今週の注目点は大手新聞社の決算

今週予想される論点のひとつが、株式会社朝日新聞社の有価証券報告書です。例年だと朝日新聞社は6月最終週などに有報を公表しているため、今年も早ければ今週、同社の有報を手に入れることができるでしょう。こうしたなか、やはり気になる焦点は、経費率の高さと新聞部数の推移です。合理的に考えれば、新聞業界は紙媒体の印刷を止め、新聞を全面的にウェブ化するのが最適であるようにも見えますが…。

朝日新聞社の有報を定点観測する理由

株式会社朝日新聞社(以下「朝日新聞社」)といえば、大手新聞社のなかでは珍しく、詳細な財務データを公表している社でもあります。朝日新聞社自身は非上場会社ですが、有価証券報告書(以下「有報」)を財務局に提出しているからです。

(※なお、なぜ朝日新聞社が非上場会社なのに有報を提出しているのかという理由については、恐らく同社の株主数が関係しているのだと考えられますが、これについては『株式会社朝日新聞社の中間決算は黒字化するもまた減収』などもご参照ください。)

そして、当ウェブサイトではここ数年、朝日新聞社の有報を「定点観測」しているわけですが、その朝日新聞社の有報は例年、6月最終週に公表されることが多いようであり、今年もそれが公表され次第、さっそく、その内容を確認してみたいと考えている次第です。

では、なぜ当ウェブサイトにおいて朝日新聞社の有報を観察しているのか――。

理由はいくつかありますが、その最たるものは、大手新聞社のなかで詳細な決算データを手に入れることができるのが、朝日新聞社しかない、というものです。

本当であれば、最大手である株式会社読売新聞グループ本社を筆頭に、株式会社日本経済新聞社、株式会社毎日新聞グループホールディングス、株式会社産業経済新聞社などの決算も分析してみたいところですが、有報レベルの詳細なデータが、そもそも入手できないのです。

少なくともここに挙げた大手全国紙は、朝日新聞社を含めていずれも非上場会社であり、かつ、朝日新聞社以外は有報を作成・公表していないため、結局、大手全国紙のなかで決算分析が可能なのは朝日新聞社しかないのです。

この点、当ウェブサイトでは基本的に、「誰でも簡単に入手できる情報」を出発点に議論を組み立てることを好んでいるため、必然的に、新聞部数を含めた新聞業界の現状をレポートする際には、どうしても、一般社団法人日本新聞協会の部数データと朝日新聞の部数データを大きなテーマとして取り上げざるを得ないのです。

値上げのおかげで今期決算は増収増益だが…課題は高コスト体質

さて、それはともかくとして、先月の『朝日新聞決算は増収増益だが…「高コスト体質」課題も』でも触れたとおり、先月公表された決算短信などに基づき、現時点までに判明している朝日新聞社の2024年3月期決算は、だいたいこんな具合です。

  • 連結・単体ともに売上高、営業利益、経常利益、最終損益がいずれもプラスに転じた
  • 単体売上高を平均朝刊発行部数で単純に割ると毎月300円~400円程度の増収となった効果が認められる
  • 実際、朝日新聞の月ぎめ購読料は昨年5月に500円値上げされたため、この値上げが増収に結実した可能性が高い
  • ただし、新聞部数自体が減少しているためか、値上げによる増収・増益効果は限定的と見られる
  • そもそも朝日新聞社の原価率・経費率は非常に高く、売上高営業利益率は連単ともに2%台に留まる

…。

このもう少し詳細な分析については、朝日新聞社の有報が公表されるのを待ちたいと思いますが、いずれにせよ、とりわけ厳しいのが、朝日新聞社の高コスト体質だと思います。

連単の売上高、売上原価、販管費、そして営業利益の構成を視覚で示してみたものを再掲しておきましょう)(図表1図表2)。

図表1 株式会社朝日新聞社・連結業績

図表2 株式会社朝日新聞社・単体業績

(【出所】図表1・図表2ともに、2024年3月期に関しては決算短信、それ以外に関しては過年度有価証券報告書のデータをもとに作成)

視覚的には、朝日新聞社は売上原価、販管費の両者を足した金額が売上高とほぼ見合っていて、結果的に営業利益が非常に薄いことがわかります。

経費率の異様な高さ、是正するには紙を廃止することだが…!?

想像するに、朝日新聞社は売上高の多くを従業員に対する給与で還元しているのではないかとも思えますが、問題は、それだけではありません。昨今は新聞の製造コスト(紙代、インク代、電気代など)や配送コスト(ガソリン代など)がかつてと比べてそれなりに高騰している可能性が高いからです。

(※なお、人件費や製造原価などについては、朝日新聞社の有報が公表された時点で確認できると思います)。

正直、財務論「だけ」の立場から指摘すれば、もう紙で新聞を印刷するのを止め、全面的にウェブ配信に切り替えた方が、コスト的には良いはずです。売上原価部分がほぼそのまま営業利益になるからです(※この点については朝日新聞社に限った話ではありません)。

ただ、紙媒体の発行を止めない限りは、この高コスト体質が維持されるのだと思われる反面、「さまざまな理由」(理由は想像にお任せします)があって、おそらく朝日新聞社は紙媒体の発行を止めることができないのだと思います。

そうなると結局、手を付けるとしたら不採算部門の閉鎖や人件費削減くらいしかありません。

実際、朝日新聞社は数年前からしばしば、大規模なリストラを行っているなどと報じられることも増えています(たとえば2年前の『朝日新聞、売上減少のなか「過去最大級のリストラ」か』等参照)し、週刊誌の休刊ウェブサイトの閉鎖などといった話題も出て来ています。

優良事業がない会社の場合、どうする!?

いずれにせよ、くどいようですが、当ウェブサイトにおいて朝日新聞社の決算を頻繁に話題として取り上げるのは、詳細な決算データが手に入るのが、大手全国紙だと朝日新聞社くらいしかないからであり、一連の決算観測も、朝日新聞社だけでなく、新聞業界全体の問題だと理解すべきでしょう。

しかも、朝日新聞社は不動産事業や関連会社(とりわけテレビ朝日ホールディングスや朝日放送ホールディングス株式会社など、地上波テレビ局を営む関連会社)株式などの優良事業・優良投資などを持っているため、経営的にはまだ余裕があると思われます。

しかし、そのような優良事業などを持っていない社の場合は、いったいどうなってしまうのでしょうか。

ここから先はあくまでも想像ですが、新聞部数の減少が続き、近い将来において歯止めがかかる見通しも乏しいなかで、新聞業界からは「新聞への補助金制度」、「新聞へのさらなる軽減税率」などの要望が出て来る可能性すらもあるでしょう。

このため、業界最大手の一角を占める朝日新聞社が公表するであろう有報の記載内容は、新聞業界の先行きを読むうえで、非常に重要な意味を持つ可能性がある、とだけ、現時点では指摘しておきたいと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    新聞は社会の公器、表現の自由、民主主義を守るために補助金を。というような大合唱が、近い将来、聞けそうですね。

    1. 農民 より:

       補助金の代わりに政府やシンクタンクから人員送ってガッチガチに管理させるのは手かもしれません。左派政権交代時のリスクも増えますけど。

    2. 雪だんご より:

      毎日新聞が2009年に原寿雄なる”ジャーナリスト”に
      「ジャーナリズムがいかに大事であるか教える為に年500億円出せ」
      なんて書かせていましたね。探してみたら魚拓がありました。

      http://s03.megalodon.jp/2009-0824-1629-34/mainichi.jp/select/wadai/news/20090824ddm012040004000c.html

      当時から「税金寄越せ!」と叫んでいましたが、最近はやっていませんね。
      決して口には出さないけれど、世論が許さないと理解しているのでしょうか?

      いよいよ切羽詰まってきたらまたやりそうではありますが……

  2. はにわファクトリー より:

    こんな電車釣り広告見出しを思いつきました。
    「なぜ彼らは経営実態を隠蔽するのか
     新聞社に足りない経営透明性」

  3. 愛知県東部在住 より:

    株式会社朝日新聞の本業が不動産業であることは、もはや自明の事実とで皆様もよくご存じだと思われますので、その事については言及しません。

    しかし築地に聳える朝日新聞東京本社ビルの土地取得に関わる、詐欺まがいの事件のことをご存じではない方は案外多いかもと思い、ご報告しておきます。

    朝日新聞本社ビルの敷地は1万4680坪ですが、その土地は元国有地でした。この土地取得に関して朝日新聞は大蔵省(当時)と二本立ての契約を結びました。一つは金銭によるものであり、もう一つは朝日新聞が当時杉並区に保有していた浜田山グラウンドとの交換方式による取得という形式でありました。契約が交わされたのは1973年のことだそうです。

    大蔵省はそのグラウンド跡に公務員宿舎を建設する予定だったといいます。しかしこの構想は実現されることはありませんでした。なぜならこの土地は「瑕疵物件」だったからです。この土地の一部には塚山遺跡という縄文期の竪穴住居群跡があり、官舎建設等到底不可能な場所だったのです。

    しかもこの遺跡の発掘調査は昭和7年から13年にかけて行われており、そのことを知らないはずのない朝日新聞側はそのことを口を拭ったまま、大蔵省との交渉を続けていたのです。さらに奇怪なのはこの瑕疵が判明した後の大蔵省の態度です。10年の買い戻し特約を付けていたにも関わらず、大蔵省はその権利行使することなく、当該の土地はその後杉並区に苦笑で貸し付けられ、事実上区の保有となってしまいました。現在は区立塚山公園となっているようです。何故でしょう?謎です。不思議だなぁ~(棒)

    この話、どこかで似たような話がありましたね。
    そう、あの塚本学園騒動です。尤もあちらは、遺跡ならぬゴミでしたが・・・。

    1. 愛知県東部在住 より:

      苦笑で  ×
      無償で  ○

      申し訳ありません(苦笑)。

    2. はにわファクトリー より:

      かな漢字変換が隙を衝いて繰り出してくる誤字はエンタテーメント …

      1. 愛知県東部在住 より:

        誤字はエンタテーメント …>

        変換確定のenterキーを押すのが怖い、今日この頃・・・

    3. Sky より:

      愛知県東部在住さま
      杉並区のあの辺り。23区内とは思えぬ昔ながらの武蔵野、郊外の雰囲気が残っており、以前通りがかって以来不思議に思っていました。
      なるほど、そういう背景があったとは。。
      知りませんでした。

      朝日新聞社。
      一刻も早く事業清算することこそ「社会の公器」としての務めと思ってしまいます。

      1. 愛知県東部在住 より:

        Sky 様

        コメント有り難うございます。

        一刻も早く事業清算することこそ「社会の公器」としての務め >

        それはかなり困難な「望み」だろうと思われます。

        といいますのは、(株)朝日新聞は今のところ、日本でも有数の(会計上に於いては)エクセレントカンパニーの一つであるからです。詳しくは金融庁のサイトから朝日新聞の決算報告書を見て貰えればわかると思いますが、ほぼ無借金で毎年のように3千億円を超える利益剰余金をたたき出しているという、超がつく(あくまでも会計的には)優良企業なのです。

        https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100SG2V.pdf?sv=2020-08-04&st=2024-06-23T11%3A06%3A03Z&se=2026-12-14T15%3A00%3A00Z&sr=b&sp=rl&sig=tX43r7JZiyFvgiVcRwWlB6K3pCmlRHbHOc%2Bwa54n%2Ftg%3D

        朝日新聞を事業清算させよう(潰そう)とするなら、高橋洋一氏が主張しているようにTV朝日HD等の子会社を狙い撃ちにして、各TV局の電波使用料を、電波オークションなどを導入して、競争入札化して高額化(値を吊り上げ)させてじわじわと体力を削ぐやり方の方がいいかもしれません。

        まっ、いずれにしても本業の方は毎年低下の一途ですから、いずれは業態変更、或いは改革などの措置は必須になるのかもしれませんが。

        1. 愛知県東部在住 より:

          済みません、筆が滑ってしまいました。

          毎年のように3千億円を超える利益剰余金をたたき出している  ×

          利益剰余金(内部留保)が3千億円以上に積み上がっている  ○

          でした。

    4. 杉並区のホームページ より:

      施設案内 塚山公園 | 杉並区 公式ホームページ
      https://www.city.suginami.tokyo.jp/shisetsu/kouen/03/shimotakaido/1007228.html

      >公園になる前はある新聞社が所有する農場で、それを昭和48年に国が取得し、官舎の建設計画を発表しました。
      >これを契機に地元で遺跡と樹林の保存運動が起こり、議会と区民が協力して国に働きかけた結果、公園をつくることで払い下げになったものです。

      ↑役所のホームページらしからぬ文章。これを書いた人は何を伝えたかったのか・・・。

  4. sqsq より:

    新聞用紙の単位は「連」で1連で4000ページの新聞が印刷できるらしい。
    日経の記事によれば1連当たり300円の値上げがありそれが10%強にあたるらしい。
    ということは今までの値段は1連2900円、値上げ後は1連3200円と考えられる。
    主要紙の朝刊は32ページ程度なので1部当たりの用紙代は3200/4000×32=25.6円
    インク代がいくらかはわからないが、インク代を含めて朝刊1部30円程度の原価だろう。

  5. 匿名 より:

    完全電子化すれば、パルプの浪費も減らせる上に、印刷に必要な石油資源や有害化学物質使用量削減、さらに拠点間配送や各戸配達によって生じるCO2やタイヤとアスファルトの粉塵、悪天候対策で必要な梱包用ポリエチレン袋の削減でプラゴミも減らせる、まさに一石多鳥!
    SDGsを積極推進している各新聞社は当然前向きに取り組んでいるんですよね?

  6. レッドバロン より:

    オールドメディア批判なら誰がみても影響力が低下している新聞なんかより、未だに影響力大なテレビ局の暗部や問題点を重点的に扱ってほしいですね。
    それにしてもわからないのが地方紙。沖縄二紙は極端な例にしても、どこもかしこも朝日新聞の劣化コピーみたいな左派リベラル路線を、これだけ紙の新聞が衰退した中でいつまで続けるんですかね?

  7. KA より:

    売り上げが落ちているのは明らかですね。
    日本の為に一日でも早く廃業してくれるのを期待してます。

  8. カズ より:

    >優良事業がない会社の場合、どうする!?

    さっさと見切りをつけて身売りするのが最善かと。
    スケールメリットに「値段の付くうち」の話ですね。

  9. 匿名 より:

    新聞のうんざりする点は、事実と新聞社の主張が混然一体としており、事実と主張を区別しながら読まなくてはいけない点です。ある程度客観性がある記事と新聞社の主張を別冊別売にしてもらえれば読者も増えるような気がします。個人的には新聞社の主張部分は不要です。

  10. ドラちゃん より:

    将棋囲碁のタイトル戦のスポンサーから新聞社が降りるのも時間の問題化も
    新聞社が降りたら、タイトル戦の日程も変わってくるかも

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