日本企業フォーラム不参加…政冷経熱→政冷経冷時代へ

高市早苗総理大臣の昨年の「台湾有事」発言以来、中国の日本に対する「制裁」措置が続いています。これらについては「レアアース輸出制限」などのように、一見、部分的に日本経済に打撃を与え得るものも含まれているものの、長い目で見たら日本の対中依存が加速するだけの話であり、どれも中国自身のためになりません。それなのに、中国はまたしても「やらかした」ようです。

壮絶な対日「制裁」措置の一覧

高市早苗総理大臣が昨年11月、台湾有事が日本にとっての「存立危機事態」になり得るとする趣旨の答弁を行ったことを受け、中国が強く反発していることについては、当ウェブサイトでもこれまで何度も取り上げて来たとおりです。

改めて内容を列挙しておくと、これがまた壮絶です。少しずつ書き溜めたものが、こんな具合です。

中国が日本に講じて来た「制裁措置」
  • SNSを使い日本人を脅す
  • 日本向けの団体旅行の自粛
  • 日本製のアニメの上映延期
  • よくわからない会合の中止
  • ロックコンサート公演中止
  • 日本人歌手の歌中断→退場
  • 自衛隊機FCレーダー照射
  • パンダの貸与期限の不延長
  • 世界各国に向けた日本批判
  • 日本に対する輸出管理強化
  • 総領事へのアグレマン遅延
  • 日本の企業や団体への制裁

(【出所】報道等をもとに作成)

どれも正直、制裁としては微妙です。

とくにSNSを通じた日本に対する脅迫については、むしろSNSで日本の一般人が中国政府高官らを昂然とおちょくるなど、むしろ中国政府自身に打撃を与えた可能性が高そうです。

レアアース制限も長い目で見て日本の対中依存脱却につながる

もちろん、日本に対してレアアース類の輸出を制限するなどの措置は、短期的には日本経済に対し、それなりの打撃を与える可能性はあります。現状、品目によっては精錬工程の9割以上を中国が占有しているなどの事例もあるからです。

これに加えて南鳥島レアアースについてはレアアース泥の採集や運搬、製錬などを含めたトータルのコストで見ると、やはりまだまだ課題は多く、商業ベースに乗るまでには下手すると5~10年単位で時間がかかる、との見方もあるようです。

ただ、これについてはすでに『自前資源開発は「経済性以上に経済安保の観点が必要」』などでも指摘したとおり、深海などの自前資源開発や代替調達源確保、資源の再利用(いわゆる「都市鉱山」の開発)などが日本社会のコンセンサスとなりつつあります。

すなわち、多少の時間やコストがかかったとしても、日本としては重要資源の中国依存から脱却しなければならないことが、ほぼ国単位で共有された格好です(『「中国と仲良くしレアアースを安く買おう」は周回遅れ』でも述べたとおり、なかには「周回遅れ」の認識を持つ人もいるようですが…)。

言い換えれば、中国がレアアース類などの戦略物資の供給を絞るなどの戦略を講じたことが、却って日本社会の「脱中国」の動きを加速させる契機となった可能性が非常に高いのです。

これが、当ウェブサイトの用語でいうところの「セルフ経済制裁」です。

在中日本人は減少の一途

ただ、世間では高市早苗政権に交代してから日中関係が行き詰まり始めたかの誤解もあるのですが、じつは、これについては正しくありません。

日中間は人的往来も活発であり、中国に在留する日本人は2025年10月時点で92,928人(※香港含む)ですが、日本企業の中国からの「ステルス撤退」の動きがみられることについても注意が必要です。

中国に在留する日本人は、(おそらくは)企業の駐在員などが中心であると考えられる一方、2012年の150,399人をピークに減少に転じ、以降、減少の一途をたどっていることについては指摘しておく必要があるでしょう(図表)。

図表 中国に在留する日本人

(【出所】外務省『海外在留邦人数調査統計』データをもとに作成)

この図表は、外務省が毎年12月ごろに公表する、その年の10月時点における日本人の海外在住者に関するレポート『海外在留邦人数調査統計』を加工したものですが、中国在住者がどんどんと減少していることは見逃せません。

ただ、それ以上に興味深いのが、その内訳です。

外務省の統計表の内訳欄には「永住者」「長期滞在者」とありますが、この比率で見たら、2025年10月時点における中国への「長期滞在者」は86,351人、つまり在留邦人92,928のうち、じつに92.92%を占めているのです。

これが日本の中国に対する「関わり方」の、大きな特徴といえます。

外務省の定義によると、「永住者」とは「現に在留する国(地域)に期限を定めずに居住している邦人」のことであり、また、「長期滞在者」とは「現に在留する国(地域)に期限を定めて居住している邦人」、つまりいずれ帰国する人のことです。

中国在留邦人が毎年減っているのも、中国への長期滞在者が毎年結構な割合で減少していることが影響しているのです(※「永住者」に関してはむしろ少しずつ増えています)。

一般に「長期滞在者」は企業の都合でその国に赴任している駐在員やその家族などである、というケースが多いと考えられますが(私見)、こうした理解が正しければ、長期滞在者の減少は、企業が派遣する中国駐在員が減っているという、間接的な証拠でしょう。

また、2025年時点の中国在留者合計92,928人には香港在留者24,097人も含むため、中国本土の在住者は68,831人という計算ですし、日中関係の沈み込みが始まったのが11月以降であることなどを踏まえると、中国在留者の減少は、むしろこれからが本番と見るべきでしょう。

日本企業幹部が中国のフォーラムに不参加

こうしたなかで、日本企業の中国依存からの脱却がこれから加速しかねない材料がほかにも出てきました。

Japanese executives absent from China’s key annual summit amid diplomatic tension: sources

―――2026/03/21 10:00付 SCMPより

中国首相、フォーラムで一段の経済開放約束 日本企業の出席者なし

―――2026年3月22日15:32 GMT+9付 ロイターより

ロイターや香港の英字紙『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』(SCMP)などの報道によると、中国で毎年開催されている「中国発展フォーラム」を巡って、今年は日本企業からの参加がなかったのだそうです。

SCMPによるとフォーラムに参加した外国企業関係者は米大手企業幹部などを中心に80名程度で、ロイターは▼アップル、▼サムスン電子、▼フォルクスワーゲン、▼ブロードコム、▼シーメンス、▼BASF、▼ノバルティス―――の幹部幹部らが出席したとしています。

しかし、実際にフォーラムのウェブサイトに記載された出席者リストには日本企業の経営者らが含まれていなかったとのことであり、いわば、日本企業だけが除け者にされたような印象もあります。

世界的には大きなメッセージ

ただ、事態はそこまで単純ではありません。

より深刻には、ひと昔前は「政冷経熱」などといわれた日中関係が、いよいよ本格的な「政冷経冷」関係に突入しつつあることを示唆しているからです。

そもそもこの「中国発展フォーラム」自体、中国政府が外国企業関係者と接点を持つうえで、非常に貴重な機会でもあります(外国企業側にとっても同じことがいえるかもしれませんが)。それなのに、日本企業が姿を見せなかったこと自体、日中関係の今後を占ううえでも大変大きなメッセージとなり得ます。

この点、今回、日本企業がフォーラムに参加しなかったことは、「日本企業が中国を見限った」からなのか、それとも「中国政府が日本企業を(わざと)呼ばなかった」からなのかはわかりません(報道などを見る限り、「単なる中国政府の嫌がらせ」という可能性が高そうですが)。

ただ、原因が日中のどちら側にあったとしても、「経済は政治と切り離して考える」という従来的な日中関係の考え方が明らかに変化したことは間違いありません。

そして、アジアを代表する経済大国同士であるはずの日本と中国の関係が冷え込んでいくこと自体、海外の目から見てマイナスです。なにより中国が(自国にとっても最も大切にすべき国であるはずの)日本との関係を簡単にないがしろにする国だという点において、欧米企業なども不安になる可能性が高いからです。

その意味では、「単なる中国政府の嫌がらせ」にしては、いささかやることが雑です。

いずれにせよ、日本企業にとっては中国におけるビジネス環境が悪化しているわけであり、その意味でも、「政冷経熱」とも謳われていた日中関係が大きな転機を迎えつつあることだけは間違いないといえるでしょう。

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. asap1428 より:

    冒頭
    「長い目で見たら日本の対中依存が加速するだけの話であり、」

    「長い目で見たら日本の対中依存<脱却>が加速するだけの話であり、」
    ではなかろうか?

  2. より:

    >2012年9月10日は日本政府は、魚釣島、北小島、南小島の国有化を最終決定し、翌11日に埼玉県在住の地権者から20億5千万円で購入、正式に日本国への所有権移転登記をして国有化(wikipedia)
    で、中国で暴動が起こった年ですね。
    中国は2026年以降はどうするつもり?
    answer:中国が爆発するのでは?

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