主要メディアが相次いで、最新の内閣支持率を公表して来ました。ただ、この支持率調査を眺める限り、どうも低下しているのは「内閣支持率」ではなく、「既存のマス・メディアに対する支持率」ではないかと思わざるを得ないのです。
目次
最新内閣支持率調査を読む
マス・メディア世論調査では支持、不支持が拮抗
当ウェブサイトでは以前から内閣支持率に関する報道各社の世論調査について興味を持ち、傾向を調べています。7月に入り、各メディアが公表した世論調査の一部を私自身が調べたところ、既存メディアでは支持率と不支持率がほぼ拮抗している状況にあります(図表)。
図表 最新の内閣支持率の調査結果
メディアと調査日 | 支持 | 不支持 |
---|---|---|
共同通信(7/21~22) | 43.4%(▲1.5) | 41.8(▲1.4) |
朝日新聞(7/14~15) | 38%(±0) | 43%(▲2) |
読売新聞(7/21~22) | 45%(±0) | 45%(+1) |
日経・テレ東(7/20~22) | 45%(▲7) | 47%(+5) |
ニコニコ動画(7/21 21:12) | 55.3%(▲1.2) | 19.6%(+0.1) |
(【出所】各社報道より著者作成。カッコ内は前回調査との比較)
昨年7月は「加計学園疑惑」により、今年4月は「もりかけ・セクハラ疑惑」により、主要メディアが調査する内閣支持率は、軒並み内閣不支持率を下回ったのですが、わずか3ヵ月で支持率と不支持率はほぼ拮抗した格好です。
また、インターネット調査に特化したニコニコ動画の世論調査だと、少なくとも直近1年で見れば、内閣支持率は一貫して50%を超えており、これに対して不支持率は20%前後で推移しています。つまり、
- (A)新聞社やテレビ局、通信社が実施する電話世論調査では、2017年7月と2018年4月には軒並み不支持率が支持率を上回っており、また、現時点では支持率と不支持率はほぼ拮抗している
- (B)ニコニコ動画が実施するインターネット世論調査では、一貫して支持率が50%を超えていて、不支持率が20%前後を推移している
ということが、客観的なデータで確認できるのです。
どちらが正しい、間違っている、ではない
つまり、「(A)新聞社・テレビ局・通信社の調査結果」と「(B)ニコニコ動画の調査結果」を比較してみると、両者には著しい乖離が生じているのです。このため、客観的なデータで見る限り、(A)(B)の両者が「同時に正しい」ということは、絶対にあり得ません。
むろん、私はこの調査結果を見て、単純に「どちらが正しい」「どちらが間違っている」と決めつけるつもりはありません。しかし、「なぜこのように大きな乖離が生じているのか」という点については、突き詰めて考える価値がありそうだと思います。
そこで参考になるのが、以前も『朝日新聞、「ネット層ほど内閣支持率が高い」とついに認める』で紹介した、朝日新聞のこの記事です。
SNS参考にする層ほど内閣支持率高め 朝日世論調査(2018年7月16日04時57分付 朝日新聞デジタル日本語版より)
これは、朝日新聞社の世論調査で「政治や社会の出来事についての情報を得るとき一番参考にするメディア」と内閣支持率の関係を調べたところ、SNSやインターネットを参考にする層ほど、内閣支持率が高めに出る、というものです。
具体的には、内閣を「支持する」、「支持しない」と答えた人の割合は、次のとおりです。
- 「新聞」…支持32%、不支持54%
- 「テレビ」…支持38%、不支持41%
- 「インターネットのニュースサイト」…支持42%対不支持38%
- 「ツイッターやフェイスブックなどのSNS」…支持48%対不支持22%
「インターネットのニュースサイト」を最も参考にすると答えた層で、支持率と不支持率が逆転していますが、その理由は、インターネットのニュースサイトだと、さまざまなメディアの報道を万遍なく確認することができるからでしょうか?
また、SNSを参考にする人たちの支持率と不支持率の割合は、ニコニコ動画の調査結果と似ている気がしますが、要するに「既存のメディアに依存せず、自分で情報を集める層」のことでしょうか?
このあたりの実情については、興味深いところです。
ネット対マス・メディア
電話世論調査は「情報弱者層発見器」
この記事がもう1つ参考になるのは、電話世論調査を用いた場合の母集団が著しく偏る、という事実です。
朝日新聞の調査では、「一番参考にするメディア」を「テレビ」、「インターネットのニュースサイト」、「新聞」、「ツイッターやフェイスブックなどのSNS」の4者から選ばせているのですが、「テレビ」が44%で最多となり、「ニュースサイト」(26%)、「新聞」(24%)が続き、「SNS」と答えた割合は4%に留まります。
つまり、朝日新聞の世論調査の母集団を見ると、「テレビを一番参考にしている人」が半数近くも含まれているのです。これだと、朝日新聞の世論調査では、国民世論のサンプルを偏りなく正確に抽出できていないのではないかとの疑念を抱かざるを得ません。
この点、「放送法遵守を求める視聴者の会」の事務局長を務める経済評論家の上念司さんによれば、同会が「無作為標本抽出による電話調査」(Random Digit Dialing, RDD)方式で世論調査を実施すれば、「高齢者発見器」となる、と指摘されています。
私は「高齢者イコール情報弱者である」とする決めつけには同意しませんが、それでも、ここで重要な事実は、「電話調査方式だと、回答者は高齢者に偏る」という事実です。実際、先ほど引用した朝日新聞の調査でも、「テレビを重視する」と答えた人の割合が44%にも達していたことを忘れてはなりません。
このため、RDD方式は、「すべての年齢層に偏りなく世論調査を実施する手段」としては不適である、という仮説が成立するのです。
「SNSが間違っている」説
ところで、ここからは少し話題を変えて、なぜ朝日新聞が「SNS層ほど内閣支持率が高い」という調査結果の報道に踏み切ったのかを考えてみたいと思います。
この点、麻生太郎副総理兼財相が、「新聞を読まない人ほど自民党の支持率が高い」と発言したとする話題は、以前、『【昼刊】共産党・小池氏「新聞読めば自民不支持」』、『尻尾巻いて逃げる新聞に「追い打ち」かける麻生副総理』などの記事で触れたとおりです。
この「麻生発言」については、「新聞・テレビの報道を鵜呑みにせず、インターネットを使って自分で情報を集める人ほど自民党、安倍政権を支持し、新聞・テレビの報道を鵜呑みにする人ほど安倍政権を支持しない傾向にある」と読み替えたら、朝日新聞とニコニコ動画の世論調査結果とも整合します。
ただし、これはあくまでも客観的な調査結果であって、そこから
(A)「新聞・テレビが政権に批判的な情報ばかり選択して流している結果、新聞・テレビの報道を鵜呑みにする人ほど政権に批判的になる」
と軽々に結論付けることはできません。
(B)「自分で情報を集める人は、政権にとって都合が良い情報しか見ないようにしているため、情報が偏る」
ということなのかもしれないからです。
「限られた情報源」対「多角的な情報源」
ただし、あくまでも一般論ですが、情報源が多ければ多いほど、物事を多角的に見ることができる点は間違いありません。この点、『RSFランキング最新版と倒産に向かうマスゴミ』でも議論したとおり、新聞、テレビなどの大手メディアは、事実上、8つのグループによって支配されています。
つまり、新聞・テレビを重視している人は、極めて限られた情報源しか参考にしていない、ということだと言い換えても良いのです。
これに対して、SNS、あるいは当サイトも含めたインターネット上のオピニオン・サイトは、それこそ星の数ほどあります。当『新宿会計士の政治経済評論』を「メディア」と呼ぶのはおこがましいかもしれませんが、それでも、月間20万近いPVを頂いている以上、当サイトも微々たる社会的影響力を持っています。
このため、文章(B)を
(C)「さまざまなウェブサイトから多角的に情報を集める人は、結果的に内閣を支持する傾向がある」
と書き換えると、より実情に近いのではないかと思うのです。
この仮説が正しいのかどうか、その結論については、敢えて申し上げません。なぜなら、これも私たち一人ひとりがきちんと考えるべき筋合いのものだからです。いずれにせよ、当ウェブサイトは「結論を押し付けるサイト」ではなく、「読んで下さった方々の知的好奇心を刺激する」というサイトでありたいと思います。
ここから先は、どうぞ読者の皆様も考えてくださると幸いです。
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私の好きな言葉、シェアです!
https://twitter.com/arimoto_kaori/status/986220634001698817
私はいつもTwitterに張り付いているのですが、
パヨクアカウントの数、決して少なくないと思うのです。
一方、パヨク界隈の安倍総理批判を保守勢が論破する、
という光景をよく目にします。
TVでも、ちゃんと論破してる/されてる光景流せば、
各メディアの支持率も、今のネット上の支持率に近づいていくかな~なんてと考えております。
流さないから"オールドメディア"なんて揶揄されちゃうんでしょうけど。
ふなP 様
これは面白い!
貴重な情報提供、大変ありがとうございました。
まあマスゴミの世論調査の問題は、この古い論文で既に指摘され尽くしていますがねえ。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yoron/78/0/78_KJ00005350304/_pdf/-char/ja
最近は携帯電話にもRDD法を使うらしく、こちらのブログが詳しいです。
https://hatebu.me/entry/2017/07/15/170025
しかし、いいこと書いてありそうだなあと期待して読むと一行目から
>メディア各社の世論調査で安倍内閣の支持率が急落していますね。私もご飯が美味しいです。
なんでもうおなかいっぱいですw。
最後の方にこそっと、
>確かにそのような面がある一方で、最近のRDDに関する研究では携帯電話限定で架電しても結果が変わらないなど俗説を否定する調査結果が出てきています。世論調査の統計としての特性を押さえながら、世論調査をうまく活用していくリテラシーが問われているのかと思います。
このエントリ自体を読むのにもリテラシーが必要ですw。
まあ私は、このエントリにも書いてあるとおり、世代別の世論調査への考え方の違いは無視できないのだと思いますけどね。
「情報を能動的にインプットする習慣」も大事だとは思いますが、それ以上に「自らアウトプットする習慣」の方が重要だと思いますよ。
自分でブログに書くにせよ、SNSで発言するにせよ、人様のブログにコメントすることひとつ取っても
「こんなバカなこと書いたら恥ずかしいよな」
って自省が生まれて勉強する癖が付きます。
もちろん付かない人もたくさんいるから、「バカ発見器」とも言われる所以ですが。
>既存のマス・メディアに対する支持率
広告主の支持率低下です
揺れる韓国大統領選挙、世論調査は信用できるのか?
韓国において世論調査が信用できないと言われている理由の一つは「応答率」…略…最近4/17~4/25の間に中央選挙世論調査委員会に登録、公開された25の世論調査の応答率を見ると平均14.9%。
この中には、応答率5%以下だった調査が7つもあった。
更新ありがとうございます。
ちょっと前の記事ですが、マスコミの世論調査に関する面白い論考があります。
http://agora-web.jp/archives/2033052.html
自社調査の結果を発表すること自体が、逆に世論にバイアスをかけているのではないかというのは示唆に富んだ見方です。
そういうことを自覚した上で意図的にやっているとしたら非常に狡猾ですが、たぶんそうではないのでしょう。あくまでも自分たちは「真実」を捉え、その力を与って正義を目指すのだと信じる純真さ──まあ、何が厄介といってこれほど厄介なものはないんですけどね。
面白い記事をありがとうございます。
調査母体を名乗ること自体がバイアスを生じる原因になるというのは慧眼だと思います。
医学の世界では、客観性を担保するためには、最高の方法は二重盲検法といって、実験を受ける側もする側も有効な実験対象なのか対照(コントロール)なのかを知ることのできない方法で行います。
例えばがんの新しい抗がん剤の臨床治験をする場合、無作為割り付けと言って、医者も患者も投与された薬が新薬なのか、ただの水(さすがに非人道的なので既存の抗がん剤だったりすることも)を知らない建前になっています。
まあ日本は自由の国ですから、各報道機関が自前の世論調査を行うことを禁ずることは不可能ですが、壮大なお金の無駄だと思います。
どうせなら右から左まで、いろんな思想の機関が協力して、調査母体を希釈して隠蔽し、偏った誘導質問などを事前審査で徹底的に跳ねる。
そのうえで、適正な母集団から標本抽出して定点観測する。
これくらいやって初めて「社会科学」と呼んでいいと思うのです。
信じないんだ教?