「ディズニーの入場料値上げ」に見る入国税構想とは?

先月の訪日外国人数は287万人と、9月としては過去最高を記録しました。国別にみると韓国、中国が僅差で並んでいますが、米国、豪州、カナダといった比較的遠方からの入国者も増えているようです。ただ、観光公害などが社会問題化するなかで、日本政府もそろそろ「人数」よりも「質」を目標に据えることを検討すべきではないでしょうか?

訪日外国人、9月としては過去最多

日本政府観光局(JNTO)が16日に公表した『訪日外客統計』の最新データによると、2024年9月の訪日外国人数【速報値】は2,872,200人で、9月としては過去最高を記録しました。訪日外国人の国籍別内訳は図表1のとおりです。

図表1 訪日外国人・国籍別内訳(2024年9月)
人数構成割合
1位:韓国656,70022.86%
2位:中国652,30022.71%
3位:台湾470,60016.38%
4位:米国191,9006.68%
5位:香港170,2005.93%
6位:豪州85,7002.98%
7位:カナダ50,0001.74%
8位:フィリピン46,6001.62%
9位:ベトナム45,8001.59%
10位:タイ45,5001.58%
その他456,90015.91%
総数2,872,200100.00%

(【出所】JNTOデータをもとに作成)

訪日外国人のトップを占めるのは韓国人、僅差で中国人が2番目となり、両者でそれぞれ約23%弱を占め、これに台湾が続くなど、近隣国出身者が相変わらず多いようですが、その一方で4番目に米国、6番目に豪州、7番目にカナダなど、遠方からの訪日客も散見されます。

このペースだと今年の訪日者数は過去最多に

続いて図表2は、コロナ禍の2020年から22年の3年間を除き、訪日外国人総数の月維持推移を示したものです。

図表2 日本を訪問した外国人合計

(【出所】JNTOデータをもとに作成)

9月の数値としては、これまでに過去最高だった2017年の記録を塗り替えるものでもあります。

さらに、今年1月から9月までの累計値を計算すると、訪日外国人数の合計は26,880,224人となり、単純計算で毎月約299万人が日本を訪問したことになり、1~9月の累計値としては過去最大だった2019年の24,417,820人と比べ、約10%増えた格好です(図表3)。

図表3 訪日外国人・国籍別内訳(2024年1月~9月vs2019年1月~9月)
人数の変化増減・増減率
1位:韓国4,934,315(20.21%)→6,468,590(24.06%)+1,534,275(+31.09%)
2位:中国7,402,578(30.32%)→5,247,476(19.52%)▲2,155,102(▲29.11%)
3位:台湾3,736,530(15.30%)→4,585,795(17.06%)+849,265(+22.73%)
4位:香港1,660,886(6.80%)→1,971,976(7.34%)+311,090(+18.73%)
5位:米国1,277,007(5.23%)→1,960,053(7.29%)+683,046(+53.49%)
6位:タイ868,443(3.56%)→752,004(2.80%)▲116,439(▲13.41%)
7位:豪州449,228(1.84%)→637,307(2.37%)+188,079(+41.87%)
8位:フィリピン402,119(1.65%)→542,833(2.02%)+140,714(+34.99%)
9位:ベトナム376,043(1.54%)→479,831(1.79%)+103,788(+27.60%)
10位:カナダ269,147(1.10%)→417,322(1.55%)+148,175(+55.05%)
その他3,041,524(12.46%)→3,817,037(14.20%)+775,513(+25.50%)
総数24,417,820→26,880,224+2,462,404(+10.08%)

(【出所】JNTOデータをもとに作成)

訪日韓国人が増えている理由としては、円安傾向に加えて2019年7月以降に吹き荒れた「ノージャパン」キャンペーンなどの影響がなくなったことなどが考えられますが、訪日中国人はコロナ後の制限がしばらく続いたためか、累計値ベースで見たら、むしろ2019年と比べて減っていることが確認できます。

良い効果もあるが…

ただ、いずれにせよ上位10ヵ国・地域については、訪日客数が減っているのは中国とタイのみであり、総じてそれ以外の国からの訪日者数は増えていることが確認できます。

そして訪日客総数は過去最多水準で推移しており、このペースで推移すれば、2024年を通じて日本を訪問した外国人の数は3500万人台にも達する可能性がありそうです。

このあたり、当ウェブサイトとしては、外国人観光客が日本にやってくることについて、少なくとも次の3つの経済効果があると考えています。

  • ①外国人観光客が日本でカネを落とすことによる経済波及効果
  • ②外国人観光客が日本を訪れ、日本を好きになってくれることによる外交・安全保障面での効果
  • ③外国人観光客が日本に押し寄せることで観光公害などが生じる効果

これら以外にも、「外国人観光客が増え過ぎると、日本の経済・産業が外国人観光需要に握られてしまい、経済安保面では好ましくない」、といった側面もあるかもしれませんが、経済面ではとりあえず上記3点については指摘しておく必要があるでしょう。

これらのうち、①、②に関しては、間違いなく良い効果です。

とりわけ①に関しては、観光業が典型的な労働集約産業であり、現在の日本がただでさえ人手不足に苦しんでいるなか、手放しに喜べるものとは限りませんが、それでも外国人が日本で多くのおカネを使ってくれれば、それだけ日本経済全体に大きな波及効果が期待されるからです。

また、②については意外と多くの人に欠落している視点かもしれませんが、実際に日本を訪れ、日本を味わい、日本を楽しみ、日本を体感した人たちが、本国に帰ったあとで日本での体験のすばらしさを周囲に話し、また、折に触れ日本の味方になってくれる可能性はあります。

もしかすると最近世界的に流行っている日本のアニメなどが好きで、日本の文化に染まり、何度も何度も来日してくるケースもあるかもしれませんし、そのようなケースにおいては、どこかの国が悪意を持って日本の悪いうわさを流そうとしても、積極的に火消しに加勢してくれるかもしれません。

したがって、良質な外国人観光客が大挙して日本にやってくることは、間違いなく、日本の利益です。

観光公害は問題:鳥居で懸垂、繁華街で飲み歩き…

しかしながら、非常に残念なことに、日本を訪れる外国人観光客が「良質」とは限りません。

最近だとX(旧ツイッター)やInstagramなどのSNS界隈で、鳥居で懸垂をする外国人、繁華街で大声を上げながら飲み歩く外国人、さらには乗車マナーが極端に悪い外国人などが報告されていますが、これらも結局のところ、観光公害の一種です。

また、そもそも京都市バスのように、地元の人々が生活路線として使用している路線が観光客に占拠されるなどの実害が生じているケースなど、正直、至急の対策が必要(なのに日本政府観光庁などにろくな対策ができていない)ような事例も散見されます。

さらには『富士山黒幕問題と本質見失う批判』などでも取り上げた「富士山コンビニ問題」などを踏まえると、やはり外国人観光客を大量に行け入れることに伴うコストが日本全体の各地で発生していて、それを外国人観光客自身に転嫁できていないという可能性があるのです。

そういえば、以前の『観光公害対策の姫路城「外国人4倍」構想をどう見るか』では、兵庫県姫路市で市長が姫路城への入城料に「外国人料金」を適用する案を考えている、とする話題を取り上げました。

これについて、当ウェブサイトとしては、(その技術的な課題はともかくとして)年齢ごと、居住地ごと、国籍ごとに細かく料金を設定するという考え方自体は「悪いものではない」と申し上げましたが、これも冷静に考えてみれば、おかしな話です。

とりわけ外国人観光客の急増は日本の代表的な観光地全体において生じている現象ですので、本来ならば入国税ないし観光税のようなものを外国人に課し、それを観光公害対策に使うというのが政策論としては検討されるべきでしょう。

(たとえば1人1万円などの)ある程度高額な入国税を課せば、それの負担に耐えられる質の高い外国人観光客(たとえば高所得者層など)とそうでない外国人観光客を、ある程度はふるいに分けることができるのではないでしょうか?

(※そういえば、「日本国民に対する増税」ならいつも喜んで飛びついてくるはずの財務省から「入国税」「観光税」構想が出てこないのは、なにか理由でもあるのでしょうか?)

値上げで増収増益の株式会社オリエンタルランド

ここで参考になる事例があるとしたら、それは東京ディズニーリゾートかもしれません。

株式会社オリエンタルランドのウェブサイトによると、ゲスト1人あたり売上高は年々上昇しており、2019年に11,606円だった売上高は、2021年には14,834円に上昇。その後もチケットの値上げなどが続いていることを踏まえると、おそらく1人あたり売上高は現時点ではもう少し上昇していると考えられます。

実際、株式会社オリエンタルランドの連結損益計算書によると、2024年3月期の売上高は6184億93百万円で、前年同期(4831億23百万円)と比べて1353億70百万円もの増益です。

また、年齢別にみると40歳以上の大人が増えており、2014年に20.4%だった「40歳以上の大人」は2021年時点で25.7%に上昇する一方、「18歳~39歳の大人」はだいたい50%前後で推移する一方、「中人」、「小人」の割合が減っているのも気になるところです。

子供の入場者割合が減っているのは少子化のためなのか、それ以外に要因があるのかはわかりませんが、(比較的購買力が高いとみられる)高齢層の入園者が増えていることと、客単価が上昇していることから、次のような仮説は成り立つかもしれません。

ディズニーが入園料を引き上げることで、ディズニー来園者はその入園料の負担に耐えられる層に限られている」。

実際、ディズニーが「子供たちが気軽に遊びに行ける場所」ではなくなっているのは気になる反面、株式会社オリエンタルランドの近年の増収・増益ぶりを見ると、入場料引き上げは結果として、株式会社オリエンタルランドにとっても「客を選ぶ」という効果をもたらした可能性はあるでしょう。

観光公害などが社会問題化するなかで、日本政府もそろそろ「人数」よりも「質」を目標に据えることを検討すべきではないでしょうか?

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    つまり新宿会計士さんは、夢の国であるディズニーは観光税または入国税を導入したから値上げしたと主張したいわけですね(曲解)

  2. ちょろんぼ より:

    入国税、非常に良い提案です。
    受け入れ態勢不足の状況で現在の外国人の入国は多すぎます。
    今まで入国して、犯罪の多い国及び迷惑行為が多い国は
    多額にするとか(観光ビザだけにすれば、問題は発生しません)
    例えば、
    犯罪者しかいない中共・半島諸国は30万円~
    偽装難民が多いトルコ系も30万円~
    他は1万円~開始
    入国してから迷惑行為の多い国から順次値上げして
    いけば良いと思います。
    観光ビザでの滞在期間が30・60・90日となっていますが
    90日は長すぎるので、廃止すべきです。

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