韓国観光統計:中国人に飲み込まれる韓国観光

韓国が入国者数の統計を誤魔化しているのではないかとする仮説の調査は、私にとって、一種のライフワークと化しています。そして、「韓国観光公社」ウェブサイト(韓国語版)にも直接、アクセスして、いろいろな統計資料を調べていくうちに、「韓国の中国依存は観光分野にまで浸透している」という仮説に辿り着きました。本日は、「韓国への入国者数」(外国人、在外韓国人数を含めた数値)という「一次データ」をベースに、日本人のトランジット需要と合わせて、「韓国に入国する外国人から見える最新の姿」をお届けします。

2016/10/09 12:20 追記

タイトルを小幅修正し、「韓国観光公社の統計」をベースにした議論であることを明示しました。

2016/11/22 18:30 追記

「中国に飲み込まれる韓国観光」2016年11月版』を更新しました。

観光客でも中国依存は明確に!

「韓国観光公社」の韓国語版ウェブサイトに、ほぼ毎月、韓国の最新の入国統計が公表されています。私は、韓国に入国する外国人のうち、仁川(じんせん)国際空港の「トランジット」目的での入国者が、結構な比率を占めているとの仮説を持っています。それはさておき、現時点で入手可能なデータは、韓国観光公社が9月22日付で公表した、「2016年8月まで」の統計データです。さっそく、これを解析してみましょう(なお、本日の議論では「在外韓国人の入国者」を除外しており、また、中国人入国者数には「中国在住の朝鮮族」を含めています)。

今年の韓国入国外国人数は急増

とはいえ、今年のデータはまだ8月分までしかありません。他の年度のデータと単純に比較してしまうと、データが足りない分、今年の入国者数だけがガタンと落ち込んでしまい、きれいに比較できません(図表1)。

図表1 8月までの単純データ比較

20161005visitsk-1

(【出所】韓国観光公社。縦軸:千人)

そこで私は、今年のデータが8月分までしか存在しない場合には、「前年9月から当年8月までの12か月間」(年度値)、「当年8月までの8か月間」(累積値)の二種類のデータを用いて、傾向を掴むことにしています。

それでは、きちんと統計を集計しなおしたデータでもう一度、韓国への入国者数を見てみましょう。まず、「その年の8月までの12か月間」を年度ごとに集計した「年度値」です(図表2)。

図表2 当年8月までの12か月間の年度値推移

20161005visitsk-2

(【出所】韓国観光公社。縦軸:千人)

いかがでしょうか?累計値で見ると、「2016年度」(つまり2015年9月~2016年8月の12か月間)の韓国入国者数は、現時点で1600万人を超えて過去最大に達しています。

「8か月間累計値」(つまり、毎年8月までの8か月間の累計を比較したグラフ)でも、同様の傾向が読み取れます(図表3)。

図表3 年初8か月間の累計値比較

20161005visitsk-3

(【出所】韓国観光公社。縦軸:千人)

つまり、いずれのデータからも、今年(2016年)韓国に入国した外国人数は右肩上がりで急増していることが判明します。

2015年の落ち込みはMERSによるもの

韓国観光公社の統計上、韓国への入国者数は、2015年に急激に落ち込んでいます。2015年は韓国で中東呼吸器症候群(MERS)が流行しましたが、実際、2015年には日本だけでなく、ほとんどの国からの入国者が落ち込んでいます。したがって、2015年の落ち込みは、統計上の「一時的な例外要因」と見て良いでしょう。

急減する日本人と急増する中国人

ここから本論に戻ります。

韓国に入国した外国人の内訳を見てみましょう。

日本人の韓国入国者は昨年より持ち直すが…

年度(図表2)、累計(図表3)のいずれで見ても、一つの傾向が言えます。それは、2012年に「過去最高」となった日本人の韓国入国者数が、その年をピークに減少し続けており、2015年には今世紀に入り、最低水準に近いところにまで落ち込みました。しかし、2016年に関していえば、2015年と比べて、日本人の入国者数は少し持ち直しています(図表4)。

図表4 その年の8月までの日本人の韓国入国者数(12か月間累計値/8か月間累計値)
?時期12か月間8か月間
2011年8月まで3,0721,997
2012年8月まで3,7562,463
2013年8月まで2,8731,818
2014年8月まで2,4741,544
2015年8月まで1,9121,176
2016年8月まで2,1141,452

(【出所】韓国観光公社より。人数単位は千人)

もっとも、上で述べたとおり、2015年の落ち込みはMERS流行による一時的要因による影響もあると考えられるため、「日本人が韓国に行かなくなっている」というトレンドが反転したと結論付けることはできません。2015年といえば、MERSの影響により、日本だけでなく、全ての国からの韓国入国者が落ち込んでいたからです。また、2016年8月までの数値を「2015年」ではなく「2014年」と比較すると、減少率はマシになったとはいえ、確実に落ち込んでいることに違いはありません。さらに、2016年を2012年と比べると、日本人訪韓者数は、8か月ベースでは101万人、12か月ベースでは164万人も減少しています。2012年8月時点では、8か月間で250万人近くの、12か月間累計で380万人近くの日本人が韓国に入国していたことと比べると、半分近い落ち込みぶりです。

また、この統計だけで結論付けるのは尚早であるものの、「年間376万人もの日本人が韓国を訪れた2012年が異常に膨れていた」という仮説には説得力があります。日本人訪韓旅客者数は、12か月累計ベースで2012年時点と比べて2013年は前年比100万人近く落ち込み、2014年にさらに40万人ほど落ち込んでいますから、落ち込み方は異例の大きさです。ただ、2012年8月のインターネット空間の空気を知っている者としては、李明博(り・めいはく)大統領(=当時=)が日本領である島根県竹島に不法上陸し、天皇陛下を侮辱する発言を行ったことで、それまで政治に対して興味がなかったような人たちでさえ、「韓国は天皇陛下に謝れ!」といった意見を口にするほどの社会的変化を体感した経験は、忘れることができません。

「日本人には年間300万人程度、韓国を訪問する需要があるが、現在、たまたま200万人程度に落ち込んでいるだけ」と考えるべきなのか、それとも「もともと日本人の韓国訪問需要は年間200万人程度が限度で、2012年度の訪韓日本人観光客がそれよりも150万人程度水増しされ、異常に多かった」と考えるべきなのか、はたまた「日本人の訪韓旅客者数は減少トレンドにある」という私の仮説が正しいのか…。私の仮説が正しいかどうかは、今後の統計が明らかにするでしょう。

顕著に増えているのは中国人だけ

さて、日本でもそうですが、韓国でも、中国人観光客が激増しています。ただ、日本との大きな違いは、顕著に増えているのが中国人だけ(!)である、という点です。まずは、ここ5年程度の中国人の韓国入国者数を確認しておきましょう(図表5)。

図表5 その年の8月までの中国人の韓国入国者数(12か月間累計値/8か月間累計値)
?時期12か月間8か月間
2011年8月まで2,0541,441
2012年8月まで2,6531,874
2013年8月まで3,9112,947
2014年8月まで5,4994,119
2015年8月まで5,7773,770
2016年8月まで7,8225,608

(【出所】韓国観光公社より。人数単位は千人)

日本でも似たような傾向がありますが、中国人の韓国入国者数も激増しています。2016年8月までの「8か月間」で見て561万人、「12か月間」で見ると、実に782万人(!)です。つまり、「2016年8月までの12か月間に韓国に入国した中国人入国者」だけで、「2009年8月までの12か月間に韓国に入国した外国人総数(731万人)」を超えてしまいます。これは凄い話です。

さらに、韓国に入国した外国人に占める比率で見ても、異常なくらい、中国人の比率が高まっていることがわかります(図表6)。

図表6 いまや韓国入国外国人の半数は中国人

20161005visitsk-4

(【出所】韓国観光公社より)

少なくとも直近データだけで見ると、既に韓国に入国する外国人の半数は中国人です。もっとも、韓国に入国した中国人の中には、いわゆる「トランジット目的での入国者」(後述)も含まれている可能性は否定できませんが…。

香港・台湾人は韓国を忌避?

一方、日本政府観光局(JNTO)によれば、2016年8月までの12か月間に日本に入国した外国人は2292万人でしたが、構成比を見てみると、顕著な違いがあります(図表7)。

図表7 日韓比較~2016年8月までの12か月間累計の入国者数
?出身国日本韓国
中国6,132千人(27%)7,822千人(50%)
日本2,114千人(13%)
台湾4,095千人(18%)749千人(5%)
香港1,745千人(8%)636千人(4%)
韓国4,747千人(21%)
米国1,169千人(5%)835千人(5%)
欧州1,101千人(5%)902千人(5%)
その他3,944千人(17%)3,000千人(18%)
合計22,922千人(100%)16,057千人(100%)

(【出所】JNTO、韓国観光公社データより著者作成)

つまり、韓国を訪問する外国人は、明らかに中国に偏っているのです。そして、仮に中国が存在しなかった場合でも、日本への入国外国人数は16,790千人と堅調ですが、韓国の場合は中国が存在しなければ、明らかに、外国人入国者数は「横ばい」となってしまいます。

何より、重要な近隣国である香港や台湾の入国者数で比べてみると、一層、明らかです。日本には既に今年8月までの12か月間で、実に400万人もの台湾人が訪れていますし、香港からは175万人もの人々が日本を訪れました。いずれも、国の人口を考えると、凄い比率です。特に、香港も台湾も「親日国」として知られていますが、日本にとっては本当にありがたい話です。しかし、「日本好き」の香港人・台湾人は「韓国好き」ではないらしく、実際、香港や台湾から韓国を訪問する人数は、遠く離れた欧州や米国からの旅行客数を下回っているのです。

トランジット・ツアーの怪

また、上では「それでも年間200万人を超える日本人が韓国を訪問している」と記載しましたが、この訪問目的も、実に怪しいものです。というのも、仁川国際空港自体、「国際的なトランジット・ハブ空港」を目指しているからです。

仁川空港への便数

ここで「トランジット」とは、たとえば日本の地方に住んでいる人が、ヨーロッパとかアメリカとかに海外旅行に行く際、自分の最寄りの空港からいったん「仁川国際空港」まで飛び、そこから最終目的地に向かう、という空港の使い方です。

私は昨年11月に、仁川国際空港のウェブサイトを検索し、日本の空港と仁川国際空港の間の便数を調べたことがあります(図表8)。

図表8 仁川国際空港の便数
空港週当たり便数
関西国際空港136便
成田国際空港129便
福岡空港105便
名古屋空港56便
沖縄空港51便
新千歳空港49便
羽田空港21便
広島空港9便
岡山空港7便
新潟空港6便
仙台・大分の各空港各4便
佐賀・宮崎・富山・小松・松本・熊本・秋田・米子・青森・静岡・高松・鹿児島の各空港各3便
旭川空港2便

(【出所】仁川国際空港ウェブサイト、2015年11月時点。なお、「1便」とは往復をいう)

トランジット需要としての仁川空港

データはほぼ1年前のものですが、これが現在でもあまり変わっていないとすれば、たとえば広島空港や岡山空港をはじめとした地方空港では、週7便以上、仁川国際空港との往復便が運航されていますし、それ以外の小規模な地方空港でも仁川便が存在しています。

従来、これらの地方在住者がアメリカやヨーロッパなどへの旅行をするときには、自分の最寄りの空港からいったん東京の羽田空港や大阪の伊丹空港に行き、そこからバスや電車などに重い荷物を詰め込んで成田空港か関西国際空港に移動する必要がありました。しかし、仮に自分の居住地の空港から仁川国際空港息の便が出ていれば、最初に荷物さえ預けてしまい、仁川国際空港経由で最終目的地に向かえば、非常に楽です。

そして、何より、仁川国際空港では、こうした「トランジット目的」の旅行客をターゲットにした「トランジット・ツアー」のメニューが非常に充実しており、2時間以上の乗継時間があれば、無料でこうしたツアーに参加できます(例えば仁川国際空港の公式HPにも案内があります)。

トランジットツアーのご案内(仁川国際空港・日本語版ウェブサイトより)

このトランジット・ツアーに参加するためには、いったん韓国に入国することが必要であるため、当然、「韓国入国者」にカウントされます。韓国の入国者数のうち、こうした「トランジット・ツアー」に参加している人数の比率は明らかではありません。しかし、日本人旅行客のうち、本来、韓国に入国する予定のないはずの人も、「無料のトランジット・ツアー」と聞くと、参加してみたいと思うに違いありません。そのように考えていくならば、日本人の韓国入国者数は、実態よりも「水増し」されている可能性は十分にあるとみて良いでしょう。

【補論】トランジット客全員を入国者数にカウント?

ところで、仁川国際空港など、韓国内の港湾を使用している旅客には、次の3つのパターンがあるはずです。

  1. 韓国を主要な訪問先として訪れた旅客、韓国で1泊以上滞在する旅客
  2. 仁川国際空港などにトランジットで立ち寄った旅客のうち、「トランジット・ツアー」に参加する旅客
  3. 仁川国際空港などにトランジットで立ち寄った旅客のうち、上記(2)以外の旅客

韓国観光公社がどこまでを「韓国入国者」に含めているかは不透明ですが、上記で述べたとおり、少なくとも「トランジット・ツアー」に参加している人(つまり上記(2)の部分)までは、間違いなく韓国入国者数にカウントされているはずです。なぜなら、「トランジット・ツアー」に参加するためには、韓国への入国手続が必要だからです。問題は、韓国政府が(3)部分までを韓国入国者にカウントしているかどうか、ですが、これについては決定的な証拠がありません。

以前私は「楽天ブログ」にブログを執筆していたころ、韓国が「(上記(3)のトランジット・ツアーに参加しない人も含めて)トランジット旅客を全て韓国入国者にカウントしているのではないか?」とする仮説を提示したこともあります(当時の私の議論は、当ウェブサイトに本文部分を転記しています)。韓国内の各種報道を読む限り、韓国が上記(3)の旅客を入国者数に含めて、入国者数を膨らませている可能性は十分にあると考えたからです。

韓国:トランジットのからくりと習近平の影

ただ、リンク先の記事もかなり歯切れが悪いのですが、「(3)の旅客を入国者数にカウントしているかどうか」という論点については、結局、現在に至るまで決定的な証拠を掴むことはできていません。しかし、少なくとも上記(2)については間違いなく、入国者にカウントされているはずです。ということは、「無料のトランジット・ツアー」に参加するトランジット客数が韓国入国者数を押し上げていることはほぼ間違いないでしょう。韓国観光公社の統計上は、上記(1)(2)の違いは明示されていませんが、韓国への入国者統計を見るときには、こうした「トランジット・ツアー旅客」の存在には十分に注意する必要がありそうです。

羽田の国際化の進展は日本人の仁川トランジット需要を「潰す」?

しかし、私は、最近の韓国の入国統計からは、こうした「インチキ」はそれほど含まれていないと見ています。というのも、2010年に羽田空港が国際化したことで、地方在住者であっても羽田空港を経由して、欧米各地に直接、行けるようになりつつあるからです。もちろん、便数はまだまだ増加の余地がありますが、それでも、羽田空港が便利になることで、以前と比べると、わざわざ仁川国際空港を使う地方在住者が少なくなっていることは間違いありません。

もちろん、仁川国際空港や韓国観光公社が、トランジット目的での入国者数などを明らかにしている訳ではありませんから、断定的なことは言えません。しかし、2012年8月をピークに、日本人の韓国入国者数が激減したことは間違いありませんが、減少要因としては、「嫌韓」による要因だけでなく、「トランジット目的」で仁川を使わなくなったという可能性も十分に考えられます。

いずれにせよ、羽田空港の国際化によって仁川国際空港のトランジット需要が激減したのだとしたら、結果的に羽田空港の国際化が日本国民の利便性を高めたということでもあり、それは高く評価して良いのではないかと思います。

まとめ

本日の議論をまとめておきましょう。

  1. 韓国に入国した外国人は2016年8月までの1年間で1600万人を超えた。MERSで激減した2015年度(1287万人)を除けば、2014年度の1322万人を超えて過去最大に。
  2. ただし、韓国入国者のうちの過半数は中国人旅客であり、中国以外の国からの入国者数は事実上、横ばいに。
  3. 韓国入国者のうち日本人の入国者数は2016年8月までの1年間で211万人で、昨年度(191万人)よりは持ち直しているが、2014年(247万人)と比べてむしろ減少している。
  4. 韓国は少なくとも韓国観光公社などが主催する「無料のトランジット・ツアー」への参加客を入国者数にカウントしている(それ以外のトランジット客を入国者数にカウントしているかどうかは不明)。
  5. しかし、羽田空港の国際化など、日本国内の交通の利便性が上がれば上がるほど、少なくとも日本人がトランジット目的でわざわざ韓国に渡航する必要性はなくなるはず。

特に最後の(5)については、非常に示唆に富んでいます。日本の航空行政を考える上でも、是非、参考にしたいところです。また、韓国観光公社が「無料のトランジット・ツアー」で入国者数を嵩上げしている疑いが濃厚ですが、この部分については、恥ずかしいので日本政府としては絶対にマネをしないで欲しいと思います(笑)。

 

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