今朝の『韓国政府「日本は５月末までに輸出規制の答えを出せ」』で韓国側が日本の「輸出『規制』」を解除せよ、と要求しているという話題を紹介したばかりですが、興味深いことに、朝日新聞が韓国政府の要求をなぞったような社説を出し、これを韓国メディア『中央日報』が紹介する、という現象が見られました。こうした動きを丹念に追いかけること自体、まさに「犯罪推理小説を読むような知的作業」なのだとしたら、これはこれで皮肉なことです。

朝日新聞「コロナ危機を日韓関係リセットの契機に」

朝日新聞に本日、こんな「社説」が掲載されているようです。

（社説）コロナと日韓　危機をバネに協調を

新型コロナ禍の世界的な広がりにどう立ち向かうか。アジアを代表する自由主義の主要国として、日本と韓国は共同歩調に乗り出すときである。<<…続きを読む>>
―――2020年5月13日 5時00分付　朝日新聞デジタル日本語版より

社説を書いた人物には大変申し訳ないのですが、同意できる箇所は皆無であるばかりでなく、非常に違和感を覚える記述がたくさんあります。枝葉を削ぎ落して朝日新聞の主張の骨子を示すと、おそらくこんな感じではないでしょうか。

• アジアを代表する自由主義の主要国として、日本と韓国は体面にとらわれず共同歩調に乗り出して危機を乗り越えるべきだが、日韓協力を阻む背景の一つは相変わらず歴史問題と、それに起因する折からの対立である
• 文在寅政権は対日政策での大胆な決断をするべきだし、安倍政権も、昨年導入した対韓貿易規制強化を直ちに取り下げ、関係を立て直す必要がある。この危機をむしろ、日韓関係のリセットの契機にするという知恵を絞ってもらいたい

…。

基本的な事実認定からして間違っている説だと言わざるを得ません。

そもそも、「日韓関係がギクシャクしている」という点については、論者の立場を問わず認識は一致しているのではないかと思いますが、その「原因」を間違えてはなりません。

2018年10月の自称元徴用工判決問題や12月のレーダー照射事件、昨年の国会議長による天皇陛下（※現在の上皇陛下）侮辱事件や日韓包括軍事情報保護協定（ＧＳＯＭＩＡ）破棄騒動など、日韓関係悪化の原因を作ってきたのは、ほぼ100％、韓国側です。

もちろん、ここに至るまでに日本の側に過失が皆無だと申し上げるつもりはありませんが（たとえば韓国による歴史捏造に対して日本政府が敢然と抗議しなかったことなど）、一般的な「過失割合」でいえば、限りなく「ゼロ対100」に近いでしょう。

一方、朝日新聞のいう「対韓貿易『規制』強化」というものがいったい何を指しているのかはわかりませんが、万が一、日本政府が昨年７月１日に講じた「韓国に対する輸出管理の厳格化・適正化措置」を意味しているのだとしたら、これはとんでもない主張です。

『韓国政府「日本は５月末までに輸出規制の答えを出せ」』でも説明しましたが、輸出管理は外国に輸出された品物の軍事転用などを防ぐために必須の仕組みであり、日本政府が韓国向けの輸出管理を強化したのは、韓国に対する輸出において「不適切な事例」があったとされるからです。

こうした点を一切合財無視し、韓国の不法行為を「なかったこと」にして輸出管理を元に戻せといわれても、説得力はありません。

連係プレー？情報ロンダリング？

ただ、日ごろ朝日新聞が韓国にやたらと甘いのは、べつに今日始まった話ではありませんが、ポイントは、なぜ朝日新聞が唐突に「日本は対韓貿易『規制』を撤回せよ」「日韓関係をリセットせよ」などと社説で唱え始めたのか、という点です。

確たる根拠があるわけではありませんが、どうもタイミングから見て、今朝の記事でも取り上げた、韓国政府担当者が「日本は５月末までに輸出『規制』を撤回せよ」とする主張と関わっているような気がしてなりません。

そして、昼過ぎに韓国メディア『中央日報』（日本語版）に、こんな記事が掲載されています。

朝日新聞、「この危機をむしろ、日韓関係のリセットの契機に」

朝日新聞が新型コロナ拡散による危機を契機に韓日関係をリセットしなければならないという社説を掲載した。<<…続きを読む>>
―――2020.05.13 13:11付　中央日報日本語版より

リンク先の記事は、中央日報としての主張が入っているというよりはむしろ、おもに朝日新聞の社説の内容を淡々と要約しただけのものですが、結果的に「韓国政府」→「日本のメディア」→「韓国メディア」という流れが見えてきます。

もちろん、そもそも論として韓国政府、朝日新聞、中央日報などの各当事者が事前に「共謀」しているということもないとは思いますが、ただ、これらの当事者が「日本政府と日本社会を揺さぶる」という点では、「連係プレー」が完成しているように思えてならないのです。

また、これまでだと、日本のメディアの社説に対し、少し時間を置いて韓国メディアが「日本のメディアもこう主張した」という社説などを掲載し、それを再び日本のメディアが引用する、というパターンもしばしば見られます。

これこそまさに、内外マスメディアによる、一種の「情報ロンダリング構造」のようなものですね。

ネット社会で試される、私たちの「情報処理能力」

ただ、私たちのような一般人であっても、情報を丹念に追いかけ、時系列で整理していけば、何となく「情報ロンダリング」や「ステルス・マーケティング」などの構造が見えて来ることもまた事実です。

昨日の『ハッシュタグ事件は世論操作手段をネットに移しただけ』でも紹介しましたが、ひと昔前、新聞やテレビを中心とする、限られた一握りのマスメディアが情報発信を独占していた時代であれば、マスメディアが世論を「作る」（あるいは「捏造する」）ということができていました。

マスメディアや一部の活動家が昔の感覚のままで、ツイッターのハッシュタグを捏造し、流行ってもいない用語を流行っているかのごとく演出し、それをマスメディアが嬉々として報じるという構図も、一種の「情報ロンダリング」のようなものでしょう。

ところが、既存のメディアや一部活動家らが気付いていない点は、現代社会ではインターネット環境が普及し、さまざまなウェブサイトが隆盛し、その結果、私たち一般人の情報処理能力、情報リテラシーが日々、飛躍的な進歩を遂げている、という事実です。

そんな私たちにとって、「韓国政府→日本のメディア→韓国メディア」、あるいは「左派活動家→ＳＮＳ→日本のメディア→ＳＮＳ」、といった「情報ロンダリング」は、むしろ逆に、犯罪推理小説を読むような、あるいはパズルを解くような知的作業でもあります。

これこそネット社会における新たな興味深い現象といえるのかもしれません。