税社保取り過ぎ問題も悪い円安論も政治の不作為の証拠

著者自身が当ウェブサイトやXで高すぎる税金、非効率すぎる行政、歪んだ電力政策などを批判するのも、結局は産業を政府が妨害しているという側面が強いと個人的に考えていることが大きな要因のひとつです。こうしたなかで、社保改革・減税が必要と思われる理由のひとつが、「悪い円安」論です。せっかくの円安なのに日本経済がそのメリットを十分に生かしきれず、「悪い円安」論という誤った言説が流布するのも、もしかすると政治の不作為に原因があるのかもしれません。

社保改革巡る解像度低い反論

Xとウェブ評論サイトの併用の意味

以前から申し上げている通り、著者自身はここ1年半ほどの間、Xを使った情報発信にも注力し始めています。

Xの方は短い文章を使ったアイキャッチングな情報発信に、当ウェブサイトの側はひとつのテーマに関する少し長文の情報発信に、それぞれ向いていると考えており、この両者を併用すればそこそこ有意義な情報発信ができるのではないかという仮説を立てたりもしています。

結論からいえば、おそらくこの仮説は正しいです。

当ウェブサイトの側だと、文章の長さも記事に添付する図表の数もまったく制約がありませんので、それこそ言葉を尽くしながら、初歩的な部分から丁寧に説明することが可能です。このため、初めて取り上げる論点であっても、ある程度は読者の方に伝わることが期待できます。

しかし、当ウェブサイトの側は、記事はいちいちクリックしなければ読めませんし、ある程度、その問題に関心がある人でなければわざわざ記事をクリックしません。というか、そもそもある程度の長文を読める人でなければ、当ウェブサイトを訪れないでしょう。

だからこそ、Xのように不特定多数の人々に一度にリーチする情報発信手段を併用することが有意義なのです。

解像度に違いがあるからこそ!

ただし、Xの側の情報発信も、なかなかに大変です。Xの空間にはさまざまな人がいて、同じ論点についても解像度が高い人もいれば低い人もいるからです。

Xはひとつのポスト(ツイッター時代には「ツイート」と呼ばれていた情報発信の単位)に盛り込める文章は原則として140文字までであり、一般ユーザーはそもそもそれを超えることができません。

また、プレミアムユーザーの場合だと、140文字を超えるポスト(場合によっては数百~数千文字程度のポスト)を投稿することは可能ですが、その場合はポストが一度に表示されず、他人のタイムラインに登場する際も、折りたたまれた状態で表示されてしまいます。

だからといって、140文字に収めようとすると、どうしても不正確な内容になってしまったり、論点のほんの一部分しか伝えられなかったりするなど、やはり不具合が生じるのです。

(※ただし、プレミアムユーザー登録したうえで少し長いポストをつなげて登録するなど、Xの側でも複雑な論点を伝えるすべはあり、これについては著者自身も現在、「とある手法」を開発しつつあるのですが、これについてはお伝えできるレベルになれば、またどこか別の機会でお伝えします。)

そして、当ウェブサイトとXを併用することで、両者の弱点をうまくカバーしつつ、両者の長所を生かすかたちで、わりと効率的に情報発信ができるのです。

典型的にはXの側でアイキャッチングな文言とともに言いたいことの要点だけを掲載し、当ウェブサイト側の記事へのリンクを設ける方法が考えられますが、それだけではありません。

当ウェブサイトの読者コメントをXの側にポストしたり、Xの側で得られた反応を当ウェブサイトの次回記事に反映させたりすることもできますし、また、『社会保障批判再反論のフリー素材』のように、当ウェブサイト側とXの側で同時に「フリー素材」を提供する、といったことも可能です。

しかもこの記事とポスト、Xの側も当ウェブサイトの側も、そこそこのアクセスをいただいたようです。

Xと当ウェブサイトでほぼ同時に情報発信をするというのは、やり方としてはなかなかに有効なのではないか、などと思う次第です。

解像度が異常に低い「社会保険料取り過ぎ問題」

ただし、Xの側には本当にさまざまなユーザーがいて、中には「お気持ち」でさまざまな反論をしてくるケースもあります。

たとえば社会保障の問題については、該当するポストで書いたとおり、社会保障批判に対する反論の多くが反論として機能していないわけです。

社会保険料高すぎ問題への反論への反論の例

①批判する人間もいずれ老人になるんだぞ?

⇒現役層は老人になっても今の老人ほどの手厚いサービスは期待できないぞ?

②現在の老人も若いころ保険料を払ったぞ?

⇒老人が若いころ払った保険料は現在のサービスと比べあまりに低すぎるぞ?

③社会保険は保険だから損得は関係ないぞ?

⇒現在の社会保険はそもそも経済的に見てとても保険の体をなしていないぞ?

④社会保険は将来の自分のためのものだぞ?

⇒現在の社会保険は将来の自分でなく現在の老人のためのものになってるぞ?

⑤社会保険は未来のセーフティネットだぞ?

⇒現在の老人に食い散らかされていて未来への備えとして機能していないぞ?

それなのに、この文章を読まずに、相変わらず「年金は未来のセーフティネットだ」だの、「年金を廃止するなどもってのほかだ」だのといった反論が(少数ながら)寄せられるのです。なんだか強烈ですね。

「年金・医療・介護制度は破綻しない」、と思い込みたいという気持ちもわからないではないのですが、もしもこれらの社会保障が破綻せずに持続するのだと言いたいのであれば、その具体的なエビデンスを出してほしいものです。

悪い円安論

悪い円安論を改めて振り返る

さて、「理論や数値できちんと考えると明らかにおかしい」という事例は、社会保障の持続可能性だけに留まりません。最近目につくのは「悪い円安論」でしょう。

といっても、当ウェブサイトでは『【総論】円安が「現在の日本にとっては」望ましい理由』などを含め、これまでにずいぶんと取り上げて来たとおり、「円安イコール無条件に悪いこと」と決めつけるのは、端的にいえばトンデモ論ですし、円安はむしろ総合的に見て現在の日本経済に良い影響を与えます。

「貿易赤字国だが世界最大規模の対外純資産を抱えて経常収支は大幅な黒字」、という現在の日本の状況に照らすならば、「総合的に見て」、円安が日本に対し良い影響を与えるからです。

もちろん、「逆も真なり」であり、当ウェブサイトとしても「円安イコール無条件に良いこと」、と断言するつもりはありません。為替変動(円高や円安)が日本経済にもたらす影響は決して単純ではなく、プラス面、マイナス面が複合的にかかわって来ます。

いちおう、「いつものプロコン表」を掲載しておきましょう(図表)。

図表 円高・円安のメリット・デメリット

デメリットは事実上②しかない

このプロコン表の意味は、次の通りです。

①フロー面における輸出効果

円安でプラス効果が生じる部分だが、現在の日本は自動車などを除けば最終製品(川下製品ないしB2C製品)の輸出金額は大きくないため、現在のところ効果は限定的であるものの、下記3番目の代替効果が生じてくれば、日本経済に大きな恩恵をもたらす。

②フロー面における輸入効果

円安でマイナス効果が生じる部分で、現在の日本は原発が稼働停止しているなどの事情もあり、とくにエネルギーの輸入が多い。ただし原発再稼働や新増設を進めるなど、政府がなすべきことをきちんとやれば、解決できる部分も大きい。

③フロー面における代替効果

本来は円安でプラス効果が生じる部分であるが、現在の日本が労働力不足や電力不足に直面していることから、必ずしも十分とは言い難い。ただし、原発再稼働、雇用規制緩和、減税、自動運転導入など、やはり政府による努力でなんとかできる部分も大きい。

④ストック面における資産効果

円安で莫大な恩恵が生じる部分。すでに現在の日本経済に対し、年間40兆円前後の一次所得収支をもたらすなど、大変大きな効果を及ぼしている(が、「悪い円安」論者が決まって無視する論点でもある)。

⑤ストック面における負債効果

円安でマイナス効果が生じるはずの部分だが、現在の日本経済は海外の金融機関などからほとんど外貨建て資金調達を行っておらず、現実的にはほぼ無視して良い。

日本で円安デメリットが生じ辛い理由

わかりやすくいえば、円安のプラスの効果が①③④、マイナスの効果が②⑤ですが、そもそも日本が国を挙げて海外からほとんど外貨でおカネを借りていないという事情を踏まえると、⑤のマイナス効果は極めて限定的です。

とりわけこの「海外からほとんど外貨でおカネを借りていない」という点については、『数字で見る「通貨危機生じない世界最大債権国・日本」』でも詳しく触れたとおりですが、これ、「悪い円安論者」が(知ってか知らずか)かなりの確率で無視する論点でもあります。

その一方、よく「悪い円安」論者が「円安のせいで海外旅行に気軽に行けなくなった」などと円安デメリットを一生懸命に煽ったりしていますが、「円安のせいで海外旅行に気軽に行けなくなった」をデメッリトとして持ち出すならば、「円安により外国人が日本旅行をしやすくなった」というメリットにも言及しなければなりません。

(※なお、外国人が日本旅行に大挙して押しかけていることでオーバーツーリズムの問題が生じている、という点は、「経済効果」とはまった別の論点から当ウェブサイトにおいて別途問題提起している点ですが、本稿とは直接の関係がないので省略します。)

いずれにせよ為替変動は経済に対し、良い影響と悪い影響をもたらし得るわけですが、この図表に示したフレームワークは経済学のごく基礎的な教科書でも載っているものであり、そしてこのフレームワークから逸脱して円安のデメリットを論じてもまったく意味をなしません。

そして、「悪い円安」論を煽る人たちは、得てして経済のごく一部分を切り取って、そのごく一部分をことさらに全体の問題であるかのごとく騒ぎ立てる、というわけです。

「円安関連倒産」という謎の指標

こうしたなかで目に付いたのが、こんな報道です。

「円安」倒産 1月では10年間で最多の6件 43カ月連続で発生、負債は11倍に大幅増

―――2026/02/02 15:17付 Yahoo!ニュースより【東京商工リサーチ配信】

東京商工リサーチ(TSR)によると、円安関連の倒産が増えている、ということで、記事タイトルだけを見るとギョッとしますが、「円安倒産」なる法的用語などは存在しません。おそらく「人手不足倒産」などと同様、TSRが勝手に倒産原因を色分けして集計しているだけの話であり、その分類は極めて恣意的です。

とくに「円安倒産」なるものは「前年同月比で2倍になった」、「負債総額が11倍だった」、などとありますが、件数で見たら3件から6件に増えただけであり、負債総額も1月5日に民事再生法の適用を申請したジュピターコーヒー株式会社が押し上げただけのことです。

いずれにせよ、円安のデメリットを強調するためなのかは知りませんが、こうやってかなりミスリーディングな情報が流れている点には注意が必要でしょう。

円安メリット阻むのは政府の問題

なお、円安メリットを完全に享受するための条件が、現在の日本では欠落していることにも注意が必要です。

せっかく円安になっているのに製造拠点が日本になかなか戻ってこないのは、(著者が考える限りは)少なくとも2つの要因を挙げておく必要があります。

それが労働力不足と電力不足です。

「労働力不足」については、日本社会が急速に高齢化するなかで、働き手が不足している問題です。それによって社会のさまざまな部分で、今まで当たり前のように維持されていたサービスが維持できなくなってくる可能性があります。

「だったら外国人労働力を入れれば良いじゃないか」、と思う人もいるかもしれませんが、これはさまざまな意味で軽率な考え方です。

外国人労働者が日本に入国したら、働けなくなった場合にどうするのか、といった問題が生じますし、これらの外国人労働者は家族を引き連れて日本にやってくるかもしれません。宗教・文化の違いでさまざまなトラブルが生じるかもしれません(こうしたコストを引き受けるのは、企業ではありません。地域社会と国家です)。

このように考えたら、労働力不足に対処するためには、基本的には①自動化投資、②働くのを邪魔する要因の除去、という、少なくとも2つの対策が必要でしょう。

とりわけ「自動化投資」を阻む要因がいわゆる規制や法人税制であり、「働くのを邪魔する要因」がいわゆる「年収の壁」であり、社会保険料の加入要件です(その意味で、労働力不足解消のためのボトルネックは日本政府が作り出しているようなものです)。

さらに、電力不足に関しては、これはもう完全な人災でしょう。

東日本大震災後に発生した原発事故の影響もあってか、当時の民主党政権が超法規的に全国の原発をなかば強制的に停止させたこと、原子力規制委員会が仕事を原発の再稼働を長らく阻んでいたことなどを踏まえると、これもやはり政府が作り出した問題です。

電気代を高止まりさせている再エネ賦課金の問題も深刻です。このように考えていくと、現在の日本経済は、円安によって潜在的に大きなメリットを享受する可能性があるものの、政府が作り出した問題によって停滞している、と総評できるのではないでしょうか。

円安メリット生かすには…!?

いずれにせよ、円安メリットを経済学の理論通りに享受するためには、条件を整えることが必要です。

ひとつは異常に高すぎる税・社保の水準を適正化することが考えられます。

いわゆる「年収の壁」が働き控えを生んでいること、高額納税者になればなるほどその歪(ひずみ)が大きくなっていること、あるいは「取って配る」といういびつな仕組みがビジネスマンの労働インセンティブを阻害していることは大きな問題でしょう。

また、原発再稼働を妨害する仕組みや、「再エネ賦課金」のように明らかに公正性を欠く仕組みなどを放置し続けていることも問題です。少なくともこれらは政治責任でどうにかしなければならない問題点でしょう。

再稼働可能な原発は速やかに再稼働させること。

メガソーラー規制等をさらに進めていくこと。

再エネ賦課金の徴収停止を検討すること。

このように考えていくと、現在の日本で円安メリットが生かし切れていないのは、国内産業を空洞化させる仕組み(高すぎる税制、非効率すぎる行政、歪んだ電力政策)に大きな原因があり、いわば、日本の政府がその問題を作り出していると考えるのが妥当です。

おかしな規制を取り払うだけでも、状況はある程度改善されると考えられることを踏まえると、結局は来る選挙でも私たち有権者が賢明に行動しなければならないことだけは間違いないといえるでしょう。

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. 引っ掛かったオタク より:

    まー“政治の不作為”は“有権者の無関心”から生まれ出ずると云ふのが有権者本位制で国民等しく参政権を行使出来得る状況下である度合いが高いほどより民主主義なから、“政治の不作為は有権者の責任”なんだわな知らんけど
    さあ選挙に参加しませう〜

  2. 古物商 より:

    恵方巻、美味しいですね。
    今年は、高市首相の方をみて食べてみた、もちろん、ご利益を求めて。
    ホクホクを最大限期待するのは人の常、お釈迦様には成れない。

  3. Masuo より:

    悪い円安論で思うのは、最近の日経新聞の高市下げがひどい。
    選挙期間中にも係わらず、よくやるな、と思う。

    どのくらいの人が騙されるのか知らないけど、経済新聞が経済音痴って笑えないです。
    よほど高市政権が財務省にとって都合が悪いんだろーなーと思ってみています。

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