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米国が「韓国に対して」GSOMIA破棄の再考を促す

25日から27日にかけて日本を訪れていたデビッド・R・スティルウェル米国務次官補が土曜日、記者会見で「韓国は日韓GSOMIAに復帰すべきだ」と述べる一方、日韓双方に対しても「この問題」に対し「前向きな解決策を見つけるべきだ」と要求をしました。これについては、GSOMIA破棄問題を米国が「韓国の問題」と考えている一方で、最近の日韓関係悪化を「日韓どっちも悪い」という視点があることについてはとうてい看過できません。その一方で、日韓GSOMIA破棄まであと1ヵ月をきりましたが、その落としどころは、結局は「GSOMIA破棄実現」しかあり得ないと考えられます。

日韓GSOMIAを巡る議論が再び盛り上がる

以前、『もう日本は関係ありません、今後は米韓間で直接どうぞ』でも報告したとおり、当ウェブサイトとしては、韓国政府が8月22日に下した日韓GSOMIA破棄の決定は、もはや日韓問題ではなく米韓問題に化けたと考えています。

その理由は簡単で、この韓国政府の決定が(日本政府だけでなく)米国政府をも困惑させたからです。

そもそも論として、日韓GSOMIAというものは「軍事同盟関係にない日韓間の軍事情報の交換を円滑化するための協定のひとつ」と理解されますが、その意義は、それだけではありません。「日米韓3ヵ国連携をさらに円滑化するための基盤のひとつ」です。

日米両国政府としては、北朝鮮問題などに対応するためには「日米韓3ヵ国連携」が重要だと考えて来ましたし、かつて北朝鮮危機が意識されたときに、軍事当局者のあいだでは本気で「日米韓3ヵ国軍事同盟」を成立させたい、という気持ちもあったと聞きます。

しかし、残念ながら韓国側は、国民感情だの歴史問題だのを持ち出し、日本との軍事同盟には否定的であり続けています。だからこそ、せめて秘密軍事情報を円滑にやり取りするための日韓GSOMIAを設けることで、少しでも日米韓3ヵ国連携を円滑に機能させようとした、と考えるのがわかりやすいでしょう。

(※個人的な気持ちとしては、無能な味方は有能な敵をはるかに上回る脅威だと考えていることに加え、日韓関係からもたらされるデメリットがメリットを大きく上回っていると考えているため、そもそも「日米韓3ヵ国連携」という考え方には批判的ですが、この点についてはとりあえず措くことにします。)

だからこそ、日韓GSOMIAの破棄決定は、日本政府だけでなく米国政府をも強く困惑させる結果となったのであり、米国側が強く韓国に「日韓GSOMIAに留まるべきだ」と繰り返しているのも、米国にとって現段階でGSOMIAを破棄されることの都合が悪いと考えている証拠でしょう。

スティルウェル氏がGSOMIA復帰を要求

つまり、米国政府としては、日韓GSOMIAについては「日米韓3ヵ国連携を事実上の三角同盟に近い形で運営させるための重要なパーツ」として認識していた、ということであり、これを韓国側が破棄しようとしていることは、「韓国が」日米韓3ヵ国連携を破壊する行為と同じだ、と考えているようです。

こうしたなか、米国務省のデビッド・R・スティルウェル次官補が25日から27日まで日本を訪れていました。

Assistant Secretary David R. Stilwell Travels to Japan, Burma, Malaysia, Thailand, Republic of Korea, and China(2019/10/24付 米国務省HPより)

事前の報道だと、スティルウェル氏は韓国に日韓包括軍事情報保護協定の破棄を再考するように伺吸一方、「摩擦解消」を「日韓双方に」働きかける予定だ、などとされていました。

韓国、GSOMIA破棄の再考を 米国務次官補/「摩擦解消へ日韓双方に働きかける」(2019/10/26 21:17付 日本経済新聞電子版より)
デビッド・R・スティルウェル氏

(【出所】米国務省

また、スティルウェル氏は土曜日、記者会見に応じ、韓国に対して日本とのGSOMIAを継続すべきだとの考えを改めて表明しました。

Senior U.S. official for Asia to push South Korea to keep intelligence pact with Japan(2019/10/27付 ジャパンタイムズより【時事通信配信】)

昨日のジャパンタイムズに掲載された時事通信の記事によれば、スティルウェル氏は記者会見で、次のように述べたのだそうです。

韓国側がこのGSOMIAという協定に戻るべきだ。このGSOMIAはわが国、貴国、そして彼ら(※)にも恩恵があるからだ。/我々の全員がそれの重要性を認識している。

(※英文の記事を参照している理由は、できるだけオリジナルに近い発言を紹介しようと思ったからですが、発言にある「彼ら」(them)が何を意味するかはわかりません。念のためスティルウェル氏の記者会見の原文を探したのですが、どうも見つからず、仕方がないのでそのまま掲載しています。)

つまり、ここで重要なポイントがひとつあるとすれば、スティルウェル氏は明らかにGSOMIA破棄に関しては韓国の側の決定変更を促している、という事実でしょう。

なぜ「日韓双方」になるのか?

ただし、スティルウェル氏の発言には、もうひとつ、重要な問題があります。

ジャパンタイムズの記事をさらに読んでいきましょう。

On decisions by Japan and South Korea to tighten export controls on each other in the lead-up to the GSOMIA announcement, Stilwell said economic issues should not be allowed to spill over into the field of security. / “We strongly encourage both sides to find creative solutions to this,” he said.(※下線部は引用者による加工)

要するに、韓国政府によるGSOMIA破棄決定は、日韓が輸出管理の応酬をするなかで出て来たものだとしつつ、経済問題と安保問題は分離すべきであり、日韓双方がこの問題に前向きに対処せよ、と要求した、というものです。

いったい何が「前向きに対処せよ」、ですか。

スティルウェル氏の発言の全文を読んでいないため、どこまでがスティルウェル氏の発言なのかわかりませんし、また、この下り自体がスティルウェル氏の発言の切り取りであるという可能性は否定できませんが、仮に本当にスティルウェル氏がこう述べたのだとしたら、この下りに関しては到底看過できません。

日韓GSOMIA破棄問題、米国の「逃げ得」を許すな』でも報告したとおり、どうも米国は日韓関係を巡り、「日韓どっちも悪い」、という議論に逃げるきらいがありますが、これは極めて無責任かつ危険な姿勢です。

スティルウェル氏の発言にも、こうした「日韓どっちもどっち」論が透けて見えますが、こうした態度を米国が取れば、日本という「米国にとって最重要な同盟国」において、対米不信を植え付けるという意味で、とんでもない副作用をもたらすということを、米国にはもう少し認識させた方が良いでしょう。

そもそも論として、日韓GSOMIA破棄は日本の輸出管理適正化措置に対する韓国側の「瀬戸際外交」のようなものであり、韓国側は「日本が輸出『規制』を撤回しなければGSOMIA破棄を撤回しない」とする姿勢を明確にしています。

では、日本が「輸出『規制』」(ただしくは「輸出管理適正化措置」)を撤回することは、可能なのでしょうか。

その答えは、スティルウェル氏自身が知っているとおり、不可能です。なぜなら、輸出管理適正化措置はワッセナーアレンジメントなどの国際的な輸出管理レジームの要求によるものであり、日韓関係だけで決まるものではないからです。

それなのに、日本が輸出管理適正化を撤回しろというのは、日本が世界の平和と安全に脅威を与えよ、という意味です。スティルウェル氏は自分が何をしゃべっているのか冷静に認識すべきでしょうし、日本政府もスティルウェル氏に対し、キッチリ釘をさすべきだったのではないでしょうか。

GSOMIA問題の落としどころ

さて、GSOMIAを巡り、韓国は現在、「日本の輸出管理適正化措置」を撤回させるための交渉材料にしようとしているフシがあります。

ただ、これについては二重の意味で容認できません。

その理由は、①そもそもGSOMIAと輸出管理適正化措置は次元が違う問題であり、対等な交渉材料となるものではないこと、そして②両者を交渉材料にすることを許せば、韓国は今後、何か気に食わないことがあれば、すぐにGSOMIA破棄を持ち出すことになること、です。

したがって、GSOMIA破棄問題の落としどころは、次の2つしか、あってはなりません。

  • (1)韓国政府の決定に基づき、日韓GSOMIAは11月22日をもって終了する。
  • (2)韓国政府が日韓GSOMIAへの無条件の復帰を宣言する。

幸いながら、安倍政権は現在のところ、輸出管理適正化措置とGSOMIAの問題はハッキリ分けて考える姿勢を貫いており、本件について日本が韓国に対し、無用な譲歩をする可能性はないと考えて良いでしょう。よって、現実にはこの(1)、(2)のいずれかしかあり得ません。

この2つの選択肢のうち、現在のところ、最も可能性が高いのは(1)です。韓国政府に言わせれば、(2)の選択肢は「韓国の国民感情が許さない」のでしょう(『韓国政府高官「GSOMIA復帰条件は輸出規制撤回」』参照)。

よって、これからの日米韓3ヵ国連携においては、日韓GSOMIAが存在しなくなるという前提でその運営や将来図を描く必要があります。

この点、日韓GSOMIAがなくなったからといって、直ちに日韓間で軍事情報のやり取りがすべてなくなる、というものではありませんし、日米韓3ヵ国連携が行き詰まる、というものでもないでしょう。

しかし、「何か気に喰わないことがあれば、大事な協定を破棄する」という「瀬戸際外交」に出るような国を、軍事連携の相手国として信頼して良いか、という視点が、より多くの人々に意識されるようになることは間違いありません。

その意味では、日韓GSOMIA破棄を契機に日本の安全保障問題に興味や関心を抱く有権者が増えるのであれば、中・長期的に見れば、日本にとって一概に「悪いこと」とはいえないのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (37)

  • この件について、日本に米国から文句を付けられるスジは一切りません。

    • 一切りません → 一切ありません。あが抜けていました。
      これこそ放っておけば良いと思います。

    • 国内韓国系政治団体からの突き上げをかわすためのものでしょう。支持することを材料に、米国の国益のために不利な材料を持ち込まれる方が厄介です。
      アメリカファーストの観点からしたらそれくらいしても不思議ではありません。幸運なのはトランプが全く関心がないこと。
      このどちら着かずの発言は、日韓トラブルに対するトランプ政権の無関心さを如実に表すものですから、日本にとって悪い話ではありません。

  • ・・certainly benefits them・・と書いてありますので、themは当然韓国を指すと思われるのですが・・。

    米国は、文在寅政権下ではどうしようもないなと思いつつも、双方に歩み寄るように呼びかける、といったことではないかと。

    韓国が文在寅(政権)の誕生を契機として徐々にあちら側へ行くのは止められない、との意見が多いようですが、米国が今後の西太平洋戦略、中長期的にどのように進めるつもりなのか気になります。

  • ニューズウィーク誌なんかを見ると「日本は面倒な韓国との問題を米国に押し付けたがってる」という米国人の考えを時々目にします。韓国の問題を「押し付け」られたくないのであれば日本に口を出さなければいいのに。知ったうえでわざと発言しているのであれば米国の態度に相当の問題ありです。

  • 朝鮮日報の記事です。
    米「韓国はGSOMIA破棄を再考せよ、防衛費も公平に負担せよ」 
    https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191028-00080026-chosun-kr
    この見方が、一番普通なんでは無いでしょうか。
    アメリカ高官の発現に、あまり過敏に反応しても仕方ないですよね。
    GSOMIAの破棄に関して一番腹を立てているのは、アメリカだと思います。
    このままでは、他の同盟国への示しがつかないと思っているでしょう。

    • もう1つこんな記事が朝鮮日報に。

      ◆日本は後方へ下がり米国が前面に、ブーメランで帰って来た
       GSOMIA破棄 
       https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191028-00080067-chosun-kr&p=2

      日本はGSOMIA終了を阻止するため新たな交渉に応じる意向がない
      ことをすでに表明している。
      最終的に韓国だけがGSOMIA終了期限に追われるという自縄自縛
      状態に追い込まれたのだ。

      めずらしく状況を正しく認識していて何より。

      • 御紹介の朝鮮日報の記事に、

        「米国務省のスティルウェル次官補(東アジア・太平洋担当)は26日『GSOMIAは韓米日の安全保障にとって非常に大きな意義がある』『GSOMIAに戻ることを韓国に促したい』と述べた。」

        とあります、。「日韓双方が」という記述は見当たりません。

        だからといって、スティルウェル氏が「双方」に言及していないとは断言できませんが、朝鮮日報にしては、珍しくマトモ。

    • 名無しAさま、墺を見倣えさま
      朝鮮日報は、まともな記事が結構多いと思ってます。
      韓国保守が盛り返してきた辺りから、元に戻って来た(一時は政権圧力が強かった)感じがします。
      まあ、反日は有るんですが、ATMよりまともかも知れません。

  • まぁ日本としても、「11月22日(だったかな?)までに、韓国から廃棄決定の撤回が示されれば、協定を継続する」くらいの譲歩は、米国の顔を立てるために必要かもです♪

    • 万が一そうなれば継続すると思います。
      別に継続しても日本に不利益はないですから。
      ただし継続しても、日本から本当に重要な情報は
      もう流しませんがね。

  • 具体的に何をしてほしいのか言ってくるまで放置するのがよいのでは。さもなければ、また忖度外交に逆戻り。

  • 更新ありがとうございます。

    日韓GSOMIAの件で、日本が譲歩しないと破棄するぞッという不埒な韓国との問題で、米国から日本が文句言われたり、譲歩を迫られたりする謂れは全くありません。

    スティルウェル氏も、ややこしい日韓関係だ、日韓どっちもどっちだ、とカンタンに考えています。それなら日本と韓国、どちらが命を張って極東を護って来たんだ、という回答を聞かせて欲しい。

    スティルウェル氏など全然分かって無いし、理解しょうともしてないだろう。日本人に対米不信を植え付けるだけです。まさか中国には付かないが(笑)。

    米国は(一方的に複雑にしている韓国が悪いのですが)日韓問題については、すぐ大国の日本が譲歩しろ、と言って来る。

    出来るだけ関知しないのは、西側最大国家・リーダーとしては無責任過ぎます。1948年以後、朝鮮半島がアカの手に落ちたら、日本、沖縄、台湾、フィリピンまで危うくなると思ったんでしょう。

    しかし、太平洋戦争後、見事に方向転換させた日本と違い、韓国は狡くて卑怯、南北に分かれるヘマを米軍はやった。北は独裁者君臨、ベトナムは共産化と、米国が上手く仕上げたのは日本だけ。

    あんまり日本を盾に使うと、見返りも要求するし、民主党政権下なら、言う事を聞かなくなるかもネ〜(笑)。

  • 「いや~参ったなぁ、アメリカに言われたから仕方ないわ」でGSOMIA破棄しないってパターンが一番困りますね。
    もう破棄前提で色々事務処理とか進んでいると思うのですが、今更破棄しないとか言われても・・・

    • 何も困りませんよ?日本とアメリカは。
      特に日本は破棄しようがしまいが、何も困らない。
      というか、破棄云々に関わらず絶交確定です。

      困るのは韓国だけ。
      見返り無しでGSOMIA破棄撤回したら、確実に崩壊するんじゃない?

      • めたぼチャリダー 様
        GSOMIA廃棄取り消しも一種の「日本への摺り寄り」だと思いますので、結果的に韓国にとってプラスにならなかろうが、そういう摺り寄りされること自体が不快です。
        むしろアメリカに言われたことをチャンスとばかりに取り消ししそうな気がしないでもないです。
        なんでも韓国軍は廃棄に反対だっだとか。
        あのレーダー照射した韓国軍ですが。

      • しきしま 様
        GSOMIA破棄取り消しして日本へ摺り寄るとしても、ば韓国民は納得しますかね?
        只の輸出管理適正化を経済制裁と勝手に誤解し、自傷的対抗(不買)措置で相応の痛みが生じたらしい。
        その状況を打破するために行ったのが、GSOMIA破棄宣言。だが日本は態度を全く変えず、終には被害企業まで発生してしまった。それを「アメちゃんに言われたから~♪」で破棄取り消しして、果たして韓国内で理解が得られるのだろうか? 大規模デモでは収まらない気がしますが...

        まあ、国内向けには「日本が泣き付いて来た」とか言い張るかも知れませんが。
        そうなると... やっぱ面倒なので、断交しかない(w)

        訂正ですが、自分が投稿した
        >>日本は破棄しようがしまいが、何も困らない。
        これは撤回します。
        おそらく、破棄しようがしまいが、何らかの対応を(アメさんに)迫られるのでしょうね...

  • 二年近く不在だったポストに
    就いた元軍人さん

    GSOMIAの重要度は理解してるが
    半島のアホさは知らない
    日本が譲歩すればぐらいに
    考えてそうですね
    とりあえず言っといたレベル
    だと思います

    トランプにとって大統領選の票に
    つながる事かしか頭にないから
    何が起こるか見てみようでしょう

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