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茂木敏充外相「どれが解決案なんだかよくわからない」

昨日は紹介しそびれたのですが、金曜日に行われた茂木敏充外相の記者会見がなかなか秀逸です。メディアの記者らの不勉強ぶり、不見識に対し、茂木氏が正論を述べて一刀両断にしてしまう、という姿が見られるからです。こうしたなか、本稿では数ヵ所に絞って、メディア記者と茂木氏の質問のやり取りについて、簡単に内容をチェックしておきたいと思います。

茂木大臣の新年初の記者会見が面白い

昨日紹介しそびれたのですが、茂木敏充外相は金曜日、令和2年を迎えて初めての記者会見に応じました。

茂木外務大臣会見記録(令和2年1月17日(金曜日)15時38分 於:本省会見室)

年明けから海外出張が続いておりまして、考えてみましたら今年初めての会見ということになります。今年もどうぞよろしくお願いいたします。年明けの東南アジア訪問に続きまして、今週は米国を訪問して日米、日韓、日米韓外相会談を行いまして、中東情勢、北朝鮮情勢について突っ込んだ議論を行ったところであります。年始から中東情勢はじめ国際情勢に様々な変化がありまして、私(大臣)自身も慌ただしい時間を過ごしてきましたが、引き続き緊張感を持って、「包容力と力強さを兼ね備えた外交」を展開していかなければならない、そのように感じております。<<…続きを読む>>

―――2020/01/17付 外務省HPより

いつも感じるのですが、茂木氏の記者会見録を読むと、文面からも緊張感が伝わって来ます。

というのも、茂木氏が大変聡明な人物であり、もっと俗な言い方をすれば「かなり頭脳のキレが良い人物」だからです。マスメディアの記者が茂木氏に変なことを聞いて、そのたびに茂木氏から鋭いツッコミを受けてたじろぐ、ということが、頻繁に見られます。

記者との質疑でシャープな受け答えをするという意味では、前任の河野太郎氏(現・防衛相)にもそのような部分がありましたが、やはり大臣が優秀であれば、役所の雰囲気や記者クラブの緊張感なども、ずいぶんと異なってくるものなのですね。

こうしたなか、本稿では、茂木氏の年頭記者会見から、いくつか興味深いと感じたものを紹介したいと思います(といってもインターネットにつながる環境さえあれば、原文はどなたにもお読みいただくことが可能ですが…)。

「どれが解決案なんだかよくわかりません」

茂木氏の記者会見では、「先週のインドネシア訪問」、「ロシアの15日の内閣総辞職」などについてのやり取りが行われたのですが、3番目の話題が、自称元徴用工問題に関する韓国メディアの記者からの質問です。

韓国情勢(文在寅大統領の新年記者会見)

【聯合ニュース イ記者】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、新年記者会見で、徴用の問題解決のために日本も頭をつきあわせる必要がある、知恵を絞りたいという見解を示しました。そして韓国の提案に対して修正の意見があったら積極的に出してくださいと促したんです。そして最近、日韓両国の徴用被害者の支援団体と弁護士らが、徴用の問題の解決策を議論する両国による協議会の設置を提案いたしました。それに関して大臣のご見解をお願いします。

【茂木外務大臣】まず、原告側やその支援団体等の動きの一つひとつについて、コメントすることは差し控えたいと思います。旧朝鮮半島出身労働者問題に対する我が国の立場は一貫しておりまして、韓国に対して国際法違反の状態の是正を引き続き強く求めていきたいと思っております。韓国政府として既に解決案を示していると、どれが解決案なんだかよく分かりません。少なくともボールは韓国側にあるのは間違いない、こんなふうに考えます。

これは、当ウェブサイトでは『年頭会見に見る「文在寅政権がもたらす日韓関係破綻」』で紹介した、文在寅(ぶん・ざいいん)大統領による

  • 強制徴用判決の問題で、韓国政府はすでに何度も解決策を提示した
  • 韓国の立法府も法案を発議し、韓日市民社会が提案した共同協議体に参加する意向もある
  • 日本も解決策を提示すべきだ

とする発言に対応したものと考えて良いでしょう。

茂木氏はこれに対し、

  • どれが解決案なんだかよくわからない
  • 少なくともボールは韓国側にある

という、素晴らしい切り返しで応じた格好です。

また、この聯合ニュースの記者は、日韓両国の「市民団体」が「強制徴用による人権侵害の事実を日本政府と企業が受け止めて謝罪することが、問題解決の出発点になるべきだ」と述べたという点を持ち出し、茂木氏にさらに食いついたのですが、茂木氏は

  • 国と国との約束、これは守られるべきだ

とだけ返したのです。

要するに、「つべこべ言わずに約束を守れ」、というわけですね。

恥をさらした共同通信・斎藤記者

私自身、普段から頻繁に、『政府インターネットTV』を通じて菅義偉(すが・よしひで)内閣官房長官の記者会見を視聴するのですが、そのときにいつも感じるのが、マスメディアの記者の不勉強ぶりと質問の低レベルさです。

とくに最近は「ムービング・ゴールポスト」ではありませんが、「桜を見る会」騒動を巡って、最初は安倍総理の支持者を招いていたことが問題だとばかりに質問をしていたのに、最近では「公文書管理に問題があったのではないか」、という視点から、しつこく食い下がっている記者どもがいるのです。

その意味で、頭の悪い記者を相手にする菅官房長官の忍耐強さには、本当に頭が下がる思いです。

ただ、こうした「マスコミ村」の記者らも、茂木氏にかかれば、次のとおり、「恥をさらす」ことになります。

イラン情勢(米軍によるイランのソレイマニ司令官の殺害)

【共同通信 斎藤記者】イランの関連で補足してお伺いします。米軍によるイランのソレイマニ司令官の殺害の件では、アメリカや欧州の世論からもですね、国際法違反ではないかという指摘が出ています。この点について、大臣はどのように受け止められているか、所見をお伺いしたいと思います。

【茂木外務大臣】今の質問ですね、国会で今日、3回お答えしたとおりであります。

【共同通信 斎藤記者】分かっていますが、今日、最初の会見ですので、改めて大臣にお伺いしましたが、いかがでしょうか。

【茂木外務大臣】もう一回言う必要ありますか。聞いてらしたんでしょう。

【共同通信 斎藤記者】聞いてました。

【茂木外務大臣】ならいいでしょう。

【共同通信 斎藤記者】分かりました。

茂木氏が国会で話したのとまったく同じ内容を記者会見で茂木氏に「話せ」と要求すること自体、レベルが低すぎると言わざるを得ません。もし本気で茂木氏から答えを引き出したいと思うならば、それなりにオリジナリティがある、あるいはそれなりに鋭い視点に基づいた質問を投げかけるべきでしょう。

国際法、理解していますか?

ただ、この「マスコミ記者のレベルの低さ」は、日本人だけではないのかもしれません。

さきほど、聯合ニュースの記者の質問を紹介しましたが、おそらく同一人物からもうひとつ、最後にこんな質問があったようです。

【聯合ニュース イ記者】日韓関係に関してもう一回質問させていただきます。徴用の過程での人権侵害の事実を認めて謝罪することは、先ほどおっしゃった国と国との約束を守ることに反するという認識ですか。それともそれは可能であるという認識ですか。

【茂木外務大臣】先ほど申し上げたとおり、旧朝鮮半島出身労働者問題に係る我が国の立場は一貫しております。韓国に対して、この日韓関係の基礎でありますこれを翻した、この国際法違反の状態の是正、これを引き続き求めていくと、こういう考えに変わりはありません。

この「イ記者」なる人物の、自分で勝手に前提を置いて質問をするというのは、わが国の特定メディアにもよく見られるパターンですが、「イ記者」のメンタリティは、わが国の特定メディアとそっくりなのではないかと思わざるを得ません。

茂木氏の発言は、「国際法違反の状態を是正せよ」というもので一貫しており、これは安倍総理、菅官房長官、あるいは河野前外相(現防衛相)の発言ともまったく同じです。

というよりも、そもそも「イ記者」は国際法というものを理解しているのでしょうか?

メディアの記者を名乗って、私たち日本国民の代表者である茂木氏の時間を割かせている以上、少なくとも基本的な知識水準は満たしてもらわなければ困るのですが、このあたり、事情はよくわかりません。

外務大臣の記者会見が優れている理由

さて、余談ですが、外務大臣の記者会見については、私自身の記憶ベースで恐縮ですが、河野太郎氏が外相だったころから、ひとつの重要な変化が生じました。

それは、少なくとも本省会見室で行われる記者会見では、質問者の名字と所属メディアが明示されるようになった、という事実です。

これは、私たち日本国民にとっては、これは非常に重要で有意義な変化だ、という言い方もできます。なぜなら、「おバカな質問をしている記者がいるな」と思えば、その気になれば、その記者について深く調べることができるようになったからです。

言い換えれば、新聞記事などを読んで、「外相がこのように話した」という記述が出てきた際、

あれ?何か変だな…。

と思ったら、外務省のウェブサイトを直接閲覧して原典にあたる、ということが可能になった、ということでもあります。

昨年、『「報道機関」を個人が経営できる時代がやってきた!』などでも議論しましたが、かつて「報道機関」が担っていた仕事は、いまやパーツに分解し、分業することが可能です。そのパーツとは、ざっくり

  • ①客観的な事実・情報を、取材、ネット検索などの方法によって集めて来る
  • ②集めて来た情報について重要性を判断する
  • ③それらの情報に基づいて分析・考察し、記事化する
  • ④作成した記事を全国に向けて配信する

といった流れです。

この点、すでにインターネット上では多くの「まとめサイト」・ブログサイト・ウェブ評論サイトが出現していることからもわかるとおり、②~④の部分については、すでにオールドメディア(とくに新聞、テレビ)の独占ではなくなってしまっています。

この点、①の部分についてはいまでもオールドメディアの役割の重要性が大きいのですが、ただ、外務省をはじめとした官庁が、少しずつ、インターネットを使って国民に対して直接の情報発信をし始めているという事実は注目に値するといえるかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (28)

  • 茂木外相のこの発言、
    「ハア~何言ってるの、お前」
    と言ってるのも同然ですね。

    もっとも米国にも北朝鮮にも同じように
    言われているし、外交上の韓国の扱いは
    この程度で十分になったということでしょうね。

  • 政治家が発言に責任を持たなければならないことと同様に、記者も発言(質問)に責任を求められるのは当然のことです。

    「どこのバカの質問だ?」と後から調べがつくのは、我々にとって良いことです。
    マスゴミにとっては、困ったことになるはずですね。(連中は、このことをまだ意識していないのでは?)

  • 更新お疲れ様です。

    事実関係を巡って争うのではなく、解決済みか未解決かを巡って争った日本国内での自称日本軍慰安婦裁判を連想します。

    自称日本軍慰安婦が人権侵害の事実があったと訴え、日本政府は自称日本軍慰安婦の主張する事実関係について争わず、如何なる事実があろうと既に解決済みであると抗弁。

    裁判所は自称日本軍慰安婦の主張する事実関係を事実認定した上で、日本政府の主張する「既に解決済みである」との見解に同意して日本政府が勝訴。

    敗訴した自称日本軍慰安婦及び似非リベラルは「裁判所が人権侵害の事実があったと事実認定した」と言いふらし、「裁判所での事実認定は歴史的事実かどうかを担保するものではない」という事が理解出来ない人達を騙す為に用いられました。

    自称元徴用工問題も同じ道を辿らない事を願ってますし、韓国側の異常さがある程度理解されてきているのでそうならないだろうと若干楽観視してます。

    • 「裁判所での事実認定は歴史的事実かどうかを担保するものではない」について補足すると、

      裁判にて事実関係を巡っての争いをしない場合は、訴えた側の主張する「事実」が「嘘」であろうと裁判所は「嘘」を「事実」と認定する、

      ってなります。

      • クロワッサン様

        裁判の役割って、「認定された事実(っぽいもの)に基づいて、法律に照らして刑罰を課したり、利害を調整する」ことだから、結論に関係しない「事実」は、ある意味どうでも良い事ですものね♪

        だから「裁判で事実とか背景を明らかにして欲しい」みたいな言説には、あたしは違和感を覚えるのです♪

        • 七味 さん

          そうですね、裁判では判決を左右しない事実なんてそんな扱いだって事で。

          で、訴えた側も訴えられた側も自分に都合良い事実は提示しても都合の悪い事実は提示しない訳だし、裁判で明らかになるのは「事実」ではなく「事実っぽいもの」止まりだと受け止めておくのが丁度良い気がします。

  • お仕事で他所の人とお話をするときに、事前に「○○を言ったら、相手は、△△か☆☆って応えるだろうから、それに応じて□□か◇◇ってしよう」って考えるものだと思うのです♪

    場合によっては、議事概要とか報告書案作っておくこともあるのです♪

    記者の方もどんな記事を書こうかって思いがあって聞いてるんだろうから、新宿会計士さんの
    >マスメディアの記者の不勉強ぶりと質問の低レベルさです。
    という部分は、不勉強っていうよりも準備不足だと思うのです♪

    ただ、マスコミの役割を考えると、どんな記事を書くのかって前提を置くことが、あんまし良い事だとは思えないので、やっぱり勉強不足なのかもなのです♪

  • 根本部分で話が噛み合って居ませんね。
    レベルの違う人との会見と言う事で有れば、一見質問していると見えるが実は質問に成っていない、茂木大臣は相手の腹の内を見透かし政府方針をブレずに述べているだけ、記者は犬の遠吠えで訳わからん此の構図、国民がどの様に眺めているのかは気にも留めないと言う処でしょうか?

  • 更新ありがとうございます。

    私が気になるのは、記者会見で質問する前に「○○社の□□です」と自己紹介しますが、よく聞き取れない方がいます。わざとかな、と思うほど特定の人です。もう少し大きい声で!お願いしたい。

    自分らは官房長官なり、大臣らと毎日同じような質問して、顔を覚えて貰っているかも知れませんが、YouTubeでも私達は音声のみでの判断です。

    ハッキリ名乗らない方の為に、今は何処の誰、とメモでも映して欲しい。誰がどんだけ詰まらん質問しているか、分かりやすいですから(笑)。1秒で良いから顔も晒せないかな。要はそんなヘボは、つまみ出せッて事です。

    さて、イ記者の質問ですが、根底から日韓の解釈の違い、というより韓国の強引な解釈による、日本を巻き込んで行こうとするすり替えが含まれています。

    文大統領の新年の辞に倣って「大統領は徴用の問題解決のために日本も頭をつきあわせる必要がある、知恵を絞りたいという見解を示した。日本の考えは如何」というくだり。

    日本サイドの話では無く、韓国の国内問題でしょう。それを大臣は見事に切って捨てた。イ記者は分からんかも知れないが(嘲笑)。

    韓国は実際には解決案など一切出してません。日本を巻き込むものばかりだ。ボールは韓国にあり!さっさと違法状態を政府として改善せよ!と言いたかったと思います。

    共同通信の斎藤記者は、イランの件、米国の責任を言わせたかったのかも知れないが、ちょっとネタ的に今聞く事でもないし、何回も言わせんな、でしょう。勉強不足、いえ勉強してないのバレバレ(笑)。

    ネットで色んな方が時事評論したり、最新の話題を詳細にまとめたりして、大いに助かります。ますますオールドメディアは不要です。

    実は昨夜、8年前まで購読してた地元紙販売店の女性から購読勧誘の電話を貰いましたが、本当に部数減で困っている様子です。1週間無料で良いから、と言われましたが、断りました。

    「おたくの記事は反日姿勢、反アベが酷いよ」とは言えませんが。ああ、そうですか、、。という声が残りましたが、心を鬼にして電話を切りました。いずれ無くなるんやろな〜。

  • > 自分で勝手に前提を置いて質問をするというのは、わが国の特定メディアにもよく見られるパターン
    例の映画「新聞記者」で有名な望月某あたりから始まりましたね。某記者をヒーローとして持ち上げれば持ち上げるほどモドキの記者が真似するのでしょう。突っ込めばボロが出るどうしようも無い「大臣」も居てそれを面白おかしく寄ってたかって叩く際にはこうしたハッチャケも面白いのでしょうが、新宿会計士様のご指摘通り切れ者の大臣で大方針が決まっていてその範囲で活躍する人では逆に大臣の株を上げるばかり。大臣以上に相当勉強して、更に大臣と日本外交全般に余程大きな問題点を見つけて、それを批判する立場を自分なりに固めてからでなければ、「舐めたマネ」をすれば自分が火傷するだけです。

    > この点、①の部分についてはいまでもオールドメディアの役割の重要性が大きい
    新宿会計士様の持論「オールドメディア不要論」が一部修正されましたね。やはり「今日のニュースはだいたいこれ」と一定の分量でまとめて定期的に発行され、実際の紙に刷ってカネ貰って売るその下地を持っている専業のマスコミは①の部分が断然強い。他にもあると思いますが韓国の「マスコミ」よりか日本のマスコミがまだマシなのは実購読者との関係がまだしもあるからであり(実購読者に購読断られると直接響く販売舗の声もありましょう)逆にその日本マスコミが最近衰退してきて居るのも「部数減」が(鶏と卵ですが)大きく作用して居るからとも言えましょう(NHKに関しては元々「部数」は無関係ですしむしろ受信料収入が増加しつつあるとの事なので全く別の力学と思われる)。

  • 茂木外相と聯合ニュース イ記者のやり取りは、外務省HPで動画を見る事をお勧めします。
    東京新聞の女性記者と同様、自分の思い込みで「質問しているのでは無く、意見している」ようです。
    この韓国人記者は特別に異常では無く、平均的な韓国人記者だと思います。こんなのが沢山居て、それが普通だという事です。
    茂木外相の発言は、ブレておらず「流石」と言った感じでした。

  • 請求権協定の内容、経緯を理解していれば、論評に値せずあくまでも韓国側での国内問題という考え方での対応しかないと思います。ただどうした下心か、残念ながら国内からも譲歩を迫る勢力、動きがあります。言質をとる意味でも「どの会社の誰の発言か」はしっかり見える化した方がよいですね。

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。

     もはや、(日本国民に採点してもらって)優秀な記者は、他の新聞社、
    または他分野のメディアに移転しやすくようにしなければ、記者の能力向
    上は望めないのではないでしょうか。(プロ野球選手をイメージしてもら
    えれば、分かりやすいと思います)
     もっとも、(熱いのか、冷めているのか分かりませんが)ぬるま湯に浸
    っていたい記者は、「これまでと同じにしろ」と大反対するでしょう。

     駄文にて失礼しました。

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