台湾政府が日本人観光客獲得に向けてキャンペーン開始

台湾といえば、パイナップルや半導体といった、日本にとって重要な戦略物資を産出する国であるとともに、日本と基本的価値や戦略的利益を共有する大切な友人でもあります。そんな台湾が、日本人観光客の獲得に向けて本格的に動き出したという情報が入ってきました。日本人を含めた外国人旅行客に抽選で5,000台湾ドル(約22,000円)相当をプレゼントするというキャンペーンなどを実施するのだそうです。

コロナ前後の訪日外国人の状況

コロナ禍では、日本と外国との往来がほぼストップしてしまいました。

日本政府が外国人に対する入国ビザの免除制度の運用を停止したため、外国から日本への入国者数が激減。それと同時に外国でも出入国管理が強化されたことを受け、日本人の海外渡航の動きもほぼストップしてしまったのです。

こうしたなか、外国人の入国者数については徐々に回復しつつあり、2023年3月における入国者数は182万人と、コロナ禍が深刻化する直前の2020年1月の266万人と比べて約70%の水準にまで到達していることがわかります(図表1)。

図表1 訪日外国人データ(月次)

(【出所】日本政府観光局『訪日外客統計』をもとに著者作成)

日本に入国した外国人の総数は、韓国が牽引する格好で急回復しているのですが、台湾、香港、米国といった伝統的な訪日外国人出身地からの訪問も回復しつつあります。これに中国人入国者が回復すれば、(良いか悪いかは別として)コロナ前の水準を回復するのは時間の問題でしょう。

日本人出国者数は低調

しかし、その一方で、出入国在留管理庁のウェブサイトに公表されている『出入国管理統計統計表』に基づけば、日本人出国者数は依然として低調です。

コロナ禍の直前では、日本人の出国者数は(月によるバラツキはありましたが)おおむね150~160万人程度で推移していたのですが、コロナ後も2023年3月に70万人近くをカウントしたほかは、まだ50万人前後、といったところでしょう(図表2)。

図表2 日本人出国者数

(【出所】出入国在留管理庁『出入国管理統計統計表』データを参考に著者作成。なお、2023年3月・4月のデータに関しては速報値を使用)

もともと、インバウンド(訪日外国人総数)とアウトバウンド(日本人出国者数)を比べると、2015年頃以降はインバウンドがアウトバウンドを上回っているという傾向がみられたのですが、ポストコロナも、前者の方が後者よりも力強く回復している格好です。

「出国日本人」<「訪日外国人」

これを同じグラフで示したものが、次の図表3です。

図表3 インバウンドvsアウトバウンド

(【出所】日本政府観光局・出入国在留管理庁データを統合して著者作成)

この「日本人出国者数」については、その内訳はわかりません。当然、観光目的だけでなく、商用目的、長期滞在・永住目的などの出国も含まれているはずですし、また、出国した日本人の渡航先についても、政府は統計として把握していません。

ただ、総じて「日本を訪れる外国人」の方が、「外国を訪れる日本人」よりも多い、という状況が出現している、という点については、留意しておいて良い統計的事実のひとつでしょう。

日本政府が(なぜか)日本人の海外旅行を後押し

こうしたなか、台湾メディア『中央通訊』(フォーカス台湾)の日本語版に11日付で、こんな記事が出ていました。

日本が海外旅行後押し 台湾が重点目的地の一つに 交通部「両国で協力」

―――2023/05/11 15:07:56付 中央通訊日本語版より

中央通訊によると、観光庁と日本旅行業協会(JATA)が10日、日本人の海外旅行の機運を高めるべく、「今こそ海外!宣言」を出し、重点的な取り組みを実施すべき目的にに台湾を含む24ヵ国・地域を選んだと発表したのだそうです。

中央通訊はまた、都内で開かれた記者会見に台湾政府・交通部観光局東京事務所の鄭憶萍(てい・おくへい)所長も出席し、「台日協力により日本人の海外旅行を後押ししていく」とする考えを示した、などとしています。

記事では観光庁が出国日本人数を2019年の2000万人という水準に回復させることを目的にしている、などと記載されているのですが、個人的にはその必要があるのか、どうも理解できません。

もちろん、インバウンド観光、つまり訪日外国人を増やすことについては、(著者自身は諸手を挙げて賛同するつもりはありませんが)政策目標としてはあり得る話だと考えているのですが、逆に、外国を訪問する日本人を日本政府が増やすというのも、なんだかよくわからない話です。

しかも、中央通訊の記事によると、「本格的な回復に向けた重点国・地域」としては、台湾のほか、中国、香港、韓国が選ばれたらしく、また、これらの24ヵ国・地域の観光局と連携し、パスポート取得費用の半額に当たる8,000円分の電子マネーを抽選でプレゼントするキャンペーンも打つのだそうです。

正直、それをやるコストを、「全国旅行支援」に費やした方が、国内経済の振興という意味では優れているような気はします。

台湾も日本人客獲得に動き出す

もっとも、中央通訊によると、これに呼応して台湾政府も日本から観光客を呼び込もうとしており、外国人個人客に抽選で5,000台湾ドル(約22,000円)をプレゼントするキャンペーンや、団体旅行客向けの補助などの施策も行うのだそうです。

この点、台湾は日本にとり、基本的価値や戦略的利益を共有する大切な友人でもありますし、また、ここ数年はスーパーなどで、春先に美味しい台湾パイナップルが陳列されているのを目にする機会も増えるなど、何かと日本にとっては重要な国でもあります。

その意味では、キャンペーンの有無にかかわらず、「半導体からパイナップルに至るまで、日本にとっての重要な戦略物資を産出する台湾を応援する」という目的も兼ね、日本に最も近い「日本と基本的価値を共有する友人」である台湾に出かけることを検討してみても良いかもしれません。

日台両国の相互往来が活発化するかどうかについては、今後の個人的な関心事のひとつ、といったところでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 伊江太 より:

    >(観光庁に)「本格的な回復に向けた重点国・地域」としては、台湾のほか、中国、香港、韓国が選ばれたらしく、

    全く馬鹿としか言いようがないですね!(怒)

    この中の一国については、理由も明らかでないまま、長期間逮捕拘束される恐れはあるが、
    「君もしくは、君のメンバーが捕らえられても、当局は一切関知しないからそのつもりで」

    くらいの注釈付なら、まだ分からんではないが。

    1. ぬい より:

      「なお、この録音は自動的に消滅する。」
      ってインポッシブルテイストな旅行は遠慮したいですね。

  2. めがねのおやじ より:

    そう言えば九州や沖縄や山陽四国、関東に旅行した、という声が周りから聞こえて来ますが、「韓国に行く」「中国に行く」という海外旅行の声は聞こえて来ませんね。やはりウチにこもりがちな日本人らしさか?

    でも台湾なら近いし安心だし、5〜6年ぶりに行きたいなぁと思います。観光庁の重点施策のC国やK国は却下。香港も大丈夫かな?ナニも拘束される事はしてませんが(笑)。

    1. 団塊 より:

      >香港も大丈夫かな?ナニも拘束される事はしてませんが(笑)。
       し
       てると思う。香港以外(例:日本)からネットに書き込みしている人物は香港・中華人民共和国に一歩踏み入れた瞬間、行方不明最有力候補!

       香港、有名人は逮捕され反論の場もなく刑を言い渡されたが、
       無名の者やいいねボタンを押しただけの香港人は逮捕され、その後は…分からん!!

  3. 匿名 より:

    日本人が、海外に行かないのは、日本が良いからですね。何故なら、外国人が、挙って来たいほどに魅力的な国に住んでいるんだから、何をわざわざ、治安の悪い国に行く必要があるのかな?
    これが、20年間も出国者数が横這いの理由なんですが。
    日本と日本人が分かっていない政府役人は、トンチン感な事をやるんですね。だから、財政赤字が増えるのでは?

    1. CRUSH より:

      いやその、経常収支のことだけ考えるならば、TOYOTAを売って日本に積み上がるドルを、なんとか使ってしまいたい訳なので、
      「海外旅行キャンペーン」
      を思い付くこと自体はとても自然なことです。

      でも笛を吹いても誰も踊らない(韓国についてはネコマタギ)のは、キャンペーンが足りないのではなくて国内旅行が快適で面白い(とくに資産を持つ老人層には)というだけの話でしょう。

      1. 匿名 より:

        そうなんですね。国内旅行が快適なんですよね。
        だから、山手線の駅名を付けた怪しげな会計士さんが言うように、円安の時にドルを売って差益を稼いで、その差益を国内観光の奨励に使えばいいのです。そうすれば、円安利益の恩恵を外国人に使われるばかりでなく国民にも還元し、外国人からもがっぽり儲けられるという構図が出来上がるんですが、ね。つまり、外貨は減らない。
        政府は、新宿会計士を顧問にしたらいいのです。その時は、カバン持ちさせてください、新宿会計士さん。給料は、最賃の3倍位でいいですから。

        1. オタク歴40年の会社員です、よろしくお願いいたします より:

          海外旅行と聞くと、
          子供の頃のクイズ番組を思い出しますね

          パリ挑戦権獲得❗

          ニューヨークに行きたいか‼️、

          最近観てないけど、
          新婚さんはハワイ旅行?。

      2. 団塊 より:

        >TOYOTAを売って日本に積み上がるドルを、
         い
         えいえ、日本は貿易赤字です。

    2. 団塊 より:

      >TOYOTAを売って日本に積み上がるドルを
       い
       や、中華人民共和国から儲けを中華人民共和国から持ち出せません=日本にドルは積み上がらない。
       アメリカで稼いだドルはアメリカに投資される=日本にドルは積み上がらない!
       日本からアメリカに輸出して稼いだドルも日本に来ることはない=日本にdollarは積み上がらない

  4. とくめいです より:

     半導体とパイナップルを同様に扱うとは・・・重要度は・・・
    パイナップルに謝罪してください。

  5. まんさく より:

    応募しましたがハズレました。次に行く時は当てたいです。台湾は果物が安くて美味いので輸入を増やして欲しいです。

  6. クロワッサン より:

    不当に拘束されている日本国民が居るのに、中国を推す意味が分からないですね。
    北朝鮮に拉致された日本国民すら救えない見殺し政府たる自覚がないんですかね?

    韓国は韓国で、対日レイシストに非ずんば韓国民に非ずな社会なんだから、用日などに騙されずにエンガチョへと導くべきでしょうに。

  7. 理系初老 より:

    せめて家族で回転寿司屋さんに行くときはくら寿司さんに行きます。
    「くら寿司、高雄に海外初のグローバル旗艦店 世界最大規模/台湾
    2023/05/08 フォーカス台湾」

  8. 攻撃型原潜#$%&〇X より:

    日本政府は本当に中国旅行を推奨しているのですか? 事実ならば観光庁の無責任ぶりをもっと批判してよいと思います。過去に容疑不明のまま17人(正確な数字は忘れました)もの日本人が中国政府により拘束され数年の牢獄生活を送っています。日本国のリン外相はまったく非力で、助けてはもらえません。
    どうしてもビジネスで中国に行かねばならない場合を除いて、中国旅行なんて危険極まりないです。特にこちらのサイトの常連さんは身元がバレていて入国すれば即逮捕もあり得ます。ご用心を。

  9. 虎虎 より:

    日本国民パスポート保持者2023年統計で国民の約24%、世界約200ヶ国ビザ無し入国可能と優遇国にもかかわらず。やはりネックは英会話・円安・航空券が欧米より高いのが原因では。日本のテレビ局ほど海外の話題・旅番組の多さも渡航しない原因では(欧州では日本人一人旅は極端に少ないですね)

    1. 団塊 より:

       本物の大金持ちはヨーロッパ旅行、大金持ちは米国へ旅行。米国旅行できない者がオーストラリアへ。
       オーストラリアへも行けない貧乏人が隣国へ行く。←日本人なら大韓民国へ、大韓民国人種なら日本へ

       観光地が欲しいのは人数でない、お金です。少人数の超大金持ちがたっぷり落としていく大金であり、決してお金にならない大勢の貧乏人ではない。
       隣国からの貧乏人はお金を落とさず観光地のインフラを使い汚すだけで大赤字!

  10. 元日本共産党員名無し より:

    台灣旅行良いですね。
    ただし、独り者の身としては何を楽しんで良いやら皆目見当が付きません。白菜の形の翡翠加工とか、故宮博物館で観るぐらい?後はフルーツ買って食べるとか。
    今のところ私の関心は国内旅行の方が大きいかな?佐渡島や隠岐島に行ってみたい。小笠原や台灣間近の沖縄の小島にも。そう言う所に行き尽くした後で、台灣も行ってみたい様な。

  11. 匿名 より:

    不法に拘束されている国民を助ける事も出来無いくせに人質になりに特定国に行けるかボケ。賢い国民はちゃんと見てるわ、アホか。と言いたいですね。

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