新任の新聞協会会長が、新聞に対する軽減税率を「読者のため」と言い放ったのだそうですが、これはとんでもないロジックのすり替えです。ただ、先が見えない新聞業界に加え、テレビ業界などが既得権にしがみつくあまり、現実が見えていないのではないかと思しき情報もあります。それは、メディア全体に見られる驕りであり、実際、いくつかの調査からは、日本では国民がメディアに対して強い怒りを抱いているのではないかと思しき実態が垣間見えるのです。
目次
軽減税率は新聞業界のため
「出オチ」で恐縮ですが、こんな記事を発見してしまいました。
新聞協会会長に読売・山口氏/「軽減税率は読者のため」(2019/6/19 18:41付 共同通信より)
共同通信によると、一般社団法人日本新聞協会は19日、定時会員総会と理事会を開き、読売新聞グループ本社社長の山口寿一氏を会長に選任したそうです(任期2年)。山口氏は
「消費税増税時に新聞への軽減税率適用を確実にすることが私の役割。軽減税率適用は読者のためであると理解してもらうため、新聞の信頼性を確保し続けることが大切だ」
と発言したのだそうですが、本当にすごい発言だと思います。
業界を挙げて「消費税の増税が必要だ」とするプロパガンダを展開しているわりに、新聞業界に対しては特恵的な軽減税率を適用させようとするわけですから、新聞業界以外の誰が見ても、「業界益」のみを追求した発言にしか見えません。
考えてみればわかりますが、新聞への軽減税率適用は「読者のため」ではなく、「新聞業界のため」です。
私の身の回りの体験談で恐縮ですが、少なくとも首都圏だと、朝の通勤電車では、スマートフォンにかじりついている人はたくさんいますが、新聞を読む人は、ほとんどいなくなってしまいました。また、休日に電車に乗っても、多くの場合、新聞を読んでいるのは高齢者です。
新聞業界は現在、「新聞を読まない人」との戦いになってしまっているのです。
新聞vsスマートフォン
スマートフォンが新聞のライバルに
このことを、データで確認しておきましょう。
総務省『平成30年版 情報通信白書』(図表5-2-1-1)によれば、近年、スマートフォンの普及率が8割近くにも達していて、とくに2010年から2013年の4年間で急激に増えたことが確認できます。
スマートフォンの世帯保有率
- 2010年…9.7%
- 2011年…29.3%
- 2012年…49.5%
- 2013年…62.6%
- 2014年…64.2%
- 2015年…72.0%
- 2016年…71.8%
- 2017年…75.1%
これに加え、少なくとも首都圏の場合、2013年3月21日に東京メトロの全線で携帯電話が利用可能になりました。
平成 25 年 3 月 21 日(木)正午より、東京メトロの全線で携帯電話が利用可能に!(2013/03/18付 東京メトロHPより)
この2つの情報は、やはり2013年ごろから、通勤電車の車内で新聞を読む人が急激に減り始めたという私自身の記憶とも整合しています。
新聞だと情報が古すぎる!
では、なぜ人々は新聞を読まず、スマートフォンにかじりつくようになったのでしょうか?
以前からときどきお伝えしているとおり、私は大学生時代、「朝日新聞奨学生」として、東京都内某地区で新聞配達をしていたことがあります。
そのときの経験で申し上げるならば、朝刊配達のスケジュールは、だいたい次のとおりです。
- 朝3時起床、販売店に出勤
- 朝3時過ぎに販売店に新聞が送り届けられるので、それを受け取る
- 自分が配達を受け持つ朝刊(200~300部)にチラシを折り込み、配達できるようにセットする(これに1時間くらいの時間が必要)
- 朝4時頃から配達し始め、早い日で2時間、遅い日で3時間ほどかけて新聞を配達する
(※ただし、これは私が勤務していた販売店の場合であり、遅い店だと新聞が届くのが朝4時になる、というケースもあるようです。)
朝刊を各家庭に届けるのは、早くて朝4時、遅くて朝7時頃です(悪天候の日や折り込みチラシが多い日などには、朝7時までに配達が終わらないこともありましたが…)。新聞配達の技術が抜本的に革新されたという話は聞いたことがありませんので、現在でも事情は似たようなものでしょう。
ここで、東京・大阪などの近郊に住むビジネスパーソンが、自宅に投函された朝刊を持って通勤電車に乗り、1時間かけて職場まで通う、という場面を想像してみましょう。
- 朝7時に起床
- 朝8時に通勤電車に乗る
- 朝9時に職場に着く
このビジネスパーソンが朝8時台に読んでいるのは、朝6~7時までに自宅に投函された新聞です。逆算すれば、その新聞が朝6~7時頃に自宅に投函されるためには、午前3時前後に新聞販売店に到着している必要がありますし、午前2時台に刷り上がっていなければなりません。
ということは、紙面に掲載されている情報は、午前1時台に締め切られた情報です(※このため、たとえば毎回日本時間の朝3~4時台に公表される米国の金利政策決定会合(FOMC)の情報は絶対に間に合わないわけです)。
つまり、このビジネスパーソンが電車内で朝8時台に読んでいる新聞の情報は、7~8時間前の情報であり、「新」しい情報ではないのです。
メディアの驕り
国民の知る権利を保障しているのは、インターネット空間
これに対し、スマートフォンだと、リアルタイムで新しい情報が届きます。
私自身、紙媒体で新聞を取るのを、今から7~8年くらいまえにやめてしまったのですが、そのかわり、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の有料購読契約をしていて、スマートフォンには新しい情報がどんどんと届きます。
また、ツイッターにアカウントを持っていれば(※無料)、フォローしている相手が発信して来る情報についてもほぼリアルタイムで確認することができますし、ツイッターのトレンド表示機能を使えば、最新ニュースを知ることもできます。
たとえば、先ほどのビジネスパーソンが、紙媒体の新聞購読契約をやめ、自分の気に入っている媒体と有料契約を結び、スマートフォンにプッシュ通知させるように設定していたとすれば、通勤電車内でスマートフォンを眺めているだけで、「つい数分前に発生した出来事」を含めて知ることができます。
そして、よく考えてみれば、紙媒体の新聞の場合、「情報が古い」という点以外にも、いくつかの致命的欠陥があります。
まず「紙媒体」であるため、「▼重くてかさばる、▼手にインクが付く、▼読むと紙がクシャクシャになる、▼満員電車で広げて読むと周りに迷惑が掛かる」、といった点で、非常に困ります。
次に、新聞の場合だと、どうしても複数の媒体を読むことが難しく、たとえば朝日新聞の読者であれば、朝日新聞しか購読していないことが一般的です(※私自身は朝日新聞と日本経済新聞、あるいは日本経済新聞と英FT、といった具合に、複数媒体を購読していたこともありますが…)。
当然、同じ情報でも朝日新聞と読売新聞だと論調が違うこともありますし、産経新聞の単独スクープを他社が報じないこともあるでしょう。
これに対し、インターネット空間の場合だと、たいていの場合は同じ出来事に関し、複数のメディアの報道を無料で読み比べることができます(※といっても、各メディアは最近、「有料版」の記事に力を入れているようですが…)。
さらに、新聞と異なり、インターネット空間にはそれこそ何百、何千、何万というページが存在しています。極端な話、有料契約などなくても、いくつかのニューズサイト、あるいは当『新宿会計士の政治経済評論』など、無料で閲覧可能なサイトはたくさんあります。
よって、読者としては、べつに新聞社のサイトだけでなく、自身の気に入ったオピニオン・サイトなどを重点的にチェックするという自由もあるのです。まさに、国民の知る権利を保障しているのは、いまや新聞ではなく、インターネット空間なのかもしれませんね。
自己認識ギャップが大きすぎる、日本の新聞業界
こうしたなか、新聞業界を巡って、もう1つ興味深い記事を発見しました。
朝日の信頼度、今年も全国紙で最低:ロイター研調査(2019年06月16日 11:05付 BLOGOSより)
執筆者の島田範正さんのご経歴は「元読売新聞記者」とのことですが、リンク先の記事では、オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所が発表した “Digital News Report 2019” をベースに、日本で朝日新聞の信頼度が全国紙で最下位になった、と指摘したものです。
ただ、当ウェブサイトが注目するのは、「朝日新聞の信頼度が低いこと」、ではありません。
島田氏の論考にも触れられている、ロイターレポートのPDFファイルでいう54ページ目にある、 “PROPORTION OF AUDIENCE AND JOURNALISTS THAT AGREE THAT THE NEWS MEDIA MONITOR AND SCRUTINISE THE POWERFUL – SELECTED MARKETS” とする図表です。
これによると、
Japan, 91% of journalists think that monitoring and scrutinising political leaders is important for their work, whereas only 17% of news users in Japan agree that the news media monitor and scrutinise powerful people and businesses.(日本ではジャーナリストの91%が「政治的なリーダーを監視し、精査することが自身の仕事だと感じているのに対し、「ニューズ・メディアが影響力のある人々や企業を監視し、精査している」と感じている読者は17%に過ぎない)
と指摘されていて、日本における読者とジャーナリストの認識ギャップは、調査対象国のなかでも際立って大きいのです(図表)。
図表 ニューズ・メディアと読者の認識ギャップ
国 | ジャーナリスト | 読者 |
---|---|---|
ドイツ | 37% | 36% |
英国 | 42% | 48% |
イタリア | 33% | 44% |
フィンランド | 39% | 65% |
ギリシャ | 39% | 65% |
ポルトガル | 51% | 78% |
チリ | 36% | 66% |
デンマーク | 45% | 80% |
米国 | 45% | 86% |
香港 | 38% | 80% |
韓国 | 21% | 86% |
日本 | 17% | 91% |
(【出所】ロイターレポートより著者抜粋・作成)
スマートフォンの普及は世界共通の現象ですが、ジャーナリストに対する信頼の低さは日本独自の事情ではなでしょうか。
メディアの自滅
さて、最近、インターネット言論空間を中心に、マスコミのことを「マスゴミ」などと揶揄する書き込みが多数見られることは事実です。
私の理解では、この「マスゴミ」とは、「ゴミのように低レベルかつ有害な情報を垂れ流す、新聞、テレビを中心とするマスコミ各社」に対する、怒りを込めた侮蔑表現でしょう。
ただ、マスコミが「マスゴミ」と呼ばれる所以は、彼らが流す情報のレベルの低さだけにあるのではありません。最近の事例だと、災害報道や事件報道の世界で、「マスゴミ」の本領がいかんなく発揮されているからです。
たとえば、ブロガーの藤原かずえ氏の指摘によれば、大津市で発生した、保育園児が犠牲になった交通事故を巡り、遺族が報道機関宛に出した声明文を、NHKを筆頭とするマスコミ各社が改竄して報じたそうです(『罪深いテレビ業界の腐敗ぶりと新しいネットメディアの可能性』参照)。
また、先月末に川崎市で発生した、登校中の子供たちが巻き込まれる無差別通り魔事件でも、マスコミ産業関係者の無神経な取材がそこかしこで行われました(『なぜ「マスゴミ」と呼ばれるのか その取材手法の腐敗ぶり』参照)。
ちなみに、つい最近だと、大阪の警察署で警官が襲われて拳銃を奪われるという事件が発生しましたが、素板警察署前で大阪の毎日放送(MBS)の腕章を付けた男が植え込みを踏み荒らすという事件も発生しているようです。
このようなことを繰り返すからこそ、マスコミは「マスゴミ」と呼ばれるのだということを、そろそろマスコミ関係者の方々は強く自覚なさった方が良いのではないかと思う次第です。
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まるやまデンタルさんのツイッターに草(笑)
いや、抗議したということではなくて、抗議文を撮って画像にアップしたことに
そうは言っても、スマホで見ようがPCで見ようが、元をたどれば新聞記者の取材記事で、それの転載なのですよね。コメントがつくので一方的な情報操作は難しくなったけど、集合知であったり場合によっては集合愚にもなりえます。もちろん「異論は認めない」より「異論いい論」なカオス状態の方がはるかに健康的ではありますが。
「マスゴミ」批判をするとマスコミ関係者っぽい人から同じような論旨の反論(なのかな)が来ますけど、それって話題提供のピエロになってくれているのだから感謝しろとか言ってるのと同じなんですけど気がついているのかなあ。
そろそろ網戸を直さねば 様へ
以前も描きましたが、新聞以外の出版業界(文〇砲を含む)もウェブサイトを持っていますし、個人の情報サイトもあります。
各企業のホームページなどは専門的なのに、半端記者の下手な解説がないだけ判り易くできています。
官公庁のホームページを見れば公式の発表は捻じ曲げられずにそのまま見ることが出来ます。
新聞がネタ元としている通信社もサイトをもっといますよね。
つまり新聞記事以外の情報源が多様化しているので、なにも「新聞記事」だけを一次ソースとする必要はないということです。
消費税ついでに言うと、軽減税率を受ける新聞とは新聞協会に入っている会社だけで、夕刊タブロイド紙なんかは「雑誌」扱いなので対象外です。
つまり新聞と言う旧体制の利権確保に過ぎないのです。
✖通信社もサイトをもっといますよね
〇通信社もサイトを持っていますよね
図表 ニューズ・メディアと読者の認識ギャップですが
元記事の部分を読むと17%が読者、91%がジャーナリストで逆になっているように思えます
確認お願いします
素板警察署~
消費税が上がると節約の対象No1は新聞ですよね
そうなりますよね
どうやら本決まりらしいので、私は来月から解約することにしました
軽減税率でもなんでも好きにするがいい
庶民はこうして節約せざるをえません
結局消費は縮小し、税収もむしろ減るでしょう
過去の失敗になぜ学ばないか不思議です
参院選も自民党には入れません
お疲れ様です。新宿会計士さんや上念さん(朝日不買運動リーダー)等の啓蒙活動により、朝日・毎日等が悲鳴をあげつつあることをうれしく思っています。
実は私は、はるか昔の高3の時バイトで毎日新聞朝刊を配り、政経の授業では嬉々として憲法前文を英語で暗記し、大学を出て就職後も海外に出るまでの長い間、サンデーモーニングを見て憲法を唱えれば世界は平和になると思っていた愚か者です。
息子と娘のために、朝日・毎日・共産党・旧民主党・韓国北朝鮮を撲滅していきたいと思っています。
懺悔します。
選挙権を得てから数年間は共産党に入れてました。
妙な判官贔屓精神のため、共産党は色々問題もあるけれど、弱者保護の活動は本当だと勝手に思い込んでいた為です。
しっかりと自分の頭で考えるという事が何より大事と気付かされました。
匿名様へ
失恋した後などは、世の中全てを呪って、共産党シンパになったりするものです(笑)。
匿名様
懺悔します。あなたが共産党に入れていたよりもはるかに長い期間、民主党に入れていました。罪は重いです。
民主党政権になった時、NEDOで任期付専門職やっていました。パートの女性も含めて全員、理事長と同じく給与3割カットされました(民間企業経験者にとっては狂気のさた)。市役所の「グリーンふるさと何たら機構」で地元特産物を配達するパートをしていた妻は職を失いました(勿論出向市役所員は元の職場にご栄転)。
まさに民主党は悪魔でした。
匿名様
すみませんが気になりましたので質問させてください。
下記2つの匿名さんは同一人物ですか?
筆がすべるのは別にいいと思うのですが、ひょっとして同一人物ではなければそれは問題かなと思った次第です。
新宿会計士
2019/06/21 at 15:45
匿名のコメント主様
貴重な情報提供、大変ありがとうございます。
さっそく使わせていただきます。
匿名
2018/09/26 at 18:50
新宿会計士注:このコメントは個人情報、名誉毀損、性的、わいせつ、低俗、公序良俗違反その他の事情に相当すると判断したため、削除しました。
昔、満員電車で日経を二つ折りにして読んでいたオヤジです。
新聞なんぞ今時読む奴の気が知れません。
スマホで十分。というよりスマホ以上の情報媒体は存在しない時代になりました。
新聞は日経と言えども嘘が蔓延し、直接海外のソースまたは信頼する有料情報を購入すべきです。
ここに至って、悲しいかなオールドメディアの多くはプロパガンダ媒体と言わざるおえません。軽減税率ちゃんちゃら可笑しいわ。笑
はよなくなれ。資本主義の原則。
我々の世界では媒体別広告費というものがあります。
広告費から見ると新聞はインターネットにとっくに追い越されています。もうすぐ1/3。
インターネット広告が媒体別広告費の統計に上がったのが2006年。
一般広告費のシェアは変わりありませんから、新聞、雑誌、テレビ、ラジオの衰退は一目瞭然です。
電通では、戦後代々新聞局から社長を排出していたのですがそれもなくなりました。
今では通販の広告ばかり。
アマゾンで「古紙」を検索すると、新聞紙の束が15キロで1700円!。新聞を定期購読してるなんて言うと、情弱老人と思われるようになるかもね(笑)。
いまだに、社説で日韓首脳会談をすべきと言う”毎日新聞”は、金払いの悪い読者に対しても、一方的に新聞配達を中止することはしないでしょう。たとえ契約書にどんなことが書いてあろうとです。まずは、その未払い読者との話し合いをするはずです。