昨日、『徴用工差押え報道が事実なら、政府は速やかに対抗措置講じよ』でも少しだけ触れたのですが、韓国側で新日鐵住金に対する株式持分の差押えという動きが出ている点については、考えてみればやはり不自然です。というのも、合弁会社の株式を差し押さえたとしても、換金処分するためにはそれなりのコストが必要だからであり、下手をすれば自称元徴用工らにとっては損害賠償金(約1000万円)を超える負担が出て来てしまうからです。このことから私は、今回の動きについても実質的に新日鐵住金の資産を差し押さえるというよりは、むしろ同社を困らせて交渉のテーブルに着かせようとする「ブラフ」だと考えているのです。
目次
やっぱり不自然な差押え
自称元徴用工の差押えに関する続報
韓国側で新日鐵住金の在韓資産に対する差押え手続が始まったらしい、という話題については、昨日の『徴用工差押え報道が事実なら、政府は速やかに対抗措置講じよ』で「速報」的に触れました。
そして、この話題は昨日、わが国のメディア・時事通信からも、続報が出ています。
差し押さえ手続き着手=新日鉄住金の韓国内資産-徴用工訴訟原告(2019/01/02-20:37付 時事通信より)
この時事通信の報道内容も、昨日紹介した朝鮮日報など韓国メディアの内容と似ています。あえて新しい情報を示すと、原告側の代理人が「新日鐵住金は判決の履行に誠意を示していない」、「日本政府は判決に従わないよう(新日鐵住金に)圧力を掛けている」と述べた、という情報が加わったくらいでしょうか。
また、新日鐵住金とポスコの合弁リサイクル会社「ポスコ・ニッポン・スティールRHFジョイントベンチャー」(PNR)の株式だと記載されていますが、この点も昨日の韓国メディアの報道と同様でしょう。
「11億円分の株式」は間違いだと思いますよ
ただ、時事通信の記事には、少し勘違いが含まれているように思えてなりません。というのも、時事通信の記事の中には、次の下りが出てくるからです。
「差し押さえ申請の対象資産は、新日鉄住金が韓国鉄鋼大手ポスコと合弁で設立したリサイクル会社PNRの株式。新日鉄住金は約234万株を保有しており、推定で総額約110億ウォン(約11億円)相当。」
時事通信さんには申し訳ないのですがこの「約11億円」とは、「株式の価値」のことではなく、「額面株式」のことを指しているのではないかと思います。
この「額面株式」は、現在の日本の会社法には存在しない概念ですが、簡単にいえば、株式を発行したときに資本金に組み込む金額のことであり、「株式の価値」のことではありません。したがって、この下りについては、おそらくは時事通信の記者の勘違いでしょう。
これについて私自身、昨日の記事を執筆した時点で、次のように申し上げました。
「私は韓国の会社法には詳しくないのですが、確か韓国の六法は日本の六法の丸写しだったはずであり、その記憶が確かなら、おそらく韓国の会社法は日本の旧商法の制度をそのまま使っているはずです。」
その後、韓国政府が運営する『国家法令情報センター(※韓国語)』のウェブサイトから「商法(상법)」と検索し、それを翻訳エンジンにより日本語に置き換えてみたところ、私の予想どおり、章立てから条文内容までほぼ丸ごと日本の商法のコピーだと判明しました。
ただし、日韓の商法の違いは、「会社編」があるかどうか、という点にあります。日本では、もともと会社に関する規定は商法に置かれていましたが、2005年(平成17年)に「会社法」が成立したことに伴い、商法から「第二編(会社)」の規定が丸ごと削除されました。
しかし、逆に言えば、韓国の商法には「会社編」が丸々残っており、その規定内容が、わが国の2005年改正前の商法とほぼ同じだ、ということでもあります。
あくまでも私の予想ですが、ここでいう約234万株、110億ウォンという金額については、ざっくりと額面50万ウォン(約5万円)のことではないでしょうか?
(※ちなみに、法曹関係者や公認会計士などの専門家であっても、最近の司法試験や公認会計士試験に合格した人の場合だと、おそらく「額面株式」という単語自体を知らないのだと思います。その意味で時事通信の記者の勉強不足を責めるのは酷だといえるかもしれません。)
譲渡制限付きの株式の価格算定は困難
問題はこれだけではありません。
上場会社の場合だと、株式は証券取引所などで自由に売買され、日々、時価が成立していることが一般的ですが、非上場会社の場合だと、株式を売買するときの価格を決定することは困難です。
たとえば、先ほどの時事通信の記事には「234万株、110億ウォン」という下りが出て来ましたが、私の仮説が正しければ、この「110億ウォン」は単なる「額面」を指しているのであり、「時価」ではありません。なぜなら、会社は成立した瞬間以降、事業を営むことにより、会社財産は日々刻々と変化していくからです。
そして、額面110億ウォンの株式は、その会社が利益を上げていけば純資産ベースで200億ウォンにも300億ウォンにも膨らむかもしれませんし、逆にその会社の事業がうまくいかなければ、50億ウォン、10億ウォン、と、帳簿価額を割り込む可能性もあります。
(※余談ですが、金融商品会計上は株式発行会社の財務諸表をベースにして「1株当たり純資産」を割り出し、減損の要否を判定する必要があるのですが、わが国の場合だと非上場株式は1株当たり純資産が帳簿価額を50%以上下回った場合には減損処理が必要とされています。)
これに加えて「譲渡制限」という論点も重要です。
一般に合弁会社の場合には「株式の譲渡制限」が付されていることが一般的です。これは、上場会社と違って、非上場会社の場合は「誰が株主になっても良い」というものではないからです。よって、このような株式を裁判で差し押さえたとしても、競売をすることは非常に困難です。
実務上は検査役を任命して株式の価値を算定させ、その金額で株式を会社に買い取らせる(あるいは会社が指定する第三者に転売する)という方法を取らざるを得ません。
おそらく、今回のPNR社の場合も、差し押さえてもそれを換金するまではかなりの時間と労力が必要であり、場合によっては原告側の自称元徴用工に対する損害賠償額(約1000万円)をはるかに超えるコストが掛かってしまうかもしれません。
このように考えていくと、なぜ原告側がわざわざ換金処分が困難な合弁会社の株式の差し押さえに踏み切ろうとしているのか、私には少々理解できない部分もあるのです。
単なるポーズに過ぎない
「まだ換金していない」の屁理屈
よって、今回の自称元徴用工側のアクションについて、私は、「単なるポーズだ」と考えています。
先ほど引用した時事通信の記事では、「日本政府関係者は『申し立てと差し押さえには時間的な差がある』(と述べた)」とする記述があるのですが、「時間的な差」どころではありません。実務的には換金処分のためのコストが1人あたり1000万円をはるかに超える可能性があり、非現実的だ、ということです。
「日本政府関係者」とやらが、こんなに頭が悪い発言をしたのだとすると、これはこれで困ったことです。
(※ちなみに時事通信などのマスコミが「日本政府関係者」と称するときには、日本政府に取材している記者自身を含むこともありますので、注意する必要があります。)
実際、時事通信はこの「日本政府関係者」とやらが、
「日本政府として申し立てを受け、直ちに対抗措置を講じるとは限らないとの認識を示した」
と報じているのですが、その「日本政府関係者」とやらは本当に実在するのでしょうか?
はなはだ疑問です。
そのうえで時事通信は、
「原告側は、株を差し押さえた後に現金化するための売却命令の申し立ては見送っている/原告側関係者は「現金化までには時間がかかりそうだ」としており、なお新日鉄住金側との協議の余地を残した形だ」
などと結論付けていますが、株式の差押えだけをして現金化を見送るというのは、明らかに新日鐵住金を困らせて交渉のテーブルに着かせようとする戦略と見るべきでしょう(いや、「戦略」というよりも「浅知恵」というべきかもしれませんが…)。
日本企業への「不当な不利益」はすでに出ている!
こうしたなか、河野外相は徴用工判決を巡る韓国の対応について、昨年12月24日の臨時記者会見(モロッコ)で、次のように述べています。
「韓国側は李洛淵総理を中心に対応策を検討していただいております。これは韓国側の中でも難しい問題というふうに理解をしておりますので、日本としては日本企業に不当な不利益が生じない限り静観をしたいというふうに思っております。」(※下線部は引用者による加工)
これをどう解釈するかが問題です。
おそらく韓国側としては、「単に株式を差し押さえただけであり、それを売却する手続には踏み切っていないから、現段階では日本企業側に不当な不利益は出ていない」と言い張るつもりでしょう。
しかし、私に言わせれば、すでに類似する裁判が頻発し、新日鐵住金以外にも、三菱重工や不二越など、とても多くの日本企業に、韓国における徴用工訴訟にマンパワーを割かれ、韓国側で弁護士を雇わなければならないなど、コスト面では間違いなく実害が出ています。
つまり、河野太郎氏の「日本企業に不当な不利益が生じない限り静観」という発言が正しければ、「すでに日本企業には不当な不利益が生じている」という事実を無視することはできません。
そして、新日鐵住金が合弁会社の株式の差押えを掛けられてしまった場合、株式の処分行為(たとえば、ポスコとの合弁を解消する、など)といったことはできなくなります。もう現段階で日本企業には実損害が生じているのです。
なぜ日本政府が静観を決め込んでいるのか、私には理解できません。
そろそろ受容限度を超えている
あるいは、百歩譲って、河野太郎氏が言う「日本企業への不当な不利益」とやらが、金銭面での損害に限定されたと仮定しましょう。
この場合、今回の自称元徴用工側の動きは、あくまでも合弁会社の株式を差し押さえただけのことであり、それ以上のものではないので、「新日鐵住金に金銭面での損害は生じていない」、と強弁しようと思えば強弁できます。
ただ、こうした見方は、韓国に進出している日本企業は、すでに「正常な環境でビジネスを営む」という、基本的な権利を侵害されているという事実を、あまりにも軽視しています。
ある報道によれば、韓国政府から「戦犯企業」として名指しされている日本企業は300社にも達するそうですが、これらの「戦犯企業」として名指しされている企業は、少なくとも韓国に進出した場合や、韓国企業と商取引を行った場合に、不測の損害が発生するリスクが出ているのです。
また、日本企業というだけの理由で、韓国側から難癖を付けられるリスクもありますし、こうした動きが「訴訟大国」である米国に飛び火すれば、韓国と無関係なビジネスを営んでいる企業にも損害が発生する可能性もあります。
さらに、大企業であればどこでも法務部門を抱えていますが、ただでさえ多忙な企業の法務部門が、韓国におけるスラップ訴訟の類いに人的リソースを割かれることは、それだけで日本企業のリーガル・コストを押し上げるのです。
つまり、そろそろ本腰を入れて「徴用工判決」そのものを叩き潰さない限り、日本企業には不当な不利益、不測の損失のリスクなどが生じ続けるのです。
日本政府の英断を求む
ただ、徴用工判決を巡り、事態を収拾する責任は、個別の日本企業にあるのではありません。
あくまでも日本政府にあります。
日本政府は1965年に韓国との間で日韓基本条約と日韓請求権協定を結び、これらの国際条約が日韓間の法的基盤として機能してきたわけですから、韓国側がこれらの基本条約を破ろうとしているのならば、日本政府が責任を持って、韓国に対して然るべき制裁を課さねばなりません。
一方、韓国政府は「三権分立の原則は尊重しなければならない」などと意味不明なことを主張しているようですが、「対馬は韓国領だ」という判決を韓国の大法院が下しても対馬が韓国領にならないのと同様、司法が支離滅裂な判決を下した場合、その暴走を止める義務は、韓国政府にあります。
つまり、韓国の司法が国際法違反の判決を下し、それを外国企業に対して強制しようとしているのならば、韓国政府がそれを止める義務を持っていますし、韓国政府がそれをやらないのならば、日本政府が韓国政府に対する厳格な経済制裁を加える必要が出てくるのです。
もちろん、本日は1月3日であり、役所は正月休みの最中です。
しかし、政府が始動する1月4日以降、速やかに日本政府が必要な対応を取ることを、私は強く期待したいと考えているのです。
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毎度の事ながら、興味深い確実な情報と鋭い考察を有難う御座います。
今更ながら不思議なのはこの長期間に及ぶ訴訟の弁護団の経費は誰が支払っているのでしょうか?
米国で大手の法律事務所の弁護士を雇うと、一人当たり一時間5万円程の経費が掛かります。
韓国での費用はそれ程高額ではないでしょうが、無視できない金額でしょうな。
弁護団には最低4人はいるようなので、募集工一人当たりの1000万円の賠償金に比べてその数倍から数十倍の弁護費用がかかってしまっている筈です。
この非公開会社株の差し押さえと競売にしてもその手続きに必要な手続きは煩雑で長時間に渡るでしょうから完全に割りの会わない仕事です。
つまりこの弁護団の費用は「成功報酬制」ではないでしょう。
残るのは「無料弁護活動」か「裏で第三者からの支払いと指示を受けている」のどちらか興味があります。
更新ありがとうございます。
とにかく日本人相手には何をしても許されるという国是ですから、アホらしくて付き合い切れません。カネにもならない申請をやると言うのはタダの嫌がらせ。実勢価格5万円ですか?狂気の沙汰ですね。
ICJに提訴しましょう。それと、日本に対する侮辱。コレは高く付くよ。もう一切、日本企業は撤収、残る企業は責任持てません、ぐらいやらないと。人の交流ぐらい止めれんかなあ。ビザ免除廃止で!
北の工作団体からでも金を貰っているか、弁護士か売名目的安く請けているかでしょうか。何れにしても知恵が無いのに知恵を出すと言っている首相と、その首相に責任転嫁している大統領の行動が楽しみです。
私には腹案があります。
by 宇宙人
日本に来たイム・ジェソン、キム・セウン弁護士は他にどんな事件を受任しているんだろうと検索してみましたが、難しいですね・・・。
韓国の同姓同名の多さに敗退w
三菱重工業の韓国国内の資産の差し押さえ手続きに着手する。という報道。
以下「中央日報オンライン」
https://s.japanese.joins.com/article/j_article.php?aid=248689
同記事によると、三菱重工の「特許権」を差し押さえるという。もっと簡単に売掛債権とかにすれば、手っ取り早いのに、不思議。三菱重工クラスだと韓国内であっても沢山の企業との取引があるわけだし。
わざわざ時間と手間掛かるような方法を選択したのなら、弁護士の費用は誰が負担しているのか?と勘繰りたくなる、そう、多分「韓国政府」が裏で取り仕切ってる可能性。
時間をかけるだけかけて、三菱の営業を妨害するのが目的。これでは、単なる「嫌がらせ」。
そもそも韓国の裁判所は、法人への単なる「差し押さえ」で、売掛債権や貸付金や配当金やその他の雑所得や固定資産等々の資産があるのに、わざわざ無形資産「特許権」を差し押さえする旨を簡単に了承するのか?
これは、訴訟期間をわざと長引かせて三菱のイメージ・ダウンを狙った韓国政府も絡んだ作戦のように思える・・・サイテー。
韓国側からはビザを要求します
日本側からは渡航注意情報を出しましょう
渡航制限をかけると民間に無理な締め付けをしたことになります。
初めはこんなところから
自衛隊のレーザー照射と同じように小出しで良いです。
一気にやって日本が悪者になっては元も子もありません。
弁護士の報酬体系もシノギの実態もまったく不案内なので、あれこれ言うのはスジ違いなんだけど、政府の金銭的支援なんてありえますかね?かなりの訴訟が控えてそうだし、半端な金額でないとすれば、機密費みたいなんで片づけられるとは思えない。逆に韓国政府は訴えられてる当事者ですらある。こっちは原告が死ぬまで放置しておくにせよです。
嫌がらせが当面の目的だとしても、和解に持ちこむ手段くらいな心づもりなんじゃないですかね。
戦犯国日本相手に無償で弁護活動したから正義の人とか無欲な人になって名前が売れる&名誉になる!
無論成功報酬も依頼人から貰えるのでしょうが、こんな所だと思いますよ。何せ反日が国家精神で宗教でビジネススタイルとして固まってますからね。
>戦犯国日本相手に無償で弁護活動したから正義の人
彼らの行動原理上、実はこれが一番的を射ているのではないでしょうか。
ちょうどぴったりなコラムが載っていました。
https://japanese.joins.com/article/743/248743.html?servcode=100§code=140&cloc=jp
【グローバルアイ】約束を守る国・日本、正義が重要な国・韓国
>最近会った韓国問題担当の日本外交官は、韓国と日本の認識の違いを説明しながら「韓国語の『オルバルダ』という表現を日本語で表現するのが一番困る」と告白した。
>「オルバルダ」が「正しい(ただしい)」という単語だけでは説明できないという話だった。日本人にとって「正しい」は、決められた基準に沿って行うことをいう。
ただし彼らの正義はグローバルな普遍的価値観の「正義」ではないようです。
少なくとも外交官は日本語の「正義」に訳すのを躊躇するくらいには認識している模様。
海外で合弁会社を設立する場合、第3国の証券市場に資産を置いて(その国の信託会社)そこから保証してもらうのが一般的な方法だと思います。そうした上で現地法人に借入させれば出資したことになりますし、万が一政変があっても元本近くの保証はされるでしょう。しかも、その信託会社が支払いに応じない限りいかなる差し押さえも韓国国外では無力ではないでしょうか?