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韓国政府・国防部の動画をどう見るか?

ここまで来れば、もう日韓両国は「全面衝突」の様相を呈して来たと言っても差し支えないでしょう。昨年12月20日に発生した「火器レーダー照射事件」を巡り、韓国政府・国防部が全面的に日本の主張に反論する動画をアップロードしたからです。ただ、ご覧いただいた方ならわかると思いますが、韓国が主張する内容(日本の海自機が危険な威嚇飛行を行った、など)については、別に決定的な瞬間が収められているわけでもありませんし、日本の防衛省が以前公表した動画に対する反論も盛り込まれていません。これで「反論した」気になっているならばお笑いですが、それと同時に今回の事件は、まさに日韓外交が「密室」から完全に脱却したという意味で歓迎すべきことでもあります。

韓国政府の動画の内容

これはもう「全面衝突」の様相を呈して来ました。

先ほど『【速報】韓国政府が動画を公表』で申し上げたとおり、韓国政府・国防部は昨年12月20日に発生したとされる「火器レーダー照射事件」に関する動画を作成し、本日、動画サイト『YouTube』にアップロードしたからです。

残念ながら、現時点で視聴可能な動画は韓国語版のみですが、動画に記載されていた翻訳コメントをベースに私が手直しすると、だいたい次のような内容が書かれていたそうです。

記事タイトル『【国防部】日本は人道主義的構造作戦妨害を謝罪し、実際に歪みを直ちに中断せよ』

(冒頭・国防部報道官の発言)日韓間の誤解と紛争を解決し、国防分野での協力関係を模索しようという次元で実務会議を開催したにもかかわらず、そのわずか1日後に日本測が映像を公開したことに対して深い憂慮を表明する。何度も強調しているとおり、軍艦「広開土大王」は正常な救助活動中であったし、韓国海軍が日本測の哨戒機に火器管制レーダー(STIR)を照射しなかった事実は変わらない。

(動画字幕)大韓民国海軍が尋ねる。/日本海上自衛隊の目的はなんだろうか。

【2018年12月20日午後3時ごろ、東海海上】広開土大王艦は漂流していた北朝鮮の遭難した船舶に人道主義的な救助作戦を行っていた。人道的な救助作戦が進んでいた頃、日本の哨戒機が低高度で近づいてきた。

1.日本の哨戒機は何故人道的な救い活動の現場で脅威的な低高度飛行をしたのか?

日本の哨戒機は広開土大王艦上の150m、距離500mまで接近した。

艦艇の乗務員が騒音や振動を強く感じるくらいに脅威的だった。

日本が公開した動画を見れば、哨戒機も救助活動をしていたというところを認知していた。

人道主義的な救助活動を行っていた艦艇に非紳士的な偵察活動を続け、広開土大王艦の救助作戦に邪魔になる深刻な脅威行為をした。相互間に偶発的な衝突が起きる可能性があるので武装した軍用機が他国の軍艦に低空脅威飛行をしてはならない。日本の哨戒機はなぜ我々の軍艦の上で脅威飛行をしていたのか。

日本は答えるべきだ。

2.日本が国際法を遵守したと言われるが、本当に事実だろうか?

日本が哨戒機が国際法を守ったということを証明するために、防衛省のホームページがアップした資料を調べてみると、国際民間航空協約と日本航の空法の施行規則を引用した。当時、哨戒機の飛行高度(150メートル)は国際法にとっては問題ないと主張する。資料のソースは国際民間航空機関(ICAO)の国際民間航空協約付属書類(Annex)2-4に高度150m以下の有視界飛行を禁じる条項がある。しかし、この項目は民航機を目指して作ってあるもので、軍用機には適用できない。

つまり、日本測は国際法を自分に有利に再解釈しているのだ。

3.広開土大王艦は日本の哨戒機に向けて火器管制レーダー(STIR)を照射した事実はない

当時、広開土大王艦は人道主義的な次元での遭難船舶の救助活動を行うための探索レーダーだけ運用していた。日本測が公開した動画ではレーダーの電波を探知したと主張しながらも相変わらず軍艦の周りで飛行した。日本が公開した動画によると、日本の哨戒機は低高度飛行をしつつ、広開土大王艦の武装(艦砲)が「自分たちに向いていない」と攻撃の意図が無かったということも確かめた。もし、広開土大王艦が哨戒機に追跡レーダーを照射したとしたら、哨戒機は直ちに回避機動をしなければならなかった。しかし、軍艦の周りにまた近づく常識外の行動を取った。

日本はどうしてそうしたのだろうか。日本は答えるべきだ。

4.日本の哨戒機の通信内容は明らかに聞こえなかった

日本測がトライした通信は雑音が酷くて広開土大王艦には明確に聞こえなかった。それに、哨戒機が通信をトライした時点は既に救い作戦現場の上空から非常に離れていた後だった。

我々の海軍は友好国の海上哨戒機になんの脅威行為を取らなかった。

万一、日本測が主張している追跡レーダーの証拠資料(電磁波の情報)があるなら両国間の実務会議で提示すればいいだろう。

人道主義的な救助活動中であった我々の艦艇に対して脅威的な低高度飛行をしたことについて謝るべきなのだ。

日本はこの事案を政治的に利用しないで実務会議を通じて事実確認手続きに入らないとならない。

ー以上、大韓民国国防部ー

これをどう考えるべきか?

ただ、反論と言いながら、動画自体は日本側が公表したものなどに韓国語の字幕を付けただけの代物であり、肝心の「威嚇飛行をしていた決定的証拠」は含まれていません。

当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』に先ほど掲載した記事にも、「動画としての質は非常に低い」というコメントを頂きましたが、私もその見解にはまったく同意します。

ちなみに、これに関して韓国国防部は「正確な事実を知ってもらうために動画を公開した」と言い張っているようですが(次の記事参照)、それにしては、この動画が「反論」としてまったく機能していない点については、どう考えれば良いのでしょうか?

韓国国防部「レーダー葛藤、正確な事実を知ってもらうために反論映像公開」(2019年01月04日14時37分付 中央日報日本語版より)

中央日報によれば韓国国防部の報道官は

もう一度明らかにするが、日本はこれ以上事実を歪曲する行為を中断して人道的救助活動中だった我が艦艇に対して威嚇的な低空飛行を行った行為に対して謝るべきだ

と述べていますが、この場合、客観的に見て事実を歪曲しているのはどう考えても韓国の方でしょう。これを全世界の人がどう判断するかは見物です。

それはさておき、もう1つ重要な点があるとすれば、日韓関係が「完全に密室外交を脱した」という点でしょう。

今までだと、日韓両国政府の外交官らが密室で今後の方針を決めていたのが、今や、一般人が視聴できるプラットフォームでお互いに堂々と主張をぶつけ合うような関係になった、ということです。私はこの点を心から歓迎したいと思います。

「日米韓3ヵ国連携」は実質崩壊へ

あと、どうでも良いことですが、最近の韓国政府は、自らが発信したウソを糊塗しようとして、どんどんと自分で自分の立場を悪化させているようにしか見えません。

日本の自衛隊や、日本の同盟国である米国にとっては、少なくとも火器管制レーダーを向けてくるような相手国を「友邦」とはみなさないことは間違いないでしょうし、その国の軍隊を「友軍」と見るはずがありません。

よって、少なくとも安倍総理らが提唱する「日米韓3ヵ国連携」という枠組みは、事実上、崩壊したと考えて良いでしょう。

ただし、そのことが必ずしも日本、韓国にとって良いことであるとは限りません。むしろ、共通の敵である北朝鮮や中国などを利することになりかねないという点については注意が必要です(もっとも、私個人的には、たとえ中国や北朝鮮を利することになったとしても、火器管制レーダーを向けてくるような国との安保協力が機能するとは考えるべきではないと思っていますが…)。

いずれにせよ、本件を受けて、再び日本政府側が何らかの反論を加えるのかどうか、注目したいところです。

新宿会計士:

View Comments (36)

  • 思いっきり韓国側の解釈を好意的に受け取るとすれば、
    1、捜索のため、全ての(捜索用)レーダーを稼働させた。
    2、150mの高度制限は民間機用のものであって軍機には適用されない。脅威と思えば脅威になる。
    3、EEZは経済的な管轄権のみが許可されているだけの海で、領海とは異なる。
    4、無線に応答しなかったのはP1が距離が離れておりノイズが酷く英語も下手で聞き取れなかった。

    まあそれでも、旗の問題や、韓国側からの無線連絡がない理由、天候の嘘をついた理由など問題点はあるんですけどね。

    これ以上の情報開示に防衛省が踏み切ってくれるのかを、どうしても心配してしまいます。

    • 軍用機には適用されないとは、軍用機はそれ以下の高度を飛行しても良いと言う意味なのでは?

      軍用機が守るべき高度規則があるならそれを提示すれば良いだけのこと。

      彼らにできる事は国内向けに限られますね。哀れなり

  • レーダー照射事件についての疑問点
    海自の映像を見ると天候は良くベタ凪で雲量1で波も1メートル程度である。海面には北朝鮮と見られる小さな木造漁船1隻とゴムボート2つ、小型海上警備船1隻及び広開土王級駆逐艦1隻が並んで写っている。駆逐艦にはヘリコプタが搭載出来るが甲板にはなく、格納庫にも無いことが確認されている。
    さて疑問点
    1.木造漁船は電波を通すので捜索するには、レーダーは不向きでヘリコプタで探す方が速いし、確実である。しかし駆逐艦のヘリコプタは最初から搭載されていなかった。
    2.漁船の遭難に対する救助作戦ならば、漁船から救難信号が出されているはずだが、海保が受信した形跡はない、受信していれば当然駆けつけて救助しているはずである。海保に届かず本国に届いたと?
    3.低空飛行で危険な目にあったといいながら無線で呼びかけをしていない。というか一切電波を出していない。無線封止をしているとしか思えない。
    4.雷が鳴っている訳でもなく、天候も良い気象条件では対航空機とでは相当離れても良好に受信できるはずで、雑音が多いだの、聞き取りにくいとは受信機が悪いとしか思えない。
    そうすると
    漁船と海上警備船と駆逐艦はあらかじめ予定されていた時刻と海域で邂逅したに違いない。救助作戦など無かった訳だ。たぶん、艦旗も国旗も掲げていない軍艦が無線封止したまま航行しているのを海保か海自が見つけ通報し、確かめるためP-1哨戒機が飛んできたのが真相ではなかろうか。

    • オールドプログラマ 様

      1.ヘリは最初から搭載されてなかったのではなく、活用した後海域から離脱させたものかと。でなければ稀少なヘリ搭載海警艦を使う必要は無いですし。
      …そうだとすれば、足の短さで評判のスーパーリンクスをわざわざ離脱させねばならない事態とは何でしょうね?

      2.防衛省の音声では、確か海軍駆逐艦や海警艦「の方を」把握していなかった様子が見られます。海自は寧ろ、北朝鮮船或いは公開されていない別の船を目当てにP-1を当該海域へと飛ばした可能性があります。

      以上の点から、個人的には
      「今回の海域とは離れた地点で、北朝鮮船とヘリコプターが遭遇。武力制圧後に今回の海域に誘導した上で、海域から離脱した」と考えています。だからこそ交戦痕跡の残るヘリや北朝鮮船は、ロックオンしてでもP-1に近接撮影されたくなかったのではないかと。

      瀬取りや核物質取引ならば、別にP-1に撮影させても後でバックレられます。北の要人捕縛を目的とした武力行動でも、EEZでは慎む事が義務とはされていますが、まだ韓国側に反論の余地があるかと。

      …漁船とヘリの遭遇地点、及び北朝鮮船とP-1のランデブー予定海域が、実は日本領海だったのではないですかね。

    • 単純な質問ですが、

      >駆逐艦にはヘリコプタが搭載出来るが甲板にはなく、格納庫にも無いことが確認されている。

      格納庫内にもなかったというのはどこ情報でしょうか。
      「事件」の正確な場所は未だ公開されていないんですが仮に大和堆だとしても簡単にヘリを帰せる距離じゃないんですよね。

      あと画像では見えにくかったが旗は上げていたんじゃないか?という意見があります。
      特に旗を降ろしたところで艦種からバレバレなので隠す意味はないですし。

      • 海自P-1映像の1:00辺りの発言ですね。
        なお、画像見る限りでは格納庫の中身まで確認できるのは駆逐艦で、海警艦の方は格納庫のシャッターが降りているようです。

        • なるほど、それなら、「なぜいないか」が大変気になりますね。
          WARS5001の方には最速50ノットを誇る高速艇が装備されているので、「北朝鮮漁船」を拿捕するには、ヘリが仮になかったとしても必然性が残った(あるいは本来任務の上で正当性がある)のですが、ヘリのないKD-1がわざわざ出張る必然性が減ります(駄洒落じゃありませんw)。わざわざ帰す必要も想定できませんし隠すだけなら格納庫に入れるだけでいいですし。
          捜索にレーダー・・・うーーん。
          あとは、「北朝鮮漁船」が不審船仕様だった場合、WARS5001の火力(20mm機関砲)では制圧が難しかったとかかなあ。
          日本が引き上げた不審船には対空機関砲やら歩兵用携帯対空ミサイルがあったそうですから。

          ただKD-1のヘリがいない理由は、単に整備不良で最初から載せられていなかった、なんて馬鹿な理由もあり得るのが韓国軍w

          • りょうちん 様

            いつもコメントありがとうございます。
            せっかくコメントを頂いていたのに、スパム判定プラグインの誤作動により、スパムに振り分けられてしまっていましたので、あとの方のコメントを復活させております。

            他の方のコメントも含め、まったく問題がないコメントが勝手にスパムに判定されるエラーが週に数回は発生しております。
            ご迷惑をおかけしましたことを深くおわび申し上げます。本当に申し訳ございませんでした。

            引き続きのご愛読とお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

        • いたしかたないことかと思いますが、SPAM判定された場合、投稿者にそれがわかるような仕組は必要な気がします。
          二重投稿をしてしまわないか心配になります。

  • 確実に追い込める案件なのに外務省の弱腰が気になる。
    米朝間の事案と関連させてタイミング計ってるような気がしてならない。

  • 話にならない

    これは全く 泥沼そのもの

    相手にするから いかん
    極力エネルギーを節約しながら対応するのが望ましいと思います
    これまで投入したエネルギーは諦めるのが正解

  • あまりこの件、興味無いのですが…

    0:45辺りに出て来る、漁船のそばのクルーザーは何?
    確かあの周辺には、件の海軍駆逐艦と海警艦、漁船とゴムボートらしき海警艦搭載の小型艇2隻だけではなかったかと。

    • >0:45辺りに出て来る、漁船のそばのクルーザーは何?
      >確かあの周辺には、件の海軍駆逐艦と海警艦、漁船とゴムボートらしき海警艦搭載の小型艇2隻だけではなかったかと。

      防衛省のビデオのキャプションでは「搭載艇」と推測されていますが、軽量化のためにFRP船体に対衝撃用にゴムで辺縁を囲ったもので、最高速50ノットの高速艇とはまさにそれです。
      こちらに写真があります。
      https://www6.atwiki.jp/namacha/pages/192.html
      https://img.atwikiimg.com/www6.atwiki.jp/namacha/attach/192/846/5001_10.jpg

      上から見るとゴムボートに誤解してしまうのはしょうが無い構造ではあるのですが。

        • あとSEALsやSBSなんかの特殊部隊なんかが使う硬質ゴムのインフレータブル船体に高出力の船外機を付けたZodiac boatもいわゆるゴムボートのイメージを超えた性能を示しますが、この場合は搭載艇ではなくて備品扱いになっていると思われます。

        • りょうちん 様

          詳細ありがとうございます。

          ところで韓国側の冒頭映像、違和感ありませんか?

          P-1からの映像だと、二隻の高速艇は北朝鮮船の前後を包囲・拿捕するポジションについてますが、韓国側映像の高速艇の位置だと、北朝鮮船が容易に逃亡可能な状態になっています。
          韓国側が主張する海難救助のポジションにも、瀬取りのための接舷アプローチ中にも見えません。

          一体、韓国側の映像では、高速艇は何をしようとしているのでしょうか。

        • シンプルに既に乗員を「確保済み」だったのではないかと。
          そんなタイミングでちょうどP-1がやってきたので、何が何でも接近して写真を撮られたくなくてレーダー照射というストーリーはどうでしょうか。

  • >再び日本政府側が何らかの反論を加えるのかどうか、注目したいところです。

    韓国がこんな動画を出してきたのに、それで手打ちにするようでは今の政府に日本は任せられませんね。
    国民として自国政府の次の手を厳しい目で見ていたいと思います。

  • 5月の新天皇即位には祝辞は出せない。6月のG20でも居場所なし。
    東京オリンピック開会式にも招待されないのかな。 されても出れるのか?

  • まとめサイトの所を貼るのも申し訳ないのですが2ちゃんの住人が画像の加工を看破しました。
    まぁその……余りにも呆気なく画像の元ネタ探しから加工まで終わらせたので住人の能力の高さを感じた1日になりました……あそこの住人怖い。

    http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1986107.html

  • 募集工の件とレーダーの件は両成敗に持っていくのは勘弁。
    ここでなあなあに密室協議で終わらせるようならガッカリする。
    明らかに相手が悪い案件なのに、こっちに一切非が無いのに。
    絶対に忖度してほしくない。

  • この事件は、本当相手のやり口、態度が腹立つと感じてます。
    勿論最初から良識ある行動は期待してないが。
    ただ一つだけ国民として良い機会だと感じるのは、こんな時に何ら発言できない政党、国会議員は信用出来ないということが判別できることですね。
    当事者の政府や防衛省もここで国民が納得できる仕事できれば評価されるし、信用に値する組織であることを示して欲しい。

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