昨日、安倍晋三内閣総理大臣は施政方針演説を行いました。この演説は首相官邸ウェブサイトにて全文が公開されていて、どなたにでも読むことが可能ですが、1万文字少々と少し長く、読み辛いという方も多いでしょう。そこで、本稿では独断と偏見に基づいてではありますが、個人的に気になった記載を紹介していきたいと思います。とくに韓国を巡って「価値と利益を共有する最も重要な国」という表現が入ったことで、一部のメディアは舞い上がっているのですが、実情は決してそうではないということを確認しておきましょう。
目次
安倍政権の「成果」
史上最長を視野に入れた安倍政権
早いもので、第二次安倍政権が発足して、すでに7年以上が経過しました。
昨年11月20日には安倍晋三氏個人の内閣総理大臣としての通算在任日数が2887日となり、それまで歴代1位だった桂太郎(2886日)を抜いて歴代最長となりました。
また、2012年12月26日に第二次安倍政権が発足してからの日数で見れば、本日時点で2583日であり、歴代最長だった佐藤榮作政権に残り215日に迫っています。
連続在任日数の上位順(敬称略)
- 佐藤 榮作…1964/11/09~1972/07/07(2798日)
- 安倍 晋三…2012/12/26~2020/01/21(2583日)
- 吉田 茂…1948/10/15~1954/12/10(2248日)
- 小泉 純一郎…2001/04/26~2006/09/26(1980日)
- 中曽根 康弘…1982/11/27~1987/11/06(1806日)
安倍政権が今年8月24日まで続けば、佐藤榮作政権を抜き、「連続在任日数」ベースでも史上最長を記録します。
安倍政権の経済政策は不十分
ただ、「アベノミクス」という期待を引っ提げて登場したわりには、安倍政権発足以来の7年間で、日本経済は今ひとつ、完全に停滞から脱却することができない状況にあります。その意味では、「金融評論家」という立場からは、安倍総理には正直、かなりの不満を抱いています。
では、なぜ安倍政権の経済政策はうまくいっていないのか、そして、経済失政にもかかわらず、安倍政権がかくも強いのか。
このうち前半の理由は簡単で、2回にわたる不必要な消費税・地方消費税の増税が日本経済を疲弊させたことに加え、安倍政権で副総理兼財相を務めている麻生太郎総理が財務省の代理人となり、財政出動を渋っているからです。
もちろん、安倍政権下では雇用は非常に強いのですが、これは日銀による金融緩和がフルに効いているからだと考えて良いでしょう(詳しくは『国債を圧縮する王道とは、インフレと経済成長の達成だ』で触れた「フィリップス曲線」の議論などをご参照ください)。
しかし、せっかく日銀が異次元緩和をしてくれているにも関わらず、政府が財政出動を絞っている(または不必要な増税に踏み切った)ことで、日本経済は力強さを欠き、依然として停滞が続いている状況にあるのです。
その意味で、安倍総理(というよりも、麻生総理)に対しては、非常に強い不満があると言わざるを得ません。
いや、個人的な決めつけで恐縮ですが、「日本の最大の敵」とは中国でも韓国でも北朝鮮でも日本共産党でも朝日新聞でもありません。増税原理主義で日本経済を殺そうとしている財務官僚こそが、本当の意味での「日本国民最大の敵」です。
あくまでも麻生総理を最大限擁護し、最大限好意的に表現するするならば、麻生総理が財務官僚をしっかりと抑えつけていることで、財務官僚が暴走することを防いでいる、という言い方ができなくはないと思います(かなり苦しい言い方ですが…)。
安倍政権が強い3つの理由
一方、後半の疑問、つまり「なぜ安倍一強体制が続いているのか」について、各ニューズサイト、各ブログサイト、ウェブ評論サイトなどを見ていると、納得ができる説はあまり見当たりませんが、個人的にはこれについて、3つの理由を挙げたいと思います。
- ①「安倍・麻生の2人総理体制」のため
- ②野党がグダグダすぎるため
- ③オールドメディアがスキャンダル追及しかしないため
最初の「2人総理体制」とは、安倍内閣は安倍総理だけでうまく行っている内閣ではない、ということです。
麻生太郎総理率いる自民党麻生派が安倍政権をしっかりバックアップしているという事情に加え、麻生総理自身が安倍総理の「精神安定役兼アドバイザー」を務めている、という仮説については、昨年の『「韓国金融制裁」どころでない、とてつもない麻生発言』でも紹介したとおりです。
しかし、安倍政権が強い理由は、安倍政権が安倍、麻生両総理の「2人総理体制」であるという点だけでなく、結局のところ、以前までの政権であれば「鬼門」だったはずの、野党とマスメディア(というよりも、新聞、テレビを中心とするオールドメディア)の勢力が大きく後退していることにあると思います。
まず、最大野党については、「民主党」→「民進党」→「立憲民主党、希望の党その他の有象無象」とばかり、コロコロ、コロコロと党名を変え、集合離散を繰り返している状況にあります。
そういえば、立憲民主党は資金不足から国民民主党との合流を模索しましたが、結局、立憲民主党の枝野幸男代表と国民民主党の玉木雄一郎代表の話し合いは事実上決裂に終わったようです(『解散総選挙を仕掛けるタイミングは今でしょ!』参照)。
マスメディアは自死する
それだけでありません。
オールドメディア(とくに新聞とテレビ)の多くが「特定秘密保護法反対」、「戦争法反対」、「もりかけ問題追及」、「桜を見る会追及」、といった具合に、明らかにどうでも良いスキャンダル報道に邁進していて、日本国民がこれらオールドメディアに呆れているからではないでしょうか。
当ウェブサイトではこれからも何度も何度も繰り返し主張していくつもりですが、そもそも論として、2009年8月の衆議院議員総選挙で、麻生太郎総理が率いる自民党を大敗させた最大の要因は、オールドメディアによる偏向報道です。
いままでに何度も紹介してきたのが、「日本経済研究センター」という組織が2009年9月10日付で発表した「経済政策と投票行動に関する調査」というレポートです。
経済政策と投票行動に関する調査 「子ども手当支持」は3割、政策には厳しい目(2009年9月10日付 社団法人日本経済研究センターHPより)
この調査によれば、テレビや新聞を信頼して投票した人ほど、2009年8月の衆院選では、比例区で民主党に投票したことが示されています(図表)。
図表 情報源と比例区投票先の関係
(【出所】(社)日本経済研究のレポートのP7を参考に著者作成)
明らかな偏向報道で国民の投票行動を歪め、政権交代を成し遂げたという意味では、この2009年8月の選挙は明らかに日本の民主主義史の汚点ですし、オールドメディアの偏向報道はまさに業界として「万死に値する」と言えるでしょう。
ただ、安倍政権下で大きく変わった点がひとつあるとすれば、オールドメディアが一生懸命、スキャンダル報道を仕掛けても、2018年4月頃の「もりかけ報道」を最後として、あるときから明らかに政権支持率を引き下げるだけの力を失ったのではないかと思います。
実際、『マスコミさん、「桜を見る会」での倒閣に失敗か?』でも報告したとおり、オールドメディアの皆さんが必死になって「桜を見る会」スキャンダルを追及しているにも関わらず、共同通信の1月の世論調査では、内閣支持率が元に戻ってしまいました。
非常に厳しいことを申し上げれば、内外ともに議論すべき課題が山積みなのに、特定オールドメディアが特定野党とともに「桜を見る会」問題などの追及にうつつを抜かしている間に、国民の多くは、いまや特定野党や特定オールドメディア(とくに新聞やテレビ)にそっぽを向いているのではないでしょうか。
そして、特定野党と特定オールドメディアが「騙せる」相手は、新聞やテレビしか見ないような、いわゆる「情報弱者層」に限られている一方、最近だとスマートフォンを使いこなす高齢者も激増しているためでしょうか、いわゆる「情報弱者層」が凄い勢いで減っているのではないかと思います。
施政方針演説
安倍総理の施政方針演説を斜め読み
こうしたなか、昨日は安倍晋三総理大臣が第201国会で施政方針演説を行いました。
第二百一回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説(令和2年1月20日)
―――2020/01/20付 首相官邸HPより
文字数で1万文字少々の演説です。
東京五輪の年を迎え、安倍総理からの力強いメッセージの一方で、「アベノミクス」に関する言及の部分については、正直、まったく心に響きません。ただ、安倍政権下で顕著な成果を上げつつある外交・安保分野では、個人的にはそれなりに楽しく(?)読めた気がします。
「『日本はもう成長できない』。七年前、この「諦めの壁」に対して、私たちはまず、三本の矢を力強く放ちました。その果実を活かし、子育て支援、教育無償化、更には働き方改革。一億総活躍社会を目指し、まっすぐに進んでまいりました。(中略)我が国は、もはや、かつての日本ではありません。「諦めの壁」は、完全に打ち破ることができた。その自信と誇りと共に、今、ここから、日本の令和の新しい時代を、皆さん、共に、切り拓いていこうではありませんか。」
そうですかね?(笑)
「三本の矢」、とくに「財政政策の矢」は放たれていませんし、財務省が強引に実現させた二度にわたる消費増税、そして複雑怪奇な軽減税率制度。まさに財務省というモンスターが、日本経済を絞め殺そうとしています。
安倍総理、もし本気で日本経済を大事だと思うならば、「国民の敵」のなかでもとくに最大級の財務官僚を何とかした方が良いと思いますよ。
「2030年に6000万人」目標は危険すぎる!
さて、今回の安倍演説では「復興五輪」、「地方創生」、「農産物輸出」、「成長戦略」、「規制改革」、「イノベーション」などに話が進むのですが、残念ながら、諸悪の根源である財務省の緊縮財政問題については一切触れられていません。
さらに、「一億総活躍社会」、「子育て支援」などの部分に関しても、正直、「やらないよりもやった方がマシ」という代物であり、たとえば保育園における保育士の待遇の大幅な改善、いわゆる「ブラック労働」の根絶など、本来必要な政策にも言及されていないなど、いかにも中途半端感が否めないものばかりです。
こうしたなか、看過できないのが「観光立国」です。
日本政府が「2020年までに外国人観光客4000万人」という目標を掲げているという点については、当ウェブサイトとしては以前から何度も指摘し、批判して来ました(『訪日外国人は過去最大だが、観光目標は立て直すべき』等参照)。
それなのに、今回、安倍総理は驚くべきことに、「2030年6000万人目標」なるものを掲げているのです。
正直、正気の沙汰とは思えませんし、頭の固い老害経営者の「売上高至上主義」を見ている気がしてなりません。ただでさえ訪日外国人に占める中国人の比率が30%という状況にあり、中国共産党に対し、日本経済を揺さぶる手段をこれ以上与えないことが重要ではないでしょうか。
台湾に言及がないのは残念
外交・安全保障に関しては高く評価できる
ただ、安倍政権の経済政策はイマイチですが、これまでの外交・安全保障に関しては高く評価して良いと思います。
「この七年間、八十の国・地域を訪問し、八百回を超える会談を重ねてまいりました。各国首脳との信頼関係の上に、国際社会が直面する共通課題の解決に向け、世界の中で、主導的な役割を果たしていく覚悟です。」
たしかに安倍政権の成果は、国内経済についてはかなり微妙ですが、外交、安全保障については際立って素晴らしい事績を残しつつあります。
中国、ロシア、北朝鮮、韓国、と、日本の周囲には無法国家だらけであり、このような環境下で、無法国家群に対しては毅然と向き合いつつ、日本は自力で日本の国益を守ることができるような体制を構築することが必要です。
この点、わが国は現状において、憲法第9条という、「たとえ国を守るためであっても戦争をしてはならない」と読めてしまうような、「日本人を殺す狂った条項」を取り除くことができていないのであり、この点については安倍総理個人の責任に帰するのは酷というものでしょう。
それよりも、安倍総理の「憲法を変える」という強い意思を実現させるためには、私たち日本国民の強い支持が必要ですし、憲法改正が未だに実現できていないのも、究極的には憲法改正に反対する国会議員を3分の1以上、国会に送り込んでいる私たち日本国民に責任があるのです。
それよりも、安倍政権は外交・安全保障の分野においては、現行憲法の制約下でできることを精いっぱい頑張っていると思います。
韓国に対する最後通牒?
ここで出てくる微妙な国が、韓国です。
今回の安倍演説では、「韓国」という単語は次の記述で登場します。
「もとより、我が国の国民の生命と財産を守るため、毅然として行動していく。その方針はしっかりと貫いてまいります。米国、韓国をはじめ国際社会と緊密に連携してまいります。/北東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中で、近隣諸国との外交は、極めて重要となっています。韓国は、元来、基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国であります。であればこそ、国と国との約束を守り、未来志向の両国関係を築き上げることを、切に期待いたします。」
このうち「安全保障上で米国、韓国と連携する」という発言は、施政方針演説や所信表明演説でわざわざ取り上げられたのは注目に値するものの、べつに唐突に出てきたものではありません。以前からの安倍総理の発言を繰り返しただけのものです。
しかし、ここで勘違いしやすいのが、「元来」、韓国が「基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国」であると述べた記述でしょう。
前後の文脈で判断すればわかりますが、これは「安倍政権としては、もともとは韓国を基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国」とみなしていたが、「国と国との約束を守らないならば、日本は韓国との関係を見直さざるを得ないよ」、という「最後通牒」だと見るべきでしょうか。
日本が「基本的価値」を共有する国々とは?
さて、ついでに安倍総理がどの国を「基本的価値を共有している」と見ているかについても確認しておきましょう。
「日米同盟の強固な基盤の上に、欧州、インド、豪州、ASEANなど、基本的価値を共有する国々と共に、『自由で開かれたインド太平洋』の実現を目指します。」
要するに、米国との関係を最優先にしつつ、これに欧州、インド、豪州、ASEAN(?)など、「基本的価値を共有する国々とともに歩む」という覚悟です(ASEANやインドが日本と基本的価値を共有しているかどうかは微妙ですが…)。
なにより、ここで興味深いのは、「基本的価値を共有する国々」に中国、ロシア、韓国、北朝鮮が含まれていない、という事実でしょう。
ただし、安倍総理には一歩踏み込んで、台湾にも言及していただきたかったところです。なぜなら、台湾とはいまや民主主義が完全に定着し、日本と価値や利益を共有する重要な友人となり得る国だからです(『日本政府にとっての台湾と韓国の地位が逆転?』参照)。
いずれにせよ、安倍政権としては是非、外交・安全保障の分野では基本的価値を共有する国々と連携しつつ、中国、ロシア、韓国、北朝鮮という「悪の枢軸」に対しては主張すべき点をしっかりと主張していただきたいと思う次第です。
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更新ありがとうございます。
演説の中の一番の注目点は「元来、基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国であります。であればこそ、国と国との約束を守り、未来志向の両国関係を築き上げることを、切に期待いたします」。
この韓国に対する【約束守れ】に尽きるでしょう。もう関係は破綻してますけどね。環太平洋インド洋で、韓国はASEAN以下!というか【お前は敵チーム】と言ったわけで。
台湾への言及が無いのは私も残念です。草案まとめた人も、総理も中国の顔色見たかな?一言あっても良いのに。あとの経済政策は安倍総理、評価出来ませんね。財務省は最早、風魔殿か大本営でしょうか。誰も触れないのは情けないです。ここの解体無ければ、日本の復活はありません。
台湾の話は、安全保障では無かった様ですが、ちょびっと有った様です。
首相の「台湾」言及に拍手、施政方針演説では異例
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200120-00000569-san-pol
昨日の国会では首相だけで無く、茂木外相が外交演説を行っております。
中央日報のニュースから。
韓国政府、日本の相次いだ「独島挑発」に公使を呼んで強力抗議
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200121-00000002-cnippou-kr
以下外交演説の部分を引用します。
「竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も日本固有の領土」として「この基本的な立場に基づいて冷静かつ毅然と対応していく」
引用ここまで。
茂木外相の演説内容は、想定通り。期待通り、優秀な外交を展開していると評価しています。
別スレの「領土・主権展示館」を21日拡張して開館することに関連してこの日外交チャンネルを通じて強力に抗議し、直ちに閉鎖措置を取るよう求めた。
どの事です。
最後の部分を、引用します。
外交部当局者は「韓国政府は関連機関との協力の下に韓国の独島領土主権の正当性および日本側の主張の虚構性を国際社会に発信しており、今後も多角的な広報活動により日本側の挑発に積極的に対応していくだろう」と明らかにした。
引用ここまで。
関連機関というのは、VANKなど、政府から資金援助を受けている市民団体を含む物だと思います。
竹島が紛争地域だと、世界に知らしめてくれるでしょう。
> 財務省が強引に実現させた二度にわたる消費増税、そして複雑怪奇な軽減税率制度。まさに財務省というモンスターが、日本経済を絞め殺そうとしています。
軽減税率が財務省主導で導入された、と読めますが、確か軽減税率をごり押ししたのは公明党じゃなかったでしたっけ??読み間違えていたらごめんなさい。
もうすっかり、「元来」が抜け落ちた、韓国脳の記事です。
安倍首相、6年ぶり「韓国と価値共有」表現…その間は韓国をどう表現?
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200121-00000031-cnippou-kr
予想通りとはいえ。
新宿会計士様、更新有難うございます。
>「アベノミクス」に関する言及の部分については、正直、まったく心に響きません。
同感です。全く中身のない空疎な代物以外の何物でもないと思います。
率直に言って、安倍政権の評価について言えば、外交については少なくとも80点以上、少し甘く採点するなら満点近くをつけられると個人的には考えていますが、経済政策に関しては劣悪で、しかも再登板初期と比べても経済政策に関しては評価がどんどん悪くなる一方だと考えています。今回の景気後退期に入ったにも拘らず、景気後退期に入ったという事実を無視して消費税増税をしたことに関しては0点と評価する以外にありません。