慰安婦像を「撤去しないこと」の意味
韓国国内で「慰安婦を支援する財団」が設立されたことにより、焦点は日本政府がいつ10億円を拠出するかに移ってきました。ただ、「在韓日本大使館前の慰安婦像が撤去されないかぎり、10億円は拠出すべきでない」とする意見が見られますが、私はそうは考えません。昨年12月の「岸田合意」自体は外交的な失敗だったかもしれませんが、それでも10億円の拠出が義務付けられた以上、日本側としてはさっさと資金を拠出してしまい、今後は韓国の不法行為を一方的に糾弾し続ける立場になるべきです。
10億円と慰安婦像は別物
以前私はこのブログで、昨年12月に日韓外相が「従軍慰安婦問題」の解決で合意した件について、「10億円と慰安婦像撤去は別物」とする記事を投稿しました(興味がある方は是非、ご一読ください)。内容を要約しておきますと、次の3点です。
- 昨年の「慰安婦合意」自体、日本外交にとっては大きな失敗であり、悔やまれるが、いったん合意してしまった以上は全力でこれを履行すべきである
- 日本政府・与党では、10億円の拠出は韓国の民間団体が日本大使館前に設置した「慰安婦像」の撤去と引き換えだとする意見が出ている
- 私はむしろ、10億円を一種の「手切れ金」として韓国にくれてやり、日本大使館前の慰安婦像という、韓国側が一方的に国際法に違反している状態を作り出す方が良いと思う
どうしてその内容をもう一度ここに記載したかといえば、慰安婦像撤去に関連し、日韓でいくつかの観測報道が出ているからです。そのうちの一つが、これです。
少女像を撤去してこそ10億円支援? 右翼の主張にすぎない(2016年08月03日07時53分付 中央日報日本語版より)
中央日報日本語版によると、記事の中で、
12・28合意で韓国政府は少女像に関して「適切に解決されるよう努力する」とのみ述べた。撤去や移転などの言葉は出てこなかった。
という下りがありますが、これは事実です。日本の外務省のウェブサイトによると、韓国側の外相が述べたのは、次の文章です。
「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する」
つまり、慰安婦像の撤去と10億円の拠出は、何ら関係がありません。
違法状態を違法状態と認識していない?
ただ、せっかくこの問題を改めて取り上げたので、今回のエントリーでは、前回議論しなかった「従軍慰安婦問題で日本政府が10億円を拠出することの意味」について、じっくりと考察してみましょう。
まず、中央日報日本語版の記事を読んでいて抱く違和感です。記事は「日本は10億円を拠出せよ」という前提で記載されていますが、果たしてこの記事を執筆した記者は、その意味をきちんと理解しているのでしょうか?もっと言うと、韓国国内において、外国公館である日本大使館前に、日本大使館を侮辱するブロンズ像が設置され、毎週のように市民団体が大音量で抗議活動を行っていること自体が、国際法違反であるという事実を、きちんと認識しているのでしょうか?
きちんと考えるならば、「日本政府が今回の合意に基づいて10億円を拠出すること」と、「韓国政府が日本大使館前のブロンズ像を撤去せずに放置していること」は、全く別問題です。繰り返しですが、韓国政府が日本大使館前の慰安婦像を撤去しないこと自体が、国際法に違反しているのです。外交に関するウィーン条約(正式名称:「外交関係ウィーン条約及び紛争の義務的解決選択議定書」)第22条第2項を、もう一度引用しておきましょう。
「接受国は、侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため及び公館の安寧の妨害または公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する。」
つまり、慰安婦合意があろうがなかろうが、本来、日本政府としては韓国政府に対し、大使館前の安寧と威厳の侵害をやめさせることを要求できるのです。「10億円拠出と慰安婦像撤去は引き換えだ」と合意してしまうと、被害者(日本)が加害者(韓国)に対し、不法行為をやめさせるためにお金を払う、ということになってしまいます。その意味で、慰安婦像の取り扱いを日韓合意に変に混ぜ込んだのは失敗ですが、敢えて日本政府が「10億円の拠出」と「慰安婦像の撤去」を引き換えにしなかったことについては、ぎりぎりで踏みとどまったといえるでしょう。
ただし、いつもの日本政府のことですから、韓国を国際法違反として外交的に糾弾できる立場にあるにも関わらず、それをやらないという可能性は十分にあります。つまり、「外務省の不作為」ですね。今までも、日本が慰安婦問題について反論する機会が何度も何度も何度もあったにも関わらず、外務省が何もしなかったという事実を忘れてはなりません。我々日本国民としては、日本大使館前の慰安婦像撤去を韓国政府に警告・要求し続けるよう、日本政府に「国民の意見」を伝え続ける必要があります。
どうせ撤去できない?
慰安婦「像」問題を巡って重要な論点がもう一つあります。それは、現在の韓国政府に、日本大使館前の慰安婦像を撤去することなどできない、という点です。
慰安婦像を設置したのは「韓国挺身隊問題対策協議会」(挺対協)です。この「挺対協」、毎週水曜日に日本大使館前でデモ活動を行うなどの過激な団体であり、北朝鮮とのつながりも指摘される組織です。問題の慰安婦像は、日本大使館前の公道上に、2011年12月に設置されたものですが、いまや韓国国民にとって、一種の「抗日のシンボル」のようなものになってしまっています。
つまり、もとは挺対協が設置した銅像ですが、「中央日報」や「朝鮮日報」といった韓国内でも「保守系」とされるメディアでさえ、その撤去には言及していません。設置された当初にすぐ撤去していれば良かったものを、韓国政府は初動が遅れてしまった格好です。そして、今や「抗日のシンボル」である慰安婦像をいまさら撤去するとなれば、韓国国民の反発は日本を超えて韓国政府に向かいます。いわば、「日本相手なら何をしても構わない」という韓国政府の姿勢が、事態を硬化させた格好です。
朴槿恵(ぼく・きんけい)現大統領は2018年2月に任期満了により退任を予定しているため、退任間際のドサクサで撤去を強行するという可能性も考えられますが、その場合でも、少なくともこれから1年半は日本大使館の尊厳を侮辱するブロンズ像が存在し続けることになります。
いずれにせよ、現在の政権が国内の反発を説得するなどして慰安婦像を撤去するだけの実行力や調整力がないのは事実です。もっとも、韓国政府の関係者が夜陰に乗じて慰安婦像をこっそり破壊することなどはあり得るかもしれませんが…。
ではどうすれば良いのか?
では、日本政府として、日本国民として、いったいどうすれば良いのでしょうか?
正解は簡単。さっさと10億円だけ支払い、あとは慰安婦像の撤去だけ要求し続ければよいのです。ただし、どうせ慰安婦像など撤去されるわけがありませんが、それでも「要求し続けること」が大事です。
繰り返しになりますが、慰安婦問題自体、朝日新聞社と同社元記者・植村隆による捏造記事が問題の発端であり、筋論からいえば、10億円など支払う義務はなかったはずです。しかし、慰安婦問題には反論するチャンスが何度もあったにも関わらず、歴代の日本政府・外務省が放置していたためにここまで拡大しました。百歩譲って考えると、日本政府に過失がないわけではありません。さらに、昨年冬の「慰安婦合意」は、(文書化されていないとはいえ)れっきとした国際合意です。これを日本側から破ることなどできません。
こうなった以上は、合意された10億円の出資をさっさと履行してしまうべきです。そして、韓国政府・韓国国民がこれを蒸し返そうとしたら、その瞬間、全力で反撃すべきです。何より、どうせ慰安婦像は撤去されることなどないでしょうから、国際会議その他あらゆる場を使って、「韓国政府がウィーン条約に違反して、日本大使館の尊厳と静謐を破壊する行動を放置している」という事実を、世界中に宣伝すべきなのです。
この問題については、くれぐれも、間違っても日本からこれ以上、韓国に協力してはなりません。自称・元慰安婦らに対する「補償」は韓国の国内問題であり、日本大使館前の慰安婦像と挺対協が日本大使館に対して行っている水曜デモは、韓国政府の日本政府に対する国際法違反の問題です。
【付論】韓国に優しすぎる日本の外交
ついでですから、普段、私が日本の対韓外交について考えていることにも言及しておきたいと思います。
日本政府は「外交オンチ」だと言われ続けていますが、それでもこれまで、国際法をじつによく守って来ました。このことについては賞賛に値します。ただ、「相手が国際法を破ろうとしている」からといって、「相手に国際法を守らせようとする」のが常に正しいとは限りません。特に、「国際法を守ることが期待できない相手」であれば、時として、敢えて「相手に国際法を破らせ、それを国際社会で糾弾する」という手法が機能することがあるのです。
一例を挙げましょう。フィリピンは2013年に、中国を相手取って、南シナ海の領有権を巡り、オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所(Permanent Court of Arbitration, PCA)に提訴。今年7月12日にフィリピンがほぼ全面勝訴する判決を得ています。この判決に対し中国は猛反発し、判決後も中国当局者は直ちに「中国は判決に従うことはない」との声明を発しています。
Tribunal Rejects Beijing’s Claims to South China Sea(米国時間2016/07/12(火) 09:38付 (日本時間2016/07/12(火) 22:38付)WSJオンラインより)
ただ、この一件で、中国の外交的な立場は間違いなく悪化しました。FT等の欧州系メディアを読んでいても、中国から遠く離れた欧州各国でも、「中国は国際法違反をする国だ」という印象が広まっています。
もちろん、国際法違反を糾弾したところで、フィリピンが軍事力により南シナ海から中国を追い出すことなどできません。しかし、「中国が国際法を無視して軍事力で南シナ海の海域を支配しようとしている」という事実を国際社会に認めさせたことで、諸外国にとっても、この問題では表立って中国を支持するのが難しくなります
これと同じことで、韓国が日本に対して国際法違反をしているという事実は数多くあるわけですから(一例を挙げれば島根県竹島の不法占拠、日本大使館前の慰安婦像設置やデモ活動、対馬から窃盗された仏像を不当に留置していること、廃棄物の海洋投棄等)、日本はこれらの事実をもっと前面に打ち出すことはできないのでしょうか?
あるいは逆に、「敢えて現在、韓国と極力かかわらない」というのも一つの選択肢です。韓国は現在、「米中二股外交」が破綻に瀕しています。軍事的には米国に、経済的には中国に、それぞれ深く依存しているのが現在の韓国ですが、米中両国関係が悪化するに従い、韓国は「米中いずれに従うのか」を巡って国論が四分五裂し、漂流を始めているのです。漂流する韓国を助けようと手を出すと、日本まで無用の混乱に巻き込まれてしまいます。
いずれにせよ、「韓国に対して優しすぎる日本外交」とは、そろそろ決別したいものです。
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