南北揃って悲鳴を発する
韓国から米国に出ているメッセージ、そして北朝鮮から日本に出ているメッセージとは、「悲鳴」です。
目次
韓国の「独り負け」明確に
米韓合同軍事演習中止
6月12日の米朝首脳会談後、米国のトランプ政権は、米韓合同軍事演習の中止など、「米朝対立の緩和」を演じはじめています。こうした雰囲気を受けて、日本のマス・メディアも、「米朝緊張緩和」を唱えています。次の朝日新聞の社説が、その典型例でしょう。
(社説)ミサイル防衛 陸上イージスは再考を(2018年6月27日05時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より)
北朝鮮の核の脅威などに備え、現在、山口県に「イージス・アショア」を配備する計画が進んでいます。しかし、朝日新聞はこの社説で
「安倍政権は、このまま北朝鮮の脅威を理由に、防衛力強化を推し進めるつもりなのか。(中略)北朝鮮にミサイルがあることは事実だが、対話局面に転じた情勢を無視して、「脅威は変わらない」と強弁し続けるのは無理がある。」
などと述べ、いわば、対話局面に転じたから脅威は減少したと主張しているのです。
この「対話局面に転じた」という点について、朝日新聞は明確に理由を述べていませんが、米韓合同軍事演習の中止を指していることは明らかです。実際、米韓合同軍事演習の中止を巡って、ドナルド・J・トランプ米大統領自身、6月17日に、こんなツイートを発しています。
Holding back the “war games” during the negotiations was my request because they are VERY EXPENSIVE and set a bad light during a good faith negotiation. Also, quite provocative. Can start up immediately if talks break down, which I hope will not happen!(2018年6月17日 21:48付 ツイッターより)
Holding back the “war games” during the negotiations was my request because they are VERY EXPENSIVE and set a bad light during a good faith negotiation. Also, quite provocative. Can start up immediately if talks break down, which I hope will not happen!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2018年6月17日
ここでいくつかのメディアは “war games” を「戦争ゲーム」と訳していますが、ここは「朝鮮半島における米韓合同軍事演習」と意訳すべきだと思います。これを踏まえて私の文責でトランプ氏のツイートを意訳すると、次のようなニュアンスです。
軍事演習の中断を指示したのは私自身の決断だ。なぜならとてもカネが掛かるからだし、せっかく交渉がうまくいく兆候があるのに、それに水を差すからだし、挑発的だからだ。交渉が決裂すればすぐに再開できる。もっとも、そうならないことを祈りたい。
いずれにせよ、トランプ氏が米韓合同軍事演習を中止すると決断したことは事実なのです。たしかに、これだけを見ると、「米朝の緊張は緩和された」かに見えても仕方がない側面もあります。
韓国メディアからの悲鳴
ただ、残念ながら、米韓合同軍事演習の中止などをもとに、朝日新聞が主張する、「対話局面に転じたから北朝鮮の脅威が減じた」などと判断するのは、あまりにも早計かつ能天気です。
実は、この「米韓合同軍事演習の中止」については、「米国が北朝鮮との対決姿勢を緩和した」というものではありません。むしろ、「長年、米国と同盟関係にありながら、米国を裏切り続けてきた国家・韓国を切り捨てる決断」と見るべきなのです。
実際、韓国以外の同盟国(とくに日本)と米国との関係は、何も変わっていません。いや、韓国を除くほかの同盟国の場合、むしろ以前よりも米国との同盟関係が強化されつつある、という状況にあります。つまり、米韓合同軍事演習の中止は、「米韓軍事同盟の破棄」の証拠なのです。
そのことを予見させる、「悲鳴」にも似た記事を、週末の韓国メディア『中央日報』(日本語版)に発見しました。
米国防総省「リムパック訓練、米朝首脳会談の影響ない」(2018年06月30日08時58分付 中央日報日本語版より)
こんな当たり前のこと、わざわざ記事にして報じる必要があるのかと、思わず呆れてしまいます。しかし、これを報じたこと自体が、韓国メディアの危機意識の表れだという言い方もできるかもしれません。早い話が、「韓国抜きでやりますよ」、ということだからです。
リムパックとは、「環太平洋軍事演習」(Rim of the Pacific Excercise)の略語ですが、これは毎年、米海軍が中心となって行われる多国籍の海軍の訓練です。当然、日本からも参加しますが、今回からは中国が参加を拒絶されているという点については、意外と知られていません。
これに加えて、韓国も参加を危ぶまれているようです。というのも、中央日報の記事の末尾には、
「北朝鮮は米朝首脳会談直前の今月初め、労働党機関紙の労働新聞を通じて、UFG演習と共に韓国のリムパック参加を(※)ついて「板門店(パンムンジョム)宣言に逆行する行為」と非難していた。」(※「てにをは」の誤りを含めて原文ママ)
とあるからです。
現在の韓国だと、北朝鮮から非難されたら、参加を見送る、ということにもなりかねません。
つまり、「米朝の緊張緩和」を名目にして米韓合同軍事演習を中止し、ついでに韓国海軍をリムパックから排除しつつも、リムパック自体は例年と同じ規模で大々的に実施する、ということです。朝日新聞さん、これのどこが「北朝鮮の脅威が緩和された」証拠なのでしょうか?
カネに困った北朝鮮
北朝鮮が日本を批判も、微動だにしない日本政府
いずれにせよ、日本のメディアであるはずの朝日新聞は、なぜか北朝鮮の側に立った主張ばかり繰り返しているという、非常に不思議なメディアです。そして、朝日新聞とともに「日本批判」の急先鋒にあるのは、北朝鮮メディアでしょう。
日本を無視していた北朝鮮、「過去の清算が先」主張して関係改善にヒント示す?(2018年06月29日07時21分付 中央日報日本語版より)
中央日報によれば、北朝鮮の国営メディア『労働新聞』は『過去の清算から誠実に行うべき』などと題する社説を掲載。日本に対して「過去の清算を行うべきだ」(つまり「カネを寄越せ」)と口汚く罵ったのだそうです。
中央日報によれば、「北朝鮮は最近、対日非難の程度は調節」していて、この程度の批判は北朝鮮のメディアとしてはまだマシな方なのだそうです。「朝鮮語が日本語で唯一勝っているのは悪口の語彙の豊富さだ」という説の説得力を感じます。中央日報は、
「最近の北朝鮮の対日非難はトーンダウンし、「過去の清算が先」という点を一貫して強調している」
と述べていますが、これに対する日本側の反応をまったく取材していません。
おそらく日本側は、「核を含めたすべての大量破壊兵器のCVID」 ((CVIDとは、「完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄」(Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement)のこと。)) と「日本人拉致問題の全容解明と完全解決」の2つが達成されない限り、それこそビタ一文たりとも北朝鮮にカネを払うことはないでしょう。
それに、冷静に申し上げておけば、日本が1945年8月15日に敗戦し、朝鮮半島から引き揚げて来た際に、莫大な資産を残して来ています。また、北朝鮮は日本人拉致事件などのテロ犯罪国家でもあり、日本は北朝鮮に対してこれらの事件の清算を求める権利を持っています。
南北朝鮮がいう「過去の清算」が何を意味しているのかはわかりませんが、過去をきちんと清算するならば、日本は北朝鮮から数百兆円レベルの金銭を受け取る権利を持っています。彼らが「過去の清算」にこだわるなら、まずはこれらをきちんと清算することは必要でしょう。
北朝鮮はよっぽど困っている
しかし、見方を変えるならば、北朝鮮は現在、よっぽどカネに困っている証拠だという言い方もできます。
考えてみれば、6月12日の米朝首脳会談では、せっかく金正恩(きん・しょうおん)がシンガポールくんだりにまで出掛けたのに、核のCVIDについては明言されませんでしたが、それと同時に北朝鮮に対する経済制裁の解除についても同意されませんでした。
だからこそ、北朝鮮メディアは執拗に、日本に対して「過去の清算」と言い続けているのでしょうし、日本政府もこんなのにいちいち取り合う必要などありません。粛々と、北朝鮮に対する「最大限の圧力」を継続すれば良いだけの話です。
こうした中、金正恩が先月、3回目の訪中を行った直後に、中国が国連に対し、対北朝鮮制裁の緩和を要求した、という記事が、同じく中央日報に掲載されています。
金正恩氏の3回目の訪中後…中国、国連の対北制裁緩和を要求(2018年06月30日13時19分付 中央日報日本語版より)
記事では中国とロシアの国連代表部が28日に、対北朝鮮制裁緩和を要求する草案を国連安保理に提出したとする日本のNHKの報道を引用。そのうえで、中国政府は29日、マイク・ポンペオ米国務長官と中国の王毅(おう・き)外相が対北朝鮮制裁案をめぐり電話協議したと述べた、としています。
このことは、北朝鮮が「米中二股外交」を開始した証拠でしょう。
米中二股外交に警戒せよ!
もともと、「米中二股外交」は、朴槿恵(ぼく・きんけい)韓国大統領が大々的に行った外交であり、かつ、米国の不興を買った外交でもあります。簡単にいえば、朝鮮半島という特殊な場所の地政学的優位性を利用し、米国、中国、あるいはロシアや日本などの、周辺大国を朝鮮半島に引きずり込むものです。
韓国がやったのは、中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席、米国のバラク・オバマ大統領(当時)との間で、「バランスを取る外交」(あるいは「双方に良い顔をする外交」)です。この結果、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)配備を巡り、結局、韓国は米中双方を激怒させました。
現在、米韓同盟が消滅しそうになっていますが、その直接的な原因を作ったのは、朴槿恵前大統領です。文在寅(ぶん・ざいいん)大統領はそれにとどめを刺しただけの話だと思います。
しかし、今度は北朝鮮が、米中二股外交を開始した節があります。おそらく、中国に対しては「このままだと北朝鮮は米国の同盟国になってしまうぞ」と見せつけて経済制裁の解除の突破口にしつつ、米国に対しては「米国の対応次第ではわが国は中国を裏切って米国の同盟国になるぞ」と見せる、というものです。
しかし、米国、中国ともに、歴史が教える「朝鮮半島との関わり方」を、もう1度、しっかりと見直してほしいと思います。少なくとも魑魅魍魎が跋扈するニューヨークで、不動産王として海千山千の相手と戦ってきたトランプ氏が、北朝鮮に騙されるほど愚かではないと信じたいところですが…。
いずれにせよ、この問題はまだまだ目が離せそうにありません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
< 更新ありがとうございます。
< 日本がイージス アショアを秋田、山口に導入します。一ノ矢二の矢が配備済みだから、当然三の矢でしょうね。どこをマトにしようが日本の国益にかなう方向に向けます。つまり台湾、グアム、ハワイ、比方面に向けるはずがない(笑)。潜在いや正面敵の大陸、半島に向けるのは国防の第一です。
< リムパックから抜けたら、韓国軍は、もし一朝ことあれば共同作戦にも参加できず、演習練度の低い軍隊は連合軍によって、武装解除される事もあります(味方が敵になるのを防ぐ。居たら邪魔)。
< 北はいよいよ米国中国と二股外交か。中国は口先ぐらい優しい言葉と多少の物資を支援するだろうが、そこを日本は東シナ海、日本海、西海で警戒ではなく、不審船は付近半径100mに実包射撃する。従わないものはエンジンを破壊する。これぐらいやってもいいでしょう。文句言うのは北、中だけ。露なんぞ、かつて警告無しで破壊、殺害してるんだから(あんな野蛮国と同じに見られたくないが)。
< もう兵糧も尽き、北のハゲ山の草を食べてるのか(笑)。それでも金正恩は欧米高級タバコを吸っている。経済封鎖は更に締め上げて丁度でしょうね。はよ潰れろッ。
思うにトランプ大統領は公約を守ろうとしているのでは。大使館のエルサレム移転だって、歴代大統領は移転するといいつつ実行はしてこなかった。雇用を守るため中国と喧嘩するし。北朝鮮のトップとは今まで誰も会わなかったのに会うし。私はトランプ大統領は以外に誠実なんじゃないかと思う。
この前、越境した移民の親子が引き離された問題でメラニア夫人がめずらしく政治的発言をしたらさっそく大統領令を出すことがあった。トランプ大統領は奥さんには頭があがらないのかもね。もしかすると完全に奥さんの尻に敷かれているのかも。仮にそうだとしても誰もそんなことは言えないだろう。最高機密になるに違いない。そう思うとおもしろいよね。