以前、当ウェブサイトで『ポルトガルのレストラン「大阪(おさか)」』という記事を掲載しましたが、本日はその議論を少し補っておきたいと思います。
目次
文章を正しく読む
少し前に『ポルトガルのレストラン「大阪(おさか)」』という記事を掲載しました。
これは、2011年に私がポルトガルに出掛けた際に発見した、奇妙な和食レストラン「大阪(おさか)」に関する記事です。いちおう注釈しておきますと、漢字で「大阪」と書いたうえで、ひらがなで「おさか」と併記されているのです。
日本人だと「大阪」と書いて「おさか」と誤読することはあり得ないと思いますし、わざわざレストランに日本を代表する街の名前を付けるというのも不自然です。したがって、私はこの「おさか」の店主が日本人ではないと思います。
ただ、この記事に対し、明らかな誤読に基づくと思しき批判コメントをいただきました。これは、当ウェブサイトに対して、「『大阪』を『オサカ』と表記するのは間違いではないか?」というお叱りでした。まことに恐縮ですが、本文をきちんと読んでいただきたいと思います。
私は誤記するつもりで「大阪」を「おさか」と表記したつもりはありません。あくまでも、「現地で『おさか』と表記されていた」という事実をお伝えするために記載したものです。いずれにせよ、「文章を正しく読む」ということの大切さについては、改めて強調しておきたいと思います。
何が問題なのか?
日本人ではない人が日本食レストラン?
さて、この『ポルトガルのレストラン「大阪(おさか)」』という記事を読み返したところ、私が強調したかった内容が、いまひとつぼやけている点があります。それは、「日本人ではない人が日本人を装って現地で日本食レストランを経営することの是非」です。
「誰がどこで何を経営するのか」という観点からパターンを分けると、たとえば次のような考え方があります(図表)。
図表 誰がどこで何を経営するのか?
誰が | どこで | 何を |
---|---|---|
①日本人が | 日本国内で | 日本料理店を経営する |
②日本人が | 日本国内で | フランス料理店を経営する |
③日本人が | フランス国内で | 日本料理店を経営する |
④日本人が | フランス国内で | フランス料理店を経営する |
⑤韓国人が | フランス国内で | 日本料理店を経営する |
(【出所】著者作成)
この図表の①については当たり前なので議論しませんが、②や③についてもまったく問題ありません。
たとえば、日本人が日本国内で経営している料理店といえば、普通は日本料理店です(細かく言えば、そば屋、うどん屋、寿司屋、居酒屋などの区分もありますが、ここではとりあえず、ざっくりと「日本料理」としましょう)。
一方で、②についても世界中で普遍的に見られる現象です。たとえば、日本国内にはフランス料理店だのイタリア料理店だの、さまざまな国の料理店がありますが、これらの料理店の多くは日本人が日本人向けに経営しているものです。
なかには、日本人シェフが日本人向けにアレンジした、「なんちゃってイタリア料理」のようなものがあります。たとえば、大手の「サ●●●●」というレストランの場合、「ミラノ風ドリア」だの、「グリルソーセージ」だの、どう考えても「本場のイタリア料理」ではない代物も提供されているようです。
(※ちなみにこのレストランで提供される料理は安価でありながら非常に美味しいので、これはこれで私はアリだと思いますが…笑)
これに対し、③のパターンも、昔から世界中で普遍的に見られるものです。日本人がフランス国内でフランス人を相手に日本料理店を経営しているケースもありますし、逆に、フランス人が日本国内で日本人を相手にフランス料理店を経営しているというパターンもあるでしょう。
一方、この図表の中で一番驚くのは、④のパターンでしょう。以前も紹介しましたが、最近、フランス本国でフランス料理店を営む日本人シェフが2人、ミシュランの「二つ星」を獲得したのだそうです。
「ミシュラン」仏版、日本人シェフ躍進 2人が二つ星獲得(2018年2月6日 12:22 付 AFPBBニュースより)
これは本当にすごい話です。逆に考えてみればわかりますが、フランス人が日本国内で日本人を対象に寿司屋を営んでいて、それに「二つ星」が付いているという事例を、私は存じ上げません(※私が知らないだけなのかもしれませんが…)。
日本人ではない人が日本料理店を営むこと
そのうえで、図表の⑤について、改めて考えてみましょう。
設例では「韓国人がフランス国内で日本料理店を営む」にしていますが、この事例はいくらでもあります。オーストラリアのシドニーでも韓国人が経営している寿司屋がありますし、ニューヨークでは不衛生な店が増えたためか、素手で寿司を握ることが禁止されたという情報もあります。
私は別に「民族差別的」なことを主張するつもりはありません。日本人が経営する日本料理店であっても、クオリティが低い店などたくさんありますし、逆に、日本人以外が経営する日本料理店であっても、クオリティが高い店もあります。
しかし、あくまでも一般論として申し上げるならば、日本人ではない人々が、欧州や米国などを中心とする、日本とも韓国とも遠く離れた諸国で、「日本人のふりをして日本料理店を経営する」ということには、それなりの理由がある、ということです。
比較的マイナーな韓国料理店よりも、現地でも人気が高い日本料理店を開業する方が、多くのお客さんを集めることができる、という意味かもしれませんし、また、現地に滞在するためのビザを取得するために、やむなくこのような形態で開業しているのかもしれません。
私も基本的に、クオリティが高い日本料理店が全世界に広まることは歓迎したいと思います。ところが、「日本人であれば絶対にやらないような不誠実な行為」をしている人が多ければ、全世界で日本のイメージが悪化し、ひいては日本の国益を阻害することになりかねません。
繰り返しになりますが、別に私は国粋主義者ではありません。「正しい日本料理は日本人にしか作れない」という偏狭な主張を申し上げるつもりはありません。日本人が営む日本料理店でもクオリティが低い場合もあります。
なにより、日本料理がグローバル化すること自体は歓迎したいと思います。フランス人がフランス人向けにアレンジされた日本料理店を経営すれば、やがて日本料理も変わっていくかもしれません。実際、日本人がイタリア料理店を営んだことで、「たらこスパゲッティ」のような絶品が開発されたわけです。
しかし、私が問題視したいのは、「現地人でもなく、日本人でもない人たちが、日本料理を名乗って、勝手にクオリティの低い料理店を経営すること」なのです。
アブラソコムツ、バラムツ…日本人が食べない魚
ところで、日本料理といえば魚料理が豊富です。
日本国内の海鮮市場は世界中で最も洗練されている市場の1つであり、鮮度の高い魚や希少な魚などには高い価格が付きます。また、年初の「初セリ」でマグロが競り落とされた値段は、毎年の風物詩としてマス・メディアに報道されます。
東京の築地市場は外国人観光客にも人気の高いスポットだそうですが、函館、下関、沼津といった街では、漁港に近い場所に市場があって、市場に海鮮丼などを提供する店もたくさんあります。昔、出張で日本全国を回っていたときは、全国の海鮮市場を巡るのはひそかな楽しみでした。
しかし、そんな日本人が、普段は絶対に食べない魚というものがあります。その例が、アブラソコムツとバラムツです。
自然毒のリスクプロファイル:魚類:異常脂質(厚生労働省ウェブサイトより)
ギンダラ科のアブラボウズErilepis zonifer、クロタチカマス科のバラムツRuvettus pretiosus及びアブラソコムツLepidocybium flavobrunneumが特に有名な中毒原因魚である。バラムツとアブラソコムツは、沖縄では”インガンダラメ”(胃がゆるみ下痢をするという意味)という。
厚労省ウェブサイトによると、アブラソコムツは1981年に、バラムツは1970年に、それぞれ有毒種として食用禁止指定されています。ごくまれに、これらの毒魚が流通してしまうこともあるかもしれませんが、こうした事件を除けば中毒も散発的です。
このため、日本では市場関係者であれば毒魚の知識もありますし、うっかりアブラソコムツなどの毒魚が水揚げされても、市場に流通することはないと考えて良いでしょう。
さて、上記の知識を踏まえた上で、少し前に紹介したニュースを再掲したいと思います。
米国の韓国人和食店、公益訴訟の脅威がサンフランシスコにも拡大(2015/04/18付 FOCUS-ASIAより※リンク切れ)
リンク先のニュースは約3年前に掲載されたもので、「韓国人経営の和食店の多くがメニューに『ホワイトツナ』と表記しながら『エスカラー(escolar=アブラソコムツ)』を出していたことをカリフォルニア南部の法律事務所が問題視している」とするものです。
当時の記事によれば、ロサンゼルスの韓国人経営和食店50店舗以上に、法律事務所から「補償を要求する集団訴訟を予告する手紙」が送付されたということです。事実であれば、あまりに日本を舐めきった話でしょう。
深刻に捉えるべき
寿司店の衛生問題
一方で、2年前にはこんな記事もありました。
すしを素手で握るのは不衛生? ニューヨークで手袋義務化、反発するすし職人たち(2016/01/12付 NewSphereより)
ニューヨークで「完全に加熱しない食品を扱う際に素手で触らない」という衛生基準が導入され、寿司屋で反発が生じているというものです。実は、この件については私も随分と調べているのですが、日本の大手メディアではほとんど取り上げられないのが不思議でなりません。
それはともかく、このような規制が導入されている理由は、おそらく、実際に不衛生な料理店で食中毒が発生したからでしょう。NewSphereのレポートによれば、寿司屋がこの規制に反発しているということですが、その前に、寿司とは、衛生には極めて微妙な食品です。
わが国では寿司屋で食中毒が発生しているという報道はほとんど見られないため(※皆無ではありませんが…)、普段、これについて意識することはありません。しかし、実際には世界中でさまざまな問題が発生していることも事実です。
もう少し「日本人ではない人たちが経営するインチキ日本料理店」について考えてみたいのです。
料理でウソをつくのは不誠実
私はビジネスマンであって、料理人ではありません。当ウェブサイトでも普段、料理についてめったに議論することはありませんが、これは、料理に関しては完全な素人だと認識しているからです。ただ、それと同時に、食品とは、人々の口に入るものであって、それに「毒」が混じっているのだとしたら、とんでもない話です。
くどいようですが、私は日本人ではない人が日本料理を作ること自体、別に否定するつもりはありません。しかし、日本人ではない人が、あたかも日本人であるかのように装って、インチキ料理を提供することは、全世界で迷惑を掛けていることと同じです。
以前いただいたコメントに、こんなものがありました。
「だからオサカでもトキオでもキョトでもいいってんだよ/●●人にも「わかりやすく」ひらがなで「堂々と」おさかって書いたんだろ?/シュールじゃねえかよ」(●●部分は引用者による加工)
コメントを頂けることはまことにありがたいのですが、差別的な単語は控えてほしいと思います。それはともかくとして、仮に「現地人が間違えて『大阪』を『おさか』と表記した」のであれば、それはそれで良いと思います。しかし、残念ながら問題の本質はそこではありません。なぜなら、おそらく店主は「現地人でも日本人でもない人」であろうと想定できるからです。
「現地人でもなく、日本人でもない人が、『大阪』を『おさか』と誤表記したこと」自体、その店主がきちんとした知識もなしに日本料理店を開いたのではないかと思えてしまうのです(私自身この日本料理店に入ったことがないので、この「大阪(おさか)」自体を論評することは控えたいと思いますが…)。
いずれにせよ、料理でウソをつくことは不誠実です。このことを改めて強調しておきたいと思います。
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日本人でない者が日本料理を出してしかも品質が悪い。たしかによくないことだけど、完全に防止するのは無理かな。でも不誠実なことをすればたぶん消えていく。思うのだけど、日本人はおいしいもの食べている。だから家庭料理でもたぶん国際競争力はあるよ。ましてプロの食べ物となったらダントツ。いくら日本料理の看板掲げていてもおいしくなかったら消える。消費者はそんなに甘くないよ。以前、ある飲食店で規定の肉がなくてほんのちょっとグレードのいい肉を使った時があった。わずかにグレードがいいので、ほとんど差異がない。店主もこの差異は絶対に素人にはわからないと思ったそうだ。ところが売上が少し伸びた。素人の恐ろしさを知ったとのこと。いくら看板に日本料理をだしてもニセモノはたぶん淘汰される。逆に中国人でもほんとうにおいしい日本料理を出せば生き残れるのではと思う。ただ、日本料理ではありえない食材を出されると疑問符がつくが。といっても天津飯は逆に天津にはないからな~。これ日本にあるニセ中国料理なんだけど、もう定着しているしな~。何か複雑。
ヨーロッパの大都市にある日本料理屋(という名目で営業している料理屋)は面白いもので寿司や天ぷらはもとより餃子やラーメンまで一緒に提供しているんですよね。
日本にもそういう料理屋がないわけではないですが何か違和感を感じますね。
いつも知的好奇心を刺激する記事の配信有り難うございます。
管理人様の言いたい事はフグ料理に置き換えれば分かると思います。
素材(フグ)における毒の有無に始まる知識、毒があるフグへの無毒の部分を分離する処理技術、大量の清潔な水と衛生概念。
そして料理そのものの腕前。
何れが欠けてもプロとして美味しく安全なフグ料理はできないです。
何か欠けていた場合は食べるとフグにあたり死人が出る事となって多くの場合、店が潰れる事となります。
日本の場合、フグの無毒化処理は免許が必要ですが、ハードルを越えられない人間がナンチャッテ料理を出してもその料理の名前を落とすものでしかない。
要はその様な事を日本料理を通じて管理人様は訴えたいのだと思います。
当方思うに、これって市場に任せれば良いのでは無いでしょうか?
料理店業界のマーケットメカニズムは必要条件を満たさない起業やニーズを取り入れながら自己改善を行えないモノは長期間存在出来ません。
以前コメントで書いた通り、日本で新規開店したラーメン屋の7割が3年以内に店をたたむキビシイ現実がそれを現しています。
美味しい店は次も行く。不味い店は行かない。食中毒等酷い目に会えば絶対行かない。
他国でも同じでは無いでしょうか?
逆に上記の事を満たせば国籍に関わらず料理のマーケットは店の長期の存在を許します。
例えば本場インドから見ると日本式カレー(笑)でしかないココイチのカレーが海外で一定の評価を得ている様に。
以上です。
皆様の料理店開店のお手伝いになれば(笑)。
長文失礼しました。
< 毎日の更新ありがとうございます。
< 「明らかな誤読に基づくと思しき「批判コメントをいただきました」「『大阪』を『おさか』と表記するのは間違いではないか?」というおしかりでした。ははーん、またくどく言ってきたのですか?このコメント主は「だから、オサカでもトキオでもキヨトでもいいってんだよ(略)シュールじゃねえかよ」。
どこがシュールやねん。私も民族差別主義者ではありません(キッパリ、本当です)。日本人が唯一崇高であるなどと、申しません。友邦には親しく接し、価値観を共にできる方とは共有できる事が望ましいと思います。
< しかし店主が分かっていながら、現地人でも日本人でもない人が大阪(おさか)と屋号を付けるのは、海外で人気の日本料理を連想させるに十分です。確信犯ですね。中でも日本料理の抜群の高級感、割と高い価格帯、品格の良さを知っているのはハッキリ言って北東アジア人です。中東人、西洋人、黒人、ヒスパニック人らと比べ、日本との交流のケタが違う。
< で、いきなりですが、この偽日本料理店は、韓国人の可能性がひと際高い。焼肉と唐辛子で舌を誤魔化すような、そして衛生的にも問題大の朝鮮料理はマイナーな扱い。また中国人台湾人なら中華料理が手っ取り早いし、材料を残さずすべて使い切り、また付近在住の同族が食べに来てくれ、資金が中国人から出て行かないシステムを作っている。つまり韓国人にとっては、日本料理が手っ取り早く成功する道だというわけです。
< しかし、生ものを多く扱う和食には、衛生面で十分な注意が必要。小汚い朝鮮料理と同じように考えて貰っては困るし、店をたたんで欲しい。勘定の際、寿司なら板前さんが現金のやり取りなど有りえないし、帳場(レジ)は別の方がフツーです。
< 学生の頃、寿司店のアルバイトをした事があります。くるくる寿司ではない、カウンター席ボックス席の店。生ものの鮮魚は着荷後すぐに冷蔵ケースへ入れる。サーモンなど遠洋物は冷凍で入りますが、解凍にすごく時間をかける(いずれも日付、産地、揚げた港が記入されている)。氷をいっぱい入れたボウルに冷たい水を入れ、そこに短冊状に下ごしらえして入荷した20サク位の透明パックに入った冷凍サーモンを入れ、徐々に解かす。なぜお湯、ぬるま湯、あるいは電子レンジで解凍しないんだろうとおもっていると、急速に解凍したらネタがすぐ痛むらしい。 ここまでがバイトの作業。
< 衛生面でも徹底しています。まず出勤したらアルコール消毒で手、腕を洗う。マスクをする。作業着に着替えて髪の毛が出ていないか、爪もお互いチェックします。更に手、腕を消毒し、除菌されて完全に乾いている包丁、まな板、その他用具をまた洗ってから、ネタを作ります。ネタが変わる度に包丁、まな板を変える。効率よくして鮮度を保つため、作業は迅速です。
< 途中でトイレに行きたくならないよう事前に済ませておきますが、どうしても我慢できない時は着替えから全てやり直し。またタバコは匂いがシャリに移るので厳禁、昔の職人で吸う人は指に匂いが移らないよう、キセルを使っていたそうです(でも今はほぼ吸う人などいません)。
< こんな面倒くさい複雑な作業を、毎日よくやるなーと当時思いました。チェック項目がいっぱいある仕事に、いい加減さが国技の民族には絶対できません。今は日本でも特に衛生面、ポリ手袋をして握る店は保健所の指導で地方によってはあるようです。もちろん米国が素手禁止にしたのは、よほど重大な過失があったと思われます。
< 『パッと見い日本料理!』で済まされる外国なら、得体の知れない毒魚を食わされる可能性はあります。日本の方なら入店前に怪しさを感じてパスすると思います。でも、「日本料理」の名前を落とす行為は世界中から無くなって欲しいですね。
< 失礼します。