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「大使館新築放棄」の続報と日本企業が強く意識すべきリスク

昨日の『朝鮮日報「日本が在韓大使館新築を事実上放棄」をどう見るか』の「続報」です。昨日時点では朝鮮日報の記事のみを根拠に、「日本大使館の新築が事実上放棄された」という話題について触れたのですが、その後、日韓双方の複数のメディアが同様の報道を行ったため、おそらくこの「在韓大使館新築事業の無期限延期」は現時点において事実なのだと考えられます。それよりも重要な点は、大使館専用の建物もろくにないような国で、いざというときに邦人保護業務に専念することができるのかどうか、韓国に進出する日本企業は今いちど、じっくりと立ち止まって考えるべきだ、ということではないかと思います。

「日本大使館の新築を放棄」報道の衝撃

昨日、『朝鮮日報「日本が在韓大使館新築を事実上放棄」をどう見るか』で、韓国メディア『朝鮮日報』が「日本が在韓大使館新築を事実上放棄した」と報じた件を紹介しました。

現在、在韓日本大使館は「建替え中」として、2015年以降、一時的に隣接する民間雑居ビルに移転していて、旧大使館ビルは取り壊され、更地の状態で雑草が伸び放題という状況にあるそうです。

しかも、これについて調べていくと、「景観地区だから高層ビルの建築は許されない」だの、「解体現場から旧朝鮮王国時代の遺構が発見された」だのといった具合に、大使館ビルの建設にあたって、韓国側からはさまざまな妨害、嫌がらせなどがあったようです。

「事なかれ主義」的な判断を下すことが多いわが国の外務省が「事実上、建設を放棄した」という報道が事実などだとすれば、日韓の水面下の交渉も含め、「あの外務省」を怒らせるほど、よっぽど酷いことが行われたと考えるのが自然でしょう。

いくつかの続報

こうしたなか、この「大使館建設白紙化」を巡っては、朝鮮日報に続き中央日報などの韓国メディアも報じたほか、夕方までに時事通信、日本経済新聞などの日本のメディアも取り上げているようです。

まず、中央日報の報道が、次の記事です。

日本、在韓大使館の新築放棄?…建築許可から4年でなかったことに(2019年04月10日10時57分付 中央日報日本語版より)

といっても、中央日報の報道記事自体は朝鮮日報のものと比べると非常に短く、また、朝鮮日報の報道と比べて、特段、新しい情報があるわけではありません。あえて独自色があるとすれば、

外交界では日本大使館前に位置する少女像と水曜集会が影響を及ぼしたとみている。また、昨年末の哨戒機レーダー照射から始まった韓日関係悪化に伴ったものという分析もある。

という中央日報なりの簡単な分析が掲載されているくらいでしょう。

一方で、日本経済新聞の記事の方は、短いなりにももう少し深く突っ込んで記載されています。

日本大使館の建て替え宙に浮く 韓国、建築許可取り消し(2019/4/10 18:00付 日本経済新聞電子版より)

日経は

関係者によると、今のところ大使館側が建築許可を再申請する予定はない

と断言しているのですが、この報道が事実ならば、大使館ビルが存在しない状況は、あと数年、いや、下手したらあと十数年単位で続く可能性がある、ということです。

これに対して同じ日本のメディアでも、時事通信の記事は、少しニュアンスが異なります。

日本大使館の建築許可取り消し=少女像問題が関連か-ソウル(2019年04月10日15時44分付 時事通信より)

日経と異なり、時事通信は

大使館関係者は「(工事については)さまざまな事情を考慮し、検討、調整していく」と説明した

と報じており、いちおう、大使館側としては着工を放棄したわけではない、という言い分が見て取れます。

ただし、この時事通信の報道が事実だとしても、今すぐ大使館新築工事が着工されるわけではないことは確かでしょう。昨日の朝鮮日報の記事だと、建築許可を再申請した場合、許可が出るまでに1年以上かかる、との情報もあったからです。

それほどの「異常事態」なのか?

さて、昨日も少し考察したのですが、韓国は「基本的価値」や「戦略的利益」を共有する相手国ではないにしろ、いま、この瞬間の日本にとっては、安全保障上は重要な国であり(※)、「日韓断交」が行われることは避けなければなりません。

(※といっても、韓国が名実ともに敵対国になりつつあることに、私たち日本国民は覚悟を固めなければならないと思いますが、この点については今後も繰り返し議論していくつもりです。)

また、日本にとっては韓国との人的・物的・金融的なつながりも深い、という事情もあります(といっても『割合で見る日韓関係 「洗濯機壊れて無理心中」聞かない理由』で述べたとおり、日本にとって韓国は「死活的に重要な国」ではありませんが…)。

いちおう、いつも紹介している日韓の人的・金融的・交易的つながりの一覧表を掲げておきましょう。

図表 日韓の人的・金融的・交易的つながり
区分 数値 情報源
①日本に入国した韓国人(2018年) 7,538,986人 日本政府観光局(JNTO)
②韓国に入国した日本人(2018年) 2,948,527人 韓国観光公社
③日韓の往来の合計(2018年) 10,487,513人 ①+②
④日本から韓国への与信(2018年9月) 58,606百万ドル BIS最終リスクベース統計
⑤日本から韓国への直接投資(2017年12月) 36,883百万ドル JETRO『直接投資統計』
⑥韓国から日本への直接投資(2017年12月) 4,067百万ドル JETRO『直接投資統計』
⑦日本から韓国への輸出(2018年) 54,605百万ドル JETRO基礎データ
⑧韓国から日本への輸出(2018年) 30,529百万ドル JETRO基礎データ
⑨日韓貿易総額 85,134百万ドル ⑦+⑧
⑩日本の対韓貿易黒字額 24,076百万ドル ⑦-⑧
⑪韓国に在住する日本人永住者 8,906人 外務省『海外在留邦人数調査統計
⑫韓国に在住する日本人長期滞在者 27,821人 外務省『海外在留邦人数調査統計

(【出所】図表中「情報源」欄参照)

このような状況に照らすならば、日本大使館がいつまでも「仮住まい」であることは望ましくありません。

しかし、日本側がそれなりの設備を整えた大使館の建設をしようとしたところ、韓国側からさまざまな妨害、嫌がらせを受けたという事実に照らすと、現在の場所に大使館を再建するのをひとまずストップする、という判断は正解でしょう。

なにより、中途半端な高さのビルしか建てられないのであれば、新大使館の収容力も限られてしまいます。朝鮮半島有事の際に、永住者、長期滞在者(上記⑪、⑫)のうち何割かが日本大使館の敷地に避難して来る可能性もあるわけですから、改めて仕切り直しにするのは正解です。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

それよりも、みずからの意思で永住する方々もさることながら、企業の都合などで長期滞在されている日本人については、その生命と財産をどうやって守るのか、日本という国全体で考えるべきときでしょう。

実は、「大使館の建物が新築できない状況にある」ということ自体、韓国に進出している日本企業に対する重要なメッセージとなります。要するに、自称元徴用工らが相次いで起こしている「徴用工訴訟」とともに、日本企業にとっては「サウス・コリア・リスク」のマネージメントがきわめて大事になった、ということです。

このように申し上げると、企業によっては「政治と経済は別だ」といった反論が出てくるかもしれません。

しかし、今から20年以上前に、南米のペルーで発生した日本大使館襲撃事件では、大使とともに多くの日本の民間人も人質となったという事実を忘れてはなりませんし、今から30年以上前に、フィリピンでは日本人ビジネスマンの誘拐事件も発生しています。

さらに、中国では日本人ビジネスマンが不当に当局に拘束される事件も発生していますし、2012年の大規模な反日デモでは、現地に進出している日本企業や日本の個人にも大きな被害が生じた記憶は生々しいのではないでしょうか。

いずれにせよ、当たり前のことですが、日本企業はカントリーリスクを厳密に査定し続けなければなりませんし、リスクマネジメントの観点からも、朝鮮半島特有の反日リスクを無視してはなりません。

ましてや、大使館の民間ビルへの仮住まいが恒久的になりつつあるような国で、本国との暗号通信もままならないなか、まともな邦人保護活動が期待できるのか、もう1度じっくりと考えてみるべきではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (19)

  • >ペルーで発生した日本大使館襲撃事件

    微妙に違うので。

    ×大使館
    ○大使公邸

  • こんな事を投稿してもよいか、迷ったのですが、あまりにも面白く黙っていられませんでした。

    「ムン・ジェイン大統領の訪米のニュースを伝え聯合ニュースTVは、ムン大統領の写真の下に、北朝鮮国旗を配置した画像を表示して・・・」
    https://news.naver.com/main/ranking/read.nhn?mid=etc&sid1=111&rankingType=popular_day&oid=032&aid=0002933806&date=20190410&type=1&rankingSeq=2&rankingSectionId=103

    青瓦台からは、きつい罰が下されるでしょう。
    もしかして、韓国メディアは、間違ったのではなく、確信犯だったのかもしれません。そうだとしたら、韓国も少しづつ壊れていってる・

    • 上映する映画に何コマか「コカ・コーラ」の画像を密かに紛れ込ませておくと、映画の休憩時間にコーラの売り上げが増える。昔まことしやかにそんなことが語られたことがあります。「サブリミナル」効果というやつです。これは一種のサブリミナル(全然「密かに」じゃないw)な北朝鮮マーケティングでしょう。

      暑さ寒さも、辛いことや痛いことも、少量から始めて徐々に量を増やし投与間隔も狭めて行く。馴化により閾値はどんどん上がっていきます。いわゆる茹でガエル状態を企図しているのでしょう。もちろん青瓦台が意図的に仕組んだことです。

    • 以前トルコの殺人事件で(トルコの)TVニュースが、文大統領の写真を殺人犯として流した事がありましたよね笑

  • 毎日の更新ありがとうございます。

    大使館を建て替えること凍結する理由一覧を思いつくままに
    1)断交する
    2)赤化統一される
    3)ソウルが火の海になる。
    4)捏造戦時売春婦像をどかすまで

    相当な嫌がらせを受けているようなので、少なくとも 従北工作員男福島瑞穂政権のうちは着工する必要はないですね。 かまってちゃんの騒音婆クレーマーおかわり乞食は無視されるのが一番効くみたいです。

  •  小生の場合は一会社員として働いており、家族もいないので大使館を利用することは殆どありません。パスポートもあと5年以上持ちますので、余程のことがなり限り在韓日本大使館には行かない可能性が高いです。しかし、家族を伴っていらっしゃる方や経営者の方等は必要な書類や子供の教科書等で大使館を訪れる人が少なくないでしょう。日本人の多くがソウル市とその近郊に住んでいると思われますので、在韓日本人の方々にはソウルにあるほうが便利なのかも知れません。

     小生は在韓日本大使館は世宗市に建てるのが望ましいと思います。それはいくつか理由があります。まず韓国の第二庁舎があります。また、人口密集地ではないので地価が安く、広大な敷地が確保できます。さらに有事の際にはソウルから大分距離があり、地理上では韓国のほぼ中心にありますので非難する際にも何かと便利だと思います(ソウルからKTXで45分ぐらいです)。最後に空港が近くの清州にあり、民間航空機を使ってすぐに脱出することも可能かと思います。難点は近隣に米軍基地がないことと、新興都市であるため空き地が多く、移動には自動車が必須である事です。

     駄文にて失礼します

    • 日本大使館をソウルから移転するとなると、ソウル駐在の日本人駐在者の利便性もさることながら、ソウル市民が「日本を追い出した!我々は日本に勝った!」と快哉を叫び、移転先の市民が「日本国大使館来るな!」と反対運動を起こし、移転先の自治体が土地の提供を拒み、結局移転できないように思いますが、いかがでしょうか?

      • 匿名 様

         レス有難うございます。

         >ソウル市民が「日本を追い出した!我々は日本に勝った!」と快哉を叫び、移転先の市民が「日本国大使館来るな!」と反対運動を起こし、移転先の自治体が土地の提供を拒み、結局移転できないように思いますが、いかがでしょうか?

         その可能性は否定できません。ただ、世宗市はソウルと異なって、発展途上のド田舎です。そこまで出かけて騒ぐ可能性は無きにしも非ずですが(何せ想像を上回る人が多いですから)、ソウルの方がこのような嫌がらせを受ける確率が高いと思います。現状のままソウルで建設に着手しても同様な反対運動が起こるでしょう。ただ、ソウルよりは静かになると思いますが確約は出来ません。

         それから世宗市と聞くと、韓国に詳しい人は世宗大学の朴裕河(パク・ユハ)を思い浮かべる方がいらっしゃるかも知れませんが、世宗大学はソウル市にあり世宗市とは全く関係ありません。世宗市が出来たのは2012年で世宗大学は1940年の創立になります。

         駄文にて失礼します

  • 皆様へ

    まず、この記事とは関連をもたない内容を書き込むことをお詫びいたします。

    興味深いコメントを投稿をするコメント主様を見かけましたので、是非、お知らせいたしたく、書き込みさせていただきました。
    https://shinjukuacc.com/20190409-04/comment-page-1/#comment-29428

    このコメント主様から「お勉強」を賜ることにより、日朝韓問題における皆様の理解が深まるのではないかと、ご提案させていただきます。

    【コメント抜粋】
    >竹島は日本が実行支配のルールを知らなかったからです。日本の平和ボケですね。
    >いくら領土を主張しても、実効支配したもん勝ちなんですよね。現実は。
    >領土問題は、主張なんて何の意味もなさない。
    >実効支配ってわからなければそっから勉強を。

    >いずれも軍事力で脅して放棄させたわけではありませんよ。

    >南アフリカ=勝手に放棄
    >リビア=交渉により放棄

    以上

    • 日本人は竹島の「実行」支配を勉強すべき?ついに韓国人登場?さんへ。

      スルー推奨。以上。

    • しばらく「お勉強」されてから、また登場なさるのではないですか。

  • 新宿会計士様、こんにちは。
    毎日楽しく読ませていただいてます。
    このところの隣国の振る舞いには呆れてしまうの一言です。大使館の新築が滞っているのは、ご指摘の通り妨害工作が働いているのではと勘ぐってしまいます。

    本日、朝鮮日報に興味深い記事が出ました。
    「1-3月の韓国国債発行額、過去最高48兆5227億ウォン」
    http://www.chosunonline.com/m/svc/article.html?contid=2019041180022
    私の稚拙な知識では解釈するのが難しく、ネットで調べてみたのですが…
    解りやすく解説されている方の記事を見つけましたので、一応ソースを貼っておきます。

    第47話・なぜ韓国は必ず破滅するのか?(前編) ←一次所得のバランスが圧倒的に悪いから
    https://kakuyomu.jp/works/1177354054884987864/episodes/1177354054886542064

    日本が制裁に動かなくても、韓国は自ら命を断ってしまう予感がします。が、韓国国債を日本の銀行が買い支えている可能性はあるのでしょうか。

    駄文にて失礼します。
    以上

  • 何度か書いていますが、大使館跡地の基礎工事を途中まで行って、わざわざ埋め戻しを2016年にしています。
    大使館建設の延期はこの時点でなんらかの判断で決定されていたと思われます。
    2015年と言えばオバマに言われて屈辱的な慰安婦合意を結ばされた年でしたが、面従腹背だったのでしょうか。

    一応、在外大使館整備という比較的大きな額の予算はさすがに一般予算に計上されているのですが、ここ数年の予算に「在韓国大使館」の項目が確かにありません。他の国は多数計上されています。

    でもって昨日の会見

    https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken6_000031.html

    在韓国大使館建築工事
    【朝日新聞 竹下記者】ソウルの日本大使館の関係でお尋ねします。現在,新築計画が進んでいると思いますが,一部,韓国メディアの報道で,建築許可が取り消されているという話が出ておりますけれども,事実関係と今の新築計画の現状についてお尋ねします。

    【大菅外務報道官】韓国での報道については承知しております。在韓国日本大使館事務所の建築につきましては,検討・調整中でありますが,その計画,関連の行政手続きの詳細について述べることは差し控えたいと思います。

    【朝日新聞 竹下記者】現在,検討・調整中ということですが,計画が進んではいない状況だと思いますが,その理由についてお尋ねできればと思います。

    【大菅外務報道官】いずれにしましても,大使館の建築という行政機関内部での検討に関わることですので,差し控えたいと思います。
    ----------------------------------------------------------

    大菅外務報道官 「言わんせんな恥ずかしい」

  • 日本が韓国の大使館の新築を放棄したのは、

    今後大使館に対する、韓国人と脱北者の駆け込みを防止して、
    この問題に深入りしないようにする、意思表示と思われます。

    日本人は現在の大使館と釜山の領事館で対処するとして、
    今空き地となっている場所が、日本の領土なら不法侵入者を
    退去されることを考えなくてはなりませんが、

    空き地なので、保護することも出来ません。

    要するに有事の際には、朝鮮人保護はしないとの暗示なのでしょう。

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