ハワイ訪問を成功させた安倍外交の今後
安倍総理のハワイ訪問が無事、終了しました。本日は、この「ハワイ訪問」の意味について考えるとともに、今後の「安倍外交」に関して考察してみたいと思います。
目次
安倍総理のハワイ訪問
よく練られたハワイ訪問
安倍総理は現地時間の12月26日から27日にかけてハワイを訪問。27日にはバラク・オバマ米大統領との「最後の日米首脳会談」を行ったあと、アリゾナ記念館を訪問し、演説を行いました。
12月26日の行程
- 国立太平洋記念墓地
- マキキ日本人墓地
- えひめ丸慰霊碑
- 飯田房太中佐の記念碑
- 国防総省捕虜・行方不明者調査局の中央身元鑑定研究所
- 日系人との夕食会に出席
12月27日の行程
- バラク・オバマ米大統領との最後の日米首脳会談
- アリゾナ記念館
私は、今回の安倍総理のハワイ訪問については、日程的にも訪問場所的にも、非常に練られていると思います。
マス・メディアの報道はアリゾナ記念館にばかり注目が集まっていましたが、私は安倍総理が「飯田房太中佐の記念碑」を訪問したことを高く評価したいと思います。なぜなら、ここを訪問することで、安倍総理としては「日米の和解」を高く演出することができるからです。
この「飯田房太中佐の記念碑」、いったいどのようなものなのでしょうか?意外なことに、これについて詳しく報じているのは、日本のメディアではなく韓国のメディアです。
安倍の和解…真珠湾「自殺攻撃者」記念碑を訪問(2016.12.28 06:33付 ハンギョレ新聞日本語版より)
リンク先のハンギョレ新聞は
この碑の主である飯田房太海軍中佐(1913~41)は(中略)1941年12月7日、真珠湾攻撃時は空母「蒼龍」に艦載された「ゼロ戦」操縦士として参加(中略)。奇襲の途中、燃料タンクに攻撃を受けた飯田中佐は帰還を放棄し、戦闘機の機体で米海軍の格納庫に突入する自殺攻撃を敢行し、歴史に名を残した。(中略)日本は飯田の階級を大尉から中佐に2階級上げ、彼の遺体を発見した米軍は彼を基地内に埋葬した。以後、米軍は1971年に「飯田記念碑」を作った。
と述べています。タイトルや本文で飯田中佐を「自殺攻撃者」などと表現していることは悪意に満ちていますが、記事の中で重要な点は、「彼の遺体を発見した米軍は彼を基地内に埋葬した」、という事実です。
勇者は勇者を敬う
安倍総理が演説で、アンブローズ・ビアスの詩の一節から
“The brave respect the brave.”(勇者は勇者を敬う)
と引用したとおり、この「飯田記念碑」とは、いわば、米軍が「敬意をこめて」彼を埋葬し、後年、碑を立ててくれたという、一連の行為の象徴的な場所なのです。
今回の安倍総理の訪問が、「戦争に対する謝罪」ではなく、「日米の真の和解と将来に向けての友好」の起点となったことは間違いありません。
今回のハワイ訪問の意味
ところで、今回のハワイ訪問の意味を手っ取り早く判断する方法があります。それは、「中国の反応」です。
「パフォーマンス」と批判=安倍首相の真珠湾訪問-中国(2016/12/27-19:05)
実にわかりやすいですね(笑)中国が「批判」したら、成功、中国が「スルー」したら失敗、といったところですが、実際には中国が猛烈に反発している、ということだけは確認できました(笑)
…というのはさておき、客観的に見ても、今回のハワイ訪問は安倍総理にとって大成功だったと考えて良いでしょう。というのも、安倍総理が、バラク・オバマ米大統領にとって、おそらく最後の首脳会談の相手となるからです(※もっとも、オバマ大統領の任期はまだ3週間ほど残っているため、オバマ大統領がこれから日本以外の他国の首脳と会談する可能性はありますが…)。
また、ドナルド・トランプ氏が来年1月20日に大統領に就任すると、安倍総理はその1週間後の27日前後にトランプ氏と首脳会談を行う予定です。つまり、安倍総理は、
- バラク・オバマ氏にとっては(おそらく)首脳会談する最後の外国首脳
- ドナルド・トランプ氏にとっては(おそらく)首脳会談する最初の外国首脳
なのです。このことにより、米国民、そして全世界に対して、「日本」を強く印象付けることができます。
これに加えて安倍総理は今月、ロシアのプーチン大統領とも会い、日露首脳会談を成功させました(なぜ私が「プーチン訪日が成功」だったと考えているかについては、『今回の日露首脳会談は日本にとって大成功』でまとめています)。
プーチン氏、オバマ氏、トランプ氏との相次ぐ会談は、「対中牽制」という日本外交の目的に収斂します。今回のハワイ訪問は、安倍総理にとってだけでなく、日本にとっても大成功だったとみて良いでしょう。
日米の「わだかまり」は?
さて、ここで日米の「わだかまり」についても、振り返っておきましょう。
安倍総理の真珠湾訪問に関する様々な「事前報道」の中で、私が個人的に納得した記事は、米国に在勤する、あるジャーナリストによる寄稿記事です。
JBプレスの古森氏の寄稿
私が自分のウェブサイトを運営するうえで、様々な面から参考にしているビジネス系評論サイトの一つが「JBプレス」です。同ウェブサイトには、大手メディアにはなかなか見られない、硬派な評論が多数、掲載されます。
その中でも特に注目しているのは、産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏による評論です。この古森氏は、ジャーナリストとしては「変わった経歴」の持ち主でもあります。
JBプレスに掲載された略歴によれば、1963年に毎日新聞社に入社し、83年には毎日新聞東京本社の政治部編集委員に就任するも、87年になぜか毎日新聞社を退社して産経新聞社に入社されています。
こうした経歴からでしょうか、古森氏の論説の多くは、「右派・保守的」な論調です。ただ、そのことを念頭に置いたとしても、古森氏の文章には客観的証拠も多く、説得力もあるため、私にとっては、古森氏の毎回の記事が、非常に参考になっています。
その古森氏が、安倍総理が真珠湾を訪問し、オバマ大統領と会談する直前、日本時間12月27日(火)付で、米国の軍人の対日観に関する記事を、「JBプレス」に投稿されています。
安倍首相が真珠湾で謝罪する必要がない理由(2016.12.27付 JBプレスより)
リンク先記事によれば、古森氏は長年、米国側の日米戦争への認識を考察した立場から、米国軍人は日本に対し、怨讐など一切感じておらず、日米両国の今後の友好を重視する姿勢が明確だと断言します。
- 日本軍と激しく戦った経験を持つブッシュ大統領(=当時)は1991年の「真珠湾攻撃50周年記念式典」で、「日本とはもう完全に和解を果たした」「私は日本に対してなんの恨みも持っていない」「戦争での最大の勝利は、かつての敵国で民主主義が実現したことだ」と語り、現在および将来の日米関係の和解と友好を強調した
- 過去の戦争の経緯をあえて振り返ることはせず、日米両国が戦後に果たした和解と友好、そして普遍的な価値観の共有を大切にする、という態度は、ブッシュ大統領をはじめ日本軍と実際に戦った経験のある米国人たちの間で特に顕著だった
- 海兵隊員としてガダルカナルと沖縄の両方の戦闘に参加ジョン・チェイフィー上院議員は、日本軍の勇猛さや規律を賞賛し、その語調には日本の軍事行動を批判するという気配はツユほどもなかった
そして、古森氏は彼ら(米国の退役軍人など)は、
みな、「両国の国益が不可避な形で激突し、戦争となり、両国とも死力を尽くして戦った」という認識を抱いているようだった。米国は完全に勝利し、日本は敗北の代償をさんざんに払ったのだから、どちらが悪かったのか、というような議論を蒸し返す必要はまったくない、という姿勢だった。
と振り返るのです。
本当に戦った相手とは和解する
そういえば、つい先日、『最新版「外交に関する世論調査」レビュー』の中でも見たとおり、日本人の対米感情は、極めて安定しています(図表)。
図表 日本国民の対米親近感
もちろん、私個人的には、米国による広島・長崎への原爆投下や東京大空襲などは、非戦闘員を不必要に大量殺害した行為であり、米軍による立派な戦争犯罪だと考えています。
しかし、調査が始まって以来、どの年度で見ても、多少の高低はあるものの、一貫して日本国民の7~8割が「米国に親しみを感じる」と答えているのです。少なくとも、この内閣府調査で見る限りは、日本国民の大部分が、米国に対する特段のわだかまりを持っていないことが、強く示唆されます。
そして、こうした状況は米国でも同じです。古森氏のレポートにもある通り、米国の軍人などは、日本に対してわだかまりを持っていないどころか、日本を「将来にわたる友好関係の相手」とみなしているのです。
本気で戦った相手とは、戦争が終われば和解し、友好関係に入ることができるという典型的な例が、日米両国なのかもしれません。
青山繁晴さんの「在日米軍論」
ジャーナリストの論説を引用したついでに、もう一つ、私が参考にしている、ジャーナリストで「独立総合研究所」元社長の参議院議員・青山繁晴さんの議論についても参照しておきましょう。
青山氏は最近、毎週月曜日にウェブ番組「真相深入り!虎ノ門ニュース」に出演されていますが、常々力説されるのが「在日米軍」についての議論です。
同ウェブ番組自体、バックナンバーが2週間程度で閲覧できなくなるので、あくまでも私の記憶ベースですが、青山氏は常々、次のようなことを力説されています。
- 米軍の在日基地は世界でも有数の整備拠点である
- 世界の他の国と違って、在日基地ではモノが盗られてなくなるようなことはない
つまり、在日米軍は、米軍が世界的に展開するうえで必須の拠点だというのです。
トランプ次期大統領が選挙中、「在日米軍の駐留経費を全額、日本に求める」「さもなくば在日米軍を日本から撤収させる」などと公約を掲げていましたが、非常に非現実的だといえるでしょう。
長期政権の吉凶
安倍政権は「史上最長」を目指す?
さて、安倍晋三総理大臣は、今年12月26日で在任5年目に入りました。安倍総理は2006年9月に発足し、1年間で辞任していますが、この期間を含めた通算在任日数は、本日で1831日です。
図表1 歴代総理大臣の在任日数(2016年12月29日時点)
順位 | 総理大臣 | 在任日数 | 期日 |
---|---|---|---|
1 | 桂 太郎 | 2,886 | 2019/11/20(水) |
2 | 佐藤 榮作 | 2,798 | 2019/08/24(土) |
3 | 伊藤 博文 | 2,720 | 2019/06/07(金 |
4 | 吉田 茂 | 2,616 | 2019/02/23(土) |
5 | 小泉 純一郎 | 1,980 | 2017/05/28(日) |
6 | 安倍 晋三 | 1,831 | |
7 | 中曽根 康弘 | 1,806 | |
8 | 池田 勇人 | 1,575 | |
9 | 西園寺 公望 | 1,400 | |
10 | 岸 信介 | 1,241 |
図表1の「期日」とは、「この日まで在任すれば、在任日数で追い抜く」という日付です。たとえば、2017年5月28日まで在任すれば、在任日数は1981日となり、小泉純一郎元首相の在任日数(1980日)を抜く、という意味です。
さらに、安倍総理がこのまま2019年まで在任し続ければ、2019年2月23日で吉田茂政権を、6月7日で伊藤博文政権を追い抜き、同年11月20日には歴代最長だった桂太郎政権(2886日)を抜いて史上最長政権に浮上します。
ただしそのためには、安倍総理が「自民党総裁」として2018年に再任されることにくわえ、私たち有権者による選挙の洗礼を受けて頂くことが必要です。具体的には、衆参でそれぞれ1回ずつの国政選挙が控えています(図表2)。
図表2 今後の国政選挙の予定
日付 | 事項 | 備考 |
---|---|---|
2018年12月23日(木) | 衆議院任期満了 | この日までに衆議院議員総選挙が行われる |
2019年7月28日(日) | 参議院任期満了 | この日までに参議院議員通常選挙が行われる |
このうち、参議院では前回(今年7月)の選挙で連立与党側が安定多数を確保しているため、次回選挙で過半数を割り込むことは考え辛いところです。しかし、衆議院議員選挙については、小選挙区制度を採用しているという事情もあり、一回の総選挙で敗北するだけで、自民党が政権を失ってしまう可能性は否定できません。
もちろん、現状で見る限り、野党第一党の民進党の党首である村田蓮舫(むらた・れんほう、通称「蓮 舫」)氏が、「二重国籍疑惑」を抱えたまま国民に対する説明から逃げ回っている状況などを踏まえると、民進党に対する有権者の支持は集まり辛く、少なくとも短期的には、自民党が政権を失ってしまうだけの大敗を喫する可能性は低いと言えます。
ただ、それと同時に、野党側は民進党が、あろうことか共産党との選挙協力を推進している状況にあります。総選挙を巡って時機を失うと、野党側がかなりの議席を獲得することは避けられません。選挙結果次第では、自民党内から「安倍おろし」という動きが出る可能性は否定できないでしょう。
外交的には長期政権は「吉」だが…
一方、日本にとって重要な外国を見ていくと、米国はドナルド・トランプ次期大統領が2017年に就任し、おそらく「2期8年」を目指すでしょう。また、ロシアではプーチン政権がまだ当面続きますし、中国も習近平体制も「2期10年」、つまり2023年までは続くことでしょう。
こう考えていくならば、日本も指導力を持った政権が長期・安定的に続くことが重要です。その意味から、安倍政権が長期化すること自体は、私も歓迎なのです。
ただ、注意しなければならないのは、「政権を維持することだけ」が自己目的化することがあってはならない、という点です。特に、衆院選で「野党共闘」が意外とうまく行くと、自民党が政権を維持するうえでギリギリの議席しか獲得できない可能性もあります。
また、昨年の「慰安婦合意」のように、安倍政権が高支持率に慢心して国民を愚弄するような外交政策を取ることについては、私も国民の一人として、断固として反対の声を上げていきたいと思っています。
いずれにせよ、あくまでも私の理解ですが、安倍政権は、「増税原理主義」を掲げる財務省、ひたすら「外交オンチ」な外務省、という「霞ヶ関の二大巨悪」を敵に回し、日本を再生するために奮闘しています。また、マス・メディアという「日本最後の既得権益」の力はまだまだ強いのが実情です。
2009年から3年間の民主党政権で悪くなった日本は、一朝一夕に良くなる、というものではありません。私は、もう少し安倍政権の政策を見守ってみたいと考えています。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
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