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韓銀が巨額のドル資金を借りること自体がメッセージに

東京五輪延期問題が片付いたためでしょうか、本日の日本では、株式市場は大幅な株高となる一方、債券市場では債券が売られる(=金利が上昇する)という、典型的な「リスクオン」相場となりました。こうしたなか、例の米韓為替スワップを巡って、続報が出てきました。韓国メディアによると本契約を締結し大、「来週にも金融危機時の1回目を大きく上回る規模の流動性を受けるだろう」、と述べています。ただ、気を付けなければならないのは、巨額の資金をFRBから借りた場合、その事実が公表されるだけで、「この国は資金不足だ」という印象を国際的な金融市場に与えかねない、という点ではないでしょうか。

米韓為替スワップ「かなりの額を供給」

本日は株式市場で、日経平均株価が前日比1454円28銭も上昇し、19,546円63銭で取引を終えました。日経平均が19,000円の大台を回復するのは、3月11日以来のことです。

こうした「リスク選好ムード」の回復からでしょうか、外為市場では新興市場諸国の通貨も買い戻されているようであり、たとえばインドネシアルピアが前日比2%近く回復して1ドル=16149ルピア、マレーシアリンギットも前日比1%近く買われて1ドル=4.4リンギット程度で取引されています。

そして、ここ数日、一時は1ドル=1290ウォンを超える水準にまで売り込まれていた韓国ウォンも、先ほどの時点で1ドル=1230ウォンの大台を割り込むウォン高になるまで買い戻されています。

もちろん、こうした状況をもって、「コロナショック」の騒動が収束したと結論付けるのは尚早であり、むしろ個人的には、本日の株高は東京五輪延期という懸案が解消したことで、昨日の株高の勢いがさらに加速した、という一時的な要因ではないかと懸念しています。

こうしたなか、例の米韓為替スワップを巡る続報が出てきました。

韓銀「韓米通貨スワップ、来週の資金供給を目標に」(2020.03.25 10:29付 中央日報日本語版より)
米FRBと通貨スワップ協定の韓国中銀 来週にもドル調達(2020.03.25 11:18付 聯合ニュース日本語版より)

中央日報や聯合ニュースによると、韓国銀行関係者は25日、今回の「韓米通貨スワップ」(※原文ママ)については、「今週中に本契約書を作成し、来週中に資金供給を開始することを目標に、現在、FRBと実務協議を進めている」と明らかにしたのだそうです。

また、双方の記事によれば、2008年のグローバル金融危機の際、韓国銀行は300億ドル規模の「通貨」スワップを締結し、第1回目の40億ドルを皮切りに、5回にわたり合計164億ドルの資金の提供を受け、市場に供給したとしています。

しかし、今回は「はるかに多くの金額を供給する計画」(中央日報)、「1回目で相当規模を供給する計画だ」、2008年の「金融危機時の1回目の供給額を大きく上回る」(聯合ニュース)とあるとおり、強気ですね。

中央銀行が通貨交換してお終い、ではない!

ただ、くどいようですが、『【総論】4種類のスワップと為替スワップの威力・限界』などでも説明したとおり、そもそも為替スワップは外貨流動性供給ファシリティであり、通貨スワップではありません。

「中央銀行が相手国の中央銀行からおカネを借りてお終い」、ではなく、借りたおカネをその国の民間金融機関に貸し付ける、というプロセスが発生します。ここで参考になるのが、米FRBが公表している、今回の為替スワップ(流動性スワップライン)に関するQ&Aです。

Swap Lines FAQs(2020/03/19付 FRBウェブサイトより)

ちなみに「為替スワップ」は日銀などの用語であり、FRBのウェブサイト上は “U.S. dollar liquidity swap” と表現されていますが、基本的には同じスワップを意味しています(実際、日米間のスワップについては、日銀側は「為替スワップ」と表現しています)。

そして、リンク先記事にある、 “What is the purpose of the dollar liquidity swap lines?“ という小節には、次のような説明が記載されています。

They improve liquidity conditions in U.S. and foreign financial markets by providing foreign central banks with the capacity to deliver U.S. dollar funding to institutions in their jurisdictions during times of market stress.

(※代名詞が複数形の “they” となっている理由は、この文章自体、9つの中央銀行との為替スワップに関する説明だからです。)

意訳すると、

金融市場にストレスが生じている際に、外国の中央銀行を通じてその国の金融機関に対し米ドルのファンディングを可能にすることで、米国と外国の金融市場の流動性に関する状況を改善すること

ということです。

ちなみに「ファンディング(funding)」は金融市場ではよく用いられる用語ですが、意味的には「資金調達」のことを意味しており、とくに「ファンディング市場」といわれれば、「短期の資金市場」(たとえばコールやレポなど)のことを念頭に置いていることが多いです。

外貨に関しても「最後の貸し手」に

さて、以前から議論しているとおり、中央銀行とは「最後の貸し手」ですが、本来、貸し付けることができるのは自国通貨だけです。

たとえば、日本銀行は日本円という地球最強クラスの通貨を発行している中央銀行であり、日銀がその気になれば、銀行などの金融機関に円資金を貸し付けることもできますし、社債やCPの買入を通じて民間企業に直接、円資金供給をすることもできます(※条件はありますが…)。

しかし、いかに日銀といえども、米ドルや英ポンド、ユーロなどの紙幣を勝手に刷ることはできません(とくに米ドルを刷る設備を持っている国は、米国と北朝鮮くらいなものでしょう)。したがって、いかに日銀が「最後の貸し手」だとしても、貸せるのは日本円だけです。

このように考えていくと、為替スワップの狙いは明らかです。

それは、「外国通貨に関しても『最後の貸し手』としておカネを貸せるようにすること」でしょう。

日米英欧瑞加の6中銀は、お互いに期間・金額無制限の為替スワップ協定を保持しており、たとえば、英国の銀行がユーロ不足に陥った際、英イングランド銀行(BOE)が欧州中央銀行(ECB)からユーロを借りて国内金融機関に貸すことができます。

ただし、これは考え様によっては非常に怖い話でもあります。

たとえば、日銀にとっては、貸し付けた円資金が、最終的には米FRBや英BOE、ECBやスイス国民銀行(SNB)などを通じて相手国の民間金融機関に貸し付けられる、ということであり、どの金融機関にその資金が貸し付けられるかは日銀にはコントロールできないからです。

だからこそ、為替スワップを締結する相手国は、それなりの信頼性がなければならないのだと思いますし、政策に対する信頼性が低い中銀に対しては、金額、期間に制限を設けるしかないのではないでしょうか。

金額が公表されたら…?

そして、中央銀行は政府関係機関と並び、とくに説明責任が求められる組織です。実際、日銀のウェブサイトを見ても、マネタリーベースの額、日本国債などの買入オペの状況については適時公表されていますし、「密室でこっそりと政策を打つ」ということは非常に難しいのが実情です。

この点についてはFRBについてもまったく同じであり、実際、FRBが外国中央銀行と実施している為替スワップの残高については、たとえばニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations “などのページで確認することができます。

現時点で閲覧すると、米ドル建ての流動性スワップ残高については、5つの中銀(カナダ銀行、BOE、日銀、ECB、SNB)の区分に分けて記載されていますが、もし9つの中銀・通貨当局との為替スワップが本契約として成立し、アクティベイトされれば、ここに国別の融資残高が出てくるはずです。

そして、ここに国別残高が掲載され、その国の資本市場の規模、経済規模に照らし、FRBからの借入残高が過大であると判断されれば、そのこと自体、その国の不安を国際的な金融市場に対し強く印象付けることになるかもしれません。

その意味では、このFRBによる流動性スワップ、目が離せない状況はしばらく続きそうです。

新宿会計士:

View Comments (27)

  • 面白い記事の更新ありがとうございます

    ニューヨーク連銀のHPは酒の肴になりそうなページです。
    ここをチェックしておけば来週?南朝鮮が発表するであろう数字との見比べができますね。
    利率も表示されているので今世間で言われている4.75%なのかも真偽が出ますね。

    今回の韓銀の発表のように自国向けと海外向け(英語)の発表が本当の数字を発表するのか、
    はたまた自国民だけを騙す金額を出すのか楽しみです。
    これまでを考えると自国向けにフェイクの発表がありそうですが如何にw

    • その4.75%という水準に興味がありますね。
      今日本でのドルオペの金利は0.4%以下という水準。金利水準がまさにその国の力を示すものになります。

      まあ、「たった」600億ドルが上限なので、ある程度金利をつけて応募を減らさないとすぐ枠超過になります。4.75%というのは600億ドル枠を効率的に使うのに必要なのかもしれませんね。

    • 現金取りまとめて韓国離れよう..避けるオイルマネー
      https://news.v.daum.net/v/20200324060517901
      イ・ギョンウン記者入力2020.03.24.06:05

      韓国株式13取引日連続売った外国人
      3月にだけ10兆7373億ウォン処分して歴代最大記録
      現金が王(Cashis King)…オイルマネー離脱憂慮

      外国人による売り越しが3月5日から23日まで13営業日連続で続いている。
      売り越しは13営業日連続だが、売り越し規模は9兆7952億ウォン(約8500億円)で、
      すでに金額で見れば、直近の記録(9兆ウォン)を上回っている。
      韓国取引所が関連データを取り始めた1999年以降、月次ベースで最大の売り越しだ。

      株式投資家は「(外因軍団が)もうこれだけ売られているのに、さらに売る株式が残っているのか」
      という質問が出るのも当然だとしてパニックに陥った。

      韓国総合株価指数(KOSPI)は10年以上前の水準まで下落し、1500を割り込んだみじめな状況だが、
      外国人の罵倒売り余力はまだ残っている

      金融危機直前の07年に外国人が当時の時価総額の1.4%を売ったという統計に基づき、今回は約15兆ウォンを売り越すと分析

      外国人が投げ売りした韓国株はほとんど全てを個人投資家が受け止めている。
      機関投資家は外国人のように積極的に売りこそしない
      が、個人投資家のように‘安い時の使者(ライオン)’としながら押し目買いを入れようとはしない。

      「ムニューシン米財務長官の発言通り、米国の失業率が20%に達した場合、
      株価のさらなる調整は避けられず、新型コロナウイルスが夏になれば北半球で落ち着くかどうか自信がない。

      最悪のシナリオを仮定すると、KOSPI指数は1000まで下がるかもしれない」

      朝鮮日報傾斜めでたいことが起こったお祝い事ネ。.良いのか?
      締めて良いだろう。。
      承認 4099 反対 381

      タイトルを見ニードル君たちだと思ったもうこのエライ
      承認 1403 反対 84

      朝中東朝中東Chojoongdong,조중동)の報道姿勢形態がすでに危険な状況に達し至った
      悪意的報道、右往左往報道はすでに日常化されており
      朝中東Chojoongdong,조중동)問題の深刻さは世界でも認識しており
      外信に朝中東Chojoongdong,조중동)はすでに問題の新聞に烙印を押されている
      承認 302 反対 29

      日本語版ではない韓国語ではパニックに陥った。などの表現。

      都合の悪いことは認めようとしない韓国人

      フェイクの発表しなくても、韓国人なら大丈夫?

      • >外国人の罵倒売り余力はまだ残っている

        翻訳エンジンの創造力は凄いなw

        「韓国株なんて買うんじゃなかった!!F○ck!!もってけ!」

        という外国人投資家の感情を余すところなく表現しているw

  • 取引や交渉の実態を「水面下ではなくて"見える化"」とする行為は、日本政府にも実践して欲しいと思います。

    心の機微を読み取れない相手には、「曖昧さを排除するしかない」と思うからです。

  • 見える化て怖いですね。
    外交において手の内を読まれるのは痛手。
    ドルが足りなくて困って何も考えずに大規模なドルの流動があると危機的な状況にありますと宣言するようなもの。
    ここは段階的にやるのでしょうか。

  • 「韓国は、国内ネットで見れない様に、ブロックをかけるでしょう」は、無さそうですが、借りた金額が、公になると言う事ですよね。
    借りる事に抵抗が無いから、気にしないで借りそうですが、借りたらウォンが下がる可能性も、あるという事なんですね。
    まあ、コスピは、1700まで戻りましたので、一息ついたところでしょう。
    ウォンは、やはり1225が抵抗線となり、跳ね返されて、1234と今朝の数字に戻ってます。

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。

     素朴な疑問ですが、(見える化するのはよいですが)もし米韓為替スワ
    ップで、アメリカ側の発表と韓国側の発表が違っていた場合、マーケット
    はどう動くのでしょうか。

     駄文にて失礼いたしました。

  • 五輪の問題、コロナの問題、日本の経済的な問題も全部差し置いて
    更新する内容はまた朝鮮の経済ニュースかよ
    しょーもないブログやなあ

    • しょーもないブログにわざわざ「しょーもない」と投稿する人は、ダブルでしょーもないですねw

    • 来ると思っていた手合いがおいでになりました。
      日本がハードカレンシーである強み、ECRAやFIRRMAやFATFといった米国の対中戦略、アジア時間でのチャート連動のしがらみ、距離による輸送コスト、輸出入の収支最大化の思惑、歴史的な問題など数々の懸案を鑑みて、日本が韓国および後々は中国をパージしようとしている動きがみられるという話なのですがね。
      まあいいや。そっとしておこう。

  • 韓国の動きで気になるのは、韓国の与党が慰安婦団体のトップを出馬に駆り出した事ですね。
    それでスワップ待望論を日本に押し付けですか?

    日本にケンカ売ってません?

  • 愛情の反対は憎悪?多分無視。何を取りあげるかはブログ主の自由。嫌なら来なければ( ゚д゚)ポカーン

  • 既にドルオペの枠組みがあって、さらに3ヶ月ものの追加なども決定し、今まさに大量にドル資金が供給されている日本と、突然不意打ち決定がFRBであり今契約作業の真っ最中、実際のオペは来週からという韓国では雲泥の差がありますね。

    前回のリーマンショックの時の通貨スワップと違うので、韓国側の態勢整備に相応の時間がかかると予想します。もちろん韓国は急かしますけどアメリカがもっとしっかりやらないと資金供給出来ないといった感じにストップかけるパターン。

    韓国中銀が取引する金融機関に向けて、適格な担保を見合いにドル資金を供給するのが今回の仕組み。
    まあ、日本でもドルオペに参加するのに必要な適格債券を貸し付けるようなオペも同時に行われたりするので、韓国でも「担保がなくてドル供給できない」って話にはならないかもしれません。

    重要なことはちゃんと中銀が担保を取って、見合いに確実に市中金融機関にドルが渡ることが、FRBの監視の元行われるのです。中銀(韓国銀行)や韓国政府がFRBからのドル資金を溜め込んで、介入資金やヘッジファンド向け見せ金には出来ません。

    まあ、今回の為替スワップ、ドルオペによって、韓国市場からドルがなくなることでの壊滅的なウォン通貨危機はなくなります。必要なドルはドルオペで供給されるので、為替市場でかき集めなくていい。

    ただ、そもそも韓国市場から資金を引き上げたいという動きの歯止めにはスワップは役に立たないですね。資金逃避の動きに介入で見せかけの対抗はできない。

    今の韓国為替相場はそういった現状を反映した水準なのかなと思います。今後、緩やかに相場が悪化していく可能性はありますね。

  • > 本日の株高は東京五輪延期という懸案が解消したことで、昨日の株高の勢いがさらに加速した
    この部分に関しては,もう少し正確な説明ができます。まず,24日のダウが2100ドルも急上昇したことに注意しましょう。これに連動して,日経225先物も暴騰していました。この先物高に従った裁定取引からスタートした24日の東京市場は,寄り付きから高かったのです。チャート的にも,そうなる形になっていました。ところで,現在の日経225先物は21:30現在,800円ほど反落しています。過去のチャートの多数パターンから考えても,明日の日経平均はその程度の反落が予想されます。一度それくらいの下げがないと,次の上昇が難しいです。なお,今日のDAXもダウも反落すると予想しています。あまり五輪は関係ないと思います。
    韓国の話は,為替市場への介入額が分かってきた時点でコメントしたいと思います。今は,チャートから読み取れるテクニカルな分析しかできません。

    • >愛読者さま
      AI乱高下相場ではテクニカル分析が一番機能しているのが実情だと感じております。
      デイトレードには関わっていないので、現在は岡目八目(兼塩漬け)の立場で学ばせていただいています。
      「あまり五輪は関係ないと思います」には同意します。
      「チャートから読み取れるテクニカルな分析しかできません」。仰るとおりですよね。
      私も何も言えませんが、コメント投稿ありがとうございます。

    • お詫びです。DAXとダウをはずしました。寄り付きでは安かったですが,だんだん上昇していき,引けでは結構上昇して終わりました。これからの日経平均もそうなるといいのですが。現在,日経225先物は25日終値から600円程安いところです。
      株価のAI分析ですが,原理は過去のチャートの動きのパターンの統計的分析ですが,ここまでの暴落は,過去の回数が少ないので,現在のような局面での精度は悪くなると思います。あと,「市場の空気を読む」という部分をAIがどうしているか,例えば,ニュースとかで(単語の登場頻度などを)AI分析しているのか,そのあたりは企業秘密でしょうが,よく知りません。

    • 26日午前中の日経平均のチャートから,以前の発言の修正をさせていただきます。
      まず,日本の株価は日本の昼間の東京市場での取引の影響は少なくで,夜中のヨーロッパとかニューヨークでの日経225先物の株価に大きく支配されていることに注意してください。特に,ダウの影響を大きく受けます。25日に日経平均は1~3週間は上昇基調と書きましたが,ダウのチャートをもとに考えると,上昇は3月いっぱいもたない,場合によると今週で上昇は終わる可能性もあります。つまり,比較的短期でW底を模索する展開も考えられます。最近の安値で株を仕込まれた方も,その点は考慮してもらったほうがいいかもしれません。

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