最近、「韓国の経済破綻」という、おどろおどろしい煽り文句を伴った記事を見かけることが増えてきました。ただ、これらの記事の中には、「韓国が日本に対して様々な無礼を働くから、韓国がいっそのこと経済破綻してくれたら嬉しいのに」、といった不純な(?)動機で書かれたものも少なくありません。そこで、本日と明日は、「金融規制の専門家」という立場から、久しぶりに財務分析を駆使して、韓国の経済破綻の可能性があるのかどうかを探ってみたいと思います。
目次
本日と明日のテーマは「韓国の経済破綻」
本日から宿泊を伴う出張であるため、評論サイトを更新する時間がなかなか取れません。
そこで、少し軽い話題ということで、一昨日の予告通り、私が「愛読」(?)している韓国のメディア『中央日報』日本語版に掲載された記事のうち、本日はこの記事の「前半」を取り上げ、「深読み」したいと思います。
韓経:韓銀総裁「為替操作国指定・4月危機の可能性低い」(2017年02月24日13時51分付 中央日報日本語版より)
短い記事ですが、ツッコミどころが満載過ぎる、非常に興味深いものです。そして、明日はこの記事の後半部分と、そのほかの記事を合わせて紹介したいと考えています。
韓国の対外債務問題
問題の中央日報記事
本日最初の話題は、土曜日に「速報」として掲載した『韓国は為替操作国だ!~韓国経済「4月危機説」』の続編です。取り上げる記事は、これです。
韓経:韓銀総裁「為替操作国指定・4月危機の可能性低い」(2017年02月24日13時51分付 中央日報日本語版より)
著作権の都合上、全文引用はできませんので、興味がある方は是非、ご一読ください。リンク先の記事は、韓国銀行の李柱烈(り・ちゅうれつ)総裁が2月23日に、「金融通貨委員会」直後に行われた記者懇談会で語った内容をまとめたものだそうであり、いわば韓国銀行の「公式見解」です。
中央日報によると、韓国では現在、「4月危機説」が取りざたされているのだそうです。その理由として、今年4月には「大宇造船海洋」という会社の社債満期が集中することに加え、米国の為替報告書が公表される予定だからだとしています。
巨額過ぎる「その他の外国債権債務」
事実関係を2つほどまとめておきましょう。
どの国もたいていは「資金循環統計」というものを公表しています。韓国の対外債務について改めて抽出しておくと、次の通りです(図表1)。
図表1 韓国の外国との取引関係(2016年9月末)
区分 | 勘定科目 | 金額(十億ウォン) |
---|---|---|
外国から韓国への投資 (つまり負債側) | 外貨建債券 | 130,885 |
その他の外国債権債務 | 156,761 | |
対外直接投資 | 214,314 | |
株式等 | 454,149 | |
その他 | 170,852 | |
合計(①) | 1,126,961 | |
韓国から外国への投資 (つまり資産側) | その他の外国債権債務 | 583,465 |
対外直接投資 | 327,929 | |
株式等 | 188,642 | |
その他 | 262,028 | |
合計(②) | 1,362,064 | |
韓国の対外純債権 | ③=②-① | 235,104 |
(【出所】韓国銀行・資金循環統計)
「外国から韓国への投資(①)」と「韓国から外国への投資(②)」の差額を、一般に「対外純債権」と呼びます。韓国は外国に対して235兆ウォン(約24兆円)の対外純債権を所持している(③)、というのが韓国銀行の統計の発表なのですが、果たしてこれは本当でしょうか?
実は、「その他の外国債権債務」(Other Foreign Claims and Debts)という項目が大きすぎるため、韓国経済の実態は、よくわからないのです。
公認会計士的な会計監査の立場からすれば、粉飾決算をしている会社は「その他項目」が膨れ上がります。実は、国家であっても全く同じであり、韓国の場合は「ばれるとまずい項目」を、「その他の外国債権債務」という、非常に不透明な勘定科目に混ぜ込んでいるのではないかと思うのです。
私は、韓国が資産側で保有する「その他の外国債権債務」(583兆ウォン、約58兆円)の大部分が、実は資産性のないものであり、また、負債側で負っている「その他の外国債権債務」(157兆ウォン、約16兆円)については、外貨建ての債券や借入金ではないかと見ています。そこで、私の仮説に従って、韓国と外国との取引関係を書き換えると、一番極端な場合だと、図表2のとおりです。
図表2 韓国の実態バランス(一番極端な仮説)
区分 | 勘定科目 | 金額(十億ウォン) |
---|---|---|
外国から韓国への投資 (つまり負債側) | 外貨建債券 | 130,885 |
外貨建借入金 | 156,761 | |
対外直接投資 | 214,314 | |
株式等 | 454,149 | |
その他 | 170,852 | |
合計(①) | 1,126,961 | |
韓国から外国への投資 (つまり資産側) | その他の外国債権債務 | 0 |
対外直接投資 | 327,929 | |
株式等 | 188,642 | |
その他 | 262,028 | |
合計(②) | 778,599 | |
韓国の対外純債権 | ③=②-① | △348,362 |
図表2は、資産側の「その他の外国債権債務」の価値がゼロであるとみなすとともに、負債側の「その他の外国債権債務」が「外貨建借入金」であると仮定して、図表1を書き換えたものです。
恐ろしいことに、韓国は一転してマイナスの対外純債権(つまり対外純債務)を348兆ウォン(約35兆円)も負っていることになるのです。
実質的な対外債務は40~50兆円程度?
一方、韓国の統計局(英語版)は、「対外債務の状況」を公表しています。
Gross External Debt Position(2017/02/03時点)
これによると、対外債務は4,000億ドル(約44兆円)であるとされています(図表3)。
図表3 韓国統計局の「対外債務」(2016年9月末時点)
主体 | 金額(百万ドル) | 円換算額(十億円※) |
---|---|---|
一般政府 | 75,100 | 8,261 |
中央銀行 | 23,292 | 2,562 |
預金取扱機関 | 176,439 | 19,408 |
その他 | 125,550 | 13,811 |
合計 | 400,382 | 44,042 |
(【出所】韓国統計局英語版より著者作成。円換算レートは便宜上、1ドル=110円とした)
そして、「資金循環統計」(図表1)と併せて考えるならば、この「対外債務」残高(約4,000億ドル、円換算で約44兆円)のうち、少なくとも3,000億ドル(約33兆円)前後は、外貨建てであると推察できます。
外貨準備の75%~80%はウソ?
韓国企業や韓国政府が発行している外債とは、主に米ドル建て、あるいは日本円建てと考えられます。では、これらの債券を返すことができなくなった場合、何が発生するのでしょうか?
上記から韓国の「外貨建ての対外債務」は3,000億ドル(33兆円)前後であると考えられますが(※この金額は、かつて私が試算した数値とも整合しています)、いざとなった時には、韓国政府には4,000億ドル近い外貨準備がある、とされています。
しかし、韓国の外貨準備のポジションには、何かと不透明な部分が多いことも事実なのです(図表4)。
図表4 韓国の外貨準備高(2016年9月末時点)
項目 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
①外貨準備高 | 3,729億ドル | 出所:国際通貨基金(IMF) |
②韓国政府が保有する米国債の最大値 | 726億ドル | 出所:米財務省統計(TIC) |
③外貨準備高のうち、内訳不明部分 | 3,003億ドル | ①-② |
④外国との通貨スワップ | 735億ドル | 出所:スワップ協定全般アップデート図表6 |
⑤CMIM | 384億ドル | 出所:スワップ協定全般アップデート図表3 |
韓国が公式に主張する外貨準備高は、2016年9月末時点で3,729億ドルですが、韓国政府が保有する米国債の残高は最大でも726億ドル程度であり、3,000億ドル近い金額が「内訳不明」となっています。
1ドル=1,200ウォンと考えると、「内訳不明金額」は360兆ウォン(約36兆円)であり、この金額は、韓国銀行が抱える「その他の外国債権債務」の金額と、ほぼ一致します(図表5)。
図表5 資産側の「その他の外国債権債務」の保有主体別内訳(2016年9月末)
保有主体 | 金額(十億ウォン) | 円換算額(※) |
---|---|---|
韓国銀行 | 358,817 | 35.9兆円 |
預金取扱機関 | 137,447 | 13.7兆円 |
一般政府 | 65,481 | 6.5兆円 |
その他 | 21,720 | 2.2兆円 |
合計 | 583,465 | 58.3兆円 |
(【出所】韓国銀行・資金循環統計。なお、円換算額は1円=10ウォンと仮定)
いずれにせよ、「その他の外国債権債務」勘定の正体については、私にはよくわかりませんが、資産性が極めて疑わしい項目であることは間違いなさそうです。そして、日本から通貨スワップを断られた韓国にとっては、現在、資金ポジションが非常に脆弱であるという「綱渡り」状況が続いていると見るべきでしょう。
為替介入の実態
次に、韓国の為替介入についても確認しておきましょう。
韓国銀行総裁が為替介入の事実を認める!
冒頭に示した中央日報の記事で、私が次に注目したいのは、次の下りです。
「政府と韓銀は、韓国を為替操作国に選んだ英フィナンシャルタイムズに抗議の書簡を送るなど迅速に応している。李総裁は「(当時の)記事は明確にファクト(事実)とは距離があった」とし「為替市場の変動性が拡大する場合、市場の安定のために微細調整をするだけであり、他の目的で市場に介入するのではない」と述べた。しかし李総裁は「中国が為替操作国に指定されれば、中国の成長減速と人民元安で韓国の輸出と景気にマイナスの影響を与えることがある」と懸念を表した。」(太字下線は引用者)
これには、どういう意味があるのでしょうか?
記事で示されている「英フィナンシャルタイムズに抗議の書簡」という下りは、英FTが「韓国と台湾、シンガポールこそが為替介入国だ」と述べた、とするものです。ただ、FTの記事にも事実誤認などが多く、必ずしも適切ではありませんが(詳しくは『FT「韓国が為替介入」記事とトランプ通商戦争』をご参照ください)、FTに対して韓国政府と韓国銀行が送付した「反論文」(というか「抗議文」?)は、これにさらに輪をかけて支離滅裂な代物でした(以上、『為替介入報道:FTに「抗議」する韓国政府の愚』などもご参照ください)。
しかし、今回の記事の特徴は、韓国銀行の総裁が、「市場の安定のために微細な調整をしている」という事実を、自ら認めた格好となっています。
米財務省は韓国に何度も警告
以前からの繰り返しとなってしまいますが、実は、米国の財務省は、韓国政府・韓国銀行に対し、オバマ政権時代から何度も為替介入について警告して来ました。
「2015年貿易促進・強制法」(the Trade Facilitation and Trade Enforcement Act of 2015)に基づき、米財務省が米議会向けに作成している「アメリカ合衆国の主要な貿易相手国の外国為替相場政策について(原題“FOREIGN EXCHANGE POLICIES OF MAJOR TRADING PARTNERS OF THE UNITED STATES”)」というレポートの5ページ目には、次のような記載があります(図表6)。
図表6 米財務省の指摘
原文 | 仮訳 | 意訳 |
---|---|---|
Treasury has urged Korea to limit its foreign exchange intervention to only circumstances of disorderly market conditions. | 米財務省は韓国当局に対し、為替介入は市場の状態が秩序を失っているような場合に限定すべきであると勧告してきた | 韓国当局は常に為替介入を繰り返している |
Treasury continues to encourage the Korean authorities to increase the transparency of their foreign exchange operations and to take further steps to support domestic demand, including more robust use of fiscal policy tools. | 米財務省としては韓国当局に対し、外為市場に対する操作の透明性を向上させ、より大胆な財政出動などを含めて国内の需要を喚起することを強く勧める | 韓国の為替介入には透明性がないし、韓国政府の財政出動を通じた内需喚起努力は不足している |
米財務省レポートの原文は、極めて官僚じみていてわかり辛いのですが、「意訳」すれば、
「韓国の為替介入は常に行われていて、不透明だし、内需を喚起する努力を怠っている」
という主張です。
そして、中央日報日本語版を読む限り、韓国銀行総裁の発言は、まさにこの米財務省レポートの内容と、ぴたりと整合しているのです。
韓国は「為替操作国」認定されるのか?
ところで、米財務省の議会向けレポートは年に2回公表されており、次回分は今年の4月に公表される予定です。では、米国は韓国を「為替操作国」と認定するのでしょうか?
米財務省が「為替操作国」と認定する基準は、図表7のとおりです。
図表7 為替操作国認定の3要件
番号 | 内容 | 仮訳 |
---|---|---|
(1) | a significant bilateral trade surplus with the United States | 米国との間で重要な貿易黒字(年間200億ドル超)を計上していること |
(2) | a material current account surplus | 重要な経常黒字(その国のGDPに対して3%以上)を計上していること |
(3) | engaged in persistent one‐sided intervention in the foreign exchange market | 外国為替相場に対して継続して一方向の為替介入に関与し、その金額が1年間でGDPの2%を超えていること |
おそらく、米財務省としては、韓国が行っている為替介入オペレーションを、かなり詳細にまで把握していると考えて良さそうです。最近、為替相場は少し「ウォン高」気味に動いていますが、中央日報の韓国銀行総裁の発言を読む限り、韓国銀行はいつもの調子で為替介入を行ってしまっているようです。
トランプ政権下で、韓国が「為替操作国」として認定されてしまうリスクは、飛躍的に高まっているというのが実情ではないでしょうか?
お知らせ:明日のコンテンツについて
そして、もう一つ、冒頭の記事と合わせて、次の記事にも、韓国社会の病巣がわかる情報が満載されています。
韓国の家計負債1200兆ウォン突破…国民1人当たり2400万ウォン(2016年02月25日10時02分付 中央日報日本語版より)
ただ、冒頭に申し上げたとおり、出張先という事情もあるため、本日の記事はこれにて終了します。
なお、明日も出張先に滞在を予定しております。余裕があれば、本日の続きを掲載したいと思っているものの、出張中という事情もあり、当ウェブサイトは明日、臨時で休刊を戴く可能性がある点についてお含み置きください。
View Comments (3)
今どきネトウヨ神でも書かん内容だなw
ブログ主さんは「韓国が好きか嫌いかとは別に客観的に見て韓国はヤバイ」ってことが言いたいんだと思うが、それでもやっぱり日本人は韓国嫌いだから、韓国が破たんしたらうれしいよねww
破たんするかしないかわからないが破たんするのをwktkしながら待ちたいっていうのがこのブログを読んでる人の本音だと思う
さっき虎ノ門ニュースで青山繁晴さんが「北朝鮮は数カ月以内に崩壊する」と仰っていたのですが、これについてブログ主さんの見解を教えてください。
この記事を含め、複数のコメントを戴き大変ありがとうございました。
北朝鮮については変数が複雑化しますので、改めてテーマとしては追いかけたいと考えております。
引き続きご愛読を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。