韓国メディアの報道によると、本日、例の「米韓為替スワップ」に基づく外貨流動性入札の2回目が実施されたそうですが、意外なことに、初回に続き2回目も「大幅な札割れ」となりました。これは、韓国の金融機関における外貨資金繰りがそれほど逼迫していないという状況証拠でもあります。また、為替相場も先月下旬以来、すっかり落ち着きを取り戻しているように見受けられますが、韓国から当面の危機は去ったと考えて良いものでしょうか?
おさらい:前回の金融危機と韓国
『2008年の金融危機時、韓国はわざと通貨安誘導か?』で説明しましたが、リーマン・ショックが発生した2008年、韓国の企業や銀行などは外国金融機関から借りていた短期資金のロール(更改)を拒絶されるケースが相次ぎ、短期債務残高は500億ドルも減少しました。
だからこそ、ウォンが急落し、通貨当局が慌てて為替介入に乗り出さざるをえなかったのでしょうし、実際に当ウェブサイトなりの試算によれば、韓国は為替介入により外貨準備高を500億ドル以上「溶かして」いると考えられるからです。
こうしたなか、韓国の金融危機を食い止めたのは、最終的には日韓通貨スワップを時限的に300億ドルに増やす措置が取られたことに加え、米韓間でも上限300億ドルの為替スワップが締結されたことだったのではないかと思います。
ただし、『【資料】リーマンショック時に実行された為替スワップ』でも報告したとおり、韓国銀行が米FRBとの間で為替スワップを締結したのは2008年10月29日のことでしたが、韓国が実際にそれに手を付けたのは、同年12月4日のことでした(※入札は12月2日)。
米韓為替スワップに基づく流動性ファシリティの借入は、その後、全19回に及びましたし、借り入れた総額は延べ414億ドルに達しています(図表1)。
図表1 2008年の為替スワップに基づく融資(全19回分)
融資実行日/日数 | 融資金額 | 利息/為替相場 |
---|---|---|
2008/12/04(84日) | 40.0億ドル | 6.84%/1459.0ウォン |
2008/12/11(84日) | 30.0億ドル | 5.58%/1442.1ウォン |
2008/12/23(86日) | 33.5億ドル | 2.36%/1288.2ウォン |
2009/01/15(84日) | 30.0億ドル | 1.12%/1364.5ウォン |
2009/01/22(84日) | 30.0億ドル | 1.19%/1373.3ウォン |
2009/02/26(84日) | 40.0億ドル | 1.44%/1509.5ウォン |
2009/03/05(84日) | 30.0億ドル | 1.32%/1570.0ウォン |
2009/03/19(84日) | 30.0億ドル | 1.29%/1425.5ウォン |
2009/04/09(84日) | 20.0億ドル | 1.32%/1321.0ウォン |
2009/04/16(84日) | 20.0億ドル | 1.40%/1326.7ウォン |
2009/05/21(84日) | 25.0億ドル | 1.16%/1243.3ウォン |
2009/05/28(84日) | 15.0億ドル | 1.13%/1265.0ウォン |
2009/06/11(84日) | 20.0億ドル | 1.05%/1254.5ウォン |
2009/07/02(84日) | 10.0億ドル | 1.12%/1279.7ウォン |
2009/07/09(84日) | 10.0億ドル | 1.05%/1269.0ウォン |
2009/08/13(84日) | 12.0億ドル | 0.90%/1238.3ウォン |
2009/08/20(84日) | 6.0億ドル | 0.85%/1254.8ウォン |
2009/09/03(85日) | 8.0億ドル | 0.76%/1246.8ウォン |
2009/09/24(84日) | 4.5億ドル | 0.77%/1203.5ウォン |
合計 | 414.0億ドル |
(【出所】FRB “Central Bank Liquidity Swap Lines” より著者作成)
ただし、この19回のうち、14回は「ロール取引」(借換取引)であり、実質的な借入の本数は5本でしたし、これらのスワップが存在した期間のいずれにおいても、米FRBからの為替スワップの上限額(当時は300億ドル)を上回ることはありませんでした(図表2)。
図表2 韓国が引き出した米韓為替スワップ(流動性ファシリティ)の額
(【出所】FRB “Central Bank Liquidity Swap Lines” より著者作成)
この点は、「意外だ」と思う人も多いでしょう。
どうしても普段の同国の行動を見ていると、同国は設定された融資極度額のギリギリまでおカネを借りるに違いない、というバイアスを持っている人も多いと思いますが、現実には、韓国は2009年3月中旬には、もう為替スワップによる借入額を減らし始めているのです。
米韓為替スワップの引出額は意外と少ない?
さて、今回の「コロナ局面」では、どうでしょうか。
『速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』等でも触れたとおり、米FRBは3月19日、韓国銀行を含めた9つの中央銀行・通貨当局と時限的な為替スワップを復活させました。
そして、『韓銀、米韓為替スワップのうち120億ドル分を実行へ』でも報告したとおり、韓国はさっそく先週、米韓為替スワップ協定に基づき、国内の金融機関に対する米ドル流動性供給オペを実施しました。供給予定上限額は120億ドルでした。
これを「多い」と見るか、「少ない」と見るかは人によりそれぞれですが、あくまでも現時点での印象では、「少ない」と思います。というのも、韓国の企業・銀行が外国金融機関から借りている外貨建ての短期債務の額は1000億ドルを優に超えているからです。
しかも、非常に意外なことに、結果は「札割れ」となり、応札額は87.2億ドル(うち7日物が8億ドル、84日物が79.2億ドル)に留まりました。「札割れ」とは、要するに、「おカネを借りる必要はない」と考えた金融機関が多かった、ということです。
- 7日物…上限額20億ドルに対し応札額8億ドル
- 84日物…上限額100億ドルに対し応札額79億2000万ドル
さらにいえば、『米国との為替スワップ、韓国などの平均借入金利が高い』でも報告したとおり、現時点において為替スワップに基づく米ドルの借入額がいちばん多い国は日本であり、これに欧州中央銀行(ECB)、英国が続いているという状況にあります。
本日、2回目の入札実施
さて、2008年の為替スワップの際にも、初回の流動性供給入札から1週間後に2回目の入札が実施されましたが、今回も同じように、初回から1週間が経過した本日、2回目の入札が実施されたようです。
韓米通貨スワップ2次供給に44億ドル入札…入札限度の半分【※韓国語】
韓国銀行は7日、韓米通貨スワップ資金を活用した第二の外貨融資競争入札をした結果、参加金融機関が合計44億1千500万ドルを応札したと発表した。供給限度額である85億ドルの半分水準だ。<<…続きを読む>>
―――2020-04-07 11:36付 聯合ニュースより
リンク先の『聯合ニュース』(韓国語版)の記事によれば、もともとの供給限度額は初回からさらに減って85億ドルであり、このうち応札額は44億1500万ドルに留まったのだそうです。その内訳は、次のとおりです。
- 8日物…上限額15億ドルに対し応札額2億7500万ドル
- 84日物…上限額70億ドルに対し応札額41億4000万ドル
ちなみにこの「8日物」は、おそらく、4月2日に実行された7日物(8億ドル)のロール(借換)取引でしょう(これが「7日物」ではなく「8日物」となっている理由は、ちょうど1週間後の15日が韓国の総選挙に該当しているためだと思います)。
資金はさほど逼迫していない
いかがでしょうか。
以上の状況に照らせば、意外と韓国の金融機関ではドル資金繰りは逼迫していない、という印象を受けますね。
もちろん、落札額が少なかった理由は、あくまでも「見た目」の問題なのかもしれません。というのも、今回の第1回、第2回の入札額は、リーマン・ショック時の第1回、第2回の入札額をそれぞれ上回っているからです。
ただ、当初、韓国銀行が第1回目の入札時に、スワップ上限額(600億ドル)のうち20%を使うと宣言したわりには、これに対する実際の応札額は少ないと言わざるを得ません。
これに加えて、為替相場も先月下旬に1ドル=1300ウォンを突破しそうになっていましたが、韓国銀行が70~80億ドルを投じて為替介入をしたためか、再び1ドル=1200ウォン前半に戻り、現在でもこの水準で安定しています。
つまり、為替相場の状況、為替スワップの使用状況だけで見る限り、韓国の企業、銀行は、現時点において、前回のリーマン・ショック時に生じたような「短期資金のロール拒絶」という状況には直面していないようである、と結論付けて良いでしょう。
嵐の前の静けさ?それとも…
以上より、現時点で韓国の金融市場において重篤な資金繰り不安が生じているという事実は確認できません。おそらく、韓国銀行も前回の金融危機からオペレーションをいろいろ学んでいるのでしょう。
上限600億ドルの為替スワップをしょっぱなから120億ドル使うと宣言したり、第1回目入札に続き1週間後にさっそく第2回入札を実施したりするのも、外貨資金繰り不安の解消を目指している姿勢のあらわれと考えられるからです。
もちろん、為替スワップは通貨スワップではないため、「通貨当局がFRBから直接ドルを借りる」、という用途に使うことはできません。しかし、そもそも、外貨の資金流出が生じなければ、過度な為替介入を実施する必要もないため、結果的に外貨準備を守る効果は得られます。
ただし、これを「韓国が通貨危機・金融危機を避けた証拠だ」と断言するのは尚早です。というのも、武漢コロナウィルス蔓延による経済活動の麻痺は、これから実体経済に影響を与え始めるはずだからです。
なにより、韓国の首相を筆頭とする政治家や通貨当局者、財界関係者らが、しつこく「日韓通貨スワップが必要だ」と主張し続けているという事実は、現在の状況が「嵐の前の静けさ」である、という証拠に説得力を持たせているように思えてならないのですが、いかがでしょうか。
View Comments (24)
新宿会計士さま
「担保が無いから入札出来ない」は、有り得ませんかね?
被っちゃいましたm(__)m
単純に担保が用意できなかったってことはないですかね?
思ったよりも安定してるならそれはそれでいいことだと思います。
韓国がドボンするのを今か今かと待ち侘びてる一部の人々には不快かもしれませんが。
私たちが憂慮すべきは日本の国益であって韓国の凋落ではないです。
目糞鼻糞の煽りあい状態では、あの国のネチズンと同じですからね。
日本がすべきことは高度産業基盤を国内に回帰させること、
日本円の国際化を進めること、(人民元の国際化を阻止すること)
TPPでルールありきの自由貿易を引っ張っていくこと、
不当なダンピングや知的財産権侵害に対して欧米と連携して戦っていくこと、
そして朝鮮とはできるかぎり関わらないことです。
たけさま
>日本がすべきことは高度産業基盤を国内に回帰させること
ご意見まこと仰せのとおりと首肯いたします。中部国際空港から半島へ大陸技術者がこっそりでなく堂々と出稼ぎで行きかっている状況、疫病閉鎖なる天啓によりぶどぶの穴が塞がれたのは僥倖です。そもそも札束で頬を殴られて従順にも敵国へ手を貸すのは、日本企業経営者がいかに社員を安く使って来たかの証左。「日本人技術者は安い買い物」ぎょっとされるかも知れませんが、大陸勤務経験のあるかたは歯に衣着せずそう言い放っています。
「半島へ大陸」のあとに「へ」が脱落しています。
韓国国内の企業規模の関係なのでは?韓銀の目算がそもそもはったりで募集額を多めにした。札割れすれば、余ってるイメージにはなる。
結局スワップを使わないと維持できない状況だったのは間違いなかった。
実体経済下降は規定なので、その影響で金利負担から市中銀行の経営破綻、そこが終わりの始まりなのかなと。
皆さんの仰る通り借りる体力も返す体力ないのでは?
本日の$/₩レートは₩高にシフトしています。このままでいくと、今週中には1200を切りそうです。KOSPIも1800台に戻しています。
何があったのでしょうか?
駄文にて失礼します。
韓国在住日本人さま
多分そうは、ならないでしょう。
と思って見ています。
願望です。
純粋に見れば韓国すごい、なんですが、
日本への対応を考えると矛盾してるんですよね。
かの国の考えでは「借金は踏み倒すもの」というのが一般常識なので、返さないといけない借金には自然と距離を置いてしまう、というだけのことだと思いますよ。
素人の素朴な感想なんですけど、コロナ禍の経済停滞状況では借りても使い道がないんじゃないですかね。買いたいものが入ってこないし、仕入れても作れないし売れない。7日物の応札額が特に少ないので、当座の必要がないってことなのかなーと思いました。
初めまして。
素人ですが、韓国企業がアメリカを始めとした海外の銀行から資金調達している為に、それほどドルの流動性に問題が生じていないのではないでしょうか。
そして、ドルの流動性に大きな問題が生じていないから、通貨の防衛に使う外貨準備に一定程度の余裕が生じているのでは・・。
過去の通貨危機時と同様に韓国政府の外貨準備高が国内金融機関の決済用外貨として貸し出されてるのならば、【為替介入で溶かした外貨総額相当=決済用外貨不足額】なのかも知れません。
そう考えるのならば、国内金融機関に貸し出した決済用外貨は為替介入に溶かされ、その補填として為替スワップが使われてることになります。
あくまでも表向きは民間金融機関による決済用資金の調達目的に変わりないんですけどね。
さて、為替相場の小康状態は4月の配当金支給を控えての様子見なのかもですが、海外投資家が貰うもの(株主配当)貰ったら、「あとは野となれ山となれ」となってしまうのでしょうか?