説得力のある文章なり論考なりを見ていると、たいていの場合、具体的な事例なり、解決案なりが示されているものですが、裏を返して言えば、説得力のない文章には、具体的な記載が欠落し、やたらと小難しい美麗字句を散りばめた抽象的な記載であることが多い気がします。昨日、韓国メディア『中央日報』（日本語版）に、「悪化する韓日関係をいかに改善すべきか」というテーマの記事が２つほど掲載されていたのですが、いずれも正直、末期的なものを感じてしまうのです。

もはや末期的な「韓日ビジョンフォーラム」

以前から韓国メディア『中央日報』（日本語版）を眺めていると、『危機の韓日関係、連続診断』と称するシリーズが不定期に掲載されています。

これは、「韓日ビジョンフォーラム」と名乗る組織が複数回、会合を実施したときの内容をレポートする記事なのですが、正直申し上げると、毎回、この記事を読むたびに、ため息と乾いた笑いしか出て来ません。

当ウェブサイトでも以前、『周回遅れどころじゃない、日韓通貨スワップ待望論』のなかで、元駐日韓国大使でもある申珏秀（しん・かくしゅう）氏が「関係が悪化した韓日両国が接触面を広げるためには韓日通貨スワップが必要だ」と述べた、という話題を紹介したことがあります。

「韓日ビジョンフォーラム」という組織は、この「韓日スワップ待望論」を唱える申珏秀氏自身が事務局長を務めているのだそうですが、その時点で中身は推して知るべし、といったところでしょう。その「韓日ビジョンフォーラム」会合の最新記事が、昨日の中央日報に掲載されていました。

＜危機の韓日関係、連続診断６＞「まさか報復？」…韓国の希望的思考の虚をついた日本の半導体規制（１）（2019年07月03日09時47分付　中央日報日本語版より）

リンク先記事には、「韓日ビジョンフォーラム」の説明が掲載されています。

韓日ビジョンフォーラムとは？

韓日関係改善のための実質的かつ戦略的な解決方法を見いだすために元外交官および経済界・学界・言論界の専門家16人が結成したフォーラム。洪錫ヒョン韓半島平和構築理事が代表を、申ガク秀元駐日大使が運営委員長を務める。

ついでにどうでも良い情報ですが、洪錫炫（こう・しゃくげん）韓半島平和構築理事といえば、『マトモな議員にとって、韓国の政治家と会うこと自体がリスク』のなかでも紹介したとおり、鳩山由紀夫元首相と会って何やらわけのわからない会話を交わした、という話題で出て来た人名です。

また、この「韓日ビジョンフォーラム」は「韓日」と名乗ってはいるものの、記事で見る限りは、日本側からメンバーは入っておらず、いわば、「韓国人で完結する妄想」を話し合っているだけの組織にしか見えないのです。

昔から「三人寄れば文殊の知恵」といわれますが、こと「韓日ビジョンフォーラム」に限定して言えば、この格言は間違いです。少しきつい言い方をしますが、こと「韓日ビジョンフォーラム」に関していえば、三人どころか16人寄ったところで、出してくるのは、私たち日本国民からみれば「ゴミのような知恵」だからです。

基調演説は「ＣＰＴＰＰに入ろう」

その具体例を確認しておきましょう。

先ほどの中央日報の記事によれば、７月１日に開かれた「第６回韓日ビジョンフォーラム」の会合では、元通商交渉本部長で現在はソウル大学国際大学院名誉教授を務める朴泰鎬（ぼく・たいこう）氏による「ＣＰＴＰＰへの加入論」だったというのですから、驚きです。

ＣＰＴＰＰとは「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」の略ですが、米国が抜けたがために、事実上、日本が主導する多国間自由貿易協定となっています。

朴氏はこのＣＰＴＰＰについて、「非常に高い水準の広範囲な自由化」を追及していて、伝統的なＦＴＡでは扱わない通商問題や規制の一貫性、反腐敗関連規範などが盛り込まれており、タイや台湾、あるいは英国などが加入を目指しているほどだ、などと指摘。

そのうえで、

「ＣＰＴＰＰは今後、世界貿易秩序の新たな基準になりえる。世界９大貿易国である韓国がこれに加入しないのは話にならない。韓国がＣＰＴＰＰに加入すれば日本とＦＴＡを結ぶ効果を得ることになる」

など延々力説するのです。

日本が主導する協定に、日本をあそこまで怒らせている韓国が入れると思う時点で、感覚があまりにも私たち日本人と大きく断絶してしまっているように思えてなりません。

また、この基調講演終了後に、フォーラム参加者から出て来た意見を眺めていると、自称元徴用工問題の解決策を巡り、いまだに「１＋１基金」だの、「２＋２基金」だのといった周回遅れすぎる議論を展開していて、思わず頭がクラクラしてしまいます。

正直、私たち日本国民から見て、こんなゴミのような「提言」しかできないならば、日韓関係を改善するためには無益どころか却って有害ですらあります。

加害者が「棚上げ」とは、これいかに？

ただ、韓国側では本気で、自称元徴用工の問題などを巡り、いったい何が問題なのかをまったく理解していないフシがあります。これは、先ほどの「16人寄ってゴミの知恵」という組織にしてもそうですが、国会議員についても同じような状況にあります。

中央日報によると、韓国の「知日派議員」（？）ら10人が、自称元徴用工問題を巡る韓国政府の対応について、「感情的な対応は役に立たない」などと批判したのだそうですが、その記事がまたしても壮絶です。

「韓日過去問題は凍結し、一定時間経過後に解決を」…韓国議員１０人の苦言（2019年07月03日13時39分付　中央日報日本語版より）

中央日報は韓国国会・外交統一委員会と韓日議会外交フォーラムの所属議員10人に「悪化した韓日関係の原因と解決策について話を聞いた」としているのですが、１つだけ例に挙げておきましょう（※敬称略）。

朴炳錫（ぼく・へいしゃく、「ともに民主党」議員）

（日本側の半導体素材輸出規制は）自由貿易の否定であり、韓国はＷＴＯ提訴も含めて原則に基づき対応するものの、対話の綱は維持する方式で進まねばならない

はい。何のことやらさっぱりわかりません（苦笑）

正直、すべてに言えることですが、説得力のある論考では、得てして具体的な事例が伴っているのに対し、先ほど紹介した「韓日ビジョンフォーラム」にしろ、韓国の国会議員にしろ、彼らなりの解決策がいったい何なのか、まったくその具体的な事例が伴っていません。

だからこそ、「過去問題は凍結し、一定時間後に解決を」、といった、意味の分からない「解決策」もどきが出てくるのだと思うのです。