発生から2週間以上が経過したラオスのダム決壊事故と大水害を巡り、国連が報告書を公表するなど、少しずつですが続報が出て来ています。国際社会の協力の下で、一刻も早く現地の復旧と復興、そして真相の究明が進むことを強く期待したいと思いますが、それと同時に「韓国が今回のダム決壊事故の全責任を日本に押し付けようとしている」といった明らかなウソには警戒すべきでしょう。
目次
2018/08/09 21:35 追記
ketsuro8da様からのご指摘により、本文中、「避難所」という意味で「避難」と記載すべきところを「非難」と誤記していた箇所を修正しております。このようなご指摘、大変に助かります。引き続きご愛読ならびにお気軽なコメントを賜りますよう、心よりお願い申し上げたいと思います。
ラオス水害の続報
ラオス水害、国連が報告書
7月23日に東南アジアのラオスで発生したダムの決壊事故を巡り、なかなか続報が出てこないという点について、私は非常にもどかしい思いを抱いています。このような大惨事では、まずは人命救助が最優先ですが、今回は初動が遅れたことにより、被害が拡大しているのではないかと強く懸念しています。
これについて先日、『ラオスのダム決壊事故の続報はなぜ出てこない?』という記事のなかで、ラオスが社会主義一党独裁体制にあること、工事を施工したのが韓国の会社であること、という2点により、真相究明が遅れるのではないかとの懸念を申し上げました。
ただ、ラオス自体が諸外国から資金を導入し、ダムなどのインフラを積極的に建設しているという事情もあり、とくに日本企業が関わるダム案件も多いため、事故原因を完璧に隠蔽することは不可能であり、遅かれ早かれ、事故の原因についてはある程度明らかになるのではないかとも考えています。
こうした中、ラオスのダム決壊に伴う「水害」に関して、国連がウェブサイトに報告を掲載しています。
Laos Flood Updates / The latest situation report on the floods in Sanamxay district, Attapeu province, Lao PDR (2018/08/06付 国連HPより)
「ハイライト」部分を簡単に要約すると、
- 台風による暴風雨の影響もあり、現地への交通は依然として困難な状況が続いている
- 同国政府によれば「国家災害地区」に指定された13の村落のうち5つの村落の被害状況は深刻だ
- 水・食糧に加え避難所も不足しており、被災者の健康に加え、精神面でのケアも課題となっている
- 洪水は収束しておらず、被害地区への交通手段はヘリコプターなどに限られてしまっている地点もある
というもので、死者は34人、行方不明者は97人、避難者数は6,000人、影響を受けた人数は13,100人という、非常に深刻な状況となっているようです。
被害状況は深刻
国連によると、支援が必要な項目としては、まずは4つだとしています。
- 健康面:避難所における衛生状態の改善、蚊などが媒介する疫病の予防と隔離、メンタル・ケアなど
- 食料品以外の生活用品:蚊帳、調理器具、衛生用品、寝具、衣類、靴など
- 栄養状態:もともと豊かな地域ではなかったが、今回の災害によりますます栄養状態が悪化している
- 避難所:避難所における電力不足が深刻化しており、また、食堂と寝室などが分離していない
わが国の場合、あの民主党政権下においてさえ、東日本大震災のときには速やかに避難所が立ち上がりました。しかし、今回のラオスの災害については、もともとラオスがアジアの最貧国であることから、人々が避難する場所もままならない状況が続いているそうです。
また、国連は今回の災害による「死者は34人、行方不明者は97人」としていますが、限られた映像や「50億立方メートルの水量」といった情報などから考えれば、犠牲者数はもっと増えてしまうおそれも十分に考えられます。
ラオス政府、ダムの安全基準見直しへ
こうした中、現地の『ビエンチャン・タイムズ』(英語版)によれば、ラオス政府はダムの安全基準を見直すとともに、新規ダム建設案件を棚上げにする方針を固めたそうです。
Govt to inspect all dam standards, shelve new hydro projects(2018/08/08付 ビエンチャン・タイムズ英語版より)
ビエンチャン・タイムズによると、ラオス政府は昨日の緊急閣僚会合後に会見し、建設中・稼働中のすべてのダムに対する点検を実施するとともに、新規の水力発電プロジェクトについては当面棚上げにし、あわせて建築計画自体も見直しの対象にする、などとしています。
さらに、ラオス政府は諸外国のダム事故の事例について情報を集める一方で、今回の事故を発生させたコンソーシアムに関与していた韓国とタイの2ヵ国の政府からも担当者を招いて事情を聴く予定だと報じられています。
ただし、最後の下りについては、先日、韓国メディア『中央日報』(日本語版)の報道について紹介した、『ラオスのダム決壊、遅まきながら事故調査委が立ち上がるか?』の記述となかば重なっている点でもあります。
いずれにせよ、国際社会の協力の下で、一刻も早く現地の復旧と復興、そして真相の究明が進むことを強く期待したいと思います。
インフラ金融の現状
道路、鉄道、ダム…まだまだ不足しているインフラ設備
さて、日本は1954年に「コロンボ計画」に加盟し、これを機に発展途上国に対する支援を開始。1966年にアジア開発銀行(ADB)の設立に関わるなど、国際社会に対するインフラ金融の世界ではかなり早い時期から先行して来ました。
また、政府間援助(Official Development Assistance, ODA)の分野でも、日本は世界の中でも重要な地位を占めており、2016年の「支出総額ベース」実績では168億ドルと、主要援助国の中では、米国、ドイツ、英国に次いで世界で4番目の規模です(図表)。
図表 日本のODA実績(支出総額)
(【出所】外務省『ODA実績』)
ただ、日本が世界の主要国の中でもとくにODAに力を入れている一方で、アジア開発銀行(ADB)は昨年2月、アジア全体でのインフラ需要は2030年までに22.6兆ドル(年間1.7兆ドル)を超えるとの予測を示しています。
アジアのインフラ需要は年間1.7兆ドル超、前回の予測から倍増(2017年2月28日)
ADBはこれについて、アジアの開発途上国・地域が現在の経済成長を維持するならば、電力、交通・運輸、通信、水・衛生分野におけるインフラ需要が生じると予測しているものです。
もちろん、予測している機関がADBであるという点を踏まえれば、自分たちの存在意義を強調するために、インフラ需要を誇張するという側面はあるでしょう。しかし、実際にラオスでは近年、ダム建設を通じて水力発電能力を拡大して来ているという事情もあります。
日本はアジアで唯一のG7加盟国であるとともに、公正で透明な法制度が整っている国として、きちんとした環境アセスメントに立脚したまともな支援ができる数少ない国でもあります。実際、たとえば、わが国の外務省は『政府開発援助大綱』というものを定めていて、この中にハッキリと、
「我が国ODAの目的は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することである。」
と規定しています。
朴槿恵政権下でのラオス・韓国の経済協力
ただ、こうした日本の「相手国のためになる、高品質な経済協力支援」というスタンスに対し、カネ儲け主義が勝ってしまうことも増えています。2015年にインドネシアの高速鉄道輸出案件を中国にかっさらわれたことは記憶に新しい点ですが、現実に、案件を横取りされる事例は、これだけではありません。
まだ現段階で断定的なことを述べるべきではないかもしれませんが、今回のラオスのダム事故でも、韓国のSK建設がかなりのダンピングを行い、工期を圧縮したのではないかとの疑念は払拭できません。
こうした中、英『エコノミスト』に気になる記事を発見しました。
South Korea increases investment in Laos(2016/09/19付 Economistより)
記事を掲載したのはエコノミストの『インテリジェンス・ユニット』が開設するウェブサイトです。これによると、2016年に朴槿恵(ぼく・きんけい)韓国大統領(=当時)がラオスの首都・ビエンチャンを訪問した際、韓国がラオスへの投資を増額すると約束した、とするものです。
そして、韓国の「西部電力」がタイのCEWA社と合弁で、2025年完成を目指し、同国で2番目の規模となる水力発電施設を同国南部に建設する計画だと発表しています。つまり、「韓国がラオスで水力発電所の建設に関与する」という基本パターンは、すでにこの時点でも活発に行われていた格好です。
ただし、エコノミストはラオスと韓国との貿易が韓国側の一方的な黒字となっていると指摘。また、韓国がラオスとの経済協力に力を入れる背景には、ラオスと北朝鮮との友好関係に楔を打ち込む狙いもある、などと分析しています。
これからどうなるのか?
ラオスが現在、国を挙げて水力発電設備の建設に力を入れているという点については、当ウェブサイトでも『ラオスのダム決壊事故の続報はなぜ出てこない?』などで既報のとおりです。
この点、本日付のビエンチャン・タイムズの報道が事実ならば、これからしばらく、ラオスにおける水力発電所の新設計画は凍結されることになります。この措置により、安全性に問題があるダムのあぶり出しができるならば、それは結果的に良いことです。
しかし、関西電力が筆頭株主となっているナムニアップ1水力プロジェクトなど、わが国を含めた各国がラオスで進めているプロジェクトの全体が滞る可能性があります。これが、「韓国の建設会社が関わるダム建設現場で事故が発生したから、それは韓国だけの問題」と考えるのは間違っている理由です。
産経系のウェブサイト『zakzak』では、韓国を批判する記事が連日のように掲載されているらしく、中には「韓国国内で今回のダム事故の責任が日本にあるとする世論操作が始まった」といった報道もありました(※もっとも、私は現時点でこれはフェイク・ニューズの可能性が高いと見ています)。
しかし、「事故を起こした国は韓国だから、韓国とラオスで話し合って事故を収束させるべきだ」、「日本は関係ない」、といった議論はあまりにも短絡的であり、私たちの国・日本も、否が応でも巻き込まれてしまう点については、悩ましいところでしょう。
韓国も困った国だが…
今回の事故についても、一刻も早い真相究明が待たれますが、それと同時にあえて言葉を選ばずに申し上げるならば、第三国でこのような事故を起こす韓国という国は、非常に迷惑です。なぜなら、今回の事例でもそうですが、その国で稼働する「すべての案件」がストップする可能性があるからです。
ところで、本日紹介した「ビエンチャン・タイムズ」の記事や、『ラオスのダム決壊、遅まきながら事故調査委が立ち上がるか?』で紹介した中央日報の記事によれば、ラオス政府が事故調査委員会を立ち上げることに決めたとされています。
しかし、次のzakzakの記事によれば、韓国企業の過失が確定事項であるかのように報じられていますが、これは少々「書き過ぎ」でしょう。
ラオス・ダム決壊、事故調設置で韓国の「過失」追及へ “欠陥工事”の見方強まる (1/2ページ)(2018.8.6付 zakzakより)
くどいようですが、現段階で韓国企業に全責任があると断定することは尚早です。状況証拠等から判断して、韓国企業にかなりの過失があるという疑いは払拭できませんが、それでも「保守系メディア」を自称するならば、客観的で公正な論評を心がけてほしいと思います。
また、先日から当ウェブサイトで何度か言及しているとおり、
『【ラオスダム決壊】 韓国「責任取るべきは施工した鹿島建設であり、SK建設に責任は一切無い」ついに無関係な日本企業に責任を押し付け始めるwwwwww』
といった具合に、明らかなウソを流しているブログサイトなどがありますが、これは由々しき話です。いくら韓国に不信感を抱いているからといって、まったくのウソ、流言飛語のたぐいを流して良いという話にはなりません。
いずれにせよ、インターネット時代においては、情報を受け取る方としても、ある程度賢くならなければならない、という点は間違いないと言えるでしょう。
View Comments (8)
< 更新ありがとうございます。
< 開発途上国、最貧国をダンピングで権利を得て、或いは実力者に献金して、杜撰な構造物を作る国は、世界に例を見ない確信的犯罪国家です。オッと中国を忘れていた。この宗主国と一地方民族は世界に厄災を垂れ流してます。
< 私は何も今回のダム決壊事故が『韓国の施工ミスだ。責任感ゼロだから先に逃げた』なんて事を、今は言いません(思ってるやろ 笑)。
< 本当に事故調を立ち上げ、ラオス、韓国、タイ関係者と第三国のダム施工技術者、天候変化による氾濫対策の専門家等を連れて来て、分析して欲しいです。K国さん、出て来いよ(笑)。
< しかし日本にもやはり、火の粉が飛んできましたね。関西電力と大林組施工の ナムニアップ1ダム(第2黒四ダム)です。竣工率がほぼ同じぐらいなのに、ビクともしなかった。なぜだろう〜?画像を見た限り、K国製とまるで『同じダムか?』と思うぐらいスケールが違う。
< ああ、関電の方はもっともっと奥地にあり、雨が少なかったと言い訳するでしょうねえ(笑)。もし、1,000ミリ超えてたら、どうする?
< 内陸地で大した産業の無いラオスは、売電が収益の大黒柱。タイ、ミャンマー、ベトナムなどに供給する。また、対中国を考えても、いつメコン川をシナの奥地の○○自治州とやらに、堰き止められるか分かりません。灌漑用、農業用、飲料用としてもダムは幾らでも必要です。
< 一党独裁社会主義国というのが難点で、北とも親しいとあらば、逆手を取れないかな、と妄想しています。 以上。
>韓国がラオスとの経済協力に力を入れる背景には、ラオスと北朝鮮との友好関係に楔を打ち込む狙いもある、などと分析しています。
そういえば、北朝鮮は、罹災直後に素早くお見舞いの電報を贈ったそうですw
韓国はあまり積極的に支援をすると責任を認めていると思われると考えていそうです。
支援物資の発送は日本より一日遅れ。
医療部隊は30人とか微妙な人数。韓国の経済規模にしてはショボすぎる100万ドルの支援とか。
SKグループでは、200人の援助部隊と1000万ドルの支援金を用意したそうです。
工期短縮で2000万ドルのボーナスを受け取っているので、この金額もまた笑われている理由です。
「謝罪は弱さの表れだ」という海外ドラマの台詞がありますが、韓国や中国の文化圏ではまさにこれが当てはまります。
日本などが一度謝罪しても、マウンティングのために何度も何度も謝罪を求めるのはこの本能のためでしょう。
ラオス関連のニュースをフォローしていて、嫌な気分になったニュースはこれとか
http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2018/07/30/0200000000AJP20180730002000882.HTML
>同当局者は、韓国企業の責任の有無が今後の判断に影響を与えるかとの質問に対し、「どの国でもこのような状況が発生すれば緊急支援が行われ、必要な場合は初期の復旧・再建支援を行う。(2010年の)ハイチ地震のときも再建支援を行った」と説明した。
韓国とは縁もゆかりもないハイチ地震と並べることで今回のも韓国に非があると認めたわけではないという意図なんでしょうが、ひたすらゲスだと思いました。
ちなみにそのハイチ地震の時のネタもいろいろとありました。
http://news.livedoor.com/article/detail/4579245/
↑の元ネタ
http://www.viewsnnews.com/article?q=59206
こんな支援部隊がなにかの役に立つとは思えないのですが・・・。
ハイチ大使の両班気質にもさすがだと思いますw
日本でも、あの東日本大震災の時…、ですね!
あの時は、北区赤羽根のあたりでも、今までに無い経験したことの無い揺れ方と揺れの大きさでした。
さらに驚いたのは、揺れた時間…。5分間も揺れ続けた…。
その時、韓国が寄越した救助隊も、連れて来た犬が行方不明になったので、それを探すのに終始したという体たらくらしい。義捐金も他の事に流用。さらに、韓国からの義捐金に対して、見返りを求める始末…。
さらにいうと、台湾からの救助隊の方が充実し、そして、早く来たんだけど…、
優先して、後から来た韓国を先に入れた次第…。
の韓国優遇っぷり…。
しかも、時のカンチョクトこと空き缶政権は、
翌年の震災異例際のとき、異例のことに、一番の義捐金と支援をしてくれた台湾を差し置いて…。
ナント!韓国を筆頭に…。というおかしいことばかり…。
追:たまたま、あの時、あの辺りに用があって、滞在してたんだよね!ビックリしたさ~!
>韓国が寄越した救助隊も、連れて来た犬が行方不明になった
あの国をプギャーする場合は、デマかどうかはしっかり裏を取った方がいいですよ。
実際には、犬がガラスの破片で怪我をしてしまって、退場してしまっただけのようです。
帰国した後、治療をした日本人獣医師に韓国まで「犬の予後はどうか?」という問い合わせを受けて韓国人が日本人のプロ意識に感銘を受けたという報道がありました。
実際には、の後文がにわかには信じられない内容だ
ホンマかいな
「ラオス政府、ダムの安全基準見直しへ」のタイトルの上6行目
「非難」→「避難」です。
修正後、このコメントは削除してください。
ketsuro8da 様
いつもコメントありがとうございます。
また、ご指摘大変ありがとうございます。早速修正致します。
引続きご愛読並びにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。