中断交発言」とその背景にある問題点、トランプ氏の狙いについて探ってみると、「米中覇権戦争」が武漢コロナウィルス騒動の影響で表面化したに過ぎない、という側面があるのではないかと思えてなりません。

トランプ氏、米中断交に言及

ドナルド・J・トランプ米大統領が『フォックス・ビジネス』のマリア・バーティロモ氏の独占インタビューで、中国との関係を巡り、「我々はすべての関係を断ち切ること可能性もある(We could cut off the whole relationship)」と述べました。

Trump on China: ‘We could cut off the whole relationship’

President Trump made one of his strongest comments yet in dealing with China in the wake of the communist country’s handling of the coronavirus pandemic.<<…続きを読む>>
―――2020/05/14付 FOX BUSINESSより

実際、リンク先の記事からトランプ氏本人の発言を確認することができるのですが、トランプ氏は使う言葉がとてもわかりやすいため、私たち一般の日本人であっても、中学生レベルの英語がわかれば、何を言わんとしているのかが理解できるでしょう。

具体的には、バーティロモ氏から習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席と何か話をしたのかという質問に対しては、

I have very good relationship but just right now I don’t wanna speak to.(彼とは良好な関係を保っているが、今は彼と話したくない。)

中国との今後の関係について尋ねられた際には

There are many things we could do thing; we can cut off the whole relationship. Now if you did, what will happen? You would save 500 billion dollars, if you cut off the whole relationship. (我々にできることはたくさんある。たとえばすべての関係を断つことだ。もしそうなれば何が起こるか。わが国は5000億ドルを節約することができる。)

といった具合に、米中断交に言及したというのです。

フォックス・ビジネスによると、トランプ氏は以前からコロナウィルスの蔓延を巡って中国が情報を出し渋っているなどと批判しており、それと同時に中国から損害賠償を取り立てる手段を検討しているなどと述べて来たなかで、今回の発言は「これまでで最も強硬なもの」だと指摘。

また、同記事では、フォックスビジネスが独占的に入手した資料によれば、トランプ政権は米国の連邦退職年金基金の中国関連株式への投資関係を切断すると決定した、などと報じています。

英FTは「留学生へのビザ厳格化も」

ただ、なぜ中国との関係を切断したら5000億ドルが浮くのか。

唐突に出てきた「国交断絶と5000億ドルの節約」というロジックについて、英メディア『フィナンシャルタイムズ』(FT)は、トランプ政権がまず、中国人留学生に対するビザの交付基準を厳格化するのではないか、との見方を示しています。

Trump threatens to cut off relations with China

Donald Trump has warned that he could “cut off the whole relationship” with China, in the latest escalation of US tensions with Beijing as he increasingly blames China for the global spread of the coronavirus.<<…続きを読む>>
―――2020/05/15付 FTオンラインより

FTによると、トランプ政権が一時、2018年頃に中国人に対するビザ厳格化を検討していたという点を踏まえ、今回のトランプ氏の発言は、非常に機微な科学分野で学ぶ中国国籍の留学生に対するビザを出すかどうかという文脈で出て来たものだと指摘。

そのうえで、トランプ氏の最終的な目的について、次のように述べます。

Mr Trump did not explain what he meant by cutting off ties. But some officials want him to remove Chinese companies from US supply chains.(トランプ氏は関係切断について詳細を明かさなかったが、複数の当局者はトランプ氏に対し、米国のサプライチェーンから中国企業を排除することを求めている。)

つまり、大学などの研究機関から中国人を排除するとともに、中国で製品を製造する米国企業に対する税額の加算や製造業の国内回帰に対する公的融資の充実などを通じて、「脱中国」を図る、という考え方でしょう。

中国企業の「上場廃止」も?

さらに、FTが引用したフォックスビジネスのインタビューでは、トランプ氏が米国の会計基準に従わない中国企業を米国の証券取引所から排除するという考え方を示したものの、それと同時にあまりやり過ぎると「これらの企業はロンドンや香港に逃げるだけだ」などと慎重姿勢も同時に示したとされます。

ただ、これについては伏線があります。

武漢コロナウィルス問題が出現するよりも前から、「米国のルールに従わない中国企業を米国の証券取引所から追放しよう」とする動きは、しばしば報じられてきたからです(『「米国が中国企業を株式市場から排除」、その影響は?』等参照)。

もちろん、中国企業を米国の株式市場から排除したところで、これらの中国企業はロンドンや香港などのグローバル市場に逃げるだけの話でしょうし、実質的にはさほど意味がありません。

というよりも、経済がグローバル化している影響もあり、中国に対しては株式以外にも、債券や金銭債権、証券化取引などのさまざまな形態で、さまざまな国の資金が流れ込みます(そのなかには日本の機関投資家の資金も含まれています)。

もし米国が本気で、「中国企業に対して『カネの流れ』自体を止める」となれば、米国だけで話を進めることは難しく、もし本気でそれをやるならば、やはりかつての「ココム」などの仕組みを復活させ、西側諸国が協調しなければなりません。

わかりやすい!中国共産党の反応

一方、これに対して強く反発しているのが、中国共産党の機関紙である『環球時報』の英語版『グローバルタイムズ』です。

‘Is Trump insane’ to threaten cutting off ties with China?

“Is Trump totally insane?” Experts and the international community couldn’t help but ask this question after US President Donald Trump threatened to “cut off the whole relationship” with China on Thursday in an interview with FOX Business. Observers said that Trump’s word would never deter China, but may shock US political and business circles and its own people, and may put world peace in a dangerous position.<<…続きを読む>>
―――2020/5/14 23:33付 Global Timesより

記事の日付がフォックスビジネスのインタビューの直後であるという点からも、今回のトランプ氏の発言で、中国共産党が腰を抜かさんばかりに驚いたのではないかと思えてなりません。

“insane” という単語は「正気ではない」という訳語が充てられることが多いようですが、環球時報は「米中断交などとんでもない」、「米国の政治、経済、人民、そして世界平和を危機に追いやる行為だ」などと舌鋒鋭く批判しているようです。

具体的には、中国人民大学の金燦栄(きん・さんえい)教授が

  • 中米関係は世界で最も重要な二国間関係であり、両国および世界の他の国々に対しても莫大な利益をもたらしている。トランプ氏が感情的に切り離すことができるものではない
  • 米国が一方的に関係を断つと、米国人は中国人よりも重い対価を負担することになる。中国の国内市場は巨大であり、中国の製造業者の75〜80%は中国の国内市場向けに供給しており、米国向けの2~5%を国内市場で吸収することも可能だからだ

と述べたそうですが、実に苦しい言い訳ですね。

現実には中国こそ、米国との間で巨額の貿易黒字を計上しています。

外務省の資料『米中経済関係』(※PDFファイル、2018年8月)によれば、2017年における貿易額は、米国の対中輸出が1308億ドルであるのに対し、中国の対米輸出が5065億ドルとじつに3倍に達していることがわかります。

大統領選に向けたパフォーマンス?それとも…

さて、トランプ氏の今回の発言、11月の大統領選に向けたパフォーマンスなのでしょうか?それとも本気で米中断交を画策しているのでしょうか?

おそらく、「大統領選に向けたパフォーマンス」という側面も、多少はあるのでしょう。

しかし、あくまでも当ウェブサイトなりの理解に基づけば、トランプ氏の視点は、本質的には「ルールを守らない中国を米国と世界から排除する」という点にあるのではないかと思います。

冷静に考えてみると、中国は経済面では「市場経済」を導入したと称していますが、政治体制としてはいまだに共産主義国であり、民主主義国ではなく共産党一党独裁主義国であり、法治主義国ではなく人治主義国であり、また、中国では人権は守られていません。

そもそも共産党軍事独裁体制を残したままで、経済だけ「自由主義・資本主義」を取り入れるというのも、いってみれば「良いところ取り」であり、自由主義のルールに完全に従っていないくせに、自由主義経済の恩恵を最大限受けようとするのは卑怯です。

その意味では、日本としてもトランプ氏の方針に賛同できる部分は多々あるはずです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ただし、先ほどの株式市場や資金市場の点でも触れたとおり、本気で中国を金融面で締め上げるつもりなら、米国だけではそれは不可能です。なぜなら、金融テクノロジーなどが発達した現代国際社会において、米国外で米ドルなどの資金を調達する手段など、いくらでもあるからです。

そうなると、中国が金融センターである香港を抑えている問題を片づける必要がありますし、香港を中国から切り離す(あるいは香港から国際金融センターの地位を奪う)ためには、かなりの時間と労力、何より国際社会のコンセンサスが必要です。

この点については長くなりますので、可能ならば近日中に別稿で議論したいと思います。

新宿会計士:

View Comments (26)

  • 最近、米国下院の補選で、共和党が議席を確保との事。
    全ての道は、再選に通ず。
    トランプさん、マスクをしないのは強い大統領を演じてるんでしょうね。

  • 米国に中国企業が新規上場(IPO)できなくなることにも注目すべきでしょう。
    既に上場された株式とは異なり、新規上場された株式の代金は、(証券会社への手数料を除いて)上場した会社に入るからです。
    特に、米国の会計基準に合わない、書類上の利益が水増しされた会社の株式が米国で上場されて資金が中国に流れ、その後、実態が明らかになって株価が暴落するようなことでもあれば、損害の大部分を米国国民が被ることになります。
    そういうことをするかもしれない国として排除するだけで、中国への資金の流れ絞ることができるのではないでしょうか?

    そう言えば、HANATOUR JAPANという会社が2017年末にマザーズ市場に上場されました。
    チャートを見てみたところ、初値は2000円を越えていたようです。その資金は親会社がある韓国へ流れたと思われますが、今日の終値は713円。損をしたのは、大部分が日本の投資家でしょう。

    更に言えば、株主名簿に載った投資家の個人情報は、韓国に流れているでしょうね。

  • ただ、「アメリカの外」は広大ですが、「米ドルの外」というのは世界中ほとんどありません。
    米ドルを取り扱う金融機関はすべからくアメリカの法律に従いますので、ちょっとした、アメリカ国内を経由しなさそうなドル送金ですら出来なくなります。イラン、北朝鮮といったアメリカから制裁受ける国の境遇です。

    送金文言にchinaと入るだけで送金受け付けてもらえなくなる、、、

    まあただ、経済戦争だけで勝負つく話じゃないですよね。リアルなどんぱち来そう。

    • G様

      >経済戦争だけで勝負つく話じゃないですよね。リアルなどんぱち来そう。

      このご指摘には、少なからずギョッとしました。

      石油の禁輸を喰らって、東条内閣は真珠湾攻撃を敢行しました。
      キューバが封鎖されたときには、フルシチョフは船団をUターンさせ、尻尾を巻きました。。
      ドル封鎖をやられたら、習近平はどうするんでしょうね?

      中国海軍に、旧帝国海軍ほどの度胸も実力も無いとは思うんですがね。

  • 他に書きましたが、本日、台湾tsmcがアリゾナに工場を建てる事を発表しました。tsmcと言えばiPhoneで最も重要な部品であるSoCを作っている会社です。つまり、トランプのiPhoneの組立工場を中国から米国に持ってくるという念願に一歩近づいた訳です。インタビューと同じ日に発表というのも偶然とは思えません。
    一方、tsmcはファーウェイのスマホのSoCも作っていますが、最近のECRAの強化で販売できなくなるかもしれません。いくらtsmcと言えども米国製の半導体製造装置が無ければ先端チップは作れないからです。ファーウェイは「tsmcが作らなければサムスンに発注する」と言っていますが、ハードルが二つあります。スマホ分野で競合している事。もう一つは曲りなりも米韓同盟を結んでいるのにエンティティリストに載っているファーウェイと普通ならビジネスできない事です。が、節操のないサムスンはこっそり販売するかもしれません。
    そうなると、半導体の日米台連合と中韓連合ができる訳です。
    いみじくも「半導体は安全保障に直結する戦略製品」との鈴置氏の言葉がまた重くなる訳です。

  • 不謹慎ですが、コロナがいいきっかけになりましたね。
    それがなかったら議会は対中強硬なのにトランプは煮えきらない、みたいないままで通りのヌルい関係がズルズルダラダラと続いていたんでしょうね。
    おそらくトランプは中国を潰したかったのではなく、「フェアな商売ができる相手」に生まれ変わって欲しかったのではないかと思うのですが、コロナの件でそれが不可能だと、ようやく覚ったのではないでしょうか。

  • 「大統領選に向けたパフォーマンス」という側面があるにせよ、こういったことを発信できるのは、やはりアメリカという強国&トランプ大統領ならでは、と強く感じますね。

    日本も某国と断交するくらいの気概を見せて欲しい、というのは少々乱暴ですかね。

  • すでにヨーロッパはチャイナマネーに汚染されていると読んだことがあります。

    一致団結が望ましいところですが、現実は難しいかもしれません。

  • やった方が、すっきりするかも知れないなと、思いました。
    日本も、ハッキリせざるを得ないでしょう。
    コウモリもハッキリするかも知れません。

  • トランプ大統領は大統領選挙にむけて、米民主党の背後に中国を強調するようになりましたね。

    米国ではトランプ大統領に対するロシアゲートを仕掛けたとして、米民主党側の大きな政治疑惑が話題に上がっていると聞きました。日本語の報道がほぼ皆無なので詳細は掴みきれていませんが。(多くが左派であるメディアには都合の悪い理由があるのかも知れません。)

    選挙ではトランプ大統領対「民主党=親中派」という構図が全面に出てきました。中国と繋がりの大きな民主党が勝てば日本にとっても尖閣などの問題が不利になりかねないと思うので、注意して見ています。

    とりあえず、foxによる疑惑の記事を頑張って読んでみようかと思っています。

    • 自己レスです。
      読んでみました。英語記事です。

      https://www.foxnews.com/politics/trump-ups-attack-against-obama-with-obamagate-tweet

      2016年に騒がれたロシア疑惑について、トランプ氏の最初の国家安全保障顧問であるフリン氏が今年不起訴になりました。
      このロシア疑惑が、オバマ氏、FBIのジェームズコミー、国家情報局のジェームズクラッパー、CIAのジョンブレナンに仕組まれたものであるという疑惑が出ているという話みたいですね。
      「OBAMAGATE」ですか・・・。

      驚きましたが、既に2018年に「正論」でこれを解説している記事がありました。
      https://www.sankei.com/premium/news/180729/prm1807290011-n1.html

      これらの話が米国で大きくなっているのであれば、
      トランプ陣営で何らかの証拠を掴んだのかもしれませんね。

  • まあ、金融締め出しはヨーロッパが同調しないと難しいやね。

1 2