欧州金融危機再燃を考える

格安航空券を利用した欧州旅行は、ブログ主「新宿会計士」の個人的な趣味の一つです。これに加え、自分自身の専門分野が金融規制・金融商品会計であるという事情もあり、欧州金融危機には強い関心を払ってきました。G20財相会合では「英国のEU離脱(Brexit)」に焦点が当たったようですが、実際にはBrexitは世界経済の大きな問題ではなく、むしろ本当に問題にすべき「欧州発の金融不安リスク」については見過ごされているのが現状ではないでしょうか?

ブログ主にとって他人事ではない欧州問題

2008年に「リーマン・ショック」が発生し、それに続いて2009年には欧州金融危機、2010年には欧州債務危機が発生しました。これらの一連の報道を受けて、日本でも、「どうやらヨーロッパは危機にあるらしい」と理解している人が増えているのは事実ですが、その一方で、ヨーロッパが日本から離れすぎているため、どうも実感が乏しいというのが実情でしょう。

ところで、ブログ主(ペンネーム「新宿会計士」)は、現在でこそ40代の中小企業経営者(というか、一人事業主)ですが、大学生時代や独身時代には、格安航空券を買い求めては、頻繁に外国に出掛けていました。特にヨーロッパは学生時代に貧乏旅行をした場所でもありますし、人生で2回目の転職をするタイミングで一人ドライブ旅行をした場所でもあります。欧州金融危機の報道を眺めていると、「むかし自分が訪れたあの場所でデモが発生している!」と気になることもあります。

これに加え、自分自身の専門分野が銀行自己資本比率規制・金融商品会計基準を中心とした金融分野であるため、文化的見地、専門的見地双方から、欧州金融危機には強い関心を払っている、というのが実情です。

終わらない欧州金融危機とIFRS

週末に中国で開かれていたG20財相会合では、「英国のEU離脱(Brexit)の影響を最小化する」方針でまとまったようです。

Italy finance minister rejects banks bail-in(英国時間2016/07/24(日) 17:03付 (日本時間2016/07/25(月) 01:03付)FTオンラインより)
G-20 Ministers Renew Vow to Promote Growth After Brexit Shock(米国時間2016/07/24(日) 07:13付 (日本時間2016/07/24(日) 20:13付)WSJオンラインより)

ただ、細かい部分を見ていくと、報道機関によっても報道ぶりが大きく異なります。米国のメディアであるWSJを読んでいると、今回のG20の論点が「Brexitが世界経済にもたらす影響をいかに最小化するか」といった点に集まっているかの印象を受けます。

しかし、英国が国民投票で離脱を決めた欧州連合(EU)の足元では、再び、金融危機の火が付きつつあります。特に、欧州系のメディアでもあるFTが今回注目しているのは、イタリアの銀行が「システム的な問題」に直面していて、「投資家による救済(bail-in)が不可避」ではないかとする観測です。FTオンラインは、「イタリアのパドアン財相がイタリアの銀行危機に関する報道を否定した」と報じていますが、そのような報道が出るということ自体、欧州で金融危機が再燃している証拠でしょう。

ドイツ、フランス、イタリアといった欧州主要国で相次いで金融不安が再燃しているのは、我々日本人からすれば不思議なことです。しかし、2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻から金融商品会計基準を眺めている立場からすれば、抜本的な不良債権処理を先送りにしてきた欧州金融機関の経営破綻リスクが高まっているのも当然ではないかと思います。そして、私は、欧州金融機関の経営不安の裏側にあるのが、実はIFRS(国際財務報告基準)ではないかと考えています。

IFRS9:場当たり的な会計基準

銀行等の金融機関は、決算日時点における資産・負債の一覧表(連結貸借対照表)を作成する必要があります。これは日本でも欧州でも米国でも全く同じですが、金融危機の際には会計基準が問題となります。

欧州の場合、金融商品会計基準は「IAS39」が適用されており、銀行等金融機関が保有する金融資産は、3つの保有目的区分のいずれかで処理する必要があります(図表1)。

図表1 IAS39の保有目的区分
IAS39の区分日本基準会計処理
トレーディング売買目的有価証券時価評価・当期の損益
満期保有目的投資・債権満期保有目的の債券償却原価評価
売却可能資産その他有価証券時価評価・OCI

時価のある金融資産については、保有目的区分が「トレーディング」(日本基準でいう「売買目的有価証券」)の場合、決算日時点で時価評価し、その差額を当期の損益として処理しなければなりません。また、時価会計の対象から外すためには、「満期保有目的の区分」(日本基準でいう「満期保有目的の債券」)に区分する必要がありますが、利付金融資産をこの区分に分類してしまうと、その利付金融資産を売却することが難しくなります。さらに、「売却可能金融商品」(日本基準でいう「その他有価証券」)に区分すると、時価評価差額の損益処理こそ免れることができるものの、時価会計そのものを避けることはできません。

2008年9月15日に発生したリーマン・ブラザーズの経営破綻により、世界中の証券化商品・クレジット関連商品の時価が急落しましたが、同年10月、IFRSを設定している「国際会計基準審議会」(IASB)は、IAS39を急遽改悪し、(リーマン・ショックが発生する9月15日以前である)7月1日に遡って、「トレーディング」で保有する金融商品を緊急避難的に「満期保有目的投資」の区分に変更することを容認しました。ただ、これだと金融商品を売却することができません。

そこで、2009年11月にIASBは、欧州金融機関にとって都合の悪いIAS39を廃止して、保有目的区分を3つから4つに「簡素化」(?)したIFRS9という代物を公表しました。

図表2 IFRS9の保有目的区分:3つの区分を4つに「簡素化」
区分会計処理
償却原価区分償却原価評価
(上記の)公正価値オプション時価評価・当期の損益処理
公正価値区分時価評価・当期の損益処理
OCIオプション時価評価・OCI処理

しかし、この「2009年版IFRS9」は、欧州連合(EU)領域内での財務報告基準を審査する「欧州財務報告アドバイザリー・グループ」(EFRAG)が承認を見送っており、IASBはIFRS9の修正を余儀なくされます。

2014年7月版のIFRS9では、この保有目的区分がさらに5つに「簡素化」(??)されており、この基準が、ようやく2016年中に承認される可能性が出て来ました。しかし、欧州金融機関がこのIFRS9により決算を作成し始めると、ますます「不良資産隠し」が横行する可能性があります。

BCBSとIASBの対立

一方、グローバルな金融危機を受けて、商業銀行によるリスク・テイクを抑制するための新規制が「バーゼルⅢ」と呼ばれる規制です。これは、国際決済銀行(BIS)の内部に事務局を置く「バーゼル銀行監督委員会」(BCBS)が策定している国際的な金融規制で、2010年にBCBSが公表した「バーゼルⅢテキスト」では、銀行に対して抜本的な資本規制の強化が迫られています。

それだけではありません。BCBSはIFRS9に定められている「予想損失アプローチ」(ECL)についても、IFRS9の規定に基づく損失計上が不十分であるとして、昨年12月に「予想信用損失会計に関するガイダンス(原題“Guidance on credit risk and accounting for expected credit losses”)」なる文書を公表し、各国規制当局に対して注意喚起を促しています。

今回のG20財相会合では、規制当局が金融商品会計に言及することも乏しくなり、どちらかというとBrexitの影響を最小化するという観点に焦点が当たってしまっていますが、実は欧州金融危機については全く収束していません。英国が抜けることが確定したEUが、IFRS9を採用するのかどうか、注意深く見守っていきたいと思います。

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