邦銀「脱香港」の流れは高市発言と無関係に進んでいた
最新の金融統計からは、邦銀が香港向けの与信を減らした結果、いまやシンガポール向け与信と比べ、倍以上の差がついていることが明らかになりました。また、高市発言以降、日中関係がギクシャクしていると伝えられますが、少なくとも金融の世界においては、それとは無関係に、邦銀の脱香港・脱中国の流れが傾向として続いていることがグラフからは見て取れます。
目次
国際与信統計(CBS)とは?
当ウェブサイトでは最近、四半期に1度か、場合によってはそれ以上のペースで取り上げている話題があります。
それが、『国際与信統計』です。
これは、「中央銀行の中央銀行」とも称される国際決済銀行(the Bank for International Settlements, BIS)が四半期に1回公表している統計で、英語の “Consolidated Banking Statistics” を略して『CBS』と呼んだりすることもあります。
この『国際与信統計』ないしは『CBS』、世界共通のフォーマットで公表されるため、国境をまたいだ資金のやり取りを追いかけるのが容易であるという特徴がありますが、その反面、データ提出国が限られているため、CBSだけで国際金融のすべてを追いかけることができるわけではありません。
とりわけ近年経済発展著しい中国などのデータが存在しないため、たとえば「中国の銀行が北朝鮮に対し、いくら融資しているのか」、といった情報を知ることはできません。CBSのデータ改善が必要な、今後の課題のひとつでしょう。
ただ、こうした欠点はあるにせよ、現時点において、国際金融を論じるうえではこのCBSは、最低限の基礎資料として把握しておかねばならないというレベルで重要な統計であることは間違いないでしょう。
邦銀対外与信は5.67兆ドル(約888兆円)
さて、そんなCBSですが、BISの公表に先立って、日銀は四半期に1回、日本のデータの最新版を公表しており、昨日までに2025年12月末時点の邦銀対外与信の最新データが明らかになりました。さっそくですが、これをグラフ化してみると、図表1のような具合です。
図表1 邦銀による対外与信合計(最終リスクベース)
グラフにある「最終リスクベース」とは、連結ベースで最終的なリスクの所在がどこにあるかという観点から集計したものですが(※本稿では基本的に最終リスクベースの数値を用いています)、それより注目すべきは、2025年12月末時点の与信残高でしょう。
ドルベースで見たら5.67兆円と前四半期(2025年9月末)ベースからさらに増えているのですが、これを同じくBISが公表している為替レートなどを参考に円換算してみると888兆円と、こちらも過去最高です。
円安の原因は邦銀の旺盛な対外与信にあるのかも?
では、相手国別に見ると、どうなっているのでしょうか。
これをドルベース・最終リスクベースで展開したものが、次の図表2です(図表2は画像ファイルですが、本稿末尾にテキスト化したものを再掲しますので、データとして使いたい方は自由に利用して下さい)。
図表2 日本の対外与信相手国一覧(上位20件、2025年12月末時点、最終リスクベース)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
なかなかに、これも凄い図表です。
対外与信合計が5.67兆ドル、前四半期比で617億ドルも増えています。前四半期時点で日本は10年連続して世界最大の債権国だった格好ですが、この分だと2025年12月末時点も日本が国際与信でトップの地位を維持する可能性が高そうです。
もっとも、増えた与信は米国向けが圧倒的に多く、また、与信シェア自体も対外与信残高の48.75%が米国向けで、日本の対外与信は米国向けにかなり偏っているということがよくわかります。米国におカネを貸すことで、それなりに高い利回りを維持している、ということでしょうか。
余談ですが、(あくまでも想像ですが)昨今の円安も「日本の銀行等金融機関が米国など外国向けの与信を積み増している」など、いわゆる「キャリー・トレード」の影響が大きいのではないかという気がしますし、今後、日本国内の与信が伸びて行けば、猛烈な円高圧力にさらされる可能性はあるでしょう。
米国向けが圧倒的…ケイマンや欧州・豪州等が続く
それはともかくとして、本稿でもうひとつ注目しておきたいのが、日本にとっての与信相手国です。
図表2でもわかるとおり、圧倒的なトップは米国であり、2番目がケイマン諸島ですが、これはケイマン諸島に超高層ビルを建てるためなどの与信ではなく、おそらおくはシンプルに、ケイマン法人から再び日本国内に資金を還流させているだけです。
日本の金融機関等は税制上の優遇措置などさまざまな理由でケイマンに法人を作り、いったんケイマン法人に資金を貸し付け、ケイマン法人はその資金で日本国債などを購入したりしています。ですので、ケイマン向け与信は多くが実質的に国内向けではないかと思われます。
また、3位以降、8位まではすべて欧州、豪州、北米向けであり、アジア向けは9位のタイ、10位の中国が双璧をなしているものの、中国が世界2番目の経済大国であり、日本の隣国であるという事実を踏まえると、これはずいぶんと少ない気がします。
タイ向けの与信が多い理由は、MUFGが2013年にタイの都銀を買収したからだと考えられますが、経済規模ではタイを大きく上回っているはずの中国が、タイ向けと比べて与信残高でさして変わらないというのは個人的には衝撃的事実でもあります。
タイvs中国、シンガポールvs香港
ちなみにタイ向け、中国向けの与信の推移を比較しておくと図表3のとおりであり、邦銀の中国向け与信は減っているわけではないにせよ、伸び悩んでいることがよくわかります。
図表3 最終リスク債権合計(タイvs中国)
ただ、それ以上に興味深いのが、香港とシンガポールの比較でしょう(図表4)。
図表4 最終リスク債権合計(香港vsシンガポール)
明暗が露骨に別れています。
シンガポール向け与信は(多少波はありますが)一貫して増え続けているのに対し、香港向けは2020年あたりをピークに減少に転じ、最盛期の半額近くに減ってしまいました。同じくアジアの金融都市でオフショアセンターとされる両都市が、邦銀から見て明らかに異なる扱いを受けている格好です。
邦銀のシンガポール向け与信と香港向け与信、一時はほぼ等しいか、香港向けがシンガポール向けを上回っていたくらいでしたが、これが2020年ごろに逆転し、いまや香港向けはシンガポール向けの半分以下、という状況です。
脱中国・脱香港は「高市以前」から続いている!
この点、高市早苗総理大臣が昨年11月に台湾有事が日本にとっての存立危機事態に該当し得るとする趣旨の発言を行ったことで、日中関係がギクシャクしていますが、少なくとも中国向け与信自体は前四半期ベースで多少のプラスになっているなど、「高市発言による影響」は確認できません。
しかし、オフショアセンターである香港向け与信の低迷ぶりを見ると、「高市発言があったから」、という要因とは無関係に、邦銀が中国の影響下にある香港のリスクを敏感に感じ取って、投資行動を変化させている状況が浮かび上がってくるのです。
このあたりは昨日の『日本企業フォーラム不参加…政冷経熱→政冷経冷時代へ』などでも指摘したとおり、日本企業の「脱中国」「脱香港」の流れは高市発言で始まったわけではなく、それよりも前からじわじわと進んでいたと考える方が妥当でしょう。
そして、中国向け与信も邦銀にとっては「取れるリスクの範囲内」に過ぎず、その範囲を超えて邦銀が中国向け与信を急増させる可能性が高いとも考えられません。
いずれにせよ、国際与信統計の動向については、今後も要注目でしょう。
参考:図表2再掲
なお、本文は以上ですが、以下では本文で出て来た図表2をテキスト化したものを再掲しておきます。
【再掲】図表2 日本の対外与信相手国一覧(上位20件、2025年12月末時点、最終リスクベース)
| 相手国 | 金額 | シェア | 前四半期比 |
| 1位:米国 | 2兆7662億ドル | 48.75% | +491億ドル(+1.77%) |
| 2位:ケイマン諸島 | 6510億ドル | 11.47% | ▲130億ドル(▲1.99%) |
| 3位:英国 | 2575億ドル | 4.54% | +60億ドル(+2.33%) |
| 4位:フランス | 2045億ドル | 3.60% | ▲64億ドル(▲3.15%) |
| 5位:オーストラリア | 1512億ドル | 2.67% | +46億ドル(+3.04%) |
| 6位:ルクセンブルク | 1426億ドル | 2.51% | ▲27億ドル(▲1.90%) |
| 7位:ドイツ | 1335億ドル | 2.35% | ▲38億ドル(▲2.84%) |
| 8位:カナダ | 1127億ドル | 1.99% | ▲28億ドル(▲2.50%) |
| 9位:タイ | 977億ドル | 1.72% | ▲10億ドル(▲1.00%) |
| 10位:中国 | 925億ドル | 1.63% | +65億ドル(+7.08%) |
| 11位:シンガポール | 892億ドル | 1.57% | +46億ドル(+5.16%) |
| 12位:オランダ | 768億ドル | 1.35% | +70億ドル(+9.10%) |
| 13位:アイルランド | 756億ドル | 1.33% | ▲8億ドル(▲1.10%) |
| 14位:イタリア | 698億ドル | 1.23% | +2億ドル(+0.27%) |
| 15位:インド | 680億ドル | 1.20% | ▲11億ドル(▲1.67%) |
| 16位:スペイン | 557億ドル | 0.98% | +0億ドル(+0.07%) |
| 17位:韓国 | 495億ドル | 0.87% | +23億ドル(+4.71%) |
| 18位:インドネシア | 476億ドル | 0.84% | ▲2億ドル(▲0.44%) |
| 19位:スイス | 456億ドル | 0.80% | +28億ドル(+6.21%) |
| 20位:香港 | 424億ドル | 0.75% | ▲2億ドル(▲0.57%) |
| その他 | 4443億ドル | 7.83% | +106億ドル(+2.39%) |
| 対非居住者合計 | 5兆6741億ドル | 100.00% | +617億ドル(+1.09%) |
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
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「高市総理発言で、邦銀の脱中国、脱香港の流れが進んだ」でなければ困る人が、いるということでしょうか。
香港と言えば香港風邪というのがあったはず
飽きもせずにやってるチャイナの対日攻撃、と言っても、品のない罵詈雑言を吐き散らしてるだけで、たいした効果もないお粗末な代物なんだが。アレって、ぼんやりとではあっても、だんだん身動きがとれない閉塞状態に陥っているのは自覚してて、鬱憤晴らしにやってるマス○ー○ーションだと思えば、なんとなく納得がいくのでは。
エネルギーを浪費するだけで、とりあえず身体に来るダメージは息切れするくらいのこと。脳の方がすっきりするなら、それでいいってことなんだろうが、だんだんに萎えていくものもあるんだよな、あんまりやり過ぎてると。それが香港!(笑)