欧州帰りの心臓外科医の方がテレビ朝日の番組に出演したところ、「PCR検査の件数を増やすべきだ」という、本人がまったく主張してもいない内容を補強する材料に使われてしまった――。そんな「事件」が先週、発生していたようです。しかも、テレビ朝日が昨日放送した「訂正放送」も、検証も再発防止策も盛り込まれていないという、非常に問題のある代物だったのだとか。地上波テレビの社会的影響力は、もっと小さくなるべきでしょう。
コロナが壊す「オールドメディアの既得権益」
武漢コロナウィルス・武漢コロナ感染症を巡る地上波テレビ局の報道に呆れる――。
こんな意見を目にする機会が増えて来ました。
当ウェブサイトでは以前、『視聴者「テレビ局は専門知識なしにコメント垂れ流す」』などのなかで、「放送倫理・番組向上機構(BPO)」が公表している『2020年3月に視聴者から寄せられた意見』というページから、
- 「ワイドショーなどで、医学や法律などの専門知識がないタレントに、安易にコメントさせるべきではない。間違った情報が拡散されており、危険に感じる。」
- 「新型コロナ感染拡大の影響で、トイレットペーパーやティッシュペーパーの品不足が連日放送されている。放送では、デマであることも、在庫は潤沢にあるとのコメントもされているが、その背景に流れる画像は、大型店などにおける空っぽの棚ばかりが強調されている。」
といった辛辣な意見を取り上げました。
また、テレビ局はコロナ対策を巡る日本政府の対応を舌鋒鋭く批判するわりには、自社から感染者を発生させたテレビ局の社会に対する説明は非常に不十分であると言わざるを得ません(『テレビ朝日は「迅速な対応」「十分な説明」の手本示せ』等参照)。
その意味で、コロナショックは旧態依然としたマスメディアの弊害を私たち日本国民に見せつけているという言い方もできるかもしれませんし、コロナショックは私たち日本国民のテレビ局に対する信頼をさらに低下させるという効果があったといえるのかもしれません。
澁谷泰介医師のブログ
さて、澁谷泰介さんという方がいらっしゃいます。
ベルギー在勤の心臓外科医の方ですが、『チームWADA』(海外で活躍する心臓外科医、医師、その他さまざまな職種の情報をリアルタイムで発信する団体)が運営するサイトにブログを寄稿されています。
澁谷氏の過去ブログを拝読すると、とても誠実な人柄が感じられ、個人的には非常に好感が持てます。この点については本論と関係ありませんので割愛しますが、ご興味のある方は是非、このブログを読んでみてください。
さて、この澁谷先生のブログ、コロナの大流行以前は、現地での仕事や生活を楽しく執筆する非常に面白いコンテンツが多かったのですが、例のコロナ騒動の影響もあり、3月中旬に一時帰国され、現在はいくつかの病院で非常勤業務をこなしつつ、ベルギーに戻る時期を伺っていらっしゃるとのことです。
ただ、4月16日付の日経ビジネス『欧州から帰国の医師「日本はイタリアの医療崩壊から学んでいない」』に取り上げられたことなどを契機に、「あれよあれよ」という間にテレビ出演が決まったのだそうですが、その放送内容に非常に大きな問題があったのだとか。
テレビ朝日に出演しました
ベルギー(一時帰国中)の澁谷です。/team wada ブログを通じてテレビ出演の依頼がありましたのでご報告させていただきます。<<…続きを読む>>
―――2020-05-07付 チームWADAブログより
テレビ出演、その後
ベルギー(一時帰国中)の澁谷です。/先週のテレビ朝日出演後のお話です。/(前回の記事と重複もあります。)<<…続きを読む>>
―――2020-05-12付 チームWADAブログより
詳しい内容についてはこの2つの記事を読んでいただければよくわかるのですが、簡単にいえば、テレビ朝日の朝のニュース番組『グッド!モーニング』が澁谷氏のインタビュー内容をかなり曲解して伝えた、という指摘が記載されています。
澁谷氏の主張
ここでは、澁谷氏の主張の一部をまとめておきましょう。
- テレ朝からの取材依頼の趣旨は「コロナウィルスの日欧の対応に関する現場の声を聞きたい」というもので、「私は心臓外科医であり感染症や公衆衛生の専門家ではなく、一医療従事者の声としてしか答えられない」と答えたうえで取材に応じた
- テレ朝側は「PCR検査に関してはこれから検査数をどんどん増やすべきだ」というコメントが欲しかったようだが、私は「今の段階でPCR検査をいたずらに増やすのは得策ではない」「無作為な大規模検査は現場としてまったく必要としていない」とコメントしたにも関わらず、完全にカットされた
- それどころか、私が欧州帰りという点を踏まえ、欧州でのPCR検査は日本より多い、日本はかなり遅れているという論調のなかでインタビュー映像が使用され、結果的に真逆の意見として見えるように放送されてしまい、とても悲しくなった
個人的には、澁谷氏の見解について紹介したいところはほかにもたくさんありますし、なかには私たち日本国民が熟読すべき意見もあると思うのですが、ここでは割愛したいと思います。
ここで重要な点は、テレビ朝日は澁谷氏の映像を、自社にとって都合がよい部分だけ切り取り、ご本人の思いと真逆の主張をしたかのように印象操作したのではないか、という疑惑が澁谷氏の主張から垣間見えるのです。
とくに、
「忙しい最前線の医療スタッフは取材に応じる時間も気持ちの余裕も全くないです。/僕はたまたま非常勤として働いており時間があったので現場の生の声を多くの方に知ってもらえればと思い取材に応じさせてもらいましたが、実際には生の声すら全く届けることは出来ず不甲斐ない気持ちです。」
のくだりを読むと、こちらまで辛くなります。
あくまでも個人的な見解ですが、澁谷氏はあくまでも日本の現状について医療現場の立場から真摯に答えただけに過ぎず、あたかも澁谷氏が「PCR検査を増やせ」と述べたかのように見える点は、編集し、放送したテレビ局の側にこそ問題があるように思えてなりません。
テレ朝に情報発信する資格はない
ただ、世の中が「インターネット化」していると思われるのは、その「反響」にあります。
澁谷氏のこうした情報発信がSNSなどインターネットを通じて広がり、それがテレビ朝日に対する批判のうねりとなったためでしょうか、テレビ朝日はついに昨日、謝罪に追い込まれたようです。
「視聴者に誤印象」と謝罪 コロナ巡りテレ朝情報番組
―――2020.5.12 20:07付 産経ニュースより
産経ニュースによると、テレ朝はインタビュー記事をあらためて放送したうえで、坪井直樹アナウンサーが
「医療現場の声の部分を放送につなげる、その受け止めをおろそかにしていた部分があった。大変おわびいたします」
などと述べたのだそうです。
もっとも、元日本テレビディレクターでもある水島宏明・上智大学教授は『Yahoo!ニュース』に寄稿した次の記事のなかで、テレ朝側の放送では今回の問題報道に関しての検証も反省もなく、再発防止策も示されなかったなどとして、舌鋒鋭く批判しています。
テレ朝『グッド!モーニング』が医師コメント で“訂正放送”。「大変おわび」でも検証も反省もなし!(2020/5/12 10:42付 Yahoo!ニュースより)
まったく同感です。
あくまでも印象ですが、今回の騒動については、インタビューを受けた側である澁谷氏の情報発信がSNSなどであまりにも大きな反響を呼び、テレ朝に対する批判となったため、テレ朝側としては嫌々ながら訂正放送に応じざるをえなかった、というのが実態に近いように思えてなりません。
民間企業であれ、役所であれ、何らかの不祥事が発覚した場合には、まずはただちに謝罪し、検証したうえで再発防止策を講じなければなりません。そうでなければ、その組織は人々からの信頼を失い、ゆくゆくくは組織そのものが社会から不要とみなされて淘汰されていくからです。
これはテレビ局に代表されるマスメディアもまったく同じことです。
今回のケースでいえば、取材を受けた澁谷医師や番組を視聴したすべての視聴者に対する真摯な謝罪と「なぜこんなことが発生してしまったのか」に関する検証、そして再発防止策の策定などの措置を講じるのが、一般社会の常識であるように思えてならないのです。
そして、こうした一般社会の常識もわきまえないような組織であるならば、テレビ朝日に「公共財」であるところの貴重な電波を独占利用して情報を流すという資格などありません。
また、おそらく、今回の澁谷医師の一件は社会のインターネット化が進んだことで露呈した、「氷山の一角」に過ぎないのでしょう。もしインターネットがこの世になければ、テレビ朝日の問題報道は闇に葬られていたに違いありません。
いずれにせよ、コロナショックを契機に社会のインターネット化がさらに進み、反省なきオールドメディアが国民から見捨てられるというのも、ある意味では必然的な流れです。地上波テレビがみずから変わろうとしない限りは、地上波テレビは社会的な影響力を失うでしょうし、また、そうなるべきでしょう。
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客観的に見て
「受け止めをおろそかにしていた部分があった。」
というのは、やらかした出来事とは程遠い「想いを伝える」などといったキャッチコピー的馴れ合いに寄りかかったら不誠実なものであり、明らかに意図して自分らの主張する論旨に都合よく改変したことに対する反省でも謝罪でもないので、本質的には「チッ、ウッセエなあ…反省してまあす」ってのと変わらないと思います。やはり大人なら改善策を挙げないと。
日本人には二種類あります。TVが無いと生きていけない人と、TVが無くとも困らない人です。
残念ながら前者の数は多く、しかもその中の大多数は自分がTVに依存しているという自覚がありません。朝目覚めてから寝るまで、トイレと外出時以外、食事の間もずっとTVを見っぱなしの知人がおりますが、見事に憲法九条信者に成り果てておりました。
同じように、新聞依存症の方も沢山います。自分が新聞に依存してることを認めたくないため、「記事は読まないが新聞紙は必要だ」とか「記事は読まないがチラシは見たい」とか言い訳しながら新聞を購読し続けています。
問題の本質は、メディアが正しい情報を発信しているかどうかではありません。視聴者・読者が、自分で考えることを放棄し、出来合いの情報を鵜呑みにする安楽から脱したくないことです。
人間にこうした安楽志向がある限りレガシーメディアは安泰です。もしも突破口があるとしたら、自分で考えたくない人々もYouTubeを視聴しだして、必ずしも旧来のTVでなくとも安楽で受動的な視聴生活ができると気付くことでしょうか。それでも自分の脳みそは死んでも使わないと思いますが。
阿野煮鱒様
私は、テレビを見ます(時間はすっごく減りましたが)。
安倍首相のスピーチも、テレビで見た方が簡単です。
プライムニュースも、見ることが有ります。
大リーグが始まれば、大谷選手が出る試合は、見るかビデオに録ると思います。
マスゴミだと分かっていながら見ますので、ひどい話をしていると思うと、スイッチを切ります。
マスゴミは、敵側ですので、ある程度知らないとならない部分もあると思います。
だけど、考えている方が正しいかどうかは別ですが、考えないで見てる人が多いんでしょうね。
若い子は、韓国好きです。
断言があくまで主観であって例証が全く挙げられてない、というところに阿野煮鱒様の阿野煮鱒様たる所以がありそうですな。
貴方の国語読解力を自己申告していただいてありがとうございます。
阿野煮鱒様
国語読解力云々はこういう場所ではよく出てくるフレーズですが、「こういう風に読み違えてる」といった指摘と共に出てくることは、なぜかめったにないフレーズなんですよね。
しかしながら「友達の知り合いの話」みたいなのは例証にはならないと思うんですよね。
実は視聴率で変動する広告収入によるテレビ局の利益率は低いのです。技術系企業で一番利益率の高いキーエンスという会社の利益率は30%くらいあるそうですが、テレビ局の平均的利益率は3%程度という話です。
なんでそれでやってけるか、というと異様に少ない自社社員の数と事実上の新規参入障壁となっている総務省認可の放送免許のお陰です。
テレビ局の平均的社員数は1500人程度らしい。そんな数ではとても回らないので後は協力会社といった外部委託でもって業務が動いています。
前に他の記事でコメントしたことと同じなのですが、組織があり、今のところまだ資金もあるオールドメディアが生き残るとすれば、専門家の意見をもとに分かりやすく丁寧な解説をする番組だと思うのです。
なので、コロナで言えば、国立国際の大曲医師や、国会でのやり取りが注目されている尾身副座長のような方の解説を流す番組が必要と考えます。(お二人とも忙しいという問題はありますが)
誠実な医師も、言葉を切り取られて、扇動の仲間に仕立てられるところでした。
純真なお医者さんが見れば、マスゴミは「悲しい存在」なんだと思いますよ。
マスゴミにそんなこと気にする良心は、無いんでしょうけどね。
工作員だと思ってみてるのが、正解だと思います。
ねつ造は、朝日の体質のようですね、
昔々、若い頃、担当した仕事の広報のため記者投げ込みをして取材してくれた朝日の記者が、当地を訪れた某有名保守政治化に関する記事を書き、それが事実でなかったとして飛ばされ、がっかりしたことがありました。
しばらくして沖縄のサンゴ礁ねつ造記事の事件も発生。
そんなことが続き、社説等も読むに堪えなくなって、朝日の購読止めました。
最後の料金聴取に来た販売店の人が、なんで止めるのかと、鬼の形相だったのを覚えています。
これって完全に放送法違反なのでは? で、国が調査に動き始めるとマスコミ各社がホウドウノジユウガー!コッカケンリョクノボウソウガー!と大騒ぎして何もできないんでしょう。
結局日本で一番守られてるのは安倍政権でも検察でもなくてマスコミですよ。何やったって罰せられないんだから。
私自身が取材対象になった事は一度もありませんが、ジャンルはかなり異なるものの、その手の取材現場は何度か見て来ました。
実際に放送された内容を見て、あの取材内容で、この放送内容なの、という余りの乖離に驚かされる事しばしばです。
まるで、どれだけ取材内容から乖離した放送内容に編集するかが、放送制作者の腕の見せ処だと勘違いしているのではないかと思わせるに十分です。
こういった事は、今に始まった事ではなく、既に半世紀以上前から続いていて、放送制作業界の伝統技能になっているのではないでしょうか。(I放送制作とか)
だから、TVを見る際は、こんな放送内容だけど、被取材者は、本当は何を言ったのだろうか、と考えながら見るのが面白いですよ。(朝日新聞を読むコツと共通。)
スタッフが集めてきた取材VTR。そのままでは使えない切れ端が、匠の手によって、どう変わったのでしょうか♪
ちゃら〜ちゃ〜らら〜♪
長過ぎる医師の声は、必要な部分を取り出すことで、主張がはっきりしました♪
置き場所にもひと工夫があります、別の活動家で挟むと、あら不思議。お互いの主張が渾然一体となりました♪
これには論説委員もにっこり。誘導しようとしたインタビューアーもほっこりです♪
>放送制作者の腕の見せ処
ってこんな感じかな。
どんな取材VTRからでも、一貫した主張を作ってみせるってのも、ある意味プロの技なのかもしれませんね♪
要するに、PCR検査を増やすべきという「社論」を強化するために、専門家のインタビューを意図的に抜き出して印象操作してしまったわけです。
反省するなら、そこまで意図的編集を入れないと維持出来ない「社論」を取り下げなきゃなりません。それがないから反省にはなっていない。
要するにワイドショーで今行われてるのは報道なんかではなく、「社論」を広報して自分たちの望む政策を実現させたいという野望でしかないのです。
街頭インタビューだって、望むような発言しなければ採用されないに決まってます。それでいて「街の声」のような錯覚を与えるわけです。
ごく一部の人間だけが、自由に考えを広報できる。国民の知る権利は重大に毀損してますね。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
テレビ朝日だけとは限りませんが、日本マスゴミ村にとって重要なのは
事実ではなく、村の中で責任問題になる、あるいは収入が減るなどで『正
社員という村民の和』が乱れることなのでしょう。
蛇足ですが、『日本マスゴミ村の(正社員という)村民』にとって、読
者、視聴者とは、いくらでも騙せる『バカ』なのかもしれません。
駄文にて失礼しました。
改めて
国会での尾身先生へのヤジはひどすぎると思っています。
専門家集団が走り回っているから、コロナ問題はこの程度で済んでいる可能性もあるわけで。
批判するなら、科学(医学)で批判しないと。
また、現場医師の予想通り、発熱基準撤廃のため、不安から検査希望者殺到のようです。
不安をあおるマスコミの責任はどうなるんでしよう。