香港の英字紙『サウスチャイナモーニングポスト』(SCMP)によると、日本政府は安倍総理のイラン訪問日程を暫定的に「6月12日からの3日間」に設定したそうです。現時点でこれが実現するかどうかは未定ですが、それでも、仮に安倍総理が米・イランの「仲介役」としてイランを訪れる場合、いったい何が起こるのでしょうか?これについて、わが国の論壇では両極端な意見があり、片や「日本の遺産を食いつぶす」、片や「日本は大役を担う」、という指摘がなされています。ただ、私自身は安倍総理のイラン訪問にはそれなりのリスクがあることは間違いないにせよ、リスクを取らねば日本が外交ポジションを強めることなどできないと考えていますし、安倍総理にはさらに深い狙いがあるように思えてなりません。
六辻氏は安倍総理のイラン訪問をこき下ろす
安倍晋三総理大臣が今月、イラン訪問に向けて外交日程の調整中であると報じられています。
これについてメディアがどう報じているのかを色々と調べていたのですが、大手のメディアにはあまり解説記事らしきものが出ていません。ただ、それでも日本語版で目についた記事はいくつかあり、なかでも次のニューズウィーク日本版の解説が、非常に批判的です。
日本の遺産を食いつぶす安倍首相──「イラン緊張緩和に努力」の幻想(2019年05月29日(水)12時40分付 ニューズウィーク日本版より)
記事を執筆したのは六辻彰二(むつじ・しょうじ)氏です。
六辻氏の主張を要約すると、
「▼安倍総理はトランプ大統領を厚遇することで『恩を売った』、▼しかし、危機イランの緊張緩和に日本が努力すると提案したことは、アメリカ側に立って仲介するということで、効果は何も期待できない、▼そのうえ、アメリカとの緊密ぶりだけをアピールして臨むことは、日本の遺産を食いつぶす行為でもある」
…というもので、非常に手厳しい評価です。
詳しくはリンク先の文章を読んでいただければわかりますが、トランプ政権のイラン核合意からの離脱は、トランプ政権が「根拠を示さないままに『イランの脅威』を宣伝したことで、いまの緊張が生まれた」という効果をもたらしたと指摘。
「もし緊張緩和に努力するつもりなら、安倍首相はまずトランプ氏にブレーキを踏むよう提案するところから始めなければならないはずだ」
と、むしろ安倍総理のアプローチがおかしい、と主張するのです。
そのうえで、今回の安倍総理のイラン訪問が、「中東一帯に火を振りまくトランプ政権との親密ぶり」を強調することで、イランをはじめとするあらゆる親日国との外交関係を損ねる結果になりかねない、と警告しています。
長谷川幸洋氏の見立て
こうした六辻氏の主張に対し、東京新聞元論説副主幹でジャーナリストの長谷川幸洋氏は、まったく違う見方を示しています。
安倍トランプ会談が示した、日本が世界で背負う「かつてない大役」(2019/05/31付 現代ビジネスより)
長谷川氏は、「これまで外交力が乏しかった」日本が国際社会で仲介者のような立場に立つのは、極めてまれだったと主張。その本質的な要因については
- 首脳同士が信頼し合っているからこそ、日本は米国に意見も助言もできる
- (だからこそ)イランが頼りにして、トランプ氏も首相の調整に委ねた
と述べているのです。
そのうえで長谷川氏は、安倍総理がこうした「仲介役」の大役を担うことができれば、今後は「米中貿易戦争でも影響力を発揮できる可能性がある」、というのが長谷川氏の見立てです。
おそらく、安倍総理のイラン訪問を巡って、六辻氏の論考は最も舌鋒鋭い批判の1つであり、長谷川氏の論考は最も期待を寄せているものの1つであることは間違いないでしょう。
ということは、六辻氏と長谷川氏の論考を比較すれば、それだけで安倍総理のイラン訪問の本質が、なんとなく浮かび上がって来ます。
(※余談ですが、長谷川氏の論考では、トランプ氏のふとしたツイートから「衆参ダブル選」の可能性を導き出しているのですが、長谷川氏の推理力は、これぞまさに「本物のジャーナリストの仕事」だと納得できるものです。ご興味があれば是非、リンク先記事の2ページ目を直接、ご確認ください。)
「イランは親日国」をどう解するか
ここで、両氏の議論の前提となっているのは、日本がイランと伝統的に良好な外交関係を保ってきた、という点です。
(※私の主観では、世界195ヵ国のうち、明らかな反日国とはアジアの特定3ヵ国とドイツくらいであり、そのほかの191ヵ国は親日国だと思うのですが、この点については機会があれば、別稿で議論したいと思います)。
長谷川氏の論考では、確固たる日米同盟を保持していながら、一方でイランとの良好な外交関係が存在していることが、「日本が仲介する」ことの理由だと指摘しています。しかし、これに対し六辻氏の論考では、今回のイラン仲介により、こうした「親日国」ブランドが崩れるリスクがある、と指摘します。
この点は、いずれもそのとおりです。
とくに、「もし日本が米国側に立って仲介に踏み出せば、それによってせっかくイランを含めた中東諸国、あるいは全世界の親日国からの信頼を失いかねない」との下りについては、「米国のイエスマンとなれば、諸外国からの信頼を失う」と読み替えれば、まったく正鵠を射た指摘だといえるのです。
ただし、六辻氏が読み誤っている点が1つあるとすれば、安倍総理が「米国のイエスマンかどうか」、という点です。
確かに、安倍総理はトランプ氏の訪日でかなりのおもてなしをしたのですが、トランプ氏がいうことのすべてに「イエス」と述べている、という形跡はありません。
むしろ、トランプ政権が「開かれたインド太平洋戦略」と言い始めたのは、安倍総理に感化された可能性が非常に高いともいえます。
香港紙の安倍評
それはともかく、今回の安倍総理のイラン訪問を巡っては、非常に不思議なことに、現在のところ、米紙などを見てもあまり触れられているメディアがありません。
主要メディアに掲載された記事は、トランプ氏訪日直前の先週金曜日に米ワシントンポスト(WP)に掲載された、次の速報などがありますが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などを眺めていても、関連する報道は見当たりません。
The Latest: Japan PM mulls Iran visit to mediate crisis(2019/05/24付 WPより)
なぜ米国のメディアがこれに注目していないのかはよくわかりませんが、こうしたなか、同じ「英字紙」でも、米国のメディアではなく、香港の英字紙『サウスチャイナモーニングポスト(SCMP)』に、昨日、こんな記事が掲載されていました。
Oil, nukes, Trump and North Korea on Shinzo Abe’s agenda as Japan sets date for Iran visit(2019/05/31 11:48付 SCMPより)
副題に “He will act as a go-between for Washington and Tehran” とあります。ここで “go-between” とは「仲介者」「仲人」「橋渡し役」などの意味ですので、「安倍総理は米・イランの仲介者として振る舞おうとしている」、という意味でしょう。
リンク先の記事を執筆したのは、日本に24年間在住するジュリアン・ライオール(Julian Ryall)氏(※現在は横浜市在住)です。
ライオール氏は、日本政府が安倍総理のイラン訪問の日程を暫定的に6月12日からの3日間に仮決定したとしつつ、今回の訪問が「米・イラン両国の差異を埋めるだけでなく、安倍氏がグローバルな『ステイツマン』としてのイメージを磨き上げる」効果をもたらすと述べています。
ここでいう「ステイツマン( “statesman” )」は、辞書的には「政治家」とありますが、厳密には「実力派として人々から尊敬を受ける政治家」、といったニュアンスがあります。その意味ではなかなか日本語には訳しにくい単語ですので、ここではあえて原文どおり、「ステイツマン」と呼称しています。
それはさておき、ライオール氏の見立てでは、ドナルド・J・トランプ米大統領自身が昨年のイラン制裁により却って身動きが取れなくなったとしていますが、いわば、米国の制裁の影響を受けている当事国の1つでもある日本が動くということに意味がある、ということでしょう。
そのうえでライオール氏は、イラン外相が5月中旬に訪日し、河野太郎外相と会ったことが、安倍総理のイラン訪問の伏線になり、日・イラン両国政府の間で議論が続けられ、トランプ氏の訪日中に、トランプ氏自身から事実上の「承認印」が与えられた、と述べています。
ライオール氏は日本在住ですが、日本国内にいてもこのような文章が書けるというのはなかなか凄いことです。
あえて私自身の主観で申し上げるならば、日本のメディアの報道を見ていて、長谷川幸洋氏のような読み応えのある論考を執筆するジャーナリストは少数派であり、とくに大手メディアを眺めていると、誠に失礼ながら、あまり深掘りできていない論考が山ほど掲載されているからです。
もしかすると、ライオール氏は日本のメディアの報道をあまり読んでいないからこそ、このような文章を執筆しているのかもしれませんね。
安倍総理の狙いとは?
こうしたなか、私ごときが安倍総理の「真の狙い」を示唆するのはおこがましい気もするのですが、それでも敢えて申し上げるならば、安倍総理の最大の狙いは、米国の外交における北朝鮮問題の優先順位を引き上げることにあるのではないでしょうか。
もちろん、日本にとってイランは米国の制裁前には原油の重要な供給源でしたし、また、ペルシャ湾を通るタンカーが通過するホルムズ海峡の通行の安全は、日本の国益にも直結します。このため、日本が米・イラン関係に関心を持つのは当然のことです。
しかし、むしろ安倍総理の真の狙いは、北朝鮮の核・拉致問題などの包括的解決にあります。
現在、米国の外交の優先順位は、中東でいえばイラン核合意離脱だけでなく、シリア情勢などにも振り向けられています。また、同じアジアだと、どうしても中国との貿易戦争や南シナ海での「航行の自由作戦」などに外交リソースが割かれている状況です。
そこで、安倍総理はイラン問題の棚上げを狙い、みずから仲介役を買って出たのではないか、との仮説が出て来るのです。ということは、これが成功すれば、今後、米国のほかの外交上の諸問題についても、安倍総理が米国の重荷を減らすような仲介役を積極的に買って出ることが考えられます。
こうしたなか、気になるのが今月のG20会合で、どのような首脳会談が行われるか、という論点です。
ひとつは、G20構成国でもあり、シリアと隣接するトルコと米国との関係です。次のロイターの記事によれば、米・土両国首脳は日本で会談する方針だそうですが、個人的には、この場に安倍総理が入るかどうかには注目したいところです。
トルコ・米首脳、日本で会談へ 来月G20に合わせ=当局者(2019年5月30日 02:45 付 ロイターより)
また、報道によれば、G20では日本は米国・インドをあわせた3ヵ国会談(いわゆる日米印会談)が推進されているようですが、ほかにも「自由で開かれたインド太平洋戦略」と関連し、日米豪、日米英などの3ヵ国会談が持たれる可能性もあります。
さらには、先ほどの長谷川氏の論考にもあったとおり、今月中旬のイラン訪問の結果次第では、月末のG20で日本が米中貿易戦争の仲介役を買って出る可能性も出て来ます。
安倍総理がどこまで考えているのかは私にはわかりませんし、そもそもイラン訪問が吉と出るか、姜と出るかについて、現時点で断定するのは尚早ですが、すくなくとも安倍総理の狙いはかなり深いところにあると見るべきではないかと思えてならないのです。
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日-イ外相会談などを見ていると、むしろイランの方から働きかけて来たように感じます。
イランから見て日本が最も米に近いと言う事でしょう。或いは日本が最も使い易い突破口ということでも構いません。
イランは米の最大クラスの関心事で、日本がイランと近しい事も米は承知ですから、その感触を当然安倍-トランプで話し合わなかった筈がありません。
結果、何らかの方向性が見えたからこそ総理の訪イということになったのでしょう。
なので50%以上の勝算があってのことだと思います。どういう落しどころなのかは私には判りませんが。
日本が仲介役を買ったとしても、積極的にではなく「イランからこんなこと言って来たけどどうする?」、「じゃシンゾー行ってみてくれ」くらいの話ではないでしょうか。
成らなくってもさほど傷はつかないように思いますが、どうでしょう?
米、イランともに武力衝突を避けたい意向があるが、外交チャンネル
がなく偶発的な衝突も懸念されるので、日本に仲介を依頼したという
ことかと。日本の目的は純粋に自国のエネルギー供給に対する脅威
低減でしょう。(ホルムズ海峡封鎖とか)
衝突回避のための決め事をはっきりさせた段階で、日本は手を
引くべきと思います。それだけで十分と思います。
新たな核合意形成など仲裁まではしない。
本件は、サウジとイランの中東での覇権争い、スンニvsシーアの
宗派抗争、イスラエルの存在など複雑に絡み合っているので、
部外者が深入りすべきでないと自分は考えます。仲裁までできたら
ノーベル平和賞ものですが、普通に考えたら無理でしょう、誰が
やっても。
ニューズウィークは過去何度か立ち読みでパラパラと読んだ程度ですが、中立を装ってはいますがかなり偏った内容の記事が多い印象です。例えば南京事件について「被害者の数については様々な説があるが大量虐殺があったという点については学会では定説になっている」(手元に雑誌がないので正確な引用ではないです申し訳ない)といったことを書いたりしています。今回のニューズウィークの記事を書いた六辻彰二で検索すると朝日新聞社の言論サイト論座(https://webronza.asahi.com/authors/2018091800002.html)でたくさん記事を書いているようです。これでだいたいどういう人かわかってしまいますねえ。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
たしかに安倍総理の、イランとアメリカとの関係の仲介には、大きなリ
スクがあります。しかし、(残念ながら)今日の世界情勢は、いずれにし
てもリスクを取らざるを得ない情勢のようです。このため、(韓国の文大
統領と違って、上手くいくことを保障しなければ)トランプ大統領からも
(電話会談した)サウジアラビアの皇太子からも、交渉のきっかけ作りの
ためのイラン訪問としてなら、双方からの了承を得られたと思います。
(アフガニスタンから米軍撤退をやりたがっている)トランプ大統領と
しても、(アラブ緊急首脳会議が対イラン強硬姿勢でまとめることができ
なかった)サウジアラビア皇太子にしても、第三国経由で交渉窓口ができ
ることは、決して損にはなりません。(勿論、仲介役に徹した安倍総理の
イラン訪問が、上手くいかないことも想定しているでしょう)
駄文にて失礼しました。
小生としては「長谷川氏の論考」が現実に即する点において賛成です。
まず米国の政界の構造を大概的に云うと、大統領政府と議会で議会内には共和党・民主党が存在する訳ですが、その政府、議会に重なるように財界が連なります。即ち民主党->グーグル、アップル等々、そして共和党+民主党に重なる全米ライフル協会を含む軍産複合体があります。
今回のイラン問題に関して言うと、大概的にイランは核合意に対する大きな違反もなく平穏的でっあった事とホルムズ海峡を抱える土地から来る制約から米国、軍産複合体勢力が横やりを入れたものと解釈してます。(構造的にはイラク・アフガンと同様の戦略)
これに対しトランプ大統領としては全神経を対中貿易対応に力を注ぎたいのですが、軍産複合体を敵に回すリスクを考慮し日本等に武器を買わせることで一応のリスク回避に成功している。これが米国状況です。
そしてイランとしては今回ケースでは米国の一部勢力に、はめられ様な物ですからトランプ-安倍首相ラインを突っついて日本のイランー米国間の仲介を動かしたのが今回の結果です。
そして此の仲介に関しては米国でも大きく取り上げられていません。
日本としての此の仲介でのメリットはホルムズ海峡の確保、イランに答えた実績が直接的で間接的効果は新宿会計士様の言われる、北朝鮮問題の格上げ及び対中、対韓問題への米国の対日強硬論抑え込みではと愚考します。
そして此の仲介のデメリットは、イラン側から申し込んだ経緯がある以上、直接的には軽微でありますが、軍産複合体勢力の出方次第では、また米国製兵器を買わされる可能性が高い点であると思います。
どうせ兵器を買うなら、空母運用マニュアルか論理的核爆発シュミレータの実験データを売れ位は言ってほしいとは思いますが。
更新ありがとうございます。
Newz Weekね〜。これまでの刊行物がナニ(読者の方に想像を任せます。私は偏向していると思う)だけに、六辻彰ニ氏の論考もちょっと極端だと思う。
特に文中、『日本政府関係者やメディアは「親日国」とよくつかう。イランもその中に入るが、国全体で「親日国」も「反日国」もあるはずがない』、、あるんですなぁ〜それが。シラナイノ?
北東アジア3愚連隊国を知らぬのかな?アフリカをメーンに研究されてるようだから、この際、日本を取り巻く環境も研究をお願いしたい。
更に『トランプ大統領と良い関係を結んだだけでは、世界に評価されない』(ちょっと私が意訳し過ぎですが)、、この認識も世界のスタンダードからズレてませんか?
という事で安倍総理大臣がアメリカ寄りにイランに歩みよっても、『日本の遺産を失うだけ』(正倉院?違うな)という結論がよく分かりません。
むしろ、前向きに考えたらどうですか。例えイランとの会談が難航しようが、承知の上。勿論良い結果も織り込んだ道筋も考えているだろうが。しかし、大したもんだ。緊急にイラン電撃訪問だけで騒がれる。
安倍内閣総理大臣、これが回り回って国益になると判断された。奮闘、期待しています!
NHKの記事が参考になるかもしれません…
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190516/k10011917821000.html
ワシントンポストは、イランへの対応をめぐり、トランプ大統領とボルトン大統領補佐官の間で、意見の対立があると報道しています。イランとの直接会談に意欲を見せるトランプと、『イラン・北朝鮮は絶対頃す』と公言しているボルトンとの対比を扱っています。
トランプ大統領はホワイトハウス内に内紛があるかのように報道するメディアを毛嫌いしています。
15日のツイッターでは、『フェイクニュースのワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズは、私の中東政策をめぐり内部抗争が起きていると書いているが、そんなことはない』と反論しています。
トランプ政権の特徴として、相手国を直接会談に引きずり出す前段階として、最大限の圧力をかける政策をよく採っています。ツイッターで『イランは近く対話を望むはずだ』とも述べていますから、トランプ大統領の腹はロウハニ大統領との直接会談にあるのでしょう。
その露払いとして、イランの真意を探る目的を持って安倍総理がイランに赴くのではないでしょうか?
はっきりとわかることは、安倍総理はトランプ大統領から大きな信頼を受けているということです。
なるほど、直接会談の露払いですか。それもありうるかも。
ただしトランプが会談したいのは、ロウハニ大統領ではなく
最高指導者のハメネイ師ではないでしょうか?
名無しA様へ
う~ん、ハメネイ師は前のホメイニ師と同様、シーア派の宗教的・精神的指導者としての性格が強いのですね。対して、ロウハニ大統領は世俗の指導者であり、イランの実権はロウハニ大統領にあるというのが建前になっています。
権威と権力を分立させる国権構造をイランも採用しています。
ハメネイ師との交渉は、日本との交渉において今上陛下と会見したり、イギリスとの交渉においてエリザベス2世と会見するようなものでしょう。
ロウハニ大統領との会談のついでに、ハメネイ師と会見することはあるかもしれません。
名無U様
おっしゃる通り伝統的なイスラム国家論は、世俗の指導者と
イスラム法学者の提携で成り立ち、世俗の指導者が統治者です。
しかし、イランは違うと認識してます。
イラン革命時にホメイニ師が唱えたのは、統治者(パーレビ王朝)
が正しい役割を果たさなくなったので、イスラム法学者が直接
統治するという考えで、法学者の統治論と呼ばれてます。
この考えが今も踏襲されており、大統領権限は制限されてるはず。
ロウハニ大統領が了解してもハメネイ師がダメと言ったら
進まない構造になってると理解してます。
もっともハメネイ師が外交の表に立つ場面はこれまでなかった
とも思います。
ちなみにサウジ等の湾岸王政諸国がイランを敵視する理由
の1つにこの法学者の統治論があると思います。
>そのうえで長谷川氏は、安倍総理がこうした「仲介役」の大役を担うことができれば、今後は「米中貿易戦争でも影響力を発揮できる可能性がある」、というのが長谷川氏の見立てです。
北の正恩もこれを注視してるでしょうね。
安倍首相を梃子にして、トランプと関係改善できる可能性があるかどうかと。
おっと!推敲が足りなくて「長谷川氏」が二回出てきてしまってますね…orz
やはり寝ぼけて文章を書くとロクなことがないです。
引き続き当ウェブサイトのご愛読ならびにお気軽なコメントを賜わりますよう何卒よろしくお願い申し上げます。
イラン訪問の成否や意義はともかく、
六辻氏と長谷川氏の文章を読む限りでは、交渉相手イラン側の立場に言及した六辻氏の方が説得力があります。
長谷川氏の論評は要約すれば「実に喜ばしい。成功すれば日本の外交上の重要性は増すし、北朝鮮に向けた弾みにもなる(交渉の成否には触れない)」ですが、
六辻氏の場合は「例えトランプに内々に手土産を用意させたとしても、『アメリカの意向を曲げさせた』という形を伴わなくては意味がない」というもので、イラン外相の一連の発言から見ても十分納得出来るものです。
難を言えば「アメリカとほぼ等距離の外交を取ってきたイラン、更に対中東関係にヒビが入る」という文章末尾の極論ですが、これは末尾から二つ目のパラグラフを強調するためと推測します。というより六辻氏はイラン問題自体を、核よりそちらの面から解釈したのでしょう。
ちょっと別記事にも書いたんですが、先日の日米首脳会談のFNNの記事によると、微妙な表現ではありますが、トランプ-ハメネイ会談を類推させる書き方をしています。
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【独自】米・イラン首脳会談に向け協力要請 トランプ氏が安倍首相に(FNN)
https://www.fnn.jp/posts/00418339CX
政府関係者によると、27日の日米首脳会談で、トランプ大統領はイランとの首脳会談を早期に実現したい旨の意向を表明した。
最高指導者のハメネイ師を念頭にしているという。
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FNNの信憑性は置いといて、
トランプの過去の行動を見ると、イランのトップとの会談でケリをつけるってのは、いかにも彼の望みそうなこととも思いますので、ありえるかな、と。
イランが素直にトランプ-ハメネイ会談を受けるかは未知数だと思いますが、そこが今後の腕の見せ所になるんでしょう。
少なくとも、安倍-ハメネイ会談は必要条件な気がします。
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【日米首脳共同会見詳報】(下)首相、イラン情勢「緊張状態を緩和したい」
https://www.sankei.com/politics/news/190527/plt1905270043-n2.html
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日米共同会見でのトランプの発言=認識は、
”核合意を放棄したころのイランは、あちこちのテロに関与していたが、制裁のおかげで活動は後退している。政権交代も望んでいない。オバマの合意が悪かった。”
というものなので、イランと和解する条件が整っている風情も漂わせています。
また、日米首脳会談は予定を1時間延長して行われたそうですが、その筋の方々(自民の若宮氏等)が急遽伸びたのであれば、イランについて話したのだろうと推測を述べていました。
その席には、米政権のイラン強硬派であるボルトンも同席していたようですから、あとから「聞いてないよ」とは言えないようにもなってます。下ネゴではボルトンも関与するんでしょう。
リスクは少ないと思います。失敗したって現状が続くだけですし。
成功したら、イスラエルあたりから八つ当たりがあるかな?
補足です。
仲介が成功した場合、交渉結果にもよるでしょうがせいぜいアメリカの核合意復帰で、原状復旧程度。
日本はもともと核合意を支持してたはずなんで、立場に変化はなし。
つまり成功しても失敗しても、大して日本が失うものは大してないと思います。
立場を鮮明にすることがリスクだという人もいるかもしれませんが、どうせジリ貧の日本ですから、それくらいのリスクを取って世界の荒波を乗り切る覚悟くらいないと、どっちみちダメでしょう。
米国の核合意復帰なんてやったら、サウジとイスラエルが
激オコですよ。
名無しAさん
返信ありがとうございます。
サウジとイスラエルが激オコなのはそうなんでしょうが、日本への影響はどんなもんがあり得るでしょうかね。
そこがよくわかんなくて。
所詮仲介程度なんで、なんつっても当事者はアメリカですし、日本が口を利いたくらいで合意が成立するんなら、機は熟していたってことですし、
彼らにしても、日本を徹底的に敵視するメリットってあんまりないように思います。
外交上の苦言が一言二言あったにせよ、なんか、さして大したことはできないんじゃないかと思ってるんですが。
どうなんでしょうかね?
サウジ・UAEなどを怒らせたら石油供給に支障が出そう。
イスラエル・ユダヤを怒らせたら、米国との関係も危なく
なりそう、金融関係でも支障が出そう。70年代の石油危機
の二の舞になりそう。まあ米国が核合意復帰なんてあり
えないと思ってますが。
サウジやイスラエルがイランの勢力伸長に対して
抱いている危機感は、日本の対中危機感など比べ物に
ならないくらい大きい。シリアやイエメンで戦争
してるんですから。だから不倶戴天の敵であった両者が
最近関係改善してる、パレスチナを忘れて。
一方、イランのサウジ等湾岸諸国に対する不信は相当なもの。
イラン・イラク戦争で革命つぶしを仕掛けられた恨みは深い。
深入りはハイリスクすぎます。
名無しAさん
ご回答をありがとうございます。
この件の当事者はアメリカとイランで、日本は所詮口利き仲介者ですよね。
口利きの日本を止めたからと言って、アメリカがイランと和解するつもりなんだったらどのみち止められないし、アメリカに和解するつもりがないんならそれでOKなわけです。
つまり、イスラエルやサウジが、日本をどうにかすることで、事態が変わる可能性がない。
日本に敵対的な政策を採ったとしても、メリットがないわけです。だったら、いいお得意さんの日本を敵に回すのはデメリットでしかない。
無益なことはやらないんじゃないですかねー。国民総出で「日本けしからん」になってたら別でしょうけど。
もし、日本の口利きを止めることで、アメリカを止められると判断しているなら、もうとっくにイスラエルやサウジから何等かメッセージが発されているんじゃないかと思います。(今のところそれっぽい情報を見つけられませんが)
そういや、イスラエルは再選挙。ネタニヤフの追い風になるかな?
なんちゃん
ご返事ありがとうございます。
米国を核合意離脱+制裁復活へ動かしたのが、サウジやイスラエル
なので彼らも準当事者だと思います。彼らの狙いはイランの
核開発放棄もそうですが、制裁自体でイランを封じ込めること
にもあると思ってます。だから、制裁解除につながるような仲裁
結果になったら恨まれるだろうなと。自分には第4次中東戦争や
オイルショックの記憶が強烈でして。彼らはやるときはやります
から。心配のしすぎかもしれませんが。
とりあえず来月のイラン訪問についてはサウジには了解を取った
という報道は目にした記憶があります。多分イスラエルにも
説明してると思います。
名無しAさん
ご回答をありがとうございます。
恨まれることが日本への制裁につながるかどうか、ってとこが分かれ目のようですね。
理解に至りました。
リスクの大小はどうあれ、リスクがあるのは間違いないですしね。
ありがとうございました。