邦銀の対外与信は過去最大…「欧米豪偏重」は変わらず

日銀が23日に公表した統計によると、邦銀の対外与信残高(※最終リスクベース)は5兆2700億ドルで過去最大だったことが明らかとなりました。内訳は米国向けが最も多く、これにケイマン諸島、欧州諸国、豪州、カナダなどが続きます。また、アジア向け与信で見ると、中国、香港、台湾、韓国などの近隣諸国向けよりも、タイ、シンガポールなどASEAN向けの方が多いというのも印象的です。

日銀の国際与信統計(CBS)日本集計分

当ウェブサイトにて定期的にアップデートしている話題のひとつが、国際決済銀行(BIS)が公表している『国際与信統計』です(ちなみに業界では、統計の英語名称 “Consolidated Banking Statsitics” を略して『CBS』と呼ぶこともあります)。

この国際与信統計、世界統一のフォーマットに基づき、各国の中央銀行・通貨当局などがBISに提出したデータをもとに、どの国がどの国に対していくらおカネを貸しているかという「おカネの流れ」を集計した総合的な統計データです。

2024年6月末時点の状況については、先月の『邦銀対外与信は約9年連続世界一』でも取り上げたばかりですので、ご記憶にあるという方も多いのではないでしょうか(ついでにいえば、「国境を越えた資金のやり取り」という観点からは、邦銀の対外与信は(最終リスクベースで)世界最大なのです)。

余談ですが、どうして新聞、テレビなどのオールドメディアがこの話題にほとんど触れないのかについては、著者自身としては大きな謎のひとつではあります(あるいはそのようなデータの存在を知らないからでしょうか?)。

最新データで見ると…邦銀の対外与信は過去最大

さて、それはともかくとして、BISがデータを公表するのは四半期(3ヵ月)に1回ですが、日銀はそれに先立って、BISに報告した統計を公開しています。それが、『BIS国際資金取引統計および国際与信統計の日本分集計結果』です。

そして、その最新データ、つまり2024年9月分のデータが23日、日銀から公表されています。

さっそくですが、その最新データをもとに、(最終リスクベースの)邦銀による相手国別与信を、上位20位まで一覧にしたものが、次の図表1です。

図表1 日本の対外与信相手国一覧(上位20件、2024年9月末時点、最終リスクベース)

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)

なお、上記図表は出所さえ示していただければ引用も転載も自由ですが、画像ファイルになってしまっているため数値をコピーするのが難しい、という事情があるかもしれません。したがって、本稿の末尾にテキスト化したものを収録しておきます(末尾に収録している理由は表が長いためです)。

いかがでしょうか。

邦銀の対外与信合計が5兆ドルを超えるのは4四半期(つまり1年)連続のことであり、また、この5.27兆ドルという金額は、対外与信としては過去最大です。F

対外与信総額の推移

続いて、最終リスクベースでの対外与信の推移を示しておくと、図表2のとおりです。

図表2 最終リスクベース・対外与信残高

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)

2022年頃に、一時的にこの対外与信が落ち込んでいるのが確認できますが、これはおそらく円安による影響ではないかと思います。

じつは、対外与信統計のデータだけだと、邦銀の対外投融資残高の通貨別構成は明らかではなく、あくまでも想像ですが、2022年頃は外国向けの円建てなどの投融資残高もそれなりにあったのではないかと推察します。だからこそ、円安の効果で円建て融資などのドル換算額が減ってしまったのかもしれません。

円換算額については過去最大ではないが…円安要因か?

ちなみに国際決済銀行(BIS)などが公表する為替データを使ってこれらの金額を円換算したら、どうなるでしょうか。

これを示したものが、図表3です。

図表3 最終リスクベース・対外与信残高(円換算額)

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータおよび The Bank for International Settlements, Bilateral exchange rates time series  データをもとに作成)

これで見ると、日銀データ(※ドル建て)を円換算した金額は、むしろ2024年9月期に落ち込んでいることがわかります。1ドル=160円台の円安状態だった2024年6月末時点と比べ、9月末時点だと1ドル=140円台前半にまで円高が進んだため、という事情もあるのかもしれません。

米国・ケイマン、そして欧・豪・北米向けが圧倒的に多い

次に、先ほどの図表1に示した相手国別の内訳についても確認していきましょう。

邦銀の国際与信はトップが米国向け(約2.46兆ドル)で、これだけで国際与信全体の46.65%と半分近くを占めており、これにケイマン諸島向けが6676億ドル(邦銀国際与信の12.67%)が続きます。

ただし、ケイマン諸島は自体は単なるオフショア金融センターであり、邦銀の対ケイマン与信の多くはそのまま投資スキームを通じて本邦に還流しているケースも多いと思われるため(著者私見)、米国以外に実質的に意味がある与信は3位以下の国・地域でしょう。

ところが、3位以降は英仏豪独など、欧州、豪州、北米などが続き、アジア向け与信は9位にタイ、10位に中国が入るなど、対アジア与信の少なさが印象的です。

ちなみに邦銀のタイに対する与信が多い理由は、おそらく、三菱UFJ銀行が2013年にタイの都市銀行であるアユタヤ銀行を買収したことの影響と考えられますが、中国に対する与信が少ないのは意外だと思われる方も多いのではないでしょうか。

邦銀の対中与信は864億ドルで、これは邦銀の対外与信全体の1.64%に過ぎません。

また、この対中与信に迫るのがシンガポール向けの834億ドルという与信で、これは対外与信全体の1.58%であり、そして邦銀のシンガポール向け与信が徐々に増えていることを踏まえれば、このままでいけば対シンガポール与信の額が対中与信の額と再逆転するのも、時間の問題かもしれません(図表4)。

図表4 最終リスク_債権_合計/シンガポール・中国

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)

香港、韓国向け与信など、近隣国与信の現状

ただ、それ以上に興味深いのが、香港向け与信、韓国向け与信などの急減です(図表5)。

図表5 最終リスク_債権_合計/香港・韓国

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)

これで見ると露骨ですが、邦銀は明らかに、2020年前後をピークとして香港向けの与信を減らしていることがわかります。また、韓国向け与信に関しても、香港向けほどではないにせよ、徐々に比重が減って来ていることがわかります。

ここで、邦銀の近隣6ヵ国(中国、香港、台湾、韓国、北朝鮮、ロシア)向けの与信と、ASEAN諸国向けの与信を集計したものが、図表6です。

図表6 日本の対外与信(アジア・近隣国向け、2024年9月末時点,最終リスクベース)

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)

邦銀の対外与信は、近隣国向けが約2150億ドルで対外与信全体の4%少々であり、これに対してASEAN向けは2776億ドルで対外与信全体の5.3%弱です。

この四半期に限定していえば、近隣国向けの伸び率がASEAN向けの伸び率を上回っていますが、それでも邦銀としてはタイ、シンガポールを中心とするASEAN諸国の方が、中国、香港、台湾といった近隣国よりも重要だ、という姿が浮かび上がるのも興味深い限りです。

参考資料:図表1再掲(テキスト版)

なお、末尾に先ほど挙げた図表1をテキスト化したものを掲載しておきますので、適宜ご利用ください。

図表1 日本の対外与信相手国一覧(上位20件、2024年9月末時点、最終リスクベース)
相手国金額シェア前四半期比
1位:米国2兆4584億ドル46.65%+973億ドル(+3.96%)
2位:ケイマン諸島6676億ドル12.67%+569億ドル(+8.52%)
3位:英国2447億ドル4.64%+157億ドル(+6.40%)
4位:フランス1979億ドル3.76%▲96億ドル(▲4.83%)
5位:オーストラリア1552億ドル2.95%+86億ドル(+5.53%)
6位:ドイツ1361億ドル2.58%+93億ドル(+6.82%)
7位:ルクセンブルク1299億ドル2.46%+111億ドル(+8.56%)
8位:カナダ1065億ドル2.02%+41億ドル(+3.89%)
9位:タイ988億ドル1.88%+16億ドル(+1.57%)
10位:中国864億ドル1.64%+57億ドル(+6.61%)
11位:シンガポール834億ドル1.58%+50億ドル(+5.95%)
12位:アイルランド692億ドル1.31%+56億ドル(+8.03%)
13位:イタリア663億ドル1.26%+23億ドル(+3.53%)
14位:オランダ643億ドル1.22%▲25億ドル(▲3.88%)
15位:インド620億ドル1.18%+76億ドル(+12.25%)
16位:スペイン554億ドル1.05%+32億ドル(+5.84%)
17位:インドネシア494億ドル0.94%+19億ドル(+3.84%)
18位:韓国478億ドル0.91%+15億ドル(+3.14%)
19位:香港443億ドル0.84%▲8億ドル(▲1.77%)
20位:スイス382億ドル0.73%+35億ドル(+9.10%)
その他4080億ドル7.74%+142億ドル(+3.49%)
対非居住者合計5兆2700億ドル100.00%+2422億ドル(+4.60%)

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    邦銀としては、近隣国に対外与信を出すのは、(国によって理由は様々ですが)危険が高いと判断したのではないでしょうか。

    1. カズ より:

      そうですね。「君子危うきに近寄らず!」が基本なんですものね。

      肝要なのは「リスク増す契機(りすくますけーき)」の見定めですね。
      脇の甘さが織りなす甘い甘い物語だけは回避しないとなんですよね。

      ・世界平和に火をつける国
      ・民主主義に火をつける国
      ・ロケットに火をつける国
      ・ローソクに火をつける国

      ♩隣人に散々苦労~す!
      ♩本当に散々苦労~す!!


      *どこからか、歳時記ソング?が聞こえてきた・・。

      m(_ _)m

  2. いっちょ紙 より:

    どうしたんだろう、シェア1パーセント未満かつインドネシアよりも下位の自称G8先進国がありますねぇ。世界も羨む民主主義が高度に発達(自称)しすぎて自分たちが選んだ大統領をすぐにローソク掲げて弾劾するせいかなー。
    政治的に不安定な国が経済的に発展しつづけるはずはなく、まだ決着がつきそうにない今回の事態がこれから顕在化し、与信もおのずと下がっていくでしょう。

  3. バッハ より:

    >どうして新聞、テレビなどのオールドメディアがこの話題にほとんど触れないのか

    対外与信残高というもの自体あるいはそれの意味する事を単純に知らないからだと思います。
    経済を担当している報道関係者が実際にどの程度の経済学の知識を有しているのか、何らかの形でテストしてみたら面白い(面黒い?)かもしれませんね。もしかしたら経済学のいろはの「い」すら解答できない可能性もあるかもです。

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