アメリカ大統領選と日本
米大統領選は現在のところ、ヒラリー・クリントン候補が優勢ですが、選挙結果の体制は日本時間の本日昼過ぎにも判明する見通しです。ただ、今回の大統領選は「過激なナショナリスト」であるドナルド・トランプ候補が共和党の指名を獲得し、ヒラリー候補が苦戦するなど、「異例ずくめ」です。これに加え、両候補ともに自由貿易協定であるTPPに反対を公言しており、さらには米国が外国との軍事同盟を見直す可能性だって出て来ています。翻って日本では、日米同盟が依然として重要であることは間違いありませんが、今回の大統領選は日本とアメリカとの関係、そして日本の在り方そのものを見直す好機になるのではないでしょうか?
目次
史上最悪の米大統領選
下馬評はヒラリー
米大統領選は日本時間の本日昼過ぎには大勢が判明する見通しです。
米国のメディアの世論調査では、共和党のドナルド・トランプ候補、民主党のヒラリー・クリントン候補に対する支持率はほぼ拮抗しています。ただ、アメリカの大統領選は、単純な投票ではなく、州ごとに割り当てられた「選挙人」を「総取り」する仕組みであり、より多くの選挙人を獲得した方が勝ちます。したがって、支持率が高い方の候補が支持率の低い方の候補に負ける、ということが発生します。
実際、現時点のWSJオンライン(USエディション)によると、ヒラリー・クリントン候補が獲得する見通しの選挙人は、当選に必要な270人を超える278人に達しており、対するドナルド・トランプ候補が確実にしている選挙人は215人である、とのことです。これで見る限り、大統領選を制する可能性が高いのはヒラリー・クリントン候補であるといえます。
月曜日から火曜日にかけてのマーケットはクリントン氏が勝利することを織り込み始めていますが、注意しなければならないのは、現段階では「クリントン氏が当選する確率が高い」という状態であり、これが確定したわけではない、という点です。万が一、トランプ候補が逆転勝利すれば(その可能性はゼロではありません)、猛烈なリスク回避から、市場では株安と円高が発生することに警戒が必要でしょう。
異例ずくめ
それにしても、今回の米大統領選は「異例ずくめ」です。
共和党の指名選挙で、穏健派だったマルコ・ルビーオ上院議員、ジェブ・ブッシュ・フロリダ州知事などを押しのけ、過激な言動(と稚拙な経済知識)で知られるドナルド・トランプ氏が指名を獲得。しかし、トランプ氏に対する反感は根強く、ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領(第41代目の大統領で、いわゆる「パパ・ブッシュ」)が「クリントン候補に投票する」と述べるなど、共和党内も「一枚岩」ではないからです。
Sources: Bush 41 says he will vote for Clinton(2016/09/21 14:55付 CNN politicsより)
ただ、共和党が「泡沫候補もどき」だったトランプ氏を指名して「しまった」という「敵失」を、ヒラリー・クリントン候補も十分に活かしきれているとはいえません。というよりも、「ヒラリー(・クリントン候補)もトランプ(候補)も、どちらも嫌だ」という米国の有権者が多いようです。いわば、「史上最悪の大統領選」です。
トランプ大統領なら経済損失は1兆ドル!?
ところで、トランプ候補が勝利を収める可能性は現時点でそれほど高くありませんが、それでも可能性はゼロではありません。そして、仮にトランプ氏が次期米国大統領に就任した場合、彼の「保護主義」的な政策により、今後5年で米国経済に1兆ドル(!)もの損失がもたらされる、との試算があります。
‘President Trump’ would cost U.S. economy $1 trillion(2016/09/15 09:43付 CNN Moneyより)
この試算を公表したのは英国のリサーチ会社「オックスフォード・エコノミクス」(Oxford Economics)で、トランプ氏の公約である経済対策・税制・移民対策などが遂行された場合には400万人の雇用が失われ、米国の消費支出を冷え込ませるなどして、今後5年間で実に1兆円ものマイナスの経済効果がもたらされるとしています。
次期政権が「民主党の大統領」だとしても…
仮にこの「史上最悪の大統領選」を、接戦の末にクリントン候補が制するとしても、同時に議会選が行われる点にも注意が必要です。なぜなら、上院(Senate)で民主・共和両党がほぼ拮抗しているものの、下院(House)では共和党が優勢だからです。
クリントン候補が勝利したとしても、次期政権はさっそく、議会で「少数与党」状態となり、政権運営は多難が予想されます。議会の理解が得られなければ、TPPをはじめとする各種法案が通り辛くなります。クリントン氏自身が各種スキャンダルに加え、健康問題を抱えているとされる中、政権発足直後から課題は山積しそうです。
また、アメリカの大統領が任期中に何か事績を成し遂げようとした場合には、2期・8年の在任が必要です。しかし、仮に「クリントン政権」が発足した場合、同氏の指導力のなさ、健康問題などを見る限り、持って1期4年、最悪の場合は途中降板してしまうかもしれません。となれば、アメリカという国自体の影響力がさらに低下することは避けられません。
日米関係
では、大統領選は日本にどのような影響を与えるのでしょうか?
いずれの候補もTPPには反対
日米関係で真っ先に影響が生じるのは、環太平洋パートナーシップ(TPP)でしょう。
私の記憶では、もともと日本がTPP交渉に参加すると名乗りを上げた原因は、民主党・鳩山政権が日米関係に破壊的な打撃を与えたことを受けて、後任の民主党・野田政権が米国の「ご機嫌取り」で始めたものだったはずです。
野田首相、TPP交渉参加の方針表明(2011年11月11日23時11分付 慰安婦捏造新聞オンラインより)
ただ、その後、安倍政権が成立し、TPP交渉は継続。そして、甘利元大臣の活躍もあり、日本にとって相当に有利なTPPが成立し、あとは各国がその批准を待つ状態です。
しかし、米大統領候補が2人そろって、TPPに反対を表明しているのは、非常に興味深い話です。現在のTPPが米国にとって不利なものである(つまり、当初と比べ日本にとって有利なものである)という証拠です。
現段階で見ると、「何でも反対党」の民進党を中心とする議事妨害などにより、日本ではTPP協定の国会承認手続が遅れていて、TPP法案の衆議院通過には今週いっぱい必要でしょう。米大統領選の前に片づけておくべき問題を先送りしたとは、非常に残念な話です。
日米同盟の見直しはあるのか?
一方で、TPPよりももっと重要な話が、日米同盟の見直しです。
トランプ候補は「米国の負担で日本、韓国、ドイツを守るのは不当だ!」などと主張し、米国の有権者からは一定の支持を集めました。トランプ候補が大統領に当選した場合には、日米同盟を巡って、「駐留経費負担」「部隊の移転」などが議論の遡上に上ることは、おそらく間違いありません。
その一方で、ヒラリー・クリントン候補が勝利を収めれば、「日米同盟撤廃」などという極論に振れる可能性は低いといえます。しかし、その場合であっても、「日米同盟は問題なく堅持される」と見るべきではないでしょう。というのも、米国ではイラク戦争以降、相次ぐ「遠い外国の戦争」で「米国人の血が流されること」に対する反発が根強くなっているからです。
仮に「尖閣有事」などが発生したとしても、米国が「助けに来てくれない」という可能性には注意が必要です。
日本の最優先課題は「自力で国を守ること」
ここまでくれば、日本の最優先課題は、ただ一つしかありません。それは、「自力で国を守ること」、です。
現状で考えるならば、少なくとも、「尖閣有事」の際に、日本が自力で中国軍を追い出せるだけの体制はできていません。現行憲法下でも自衛権の発動(つまり自衛隊の出動)は「違憲ではない」と考えるのが、現在の政権の解釈だそうです。しかし、日本の自衛隊には「軍法(戦争法)」が規定されておらず、また、自衛隊は国際法上も「軍隊」とみなされないリスクがあります。
諸悪の根源は憲法第9条第2項にあります。この条文は
「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」
と規定しています。
戦闘は、「日本から侵略戦争を起こす」だけでなく、「外国が日本に対して武力攻撃する」ことでも発生します。この憲法は、いわば「外国が仕掛けてきた戦争に応戦すること」すら禁止しているわけであり、立派に「殺人憲法」の名に値すると思います。ついでにいうと、「自衛隊は違憲だ」などと述べる憲法学者など、日本にとっては「百害あって一利なし」、です。
こうした不条理を、我々日本人としてはきちんと認識しなければなりません。そして、日本人は「憲法第9条第2項自体が殺人条項である」ときちんと認識し、勇気を持ってこれを撤廃しなければならないでしょう。
アメリカ大統領選を「国を変える好機」に!
戦後70年以上にわたって米国は日本にとって最も重要なパートナーであり続けましたし、自由・民主主義を掲げる米国との友好関係は今後の日本にとっても引き続き重要です。何より、日本は今や、米国を中心とする「自由・民主主義社会」の中でも、最も成功した社会として絶賛されています。
ただ、その一方で米国が「内に籠ろうとしている」ことは、忘れてはなりません。少なくとも有力候補は二人とも自由貿易協定であるTPPに反対していますし、片方の大統領候補は外国との軍事同盟すら見直すと公言している状況です。
米国が内に籠り、「世界のリーダー」ではなくなるのであれば、我々日本だって変わらなければなりません。そんな気持ちで、本日の米大統領選を眺めてみたいと思います。
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