「人手不足倒産」の正体とは「労働条件の改善」では?
「人手不足倒産」の正体とは、労働者を搾取するかのごとき経営者が、労働条件の改善によって廃業を余儀なくされていることではないでしょうか。こうしたなか、ネット上でちょっとした話題となっているのが、違法性の疑いが極めて濃厚な人材募集に関するポストです。試用期間も明示せず、店主の裁量により、半永久的に最低時給で働かせることもできる―――。正直、この手の事業者が人手不足で倒産しても、あまり同情できません。
ネットで見た「凄い求人」
「助けてください/働く人が見つかりません/時給1500円※休み希望なしが条件<中略>交通費、まかない、残業代、寸志あり」。
こんなポスターが、ネット上でちょっとした話題となっています。
このポスターをSNSに投稿したのは、東北地方の飲食店のものだそうですが、これにこんな内容が付記されています。
「『自分の休みは店に委ねます』という強者を求めます!/これに反した場合、該当月の前後2ヶ月を含む3ヶ月間は、交通費込み時給900円となります。勤務開始前後で話が変わる人が多いための措置です。/試用期間中の時給は898円で、日数は本人の努力次第です。宜しくお願いします」
…。
これってすなわち、自己都合で休んだら、その休んだ日を含めた3ヵ月間、時給が40%以上もカットされる、ということでしょうか?また、試用期間日数が「本人の努力次第」というのも、店主の判断で半永久的に試用期間が続く可能性がある、ということでしょうか?
なんだか、いろいろと違法性の疑いが強そうです(ちなみに「時給898円」とは、この店がある県の最低時給水準だそうです)。
目立つところに「時給1,500円」などと掲載しておきながら、「自己都合で休んだら給与カット」、「試用期間は明示しない」、「店主の判断で半永久的に最低時給で働かされる」…。
まさに、「搾取」そのものです。
この店主さん、少々、社会を舐めすぎていませんか?
人手不足倒産は定義がバラバラ
さて、最近、「人手不足(関連)倒産」という言葉を目にすることが増えている気がします。
この「人手不足(関連)倒産」、おもに定義しているのは帝国データバンク(TDB)や東京商工リサーチ(TSR)といった信用調査会社だそうですが、会社によっても、また同一の会社が公表するレポートによっても、定義が微妙に異なっているようです。
「人手不足を一因とする倒産」、どうやって定義づけて、どうやってそれを集計しているのでしょうか?
まさか、それぞれの信用調査会社がひとつひとつの倒産の原因を、「うーん、これは資金繰り倒産だ!」、「これは人手不足倒産だ!」と手作業で判断している、というのでしょうか?
いわゆる「倒産」には、民事再生法や会社更生法などの再生・更生型のもの、破産・特別清算などの清算型のもの、法的手続によらない私的整理などに分けられますが、手形の不渡りを半年で2回出して銀行取引停止処分となる場合など、事実上の倒産とみられるケースもあります。
これらの「倒産」、本来ならばさまざまな要因があるはずなのですが、これを「人手不足によるものだ」と判定するのは、あくまでもその信用調査会社であり、おそらくは裁判所などの公的機関が統計データとして公表しているものではありません。
むしろ倒産件数も負債総額も減ってませんか?
それに、『倒産はむしろ減少傾向:「人手不足倒産」の正体とは?』でも指摘したとおり、その信用調査会社であるTSRのデータによると、倒産件数自体は減っています。
TSRが『倒産件数・負債額推移』というページで公表している同社が調査した1952年から2023年までの倒産件数や負債総額のデータがその証拠です。
本来ならば、これらのデータをグラフ化してお示ししたいところですが、同ページには「禁・転載・複写」とあるため、グラフ化などについても避けたいと思います。ただ、大変興味深いことに、倒産件数・負債総額はむしろ、安倍政権以降、顕著に減っているのです。
具体的には、ピーク時の2000年には倒産件数が2万件近くに達し、負債総額もなんと24兆円近くに達したのですが、ちょうど第二次安倍政権が発足したあたりから減り始め、2021年には倒産件数で6千件あまり、負債総額も1兆円少々に激減しているのです。
その後、2023年に入って倒産件数は8,690件、負債総額も2.4兆円ほどに増えてはいるのですが、正直、この程度の倒産件数・負債総額であれば、過去の平均と比べても多すぎるということはありません。
TSRが公表する倒産件数と負債総額
- 2000年…倒産件数18,769件、負債総額23兆8850億円
- 2021年…倒産件数*6,030件、負債総額*1兆1507億円
- 2023年…倒産件数*8,690件、負債総額*2兆4026億円
(【出所】TSR)
あまり同情できない「人手不足倒産」
このように考えていくと、「人手不足倒産」の正体も、単純に「優れた労働力には適正な対価を払わなければならない」、あるいは「労働者に適正な対価を支払えない会社が消滅している」だけだ、といった仮説が成り立つところではないでしょうか。
もう少し踏み込んでいえば、「人手不足倒産」とやらも、あまり同情できないのです。
そして、くだんの(労働法違反の可能性が濃厚な)某飲食店の店主のポストから滲み出てくるのは、「(労働者を)雇ってやる側だ」、といった傲慢さではないでしょうか。
「人手不足倒産」も、労働者の側から言い換えれば、「働く場所がいくらでもある」ということを意味します。
この点、『雇用を無視しアベノミクスを失敗と決めつけて良いのか』でも指摘したとおり、アベノミクスをしきりに批判する日本のマスコミ人や、あるいはマスコミによく顔を出す自称経済評論家の皆さんには、おしなべて、第二次安倍政権以降、雇用が著しく改善した事実を無視する傾向があります。
著者自身、この「人手不足倒産」という用語自体、アベノミクスを敵視する自称言論人らが労働市場逼迫の「負の側面」をむりやり強調するために利用されているものではないかと睨んでいるのです。
みもふたもないいいかたかもしれませんが、「人手不足倒産」の正体とは、労働者から見た「労働条件の改善」ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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黙って最低賃金で募集掛けときゃ良いのに、色気を出した挙句ヘタレ条件を付けまくった募集になった訳ですね。
>「人手不足倒産」も、労働者の側から言い換えれば、「働く場所がいくらでもある」ということを意味します。
働く場所が真っ当かどうかは、結局は入ってみないと分からないし、入ったら中々出られないし、其処迄気楽では無い気がしますね。
労働時間の上限規制で人手不足が顕著になったんでしょうけど、無理せず身の丈にあった事業をしなかったのかな?と。
なんか…経営者が“ブラック気質です!”と自白している様な求人広告っスね
自分がバイト希望者だったとしてこんな求人広告みて笑わずに希望できるのか?
とか客観的に見るタイミングなかったんだろうか?
ポスター刷り上げた時とか貼る時とか冷静に見れる機会たくさんあっただろうに…
なぜここまでいけてしまったのか
自分の休みは店に委ねます』という強者を求めます! >
こういう企業、店舗、職場は、いずれ淘汰されていきます。これは今の日本の必然の流れです。
なぜならアベノミクス効果によって、現在の有効求人倍率が1倍をはるかに超えているからです。職種や地域によって差はあるでしょうが、おそらく1.3~1.5倍程度にはなっているのではないでしょうか?要するに労働市場はただいま完全に「売り手市場」と化しているからです。
そこから類推するに、職業の選択肢に於いてはさまざまなミスマッチはあるでしょうが、それはいずれ最小限(とまではいえなくても)、且つ適切な範囲に収斂されていくと思います(というか信じたいものです)。