欧米メディアの劣化とトランプ政権
昨日の「安倍・トランプ会談」もそうですが、マス・メディアの劣化が止まりません。今までだと、日本国内のメディアの劣化が先行していましたが、米国ではジャーナリストらによる「トランプ攻撃」が続いている状況です。一方、欧州では英国の欧州連合(EU)離脱が決定され、各国では「極右政党」とされる勢力も台頭して来ています。背景にはいずれも「行き過ぎたグローバリゼーション」と「リベラル・メディアの偏向報道」という問題があるように思えてなりません。
目次
日米首脳会談に見る、米メディアの劣化
昨日、安倍晋三総理大臣は米国のドナルド・トランプ次期大統領と会談しました。安倍総理は今回の会談が「非公式のものである」として、会談の詳しい内容について言及することを避けましたが、会談がトランプ氏の「本拠地」であるニューヨークの「トランプ・タワー」で行われたこと、会談が1時間半に及んだことなどから察するに、相当に密度の濃い会談となったのではないかと思います。
ところで、日本だけでなく、世界中の多くの人々が関心を持ったこの「日米首脳会談」を巡り、米国のメディアの劣化が激しいようです。
劣化が著しい米国メディア
米国のメディアは「トランプ政権」の誕生を言い当てることができませんでしたが、トランプ政権発生後の分析も「思い込みだけで執筆している」ような記事が増えています。「東洋経済特約記者」でもあるジャーナリストのピーター・エニス氏が執筆した次の記事が、その典型です。
「安倍・トラ会談」が、かなり危なっかしい理由/トップ会談お決まりの打ち合わせもなし(2016年11月17日付 東洋経済ONLINE)より
私がこの記事を「サンプル」として選んだのには、三つの理由があります。それは、
- ピーター・エニス氏の記事は典型的な米国人ジャーナリストの見方を示しているということ(※ただし、これは私の主観です)
- 東洋経済ONLINEの記事は無料で閲覧できるということ
- 日本語に訳されていること
です。決して「ピーター・エニス氏の記事に感銘を受けたから」ではありません。もっと言えば、ピーター・エニス氏の記事の「ピント外れぶり」を見ていただくことで、米国でも「ジャーナリズム」が危機に瀕しているということがわかっていただけると思うからです。
実際、リンク先記事は「安倍・トランプ会談」の直前に執筆されたものですが、酷い「思い込み」だけで議論が展開されていると懸念される個所が多々あります。たとえば、ピーター・エニス氏は記事の中で
ロイターによると、「日本のある高官」の話では、会談を翌日に控えた16日時点でも、いつ、どこで2人が会い、誰が会談に同席するのか最終的に決まっていないようだ。会談は間違いなく開かれるだろうが、日本の高官らが直面しているバタバタは、いかにトランプ氏の政権移行チーム内が揉めているのかを表している
と述べています(この記事自体は次の通り、日本語版でも入手可能です)。
トランプ氏と安倍首相の初会談、準備段階で混乱 詳細決まらず(2016年 11月 17日 18:26 JST付 ロイターより)
しかし、現地時間の夕方5時にずれ込んだものの、両氏は無事、「首脳会談」の開催に漕ぎ着けています。また、記事の中でピーター・エニス氏は
恐ろしいことに今回の会談は、通常のトップ会談では当たり前の「事前の打ち合わせ」や擦り合わせがまったく行われていない状態で開かれる可能性がある。そもそも、集中力が持続しないことで知られるトランプ氏。そのほかにも決めなければいけないことが目の前に山積している状況で安倍首相との会談に集中できるかどうかさえわからない。
と述べていますが、ふたを開けてみると、「安倍・トランプ会談」は1時間半にも及び、TPPから安保、さらに個人的な信頼関係に至るまで、幅広い内容の意見交換が行われた模様です。
思い込みだけで記事を書くな!
私はこの問題に限らず、日本経済新聞電子版やFT、WSJ、WP、ロイター、Bloombergなどのメディアをいろいろと調べることがあるのですが、最近の英米メディアは劣化が激しくなっています。
英国の欧州連合(EU)からの離脱問題(いわゆるBREXIT)でも、英米メディアの大方の予想に反して、英国のEU離脱が決定されてしまいました。また、大統領選でも、大方の予想に反してトランプ氏が圧倒的な数の選挙人を獲得し、圧勝しました(得票数ではヒラリー氏が少しだけ上回っていたようですが…)。
そして、CNNなどのメディアは、その後も「トランプ叩き」に余念がありません。日本だと、2009年8月の衆院選で麻生太郎総理大臣が叩かれまくったという記憶がありますが、その時と同じような「メディア・スクラム」が発生しているようにも見受けられるのです。
先ほど紹介した東洋経済のピーター・エニス氏の記事など、ピント外れも甚だしいと言わざるを得ません。
米国とドイツの対決、再び?
ところで、もう一つ気になる動きが、欧州で強まる「ポピュリズム」です。
日本でも「左派」と呼ばれる人たちを中心に人気が高いのは、アンゲラ・メルケル独首相です。しかし、メルケル氏とトランプ氏が「対立する」兆候は、既に大量に出現しています。
トランプ氏当選直後に「カウンター」を浴びせる
まず、メルケル首相はドナルド・トランプ氏の当選直後に記者会見を行い、トランプ氏の政治姿勢を強く牽制しました。
Merkel Reminds Trump of Democratic Values(2016/11/12 01:28付 ニューヨーク・タイムズより【ロイター配信】)
メルケル氏の発言を正確に引用すると、次の通りです。
Deutschland und Amerika seien durch Werte verbunden: Demokratie, Freiheit, den Respekt vor dem Recht und der Wurde des Menschen ? unabhangig von Herkunft, Hautfarbe, Religion, Geschlecht, sexueller Orientierung oder politischer Einstellung.
(仮訳)ドイツとアメリカは、出自、肌の色、宗教、性別、性的思考、あるいは政治的信条を問わず、共通の価値で結ばれている。民主主義、自由主義、法の尊重、そして人権の尊重だ。
いかにもメルケル首相らしい慇懃無礼さですね。トランプ氏が大統領に就任後、たとえば「メキシコ国境の警備を強化する」「不法移民を追い返す」などの政策を採用した場合、メルケル氏が強く反発する、という可能性を示しています。
オバマ・メルケル会談
このメルケル首相と政治的な信条が比較的一致していたのは、バラク・オバマ米大統領ではないでしょうか?オバマ氏が在任中、不法移民の合法化など、「移民に優しい政策」を採用したことでもわかる通り、オバマ氏とメルケル氏の「事績」には類似点が多々あります。
そのオバマ氏は、ドイツのメルケル首相との共同記者会見で、おそらくインターネットを指し、「単純な言葉でウソのニュースをばらまく動きが増えている」と表明。これに対しメルケル氏も「グローバル化は後戻りできない。あなたの姿勢に感謝する」と応じました。
Obama, With Angela Merkel in Berlin, Assails Spread of Fake News(2016/11/17付 ニューヨーク・タイムズより)
言い換えれば、メルケル氏なりのトランプ氏に対する強い嫌悪が示されている、という証拠です。
欧州「極右政党」の反応
一方、フランスの「国民戦線(Front National, FN)」のマリーヌ・ルペン党首は、「トランプ(氏)の勝利で不可能が可能になった」と述べるなど、トランプ氏に最大の賛辞を送っています。
Marine Le Pen: Impossible made possible by Trump win(2016/11/15 18:31付 CNNより)
Le Pen Hails Trump’s Victory(2016/11/12 0:49付 ニューヨーク・タイムズより【ロイター配信】)
フランス、ドイツはともに、中東やアフリカなどから不法移民・難民の流入に悩まされています。こうした状況にあって、フランスの「国民戦線」、ドイツの「ドイツの選択」(Alternative fur Deutschland, AfD)などの政党が台頭していることは事実でしょう。
極右政党という「レッテル張り」
ただ、CNNにしろ南ドイツ新聞にしろルモンドにしろ、欧州、米国などのメディアは、これらの「反グローバリズム」を掲げる政党を、「極右政党」と決めつけています。しかし、こうした報道は単なる「レッテル張り」であり、現在、欧米社会で発生している出来事の実態を覆い隠し、見えなくしてしまいかねません。
私自身、米国大統領選でトランプ氏が勝利を収めたのも、フランスでFN、ドイツでAfDが勢力を拡大しているのも、英国が欧州連合(EU)離脱を決めたのも、全ては「行き過ぎたグローバリゼーション」にあると見ています。もっと端的に言えば、「移民・難民の激増」が欧州・米国の社会の安定を脅かしている、とするものです。
もちろん、「移民のダイナミズム」で国を作ってきた米国と、伝統的な「キリスト教共同体」である欧州は、大きく事情が異なります。しかし、現在発生している政治現象とは、外国からの移民が触れれば増えるほど、「自分の国が一番だ」と主張する勢力が増えている、ということです。これは「事実として」認めるべきでしょう。
リベラルと日本
安定が目立つ日本
欧州では、伝統的に左翼政党が強い基盤を保持しています(例えば、英国の労働党、ドイツの社会民主党、フランスの社会党など)。一方、米国では民主党が比較的、左派的・リベラルな立場に立っています。
これに対して日本ではどうでしょうか?
社会党は1994年の「自民・社会・さきがけ連立政権」で国民の信頼を失い、その後は党勢を回復できずに、今や消滅の危機に瀕しています。2009年に政権を奪取した民主党(とその後継組織である民進党)は、党首自身が「二重国籍」という法令違反を犯していた事実に対する説明から逃げ回っていて、国民からの支持率の回復につながっていません。さらに、共産党は選挙協力が仇になり、党員数の激減に見舞われています。
私は「自民党が最高だ」などと申し上げるつもりはありませんが、事実として、自民党以外に政権を担い得る政党は、事実上、存在しません。もちろん、日本にも「大阪維新の会」の後継組織である「日本維新の会」や、「日本のこころを大切にする党」、さらには桜井誠氏が創設した「日本第一党」のように、「非自民保守政党」に対する支持は少しずつ広がっているものの、欧州のような「極端な移民排撃」などを唱える政党が国会で勢力を伸ばしているという事実はありません。
この最大の理由は、現在の日本で移民がそれほど社会問題化していないためだと思います。私自身も母親(故人)が在日韓国人二世でしたが(※生前に日本に帰化済み)、在日韓国・朝鮮人などを除くと、日本社会には「日本語が通用しない集団」が住み着き、無法を働くということはほとんどありません(※ないわけではありませんが…)。また、私自身、自分の出自を理由に、日本社会で差別を受けたことは、ただの一度もありません。これは、日本社会が安定している大きな証拠の一つと言わざるを得ないでしょう。
「リベラル」の研究
ところで、日韓関係を破壊した「従軍慰安婦問題」は、もともとは朝日新聞と植村隆が捏造した記事が全ての発端です。この朝日新聞の例に限らず、日本に生まれ、日本に育ったはずの「日本人」が、なぜか日本を貶め、日本を破壊するような記事を執筆する…。このことが、私自身の長年の疑問でした。
ただ、最近、欧州や米国で発生していること(メディアの劣化など)を見ていると、おぼろげながら見えてくることがあります。それは、「知的エリート層」(※自分のことを知的エリートだと思っている人も含む)が、自分たちを「オピニオン・リーダー」だと見ていて、周囲を一種の「愚民」として見下している、という仮説です。
これは、欧州や米国でも、BREXITやトランプ旋風などに表れてきたのですが、いわば、有権者が「知的エリート」(?)であるメディアに対し、「反旗を翻す」という流れではないでしょうか?
インターネットの台頭により、既存のマス・メディアが、経営的にも思想的にも圧迫を受け始めている、ということです。
日本では2009年8月のメディアの偏向報道により民主党が成立したことで、他の国に先駆けて「メディア不信」が発生。マス・メディアが一生懸命「偏向報道」しても、自民党や安倍政権に対する支持率が下がらなくなってしまったのです。共産党が仕掛けた「SEALDs」の失敗も、同じ文脈に位置付けられるかもしれません。
ただし、欧州や米国では、日本と異なり、移民問題という深刻な社会問題を抱えています。これから欧米社会がどのように変わっていくのかについては、特にドイツやフランスが相次いで大型の国政選挙を迎える2017年に注目していきたいと思います。
※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。
やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。
※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。
※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。
当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。
【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
関連記事・スポンサーリンク・広告