企業の9割超は「年収の壁」引上げに賛成=TSR調査
年収103万円の壁の引き上げを巡り、企業の9割超が賛同したそうです。企業の多くが人手不足に苦しむなか、ある意味では当然の反応といえるかもしれません。もちろん、「壁」には103万円以外に106万円、130万円などがあるため、この「103万円の壁」引き上げ「だけ」で働き控えが解消されるわけではありません。しかし、減税の恩恵が広範囲に及ぶことは歓迎すべきです。
いわゆる「年収103万円の壁」とは、給与収入が103万円を超えると、所得税が発生したり、その人が扶養から外れたりするなど、税額が跳ね上がるポイントとして知られています。
国民民主党が現在主張している「年収の壁を178万円に引き上げること」は、おもに基礎控除の額を1人あたり現行の48万円から123万円に引き上げることなどが柱とされていますが、これが実現すれば、「働き控え」が減るほか、給与所得者の多くにとって大なり小なり減税となる効果が期待されます。
次の前提をおいて、具体的にいくら、手取りが増えるか試算してみます。
試算の前提
- 被用者は40歳以上で東京都内に居住し、東京都内の企業に勤務しているものとし、給与所得以外に課税される所得はなく、また、ボーナスはないものとし、月給は年収を単純に12で割った値とし、配偶者控除、扶養控除、ふるさと納税、生命保険料控除、配当控除、住宅ローン控除などは一切勘案しない
- 年収を12で割った額が88,000円以上の場合、厚年、健保、介護保険に加入するものとし、その場合は東京都内の政管健保の令和6年3月分以降の料率を使用するものとする(ただし計算の都合上、端数処理などで現実の数値と合致しない可能性がある)
- 雇用保険の料率は1000分の6とし、「社保」とは厚年、健保、介護保険、雇用保険の従業員負担分合計、税金とは所得税、復興税、住民税の合計とし、住民税の均等割は5,000円、所得割は10%とする
- 本来、住民税の所得割は前年の確定所得に基づき翌年6月以降に課税されるが、本稿では当年の所得に連動するものと仮定する
- 基礎控除は合計所得金額が2400万円までの場合、所得税が48万円、住民税が43万円とし、以降2450万円まで、2500万円まででそれぞれ基礎控除が逓減し、2500万円超の場合はゼロとする
- 増加額と増加率は、単純に、基礎控除を合計所得金額が2400万円以下の場合は75万円、2450万円以下の場合は50万円、2500万円以下の場合は25万円、それぞれ現行よりも加算した場合で試算
上記前提で年収ごとの手取りの変化を求めたものが、次の図表です。
図表 年収ごとの手取りの変化
年収 | 手取りの変化 | 増加額と増加率 |
100万円 | 987,600円→989,000円 | +1,400円(+0.14%) |
150万円 | 1,221,116円→1,261,900円 | +40,784円(+3.34%) |
200万円 | 1,599,264円→1,684,200円 | +84,936円(+5.31%) |
300万円 | 2,361,603円→2,474,890円 | +113,288円(+4.80%) |
500万円 | 3,847,111円→3,978,419円 | +131,308円(+3.41%) |
750万円 | 5,542,809円→5,766,313円 | +223,504円(+4.03%) |
1000万円 | 7,182,475円→7,410,625円 | +228,150円(+3.18%) |
1250万円 | 8,761,582円→9,012,704円 | +251,123円(+2.87%) |
1500万円 | 10,124,480円→10,452,178円 | +327,698円(+3.24%) |
2000万円 | 12,868,167円→13,195,865円 | +327,698円(+2.55%) |
2500万円 | 15,470,760円→15,852,060円 | +381,300円(+2.46%) |
3000万円 | 17,674,980円→17,674,980円 | +0円(+0.00%) |
(【注記】上記『試算の前提』参照)
年収3000万円の場合、そもそも基礎控除が変わらないため、メリットはゼロです。
ただ、一定水準以下の年収だと、少なくない額の減税効果が生じていることがご確認いただけるのではないでしょうか(厚生年金の「壁」を引き上げなくても、です)。
こうしたなか、信用調査会社の東京商工リサーチ(TSR)は今月2日から9日にかけ、インターネットを使ったアンケート調査を実施し、5,726社から得た有効回答を集計・分析したところ、壁引上げに9割超の企業が賛成。国民年金に関する「130万円の壁」についても6割が期待しているとする結果を発表しています。
「103万円の壁」引き上げ 企業の9割超が賛成、約6割の企業は「130万円の壁」見直しも期待
―――2024/12/12 12:21付 Yahoo!ニュースより【東京商工リサーチ配信】
これは、なかなかに興味深い結果です。
やはり、「企業に尋ねた」、というのがひとつのポイントでしょう。
TSRによると、103万円の壁の引き上げを巡っては91.3%の企業が「賛成」と回答した一方、「反対」は8.6%にとどまったのだそうです。ちなみに記事では、「賛成」の理由については「働き控えが解消し、人手不足が緩和する」が74.4%で最多だったとしており、これについてTSRはこう述べています。
「人手不足が深刻さを増すなか、働く人だけでなく、企業も税と社会保険の改正に関心を寄せている」。
この点、「人手不足倒産」なる用語が一部で流行っているそうですが、たしかに企業にとっては働き手の確保は死活問題です。103万円を178万円に引き上げたとしたら、時給が同じならば、「働き控え」していた人の労働時間が約1.73倍に増えることを意味するからです。
この点、正直、著者自身には「103万円の壁」を動かしたところで、「働き控え」が減るとも思えません。社保の「106万円の壁」や国年の「130万円の壁」などの問題を放置したままだと、正直、「働き控え」がどこまで解消するのかは疑問だからです。
しかし、103万円の壁が動き、消費や投資が活性化されれば、経済が拡大して税収も伸び、財務省が「事実上の権力者」としてこれまで繰り返してきた増税が誤っていたことが白日の下に晒されることを通じ、すべての増税政党が選挙で徐々に駆逐されていく、ことは期待したいものです。
いずれにせよ、月並みですが、本稿でも「いつもの3つのお願い」をしておきたいと思います。
「いつもの3つのお願い」
- ①納得できない報道をする新聞は、解約しましょう。
- ②納得できない報道をするテレビは、消しましょう。
- ③選挙では必ず投票しましょう。
ご協力できる方には是非とも実践していただきますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
タイムリーなよい仕事ですね。
TSRも、大手メディアじゃないですねえ。(笑)
善き哉。善き哉。
一体なにをしてるんでしょうねえ、大手メディアは。
総選挙と続く首班指名に向けての大事な短期間だんだから、全力疾走で調査分析報道を繰り出すべき人たちなのに、ダンマリですからね。
炬燵記事を書いてるマヌケたちを総動員して、年齢層別、所得層別、職階別、業界別、のヒアリングをしてデータを集めて分析して報道すべきですよね。
一体なにをしてるんでしょうねえ、大手メディアは。(2回目)
都知事選では「女帝対決だ!」と報道。
→結果は違った。
大統領選挙では「カマラ優勢だ!」と報道。
→結果は違った。
衆議院総選挙では「政権交代!」と報道。
→結果は違った。
うーん、なんで手抜きしよう手抜きしようとするのかなぁ。
地道に調査して、集計して、分析して、そのまま報じればよいだけなのに。
この期に及んでSNSの悪口を言ってるのが、片腹痛いですな。
まず自分たちの製品の品質を、しっかり担保できるような仕組みを整えるのが先。
イーロンマスクにでも、UHFのチャンネルを1つタダであげたらよいのかな。
今は、「横並びから最初に抜けた奴だけ、勝ち残れる」
状況にみえますよね。
(経済学では有名な「囚人のジレンマ」)
現場のスタッフで、まともな職場に転職したい人たちは多いかと。
ホリエモンは、リベンジのチャンス。
楽天の三木も、SB孫も、泥船から降りるなら今だと思うけどなあ。
(笑)
地上波だからダメなんじゃなくて、コンテンツの内容がダメなのにね。