絶対権力は絶対的に腐敗する

自民党総裁としての任期を、最長で3期・9年まで延長するという議論が報じられています。本日は、安倍晋三総理大臣が現在の政権を続けるべきなのかどうか、そこに問題があるのかどうかについて、持論を述べてみたいと思います。

安定の安倍政権

安倍政権の「安定ぶり」が際立っています。安倍政権は今年12月まで継続すれば、2012年12月に発足して以来、満4年を迎えることになります。特に平成以降、コロコロと交代することが多かった日本の政権としては、異例の安定ぶりです。

ところで、「内閣総理大臣の権力は内閣改造をすればするほど下がり、衆院解散をすればするほど上がる」という「名言」を残したのは佐藤栄作首相だったと記憶していますが、安倍政権は、7月の参院選を受けて、先週、内閣改造と自民党三役人事などを行いました。ただ、小池百合子氏に次いで史上2番目の女性防衛相となった稲田朋美氏などの人事に注目が集まったものの、麻生太郎副総理兼財相、菅義偉官房長官、岸田文雄外相ら主要メンバーは据え置きとなり、いわば、安倍総理が政権としての継続性を重視していることが示された格好となっています。

ところで、安倍政権は当ブログ執筆日時点において在任日数は1688日に達しており、歴代内閣で7位、戦後内閣で5位につけています(図表1)。

図表1 歴代内閣総理大臣の在任日数
順位総理大臣在任日数
1桂 太郎2,886
2佐藤 榮作2,798
3伊藤 博文2,720
4吉田 茂2,616
5小泉 純一郎1,980
6中曽根 康弘1,806
7安倍 晋三1,688
8池田 勇人1,575
9西園寺 公望1,400
10岸 信介1,241
11山縣 有朋1,210
12原 敬1,133
13大隈 重信1,040
14近衞 文麿1,035
15東條 英機1,009
16松方 正義943
17橋本 龍太郎932
18田中 角榮886
19鈴木 善幸864
20海部 俊樹818

【(出所)首相官邸ウェブサイトより著者作成。ただし、この日数には、2006年9月26日に発足し、2007年9月26日に総辞職した「第一次安倍政権」の日数を加算】

衆院解散等の波乱がなければ、安倍晋三総理自身、自民党の総裁としての任期が満了するまで、内閣総理大臣を務め上げることができるでしょう。ただ、自民党総裁の任期は、現在のところ、最長で2期(6年)とされています。したがって、現行の任期満了(2018年9月)まで務め上げたとしても、在任期間は2457日と、吉田茂内閣(2616日)には足りず、歴代6位に留まる見通しです。

ところが、ここにきて自民党総裁の任期延長論が出てきているようです。現在、「2期6年」が自民党総裁としての最長任期とされていますが、各種報道によると、これを「最長3期9年まで伸ばす」、といった議論がなされているようです。

諸外国と比べて…

仮に、自民党総裁の任期が最長で3期までに延長され、、安倍晋三氏が「自民党総裁」として2021年9月16日まで在任できることになった場合で、かつ、安倍氏が衆院選等で勝利し続け、政権を維持した場合、安倍政権の在任日数は3553日となり、史上最長だった桂太郎内閣(2886日)を優に追い抜くことになります。ただ、絶対権力は絶対的に腐敗します。それでは、自民党総裁の任期が3期までに延長されることは、果たして適切なのでしょうか?

この点、アンゲラ・メルケル独首相は、2005年11月22日に独連邦首相に就任し、本日までに3913日も連続で在任している計算です。また、前任のゲアハルト・シュレーダー首相は1998年10月27日から2584日間、その前任であるヘルムート・コール首相に至っては、実に5868日も在任しています。

ドイツ(統一前は西ドイツ)の首相の在任期間は非常に長く、一番短かったキージンガー首相でさえ、1000日を超えています(図表2)。

図表2 歴代独連邦首相の在任日数と期間
首相日数期間
コーラント・アデナウアー5,145日1949/09/15~1963/10/16
ルートヴィヒ・エアハルト2,198日1963/10/16~1969/10/21
クルト・ゲオルグ・キージンガー1,097日1966/10/21~1969/10/21
ヴィリー・ブラント1,660日1969/10/21~1974/05/07
ヘルムート・シュミット3,061日1974/05/16~1982/10/01
ヘルムート・コール5,868日1982/10/04~1998/10/27
ゲアハルト・シュレーダー2,584日1998/10/27~2005/11/22
アンゲラ・メルケル3,913日2005/11/22~2016/08/08

もちろん、主要先進7か国の中でも、イタリアのようにコロコロと首相が交替する国もありますし、アメリカ合衆国・フランス共和国のように、大統領制を採用している国であれば、一定の年数が経過すると大統領(政権)の任期が到来する、というパターンもあります。ただ、日本と似たような(※まったく同じではありませんが)議院内閣制に類似する制度を採用するドイツ連邦共和国では、上記の通り、一つ一つの政権が安定的に推移していることがご確認いただけると思います。

安定政権の良し悪し

もちろん、一つの政権が長ければ良い、というものではありません。ただ、現在の日本にとっての最大の不幸とは、まともに政権を担い得る野党が存在しない点です。言い換えれば、まともに政権を任せることができそうな政党が、現時点で自民党しか存在せず、自民党の総裁が自動的に日本国総理大臣に就任する、という構造は、当面変わらないでしょう。

2009年8月に、時の麻生太郎政権を倒したのは、マス・メディアによる執拗な偏向報道でした。有能な麻生内閣を、マス・メディアに踊らされたとはいえ、結果的に退陣に追い込んだのは、当時の有権者の判断です。その後、民主党政権は迷走を極め、東日本大震災の影響もあり、日本は破滅の危機に瀕したといっても過言ではありません。その意味で、無用の政権交代が望ましくないことは間違いありません。

いずれにせよ、現在の安倍政権は、特に外交面で成果が顕著であり、また、中国が際限のない軍拡競争を仕掛けてきている以上、私個人としては、安定した外交を行うことができる「実務家集団」である安倍政権に日本の舵取りを委ねざるを得ないのが実情だと考えています。また、安定政権であれば、様々な国家的課題(例:憲法改正)に取り組むこともできます。長年、改正もされずに放置されてきた「日本国憲法」に、抜本的なメスを入れることができるのは、安倍政権をおいて他にはありません。

しかし、歴史の教訓として、絶対権力は絶対的に腐敗します。現在のところ、安倍政権に「腐敗の兆候」は見られないため、個人的な意見としては、このままぜひ「自民党総裁の任期延長」を実現し、少なくとも東京五輪の時までは安倍政権が続いてほしいと考えています。

しかし、それと並行して、自民党が腐敗する前に、「自民党ではない、政権を担い得る健全な政党」を育てることが、将来の日本には必要です。まことに残念ながら、政調会長のガソリン疑惑などから逃げ回り続けている現在の民進党に、組織・政党としての健全さは存在しません。その意味でも、私は「今のところは自民党支持/されど健全な野党の存在は必要」とする考え方を継続したいと思っています。

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