ネット通販vsテレビ通販…非ネット層総取という戦略
世の中はIT化/ネット化の波が押し寄せており、便利なキャッシュレス決済とともにネット通販が全盛の時代となりつつあり、新聞、テレビといった既存メディアは「オールドメディア」と呼ばれています。こうしたなかではありますが、少し注目しておきたい事例があるとすれば、敢えてネット化に取り残されている高齢層の需要をうまく取り込んで成長していると思われる企業の存在です。経営事例としては大変興味深いからです。
目次
【速報】サイフを忘れて何が愉快なのか
「社会全体のIT化・ネット化」は、当ウェブサイトでときどき取り上げる話題のひとつです。
先日の『IT化でサイフも働き方も変わる』でも取り上げましたが、今どきの携帯電話はおサイフ機能が入っていて、電子マネー、クレジットカード、QRコード決済アプリ、銀行アプリなどと連携し、携帯ひとつあれば(とくに大都市圏だと)何をやるにも不自由しないことが増えています。
また、コンビニエンスストアのアプリ、ポイントのアプリなども携帯電話にダウンロードすることが可能ですので、物理的なカードをサイフに入れて持ち運ぶ必要すらありません。
著者のような貧乏性の人間だと、お店の人から「ポイントカード、お作りしますか?」、などと言われたらホイホイと作ってしまいがちですし、スマートフォンを持つ以前は、サイフがいろんな店のポイントカードでパンパンになっていました。
しかし、先日も報告したとおり、著者は現在、可能な限りサイフを持ち歩かないという「実証実験」を行っており、家計簿でチェックしても、最長で1ヵ月近くの期間、現金を1円も使わないで過ごすことができたことが判明しています。
実際、東京などの都市圏で現金を使うことがあるとしたら、それこそ▼個人経営の飲食店で食事や買い物をするとき、▼忘年会(BNK)などで割り勘をするとき、▼現金しか使えない自販機で飲料を買うとき、▼公衆浴場(銭湯)に行くとき―――くらいしか思いつきません。
IT化の光と影
キャッシュレス依存は危険?それとも…
当然、著者自身は社会全体のIT化を、どちらかといえば好意的に見ている方だと思いますし、新しいものが出てくると、わりとホイホイ飛びつく方だと自認しています。
ただ、こうした話をすると、こんな「お叱り」をいただくこともあります。
「日常的な支払いを完全に電子化しちゃうと、災害(大地震など)や障害などで通信環境や電力供給が途絶えるなどしたら、生活に困るでしょ?」
「クレジットカードなどの情報を盗み取られて不正使用されると怖いでしょ?」
この点については、まったくご指摘の通りです。
東京都世田谷区在住の個性的な髪形の既婚女性の場合は買物しようとして街まで出かけ、サイフを忘れて愉快だといわれてしまう始末ですが、現実に決済手段がまったく機能しなくなったときには、それこそ「愉快」で済まされるわけがないからです。
たとえば首都圏民の多くが利用しているであろう交通系電子マネーでは、過去にはサイバー攻撃が原因とみられるシステム障害なども発生していますし、クレジットカードは情報を盗み出す(いわゆるスキミング)などの不正を耳にすることもあります(カードを盗まれたわけではないので気付くのに時間がかかります)。
これに対し、現金の場合だと、通信環境や電力供給とは無関係に決済手段として機能しますし、また、「現金の情報を盗み取られる」という被害はあり得ません(※ただし、現金の場合は紛失・盗難のリスクがそもそも高いのですが…)。
災害用の現金は別途準備しておけば良いのでは?
ただ、何事も一長一短ですので、電子決済には電子決済の長所と短所があり、現金決済には現金決済の長所と短所がある、というだけの話ではないでしょうか。
実際、「災害時に備える」という意味では、「非常持出袋」に現金も入れておくことが望ましいとされ、野村證券株式会社の2022年3月10日付『【防災とお金】災害時に備える「緊急予備資金」とは? 現金はいくら必要?』でも「手元に用意しておく現金は生活費の1週間分程度」と記載されています。
なお、野村證券株式会社の同ページにも記載されているとおり、災害時にはATMが使えなくなるおそれもあるのに加えて、お店側もお釣り用の細かいおカネが準備できないことが想定されるため、現実には小口の現金を用意しておくのが望ましいでしょう。
なお、著者の場合はいちおう、千円紙幣や百円硬貨、十円硬貨などをある程度溜め込んでいて、こないだ数えたら千円札は100枚少々ありましたが、紛失、盗難のリスクも踏まえると、自宅に保管しておく現金はこのあたりが限界ではないかと勝手に考えている次第です。
通販サイトだけではないネットの利便性
さて、キャッシュレスもそうですが、IT化の恩恵は社会のさまざまな部分に及んでいます。
キャッシュレス決済と密接な関係がある分野のひとつが、ネット通販でしょう。
たとえば著者も Amazon アフィリエイトプログラムを利用しつつ、ユーザーとしても Amazon を活用していますが、(使い勝手にややクセはあるにせよ)慣れたらそれなりに便利です。日用品も、店で買うより安いものがありますし、また、通販でしか手に入らないものもあるからです。
また、いわゆる「ふるさと納税」も、とあるポータルサイトを活用していますが、同サイトの場合は返礼品ごとに検索することが可能であり、これに加えて確定申告の際に利用できるXML形式の「寄附金控除に関する証明書」がダウンロードできます(来年からはマイナポータルとの連携もスタートするそうです)。
著者の場合、利用している金額ではこの2つのサイトが断然多いのですが、それら以外にも、出張や旅行で宿を抑えるのに航空会社や旅行会社のサイトをいくつか利用していますし、つい最近はこれらのサイトのおかげで滑り込みでホテルを取ることができた、という事例もあります。
さらに、航空券は完全に航空会社のウェブサイトで予約から決済まで完了しますし(ついでに搭乗券をスマホのウォレットに登録可能)、最近だと新幹線に乗るのに、スマホのアプリで予約・決済を完了し、そのスマホに搭載しているモバイルSuicaに新幹線チケットを登録させることもできます。
つまり、キャッシュレスであるだけでなく、完全にペーパーレスです。
しかも、書籍や日用品(Amazon)、ふるさと納税(とあるポータルサイト)、旅行のチケット(航空会社やJRのアプリ)、ホテルの宿泊予約(旅行サイト)―――、と、それこそひと昔前だと店頭に出向くか予約センターに電話するなどしなければできなかったことが、いまやネットで完結しています。
著者などは、これをシンプルに凄いテクノロジーの進歩だと考えている次第です。
ネット社会の負の側面:うっかり日付間違える
ただ、ネットの場合はさまざまなトラブルもまた生じます。
たとえば「予約が取れたと思っていたら取れていなかった」、「往復で航空券を取ったつもりが往復になっていなかった」、「新幹線の日付を間違えた」、といった事例も生じているようです。
「おっちょこちょい」とバカにするのは簡単ですが、じつはこれら、すべて著者自身が最近体験したことばかりです(笑)。
たとえば月曜日の出張に合わせ、新幹線の予約をしたところ、往路は正しく月曜日でチケットが取れていたのに、なぜか復路については日曜日でチケットを取ってしまい、気付いたら乗車時間を過ぎていて取り消しができなかったことがあります(幸いにも手数料を引いた金額が返金されましたが…)。
また、飛行機を往復(たとえば「月曜日:東京→大阪」、「水曜日:大阪→東京」)で予約したつもりが、どちらも同じ航空券になっていた(たとえば「月曜日:東京→大阪」、「水曜日:東京→大阪」で取ってしまっていた)こともあります(これも気づいたのが早かったので手数料だけの負担で済みました)。
とくに航空券は、料金によっては最悪の場合、払い戻しができず、買い直しとなることもあるため、こうしたミスには要注意です。
航空会社アプリや新幹線アプリなどは、多くの場合、往復か片道を選べる仕組みですが(しかも見やすいデザインでユーザー側がミスをしないようにさまざまな注意喚起もしてくれます)、それでも私たちは人間ですから、やはりミスというものはどうしても発生してしまいます。
上記のミスも、じつは片道で航空券を取らざるを得なかったことで生じたものです。というのも、「出張のアポは、一度に全行程が確定せず、部分的にチケットを取らざるを得ない」、ということが、往々にして生じるからです。
やはり電話注文には魅力もある
人為ミスは年を取ると増える
これについて、言い訳がましいですが、もう少し説明させてください。
たとえば「まず東京から福岡に飛行機で行き、福岡から広島まで新幹線で移動し、広島から飛行機で東京に帰る」、といったプランの場合だと、必要なチケットは3枚です。
- 航空券(東京→福岡)
- 新幹線(福岡→広島)
- 航空券(広島→東京)
このとき、一度に発券すればミスの可能性も減らせますが、たとえば「東京→福岡」だけが確定していて、広島のポイントが未確定だったため、先に「東京→福岡」というチケットを発券してしまった場合には、ミスが発生しやすくなります。
後日、広島のアポが確定したら、「福岡→広島」、「広島→東京」という2種類のチケットを発券する必要がありますが、このとき間違えて「広島→福岡」、「東京→広島」、と、発着地点が逆転したチケットを申し込んでしまうリスクもあります。
とくに年を取ると人間うっかりするもので、こうしたミスの可能性が非常に高くなるのです。
このような「ミスの可能性」を踏まえると、やはりネット通販などを使うのはリスクが高い、という言い方もできるかもしれません(Amazon などの場合は一度に購入できる数量を制限するなどし、システム的に発注ミスを生じにくくするなどの工夫もなされていますが…)。
「ジャパネットの売上高が過去最高」という話題
こうしたリスクを踏まえると、やはりインターネット上のクリックだけで買い物をするのでなく、「人間と話しながら買い物をする」というサービスが、とりわけ高齢者にはウケるのかもしれません。
このような観点から気になる話題が、これです。
ジャパネット売上高が過去最高に…2950億円の見込み、クルーズ船事業も好調 2025年12月期
―――2025/12/23 11:00付 Yahoo!ニュースより【長崎新聞配信】
長崎新聞によると、通販大手のジャパネットホールディングスの2025年12月期売上高が過去最高だった前年度の2725億円をさらに上回り、約2950億円となる見込みとなったそうです。
記事では通販事業の主力商品(エアコンなど)が売上を伸ばしたことに加え、クルーズ船事業や長崎スタジアムシティ、今年1月に開局したBS放送局などの事業も「売上に貢献したとみられる」、などと記載されています。
調べてみると、株式会社ジャパネットHDは非上場会社であり、有価証券報告書なども提出していないようですので、セグメント別の売上高などもよくわかりませんが、(あくまでも想像ベースですが)通販事業はネット通販に拒否感がある人たちを取り込んでいる可能性があります。
実際、同社の通販サイトでは常に右上にフリーダイヤルが表示されており、また、BS放送局『BS10』や独立系地上波などを使った通販番組が好評を博しているようですが、これはネット通販が苦手な高齢者などの需要を大きくかっさらった、という側面もあるのかもしれません。
新聞購読者・テレビ視聴者の偏り
この点、テレビの視聴者層も新聞の購読層も、高齢者に極端に偏っている点には注意が必要です。
たとえば総務省が毎年公表している『情報通信白書』などに掲載されている調査によれば、近年になればなるほどオールドメディアの利用時間(テレビ視聴時間や新聞購読時間など)が減り、ネット利用時間が増えるという傾向が見られます(図表1)。
図表1-1 平日の年代別メディア利用時間(2013年)
図表1-2 平日の年代別メディア利用時間(2024年)
また、一般社団法人日本新聞協会が毎年12月に公表しているデータによれば、新聞部数は減る一方であり、反転する兆しはありません(図表2)。
図表2-1 新聞部数の推移(セット部数を2部とカウントした場合)
図表2-2 新聞部数の推移(セット部数を1部とカウントした場合)
(【出所】一般社団法人日本新聞協会データをもとに作成。「合計部数」は朝夕刊セット部数を1部とカウントした場合、2部とカウントした場合の両方のパターンで示している)
高齢者に寄り添う経営
このように考えていくと、新聞、テレビなどの「オールドメディア」業界に先はないことはほぼ間違いありませんが、ただ、ジャパネットHDに関していえば、いわば高齢者の「ネット苦手」需要をうまく取り込みつつ、さらに収益の多角化も図るなど、経営の手腕はなかなかのものといえるかもしれません。
実際、同社の評判を調べてみても、主力のエアコン事業で「金利手数料無料、送料無料、下取りあり」などの丁寧な販売スタイルが高く評価されているようですし、また、オペレーターの対応も丁寧、といった評価も散見されます。
さらに、同社は認知症が疑われる高齢者に対し、家族ないし後見人からの依頼に応じ、注文制限などの「柔軟な対応」を講じているのだそうです。
「神対応」とSNSで称賛 ジャパネットの高齢者対応 認知症疑いなら“注文制限”「売るより寄り添う」
―――2025/12/05 08:40付 Yahoo!ニュースより【ENCOUNT配信】
これも想像ですが、同社は敢えて Amazon などのネット通販企業とは違う路線で、現在の高齢者など社会のネット化に取り残されている層の買い物需要を「総取り」しつつ、スポーツ、スタジアム、放送などの事業多角化も図っていくのではないでしょうか。
これもひとつの収益戦略としては興味深い事例だと思う次第です。
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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話の長い相手はコールセンター要員泣かせである。取次件数で出来高商売をしているからです。だが、その企業さんの場合は迷惑がらなかった。コールセンター要員からの回送で、会社の中堅管理職がみずから電話対応を代わってくれて、延々と老人の長話に付き合ってあげていた。なぜか。既存製品の問題点を探り、新製品着想を市場から直接得ることのできるほかにない機会だから。業界は家電です。つまり苦情対応でなくてマーケティング戦略なんだということです。
前世紀の、おそらくは90年代の、つまり電話で社会が回っていた時代の、今から思い返せば牧歌的だった時代の、逸話なので今でもこの状況が成立しているのか通用するのは分かりません。
ちそもん