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イランがウラン20%精製を見送り、なぜ?

先月28日から、日本は韓国を「(旧)ホワイト国」リスト(現「グループA」)から除外する措置を発動しましたが、その一方、日本から遠く離れたイランで、なぜかウランの20%濃縮が話題になっているようです。現時点で「日韓貿易とイランのウラン開発に何らかの関係に違いない」と明確に申し上げることはしませんが、さまざまな状況証拠に照らすと、両者に何らかの関連性があったとしても、不思議ではありません。

イランが20%濃縮を見送り?

以前、『民需品の軍事転用 日本の危機意識が低いのは問題だ』のなかで、イランが2015年の核合意で定められた上限を超えた濃度までウラン生成を行うと発表した、という話題を紹介しました。

こうしたなか、その「続報」でしょうか、複数のメディアの報道によれば、イランが2015年の核合意に反し、この4ヵ月間で3回目となる措置として、核研究開発の推進措置を講じると発表したそうです。

Iran to boost uranium enrichment(2019/09/05付 アルジャジーラ英語版より)
IRAN TO VIOLATE NUKE DEAL AGAIN, SETS FOURTH DEADLINE FOR NOVEMBER(2019/09/05付 The Jerusalem Postより)
Iran to Breach Nuclear Deal Again in Setback to Europe’s Bid to Salvage It(米国夏時間2019/09/05(木) 19:15付=日本時間2019/09/06(金) 08:15付 WSJより)

ただ、イランが具体的に何をするのかについてはいまひとつ定かではありませんが、イスラエルの「エルサレムポスト」は「具体的な措置は数日中に公表されると見られている」としつつも、ウランの核兵器転用の契機となる20%への濃縮措置については、今回の発表には含まれていなかったとしています。

ちなみにWSJの記事にはウランとプルトニウムのそれぞれについて、核兵器に使用できるようにするための工程が示されているのですが、これによれば、「20%濃縮ウラン」は核兵器水準(90%濃縮)のステップとして出て来るものとされています。

もしイランが本気で核開発をするならば、この20%濃縮工程は必須です(ちなみにWSJはイランが過去に20%濃縮を実施したことがあるとしつつも、現時点ではそれ以上の濃度に濃縮した実績はないとしています)。

どうして「イラン核合意を破る」と宣言しておきながら、20%濃縮工程を再開しないのでしょうか?

もしかして何か材料でも足りないのでしょうか?

とても不思議です。

イランと北朝鮮の関連

さて、当ウェブサイトではときどき、イランや中東について触れることがあるのですが、なぜ日本から遠く離れたイランのことに、こんなに関心を持つ必要があるのでしょうか?

その理由はいくつもあるのですが、最大のものは、日本がエネルギーを中東の石油に深く依存しており、日本に向けて出荷される石油の多くがホルムズ海峡を取っている、という事実でしょう。だからこそ、米国が提唱する「ホルムズ海峡警備の有志連合」に日本も参加するかどうかが、大きな問題となるのです。

ただ、イランが日本の安全保障にとって重要な国である理由は、それだけではありません。

優れた韓国観察者の鈴置高史氏は、北朝鮮がイランにウランを密輸出しているのではないかと疑われている、という論点を紹介しています(『鈴置高史氏の重要な指摘 イランと北朝鮮、点が線でつながる』参照)。

このような関連を踏まえるならば、今年6月、安倍晋三総理大臣が突然、イラン訪問を訪問したのも、おそらくはイラン核開発疑惑や北朝鮮の存在と関連付けて理解すべき性質のものではないでしょうか。

安倍総理のイラン訪問には「目に見えた成果」がなかっただけでなく、日本のタンカーなどがホルムズ海峡付近で攻撃を受けるという事件も発生しています(『安倍総理のイラン訪問は成功?失敗? 長い目で見ることが必要』参照)。

ただ、それでも安倍総理のイラン訪問が、「イランと北朝鮮の間にくさびを打ち込む」という目的にあったのだと考えれば、表面に見えてくる成果がなかったとしてもまったく不思議ではありませんし、だいいち、G20大阪サミットを直前に控えたタイミングでのイラン訪問は非常に不自然です。

このことから、私たち一般国民には見えていない「何らかの狙い」があったと考えるのが自然な発想でしょう。

経産省の「ホワイト国除外措置」が関連記事に?

さて、イランの20%濃縮に関する話題を調べるために、いくつかの外信(とくに中東系のメディア)をチェックしていたのですが、ここで気付くのは、いくつかのメディアで、日本が韓国を「ホワイト国」から除外したとされる話題が「関連記事」として表示されているという事実です。

実際、エルサレムポストの記事では、「関連記事」として次の『日経アジアレビュー』の記事リンクが張られていますが、これはこれで非常に不思議です。

Japan officially ousts South Korea from export whitelist(2019/08/28 02:28付 NIKKEI ASIAN REVIEWより)

韓国は日本と同じ「西側諸国」に属しているはずですし、また、ワッセナー・アレンジメントを含めた4つの国際的輸出管理レジームに参加しているため、まさか韓国からイランに軍事転用可能な品目が横流しされているとは思いたくもありません。

ただ、冷静に思い返してみると、

  • 6月12日~14日:安倍総理のイラン訪問
  • 6月28日~29日:大阪G20サミット
  • 6月30日:米朝首脳会談
  • 7月1日:日本政府が韓国向け輸出管理の運用見直しを発表

という具合に、安倍総理のイラン訪問から韓国のホワイト国除外措置の発表まで1ヵ月弱で発生していたことがわかります。

そして、韓国向けの輸出管理体制の運用を見直したことについて、日本政府は「韓国との信頼関係の元に輸出管理に取り組むことが困難」であることに加え、韓国に関連する輸出管理を巡り、「不適切な事案が発生した」こともあり、今後は厳格な制度運用を行い、万全を期すことにすると述べています。

内閣官房長官記者会見 令和元年7月2日(火)午前(2019/07/02付 首相官邸HPより)

もちろん、日本政府側はこの「不適切な事案」が何を意味しているかについては開示していませんが、その一方で、イランがいわゆる2015年核合意を「破る」と宣言しているにも関わらず、20%濃縮工程については何ら発表がないという客観的事実に着目すると、何らかのかかわりが疑われるのは当然でしょう。

いずれにせよ、本件についてはまだまだ情報が少ないため、現段階では何ともいえない部分も多々ありますが、引き続き関心を払うに値する話題であることは間違いなさそうです。

新宿会計士:

View Comments (30)

  • 日本が韓国に対する輸出規制を厳格化したのと偶然重なる
    不思議なこともあるものだ

    • ホントですねえ。
      彼の国の異常なまでの逆ギレとも関係あるかも知れませんねえ。

      • どこから買ってるのか知りませんが、原油を物々交換とか、安く買えなくなるとか あるんじゃないですかw

    • 高純度品を薄めて使っていたとか?できるかどうかわかんないけど。低純度品を密輸するよりかさ張らないので便利。

  • イランが核濃縮を留保しているのは、核合意を段階的に破棄していくことで、EUからアメリカに圧力を加えてもらって、制裁解除をして欲しいという思惑があると思います。
    以下の記事の通り、高濃度に濃縮する遠心分離機を開発しないと、濃縮そのものが出来ない可能性もあります。
    https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190906-00000023-reut-asia
    北朝鮮との関係は、会計士さんが説明されています。
    会計士さんが
    韓国は日本と同じ「西側諸国」に属しているはずですし、また、ワッセナー・アレンジメントを含めた4つの国際的輸出管理レジームに参加しているため、まさか韓国からイランに軍事転用可能な品目が横流しされているとは思いたくもありません。
    と書かれてますが、韓国は国際社会のルールを守りませんので、十分怪しいと思います。
    イランと韓国は、2010年の制裁開始当時にドル決済ができなくなったため、ウォン決済をしてまで、取引をしていましたので、繋がりは深いと思います。
    https://japanese.joins.com/article/082/253082.html?servcode=300&sectcode=300
    主にイランは原油を売って、韓国から生活必需品や電子・機械部品などを購入していたようです。
    但し取引は、ウォンですので、物々交換的な形だと思いますが、それでもイランは助かったでしょう。
    ここからは、想像です。
    イランは、今回の制裁時に、ドル決済ができなくとも取引の方法は有ると言ってました。
    物々交換なら可能ですよね。韓国が、イランから直接原油を輸入する事は公に無いと思いますので、第三国経由で今でも輸入している可能性はあると思います。また、ウォンで取引していた際に、原油の仕入れ金額の方が多くて、韓国がイランに債務がある可能性がありますので、その分現物で韓国が返済しているのでは。
    というのが疑いです。
    フッ化水素を、イランに輸出していても全くおかしくありませんが、ウラン濃縮にはそれほど高純度のフッ化水素が必要ではないとのことですので、超高純度のものでは無いと思います。
    一番確実なのは、日本製のフッ化水素の容器が、イランで見つかれば、どこかから密輸されていることですね。イランに密輸しそうな国で、ホワイト国で、フッ化水素の輸入量が異常に増えている国が怪しい。
    状況証拠として、安倍首相がイラン訪問後に、何らかの裏が取れて、輸出規制を始めたという可能性は、会計士さんの言うとおりに十分ありうると思います。

    • だんな さま

      おっしゃるとおりかと私も思います。ホワイト国除外で韓国があんなにも騒ぐのは「横流しができなくなったじゃないか。どうしてくれる。」という怒りではないかと思います。

      >韓国は日本と同じ「西側諸国」に属しているはずですし
      もうこの認識も改めるべき状況になってきたかもしれませんね。果たして今の韓国は、西側諸国に属していると言えるのでしょうか。そうみなさない方が安全のような気もします。

    • みんなが想像もつかないような方法で密輸していると豪語してたので、アホの韓国とすぐばれるような直接取引はしてないと思います

  • イラン核合意でのウランの濃縮上限は3.67%なんだそうです。
    一方、原発などの平和利用でも5%濃縮が必要らしく、それ以下に抑えられていることが合意への不満となっていると聞いたことがあります。

    ---
    イラン、また核合意を破る ウラン濃縮の上限を「超過」
    https://www.bbc.com/japanese/48904345

    その60日目に当たるこの日、イラン外務省のアッバス・アラグチ次官は記者会見で、数時間以内にウラン濃縮度を核合意で定められた3.67%を超すレベルまで引き上げると発表した。
    イラン政府の関係者はこれまで、ウラン濃縮度は5%近くまで上げられるとの見通しを述べている。同国ブシェールにある原子力発電所は、5%程度の「低濃縮」の燃料しか必要としないとされる。
    ---

    • 追伸
      なので、核兵器開発をする意思がなくても、平和利用のために核合意に違反する動機がイランにはあり得ます。

      • イランの原子力平和利用って何でしょう。
        石油があるからあえて放射性廃棄物の処理が大変な原発を作る必要はないわけです。
        ゆくゆくは核兵器を作ってイスラムシーア派世界を保持したい・拡張したいということでしょう。
        宗教指導者が国の最上位ですからいざとなれば核兵器の使用をためらわないでしょう。
        唯一絶対神の命令なら正義にきまっていますからどんな非人間的行為もゆるされます。
        現在おらずとも核兵器を実際に使う宗教指導者が将来出てくるかもしれません。
        イスラエル-アメリカはそういうことを理解しているのだと思います。

        • 原発で5%濃度のウランが必要だというイランの主張が信憑性があることか、裏の意図があるのかは、私にはわかりません。
          それを示す客観的証拠があるなら興味がありますが。

          >どうして「イラン核合意を破る」と宣言しておきながら、20%濃縮工程を再開しないのでしょうか?
          >もしかして何か材料でも足りないのでしょうか?
          >とても不思議です。

          この記載に対して、イランが主張していると思われるロジックを提示したまでです。

          一応付け加えると、欧米は3.68%以下でも原発での利用は可能だという主張もしているようですが。

    • 日本のフッ化水素メーカーは12Nの超高純度フッ化水素を製造できて、シェアも高いそうです。純度は半導体の歩留まりに直結します。製造も保管も大変らしく、超高価です。

      ウラン濃縮に必要なフッ化水素は高濃度ではあっても高純度は必要なく、イランなどからすれば、もっと手に入れやすいものがいくらでもあると思います。

      なので、日本の輸出管理とイラン核開発のつながりは、「あまり」関係ないんじゃないかと思ってます。

      • 直接日本産出さなくても、ちょろまかしに使った可能性はあるんでない?

        イランに中国産を横流しして減った分は日本産で穴埋め。
        まあ、中国からフッ化水素の使用量監視されてるのが前提だけど。

        • 日本産関係なしに、韓国企業がかかわる可能性はあると思います。
          過去の実績もあるようですし。リンクは別返信に記載しています。

          ついでにで申し訳ないですが、
          下記事に韓国向けの平均輸出価格が200円/kgとありました。
          濃度も純度も一緒くたの数字で、ウラン濃縮に使えるものの量も価格もわかりませんが、「日本産だから自動的にべらぼうに高い」というわけでもないようでした。

          日本産は高純度で高いから不正輸出の対象にはならないとは、言い切れないかもしれません。

          フッ化水素、対韓輸出減 日本側に糸口ほのめかす動きも
          https://www.asahi.com/articles/ASM8Y4RK7M8YULFA00M.html

          自分スレを自分で伸ばしてしまって申し訳ありません・・・

  • そろそろ日本政府は不適切な事案について、公表してもいいのでは?
    このまま公表せずに、韓国の告げ口外交を眺めるのか?
    一方で公表して、いつでも制裁できるポジションと合理性を確保しておくのも、外野の騒音を抑える意味でも得策のような気がしますが……

    • 社畜さん さま

      私は公表しない方がいいのではないかと思います。

      なぜなら、ホワイト国除外で騒いでいるのは今のところ韓国のみで、他は静観しているようだからです。それなら、わざわざ手の内を明かす必要はないでしょう。

      公表したら公表したで、韓国はそこに噛み付いてきて大騒ぎをします。「日本の捏造だ、即刻ホワイト国指定を元に戻せ」など言いまくります。それの相手をするのも一苦労ですから、日本が世論戦で旗色が悪くならない限り、手の内を韓国に見せる必要はないと思います。

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。

     どうやら海外メディア(特に中東系)は、イラン核開発の陰に、韓国が
    いるのではないかと、疑っているようですね。(今後の情勢次第かもしれ
    ませんが)韓国政府が、海外メディアにどう説明するのか楽しみ(?)で
    す。(もっとも、韓国政府が、(日本以外の)海外メディアと日韓のメデ
    ィアに、異なる説明をするかもしれませんが)

     駄文にて失礼しました。

  • 素朴な疑問ですが、中東の人は、韓国と北朝鮮の区別がつくんですかね。

  • 更新ありがとうございます。

    会計士さんの説明を見ると、確かに1か月足らずで大急ぎで決めましたよね。

    6月12日~14日:安倍総理のイラン訪問
    6月28日~29日:大阪G20サミット
    6月30日:米朝首脳会談
    7月1日:日本政府が韓国向け輸出管理の運用見直しを発表、、。

    内情はよく分かりませんが、南朝鮮のあの異常な日本への【制裁止めろッ】ぶりを見ると、何か絶対あるな〜と思って当然です。日本政府は、コトの経緯について、或いは韓国への輸出管理体制の強化について、明らかにしない方が宜しいかと思います。

  • 既出かもしれませんが、
    イランへの無水フッ化水素輸出について、2008年には韓国企業にクロが付いているようです。
    このケースは、中国製のAHFのようです。

    ---
    https://carnegieendowment.org/2012/01/02/iran-s-quest-for-f6-in-its-uf6-pub-46380

    イランの調達代理店は、韓国企業が中国の生産者からAHFを購入し、タイに転送するよう手配していた。西部の税関intelligence報機関は取引の風を受け、ドバイ港でイランに向かう前にAHFが傍受されました。
    ---

  • 以前、中央日報で報じられたイランがウリィ銀行に開設したウォン口座の絡みがあるかもしれませんね。
    2011年以降制裁逃れの手段として、韓国がイランから輸入した代価を支払う代わりに韓国内の口座に入金するというものです。
    当時、一切送金しないのを良い事(?)に50億ドル相当の残高を使い込んでしまったという話もあったように記憶してます。

    代価として、日本からフッ化水素を迂回輸出していたとすれば…ここから先は証拠が出てからでないと、ですかね

  • 日本政府が対韓輸出管理の見直しのハッキリとした理由を言わないのは、安倍首相がイランを訪問した際、イラン側が「日本さんごめん、ホントはね、韓国くんからこっそり横流しで仕入れていたんだよ。けどそれは公表しないでね、俺の立場もあるし」という約束だったのかなあ?と邪推しています。イランからすれば韓国にもピンチの時に物々交換で助けてもらったの恩があるがしかし友好国日本にウソをついて信頼を失うのも困るなあ、的な。

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