本日は「夕刊」というには少し配信時間が早いのですが、昨日の報道について、事実関係をまとめたうえで、今後の米国の外交について、簡単に予測しておきたいと思います。
米国務長官更迭の概要
ツイッターでクビを宣告されたティラーソン
米国のレックス・ティラーソン国務長官の更迭が日本時間の昨夜、突如として発表されました。後任は中央情報局(CIA)のマイク・ポンペオ長官で、玉突き的にCIA長官にはジーナ・ハスペル副長官が昇格するそうです。
しかも、驚くことに、この発表は、ホワイトハウスではなく、ドナルド・トランプ氏自身のツイッターで明らかにされた、ということです。
Mike Pompeo, Director of the CIA, will become our new Secretary of State. He will do a fantastic job! Thank you to Rex Tillerson for his service! Gina Haspel will become the new Director of the CIA, and the first woman so chosen. Congratulations to all!
ツイートの時間は米国時間早朝5時44分です。米国は今週日曜日から夏時間に入っており、日本とは13時間の時差があるため、日本時間だと昨日の夕方6時44分に相当します。
次の米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によれば、ティラーソン氏はワシントンで会見に応じ、昼過ぎに「エアフォース・ワン」(大統領専用機)に乗ったトランプ大統領からの電話を受けたと述べたそうです。
Rex Tillerson Is Out as Secretary of State; Donald Trump Taps Mike Pompeo(米国夏時間2018/03/13(火) 16:31付=日本時間2018/03/14(水) 05:31付 WSJオンラインより)
本人がトランプ氏のツイートで自身の更迭を知らされたというのも驚きですが、WSJは「トランプ氏が、『とくに2015年のイラン核合意を巡って、外交上の意見の不一致があった』と述べた([Mr.Trump] said they disagreed on policy, notably the 2015 Iran nuclear deal.)」としているほか、北朝鮮との対話方針、ペルシャ湾岸諸国問題、気候変動に関するパリ協定への対応方針などでもさまざまな意見の相異があったとしています。
北朝鮮問題はどうなる?
おなじWSJの記事では、トランプ米大統領が北朝鮮との首脳会談に応じたことをめぐり、この決断自体がティラーソン氏の意見を重視したものだったとしつつも、「ある政権幹部2人は、トランプ氏がこれによりティラーソン氏に対する信頼を失った」と述べています。
また、次のワシントン・ポスト(WP)の記事も同様に、ティラーソン氏の更迭は2015年のイラン核合意、最近の北朝鮮問題へのアプローチ、さらには米国の外交全体の方針において、両氏の齟齬が高まったからだと指摘しています。
Trump ousts Tillerson, will replace him as secretary of state with CIA chief Pompeo(米国夏時間2018/03/13(火) 14:27付=日本時間2018/03/14(水) 03:27付 WPより)
ところで、当ウェブサイトでは『米国がウソツキ北朝鮮に利用されていないか』のなかで、トランプ氏が唐突に北朝鮮との首脳会談に応じると述べたことを「不自然だ」と指摘しました。いや、もっとありていにいえば、これ自体が「判断ミス」だったのではないかとすら思います。
トランプ氏とティラーソン氏の意見の不一致は、すでに米国の多くのメディアで報じられていましたが、おそらく、今回の更迭も、こうした文脈で捉えるべきでしょう。
では、北朝鮮問題はこれからどうなるのでしょうか?WSJはこれに関連し、もう1本、分析記事を公表しています。
Trump, by Firing Head Diplomat, Recasts U.S. Foreign Policy(米国夏時間2018/03/13(火) 15:06付=日本時間2018/03/14(水) 04:06付 WPより)
ティラーソン国務長官が3月31日に退任後、新しい国務長官に就任する(とされる)ポンペオ氏は、少なくともティラーソン氏よりは軍事的オプションの行使に前向きであるとされます。WSJは
Like Mr. Trump, Mr. Pompeo appears to be banking on China to use its influence to persuade Mr. Kim to denuclearize the Korean Peninsula. Mr. Pompeo is widely believed to be more receptive to consideration of military options than Mr. Tillerson.(ポンペオ氏はトランプ氏のように、朝鮮半島の非核化を巡り、金氏への影響力を行使するよう中国に求めることを志向している。ポンペオ氏はティラーソン氏と比べ、軍事的オプションの行使に抵抗感がないと見られている。)
As CIA director, Mr. Pompeo made an April visit to a South Korean island that had been shelled by North Korea in 2010 to “gain a firsthand appreciation of the North Korean threat to South Korea.”(CIA長官時代の4月にポンペオ氏は、2010年に北朝鮮からの砲撃を受けた南朝鮮の島を訪問し、「南朝鮮に対する北朝鮮の脅威を直接理解」したとされる。)
としており、少なくともティラーソン氏の時代と比べると、今後の米国の外交は、対話路線よりも圧力路線に傾くと見られます。
もちろん、ポンペオ氏の就任をもって、ただちに「北朝鮮への軍事攻撃が行われるに違いない!」と短絡的に考えるべきではありませんが、私の目から見て不自然に宥和的な米国の外交姿勢が4月以降、正されることについては期待しても良さそうです。
日本への教訓
米国の外交分野のなかで、日本にとっても利害関係が大きいのは、何といっても北朝鮮問題でしょう。現時点で国務長官更迭のインパクトについては読み切れないにせよ、米国が今以上に北朝鮮への圧力を強めるならば、核危機や拉致問題を解決するうえで、日本にとっても好ましいことは間違いありません。
ただ、それ以上に重要な点があるとしたら、「政権内部での意思疎通」の重要性です。
今回のティラーソン氏の更迭を含めた政権内部の人事のゴタゴタが続くことは、トランプ政権に決して良い影響を与えるとは思えません。むしろ、政権発足以来、いくつかのポストが空席のままとなっていることを含め、トランプ氏が米国という国をハンドリングしていくことができるのか、私は懸念を隠せません。
そして、一連の更迭劇は、日本にとっても重要な教訓となり得ます。それは、安倍晋三内閣総理大臣と、河野太郎外務大臣の関係です。
私が見たところ、安倍総理と河野外相は、今のところ、非常にうまく連携しています。北朝鮮問題については河野外相が得意の英語力を生かし、英米メディアと積極的に会見を行い、日本の立場を強力に世界に向けて発信していますが(たとえば次のCNN記事参照)、このこと自体が日本の国益に資することでもあります。
Japanese FM: North Korea not ready to talk(2017/11/30付 CNNより)
河野外相がおりに触れて英米メディアに対して発信する、「国際社会が一致して北朝鮮に対する圧力を最大にしなければならない」という発言は、国際世論の情勢に少なからず影響を与えていると見られます。そして、河野外相の発言は、安倍総理が明らかにしてきた方針と、ほぼ軌を一にしています。
昨年8月の内閣改造で、外相が岸田文雄氏から河野太郎氏に交代したことで、日本外交はさらに強力な推進力を得た格好です。今回の米国の混乱を「他山の石」としつつ、引き続き、安倍・河野両氏が連携を密にして、日本の国益の最大化を図ってほしいと思います。
View Comments (7)
< 夕刊の配信、ありがとうございます。ティラーソン国務長官が解任されました。辞任会見でトランプ大統領への謝意の言葉もなしだったという事は、相当前から軋轢があったんでしょう。対話重視派穏健派だったんで切られたのですね。先日も書きましたが、トランプ大統領になってから途中退任・更迭が多いですね、長官~補佐官まで10人以上いなくなっている。こんな入れ替わり激しいホワイトハウスは珍しいです。しかし、それなら重要なポストを石油メジャー最大手の社長を何故引っこ抜くんだろう。トランプ氏も商売人出身、意見が合いそうだと思ったのか。トランプ氏自体に、信頼のおける知人がいなかったか。やっぱり政治はシロウトですね。しかし、後任はポンペオCIA長官、北朝鮮問題についてだけ見れば、良い人事異動だと思います。ただ、訪米を予定してた河野外務大臣、安倍首相はもう一度ポンペオ氏の考え、行動を把握しておく必要ありですね、
< 失礼しました。
ティラーソン国務長官 お前は首だ!ですかww
それはそれはおめでとうございます(わらい
ポンペオCIA長官が後任の国務長官へ横滑り昇格wやるじゃんトランプ。
日本の国益のためには、これは良いチェンジではありませんか。
ティラーソン国務長官はキッシンジャーの推薦でしたからね。
キッシンジャーの日本嫌いと中国大好きは有名なことです。
ティラーソンは北朝鮮問題でも独自で話し合い解決を目指すなどして、トランプの逆鱗に触れていましたし。
トランプ氏が一番に嫌ったのは、多分イランへの対応ではないでしょうか。
それにもっと深刻なのは、対中国との関係です。
キッシンジャーがティラーソンを国務長官に推薦したのも、中国との友好関係を維持したかったからに他なりません。
結局ティラーソンとトランプは、水と油だったというわけです、偉いのは大統領ですからトランプには我慢ならなかったのでしょうww
トランプは対中国政策でも、これまでと違ってアメリカファーストを打ち出していますから、何かにつけて邪魔をするティラーソン国務長官は、おじゃま虫でしかありません。
トランプの外交指南役を自認していた中国命のキッシンジャーも、きっとティラーソン同様トランプは遠ざけていくことになるのではないでしょうか。
日本に取っては好都合だと思いたいですけど。
< 清明様
< コメント拝見しました。そうですね、キッシンジャーって居ましたね。日本嫌いの。「中国とのパイプ作ったのは俺だッ」と思ってるんでしょう。でも米政界でも完全に過去の人、トランプ大統領にしたら、『なにかと介入する煩い爺さん』と思ってるのでは。ユダヤ系だからむげに断れないんでしょうね。もうあの当時の方々は全員鬼籍に入っているのに、おひとり存命(笑)。認知入ってないのかな。ティラーソン氏からポンペオ氏なら、結果吉になりそうです。 以上
CIAとFBIの対立構造ではCIAが一歩リードですかね。
ただ晴明様に一つお聞きしたいんですがダコタ・アクセス・パイプライン建設許可ではティラーソンは利益を享受する側に入るのでしょうか?
今まで環境調査で建設許可が陸軍省から降りなかったのに2月に突然建設許可が降りているので不思議なのです。
2月というのは去年の話です、間際らしくてすいませんでした。
むるむる様
アメリカの国益を考えれば、トランプ政権内の軋轢で政権が弱体化することはマイナスに作用すると思うのですが、日本の国益を考えると一概にそうとも言えません、これまでの主要閣僚は日本にとっては有難迷惑な面々でしたから、チェンジしてくれることは日本の国益にとってはプラスに作用しそうに思うわけです、そう作用してくれるといいですねと言うことで(わらい
詳しいことはわかりませんが、国務長官就任で直接受益者とはならないと思いますが・・。
パイプラインは「エナジー・トランスファー・パートナーズ」というパイプライン建設大手が行っているもので、かなり事業は進捗しているようですね。
ともかくシェールオイルでアメリカは石油生産大国になり潤っていますから、パイプライン建設会社も利益が最大化しています。
反対運動は今でも活発なようで訴訟も引き続き起こされていくのでしょう。
パイプラインは油漏れなど環境汚染を頻繁に起こしますし、反対運動がおさまらないのも理解できます。
受益者と言えば、トランプ氏は今でも「エナジー・トランスファー・パートナーズ」に関連する別会社に投資した分は保有しているみたいですから、こちらの方が受益の対象者かもしれませんね(わらい
穏健派がいなくなってしまった。北朝鮮は脅威を感じているだろう。でも、北朝鮮の強みは独裁国家。トランプも数年後には大統領でなくなる。それまで、持ちこたえれば、トランプよりひどい強硬派はいないだろうからと考えるかな。核なんて放棄しても、ほとぼりがさめたらまた作ればいいからね。死ぬまで権力がある北朝鮮は一筋縄ではいかなそう。でも、案外、金正恩が病気で急死したりなんてのがあるから、世の中はわからないよね。