サムライ業が読む国籍法

?日本の最大野党「民進党」の党首でもある「村田蓮舫」(むらた・れんほう)参議院議員(以下マス・メディアの報道に倣い、「蓮舫議員」と称します)に国籍法違反の疑いが生じている件では、既存マス・メディアの追及ぶりは相変わらず甘いと言わざるを得ません。さらに、最近は民進党の動画を加工してウェブサイトに投稿した人に対し、民進党が動画の削除を求めるといった事件も発生しており、「蓮舫問題」の炎上は留まるところを知りません。ただ、伝統的に日本の報道機関(特に新聞やテレビ)は野党に対する追及が甘いせいでしょうか、どうも「そもそも何が問題なのか?」が見えて来ません。そこで、本日は私自身の本業のスキルをちょっとだけ使って、「国籍法」の中の「二重国籍規定」を中心に、蓮舫氏の発言が事実ならば「みなし国籍選択規定」により、蓮舫氏には台湾国籍の離脱の「努力義務」しかないということ、ただしこうした法律が欠陥だらけであることについて、考察を試みたいと思います。

追記

2016/10/21 12:00 追記分

オリジナルの評論記事で、「私は会計士で法律を読む専門家だ」と偉そうに宣言した割には、若干、読み込みが足りませんでした。お詫び申し上げます。ただし、国籍法改正附則に関する私の理解と記載した内容が根本から誤っているという訳ではありませんので、のちほど「みなし国籍規定」に関する補足記事を公表したいと思います。

2016/10/21 12:30 追記分

蓮舫氏は『みなし国籍宣言』をつかえないのか?」を掲載しました。本記事とあわせてご参照くださると幸いです。

(オリジナルの本文はこの先です。)

あまり知られていませんが、一応、公認会計士も「サムライ業」に属する人間の一人です。弁護士や司法書士と比べると、「会計士が法律に詳しい」というイメージはない、と思う方も多いかもしれませんが、私は本業ではバリバリに法律を読み込んでおり、下手をすると国会議員の先生方よりも法律を読んでいる時間は長いかもしれません。本日は少し時間ができたので、国籍法の「二重国籍規定」の部分を中心に、ややマニアックな読み込みを試みてみたいと思います。

※ただし、私は「外国籍離脱事務の請負」や「帰化申請代行」などは行っておりません。もし、ご自身がそのようなニーズをお持ちであれば、本日の記事を鵜呑みにするのではなく、ご自身で専門の事務所を探すなどして対処してください。

帰化と二重国籍解消の違い

本論に入る前に、「帰化手続」と「二重国籍解消手続」をごっちゃにしている人も見かけますが、この両者はまったく別の規定です。

国籍法上は「何らかの事情で日本と外国の二重国籍になってしまった人」についてはどちらかの国籍を解消することを義務付けています。一方、「帰化」とは「日本国籍ではない状態の外国人」が「日本国籍を取得する」という手続であり、条文も全く異なります。本日の記事を執筆するに当たって私は、蓮舫氏が「単なる二重国籍者である」という前提で記載しているのですが、この前提が正しければ、帰化に関する手続を議論してもあまり意味はないので、その点には注意が必要でしょう。

国籍法は大きく分けて

  1. 外国人の日本国籍取得と外国籍放棄
  2. 二重国籍者の外国籍放棄
  3. 二重国籍者の日本国籍放棄

という条文構造となっていますが、本日議論するのは二重国籍の解消、特に「2.二重国籍者の外国籍放棄」について、です。

国籍法は「二重国籍」を前提にしている!

国籍法を読むと、「日本国民」(つまり日本国籍を持っている人)になるためには、親(お父さんかお母さんのどちらでも可)が日本国民であれば良いとされています(第2条第1号・第2号、第3条第1項)。しかし、これはあくまでも日本国内の規定です。蓮舫議員の問題は、ご両親のうち、お父さんが「台湾国籍」(※)であるという点にあります。

(※)もっとも、「台湾国籍」なのか「中国国籍」なのか、蓮舫氏の証言(やそれを報じるメディアの記事の表記)が二転三転していますが、ここでは「台湾(中華民国)国籍」だと仮定しています。

日本の場合は「どちらかの親が日本国民であれば日本国籍になる」という「血統主義」を取っていますが、報道によるとどうやら台湾も「血統主義」の立場を取っているようであり、必然的に「日本も台湾も(蓮舫議員に)国籍を与える」という取扱いがなされます。つまり、ご両親の国籍次第では、生まれながらにして「二重国籍者」となってしまいかねないのです。

そこで、国籍法は「国籍の選択」という規定を置いています。具体的には、

  • 二重国籍状態が20歳までに発生していれば22歳になるまでに、
  • 20歳になった後の場合はその時から2年以内に、

どちらかの国籍を選択しなければならないのです(同第14条第1項)。つまり、国籍法は「二重国籍者が出現してしまう」という状態を、当然に想定しているのであり、ご両親のうち片方の国籍が外国籍だったからといって、二重国籍状態となること自体は何ら違法ではありません。

ただし、蓮舫氏のように「生まれた時から」(?)二重国籍だった場合には、22歳になった時点でどちらかの国籍を選択していれば良かっただけの話であり、報道によれば蓮舫氏の場合、どうやら少なくとも22歳の時点で二重国籍状態を解消していなかったようなのです(といっても、このあたりの事情も、報道やご本人の説明が二転三転しているため、良くわかりませんが…)。ただし、これは後述する「みなし国籍選択宣言」の規定により、結果的には「国籍法上の違法性はない」と言えなくもなさそうです。

国籍選択の宣言

では、二重国籍者が二重国籍状態を解消し、日本国籍を選択するための方法を見てみましょう。この方法は二つあります(国籍法第14条第2項)。

  • 外国の国籍を離脱すること
  • 戸籍法の規定に基づき日本国籍を選択して外国籍を放棄するという宣言

このうち、一番わかりやすいのは、二重国籍状態のうち片方の国籍を離脱して、その離脱した証明書を日本の役所に提出するという方法です。これについて、蓮舫氏は先日、「戸籍法第106条にのっとった手続を進めている」と発言したそうですが、「戸籍法第106条」とは、「二重国籍者がもう片方の国籍を失った時には1か月以内に届け出なければならない」とする規定であり、「国籍の選択」に関する条文ではありません。そして、金田勝年法務大臣は10月14日(金)の記者会見で、次のように語っています。

【記者】

民進党の蓮舫代表の件に関して、蓮舫代表は自身の台湾籍について、戸籍法第106条にのっとった手続を進めているとおっしゃっています。ただ、これはいわゆる国籍の喪失届の手続ではないかと思いまして、これは適切な手続と言えるかどうかお答えください。

【大臣】

個別具体的な事案については、お答えを差し控えます。一般論で言えば、事柄の性質上、蓮舫さん御自身で説明すべき問題であると考えております。一般論として、台湾当局発行の国籍喪失許可証が添付された外国国籍喪失届については、戸籍法第106条の外国国籍喪失届としては受理していません。

【記者】

外国国籍喪失届を受理しないということは、窓口では、改めて選択宣言をしてくださいというような回答をするということでよろしいでしょうか。

【大臣】

一般論で言えば、そういうことだと考えています。

みなし選択宣言

金田法相自身の発言内容は短くて、「台湾当局が発行した国籍喪失許可証は戸籍法第106条上の外国国籍喪失届として受理しない」という発言を、「台湾当局が発行した証明書では戸籍法第14条第2項でいう『外国籍の離脱』の証明としては機能しない」と読み替えるのが妥当かどうかはよくわかりません。ただ、いずれにせよ、「外国籍を放棄するという宣言」を行っていれば、いちおう、「日本の行政手続としての二重国籍の問題」は解消します。これが「選択宣言」の手続です。国籍法第14条第2項の規定の原文を引用しておきましょう。

「日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。」

そして、実は、もう一つ重要な条文があります。これは「みなし選択宣言」です。

国籍法の「昭和59年5月25日改正附則」第3条によると、

  • 昭和60年(1985年)1月1日時点で外国国籍を有する日本国民は、その時点でいったん、二重国籍者になったものとみなす
  • この場合、期限内に国籍の選択をしない時には、その期限が到来したときに第14条第2項の「選択の宣言」をしたものとみなす

とされています(原文はもう少しわかり辛い文章ですが、ここでは少し噛み砕いています)。つまり、条文だけを読む限り、昭和42年(1967年)生まれの蓮舫氏は、昭和60年1月1日時点で二重国籍者だったはずであり、この「改正附則第3条」の効力によって、彼女が22歳になった時点で自動的に「国籍選択宣言」をしていることになっているはずなのです。

報道される蓮舫氏の発言を聞いていても、この「みなし選択宣言」の話は一切出てこないのが不思議でなりませんが、「昭和59年5月25日改正附則第3条に従い、日本国内の手続としての国籍離脱は適法に行われている」と述べれば済むだけの話です。これでは「どうしてそれができないのか?」「何か『裏の事情』でもあるのか?」などと、勘ぐられても不思議ではありません。

国籍宣言後の離脱義務は努力規定

ところで、法律だけで議論する限り、「みなし選択宣言」の規定により、蓮舫氏は法的には「日本国籍を選択する」という「宣言」を行っているはずです(この場合、ご本人が手続を失念していても問題ありません)。しかし、当然、これによって「国籍の離脱が完了した」というものではありません。相手国の中には「自分の意志で国籍を離脱する自由」を認めていない国もあるわけですから、いわば「選択宣言」は「何らかの事情でどうしても相手国の国籍を離脱することができない」というときに、「日本政府としては二重国籍者ではないという扱いをしてあげましょう」というだけの規定に過ぎないと見るべきなのです。

これを受けて、国籍法第16条第1項によると、

「選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない」

という規定が置かれています。これがいわゆる「努力義務」です。マス・メディアの報道に接していると、「二重国籍の解消は単なる努力義務に過ぎない」などと勘違いしてしまいそうになることもありますが、実際には、

  1. 相手国の国籍を離脱した証明書を法務大臣に提出するか、
  2. みずから「選択宣言」を行うことで日本国籍を重視する意思を示すか、

という二通りの「二重国籍解消手段」のうち、②についてのみ設けられている規定です(もちろん、注意しなければならない点は、「二重国籍を解消すること自体」は「努力義務」ではなく、「義務」である、という点ですが…)。

「蓮舫問題」の波紋

では、この「蓮舫問題」、何が本質なのでしょうか?

二転三転する蓮舫氏の供述

蓮舫氏の最新の記者会見などを聞いている限り、彼女の発言が事実であれば、既に22歳の時点で「みなし国籍選択宣言」の規定が適用されているはずであり、あとは台湾国籍の離脱の努力義務だけが残っているはずです。そして、罰則がない以上、台湾国籍が残っていても法的には何も問題がありません。つまり、

「みなし国籍選択宣言の規定に従い、既に日本国籍を選択しており、台湾国籍の離脱手続を失念していました。国民の皆様をお騒がせして申し訳ございませんでした。台湾国籍の離脱は終了しました」

と説明すればそれで終わりのはずです。

しかし、実際には台湾のパスポートなどを所持していたという疑惑が報じられていますし、台湾にお父様(あるいは一族)の莫大な財産でも残されているのでしょうか、時系列でどのような手続をしてきたのか、蓮舫氏は一切、説明責任を果たしていません。公党(しかも野党第一党)の党首として、あまりにも不誠実です。

法の不備

次に、金田法相の「台湾当局の証明書」うんぬんの発言については、真意は良くわかりませんが、一般に台湾は国籍の離脱が容易であり、実際、私の「サムライ業」仲間にも、外国籍の日本国籍への帰化手続代行を生業としている人はたくさんいます(私もいちおうはサムライ業なもので…)。

国籍法第14条第2項が「国籍選択宣言」という規定を置いている趣旨は、おそらく、「相手国が自分の意志による国籍離脱を認めていない場合の救済措置」と見るべきであり、そうであるならば、「国籍選択宣言」の手続ができる国を、法務省令で限定列挙すべきです。

言い換えれば、台湾や中国や韓国のように日本との二重国籍状態者が多い国の場合、「二重国籍状態の離脱手続」に「国籍選択宣言」を認めるべきではありません。その意味で、国籍法第14条(特に第2項)の扱いが甘すぎますし、有効な罰則もほとんど設けられていませんから、実質的に二重国籍状態が野放しにされています。

さらに、外交官などの場合は「二重国籍者」を排除するという規定がありますが、国会議員、一般の公務員、そして国務大臣・総理大臣に至るまでの国家の要職者に、二重国籍者を排除する規定が設けられていないのは、法の重大な欠陥です。早急な解消が必要であることは言うまでもありません。

マス・メディアの追及不足

日本の一番大きな問題点は、野党に対するジャーナリズムやマス・メディアの追及が甘すぎる点でしょう。新聞社やテレビ局が民進党や共産党などの選挙違反や違法行為に甘いのは昔からですが、これは日本に健全なジャーナリズムが働いていない証拠です。その意味で、蓮舫氏の追及もできないような各社政治部の記者らは、まさに「ジャーナリスト失格」の烙印を押されても文句は言えません。

ただ、インターネットでは日々、「蓮舫問題」が大いに盛り上がっています。そうなると、与党・自民党にとってはますます追い風が吹いており、裏を返して言えば、自民党が大した努力をしなくても、選挙で勝つことができるという「慢心」を生みます。先週の新潟県知事選で自民党が支援した候補が敗北したのは、自民党にとっては良い「お灸」となったのかもしれませんが、最大野党・民進党がグダグダな状態を放置していると、与党・自民党も腐敗しかねません。

最大の被害者は国民である

蓮舫氏自身のこれまでの説明が正しいという前提で、本日の議論をまとめておきます。

  • 蓮舫氏が22歳になった時点で国籍法改正附則第3条が自動適用され、「みなし国籍選択宣言」がなされているはず
  • この場合、台湾国籍の離脱は単なる努力義務に過ぎず、蓮舫氏の「二重国籍状態」に、何ら国籍法上の違法性はない
  • しかし、容易に国籍離脱できるはずの台湾国籍の離脱が単なる努力規定に留まっているのは国籍法の不備である
  • さらに二重国籍者が総理大臣などの公務員に就任することができるという問題がある

また、本日議論した内容は国籍法の話だけであり、たとえば台湾に「隠し財産」があったとしたら(※あくまでも仮定の話ですよ!)、所得税法などの税法違反の出番です。さらに、台湾パスポートと日本パスポートを使い分けているのだとしたら、これも大きな問題でしょう(ただし日本にはスパイ防止法がないので、旅券法以外の理由で罰することは難しいと思いますが…)。

そして、蓮舫氏は参議院議員という国家の要職に在りながら、自らの身分に対する説明責任を怠っており、これは有権者に対する道義的な背任と言わざるを得ません。そんな不誠実な蓮舫氏が民進党という「最大野党」の党首の地位にあることもさることながら、本来ならば国会議員の倫理問題を厳しく追及する社会的使命を負っているはずの新聞・テレビが全く機能していないのも大きな問題です。

その結果、国民が政治に対する信頼を失ってしまったのだとすれば、「政治不信」がもたらす最終的な損害は日本国民に帰属します。

私はやはり、蓮舫さんご自身が「ウソをついていました、ごめんなさい」ときちんと国民に謝ったうえで、議員辞職し、改めて選挙に出馬して有権者の審判を受けるのが、一番筋が通った解決策ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

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