政治家が「税社保重すぎ問題」に真摯に向合うべき理由
「税社保重すぎ問題」は、おそらくすでに国民民主党の手を離れ、ネット世論で議論される対象となりました。高市早苗総理大臣でさえ制御できない国民的課題となり得るものでもあります。こうしたなか、本稿では故・渡部昇一氏による「有能な人材を徴税・脱税に使うな」という名言を紹介したいと思います。そして、政治家がこの「税社保重すぎ」問題に真摯に向合わねばならない理由は、社会の安定と発展が脅かされるからです。
目次
ネットの発展で消滅する業界
インターネット革命が社会の勢力図を大きく塗り変え始めていて、ネット化社会において消滅する運命にあるのが新聞・テレビを中心とするオールドメディア、そしてオールドメディアと共犯関係にあった、揚げ足取りしか能がない特定野党だ―――。
先日の『日本人の変化に取り残されるメディアと野党と中国政府』で、あらかた言い尽くしてしまった感があるのですが、著者自身がいま、一番言いたいことは、要するに日本社会を悪くしてきた勢力が社会の変化で影響力を喪失する、という予言です。
もちろん、現時点ではまだこの予言は成就していません。
たとえば特定野党は昨年の衆院選や今年の参院選で勢力を伸ばすか維持している状況であり(※これには自民党が石破茂氏を総理総裁に選ぶという盛大な自滅行為をやらかしたことの影響が大きいです)、また、新聞やテレビは今でも社会的影響力が大きく、それらの報道で社会が動いたりすることもあります。
ただ、これらについて、敢えて断言しておきますが、一時的に勢いが伸びることがあったとしても、長期的には衰退していく運命にあります。
著者は「予言者」ではありませんので、その具体的な時期について、確たる根拠をもって示すことは困難ですが、ただ、おそらく10年も経てば、国会における勢力図もずいぶんと変化しているでしょうし、現在の「大手メディア」もいくつか消滅していると思います。
とくにオールドメディア業界に関しては、▼紙媒体の新聞部数は減る一方であり、反転の兆しはないこと、▼テレビの主要な視聴者層はほぼ高齢層に限定されつつあり、視聴者数は今後10年で激減することがほぼ確実であること―――を指摘しておきます。
そして、特定野党も「応援団」であるオールドメディアの消滅に従い、順次、選挙を経るたびに議席を減らして行く可能性が極めて濃厚です。正直、オールドメディアとオールド政党は、もう放っておいても自滅するのではないでしょうか。
税社保問題は政党の手を離れた
与党や「ゆ党」も例外ではない
さて、本稿で指摘しておきたいのは、社会がインターネット化したことで社会的影響力が消滅に向かうのは、必ずしも「官僚・メディア・特定野党」の三者に限られるものではない、という点です。
たとえば与党、あるいはインターネットをメインのツールとして活用することで勢力を伸ばしてきた野党(あるいは是々非々で与党と協力する「ゆ党」)にも、国民世論を敵に回し、無残に選挙で負けていく、ということがあり得る時代になったことは、とても重要な変化です。
その典型例が、自民党(や高市早苗内閣)、あるいは国民民主党でしょう。
当ウェブサイトでは『年収の壁巡り「2割」を切り捨てた自民党と国民民主党』で「速報」的に取り上げたとおり、自民党総裁でもある高市早苗総理大臣と国民民主党の玉木雄一郎代表は先週金曜、いわゆる「年収の壁」を178万円で引き上げることに合意しました。
これについては、当ウェブサイト的としてはかなり批判的な立場を取っているのではないかと思います(というか、著者は「是々非々」で議論し、高市内閣に対してもそれ以外の内閣に対しても、良い政策は「良い」、悪い政策は「悪い」と評する主義です)。
「ミッションコンプリート」で火に油
ただ、こうした立場を取るのは、著者だけではないでしょう。
『【本丸は社会保険料】今後のテーマは重税感の見える化』でも取り上げたとおり、あくまでも著者の私見ではありますが、ネット上では(国民民主党支持者と思しきアカウントを中心に)少数の「評価の声」とともに、やはり圧倒的多数のユーザーからの批判で溢れ返っているように思えます。
その理由はおそらく、基礎控除引き上げの「特例」については「年収665万円」の層までに限られるほか、住民税の基礎控除は上がらず、また、「178万円」は基礎控除だけでなく給与所得控除の「最低保障額」とのセットだからです。
なんだか複雑な記述ですが、要するに、結果的に減税額は国民民主党が当初主張していたものとは遥かにかけ離れたものとなったからです。これに加えて玉木氏が会見などで「ミッションコンプリート」などと発言してしまったことも、少なくない人々の怒りの火に油を注いだ格好となったのではないでしょうか。
このあたり、著者個人を含めたネット層の多くは「所得制限なしに基礎控除を所得税・住民税ともに一律75万円引き上げる」を期待していたのですが、これが実現していた場合は、とりわけ多額の所得税を支払っている層に、大きな減税効果が生じていたことは間違いありません。
これもあくまでも想像ですが、このショボい「手取りを増やす」を玉木代表が「ミッションコンプリート」と述べたことで、下手をすると2024年衆院選と2025年参院選で国民民主党に投票した有権者の多くが、次回選挙では国民民主党以外の候補者を選ぶかもしれません。
あるいは、もっといえば、世論調査では高市総理/高市内閣を「支持している」と答えているような層も、現実の選挙を迎えたら、自民党や同党の候補には投票せず、対立政党・対立候補者に投票する、という可能性すらあるでしょう。
(※なお、著者が選挙のたびにどの政党・候補者に票を投じているかについては当ウェブサイトでは明らかにしたことはありませんし、今後もたぶん、明らかにすることはありません。この点についてはご了承ください。)
内閣支持率は高止まりしているが…
こうした仮説が正しいかどうかは、わかりません。
なにせ、社会のインターネット化の影響が露骨に出始めたのが2024年以降の話ですので、まだまだサンプルが少なく、また、「ネット世論」と呼ばれるものと個々の有権者の投票行動に関する調査研究も、まだまだ限られているのが実情だからです。
これに加え、現在のところは、高市内閣の支持率は非常に高どまりしています。
たとえば、昨日の夜発表された日経・テレ東合同世論調査だと、内閣支持率は75%で前月比横ばい、政党支持率は自民党が前月比4ポイント減ったとはいえ依然37%と高水準で、国民民主党に至っては9%で前月比3ポイント増え、野党トップに躍り出ています。
高市内閣 支持率横ばい75% テレ東・日経 12月世論調査
―――2025/12/21 19:00付 テレ東BIZより
これにはやはり、「中国問題」で中国や日本のメディア等の攻撃にまったくひるまず、たとえば高市総理が先月7日に発した国会答弁を頑なに撤回しないなどの毅然とした姿勢を示していることなどが影響している可能性はあります。
ただ、現実にメディアが実施した世論調査と有権者の実際の投票行動がキレイに相関するというものではありませんし、なにより、長い目で見たら、やはり日本国民は冷徹に判断を下す賢明さを持ち合わせています。
現役層/勤労層を中心に、少なくない有権者が税・社保の取られ過ぎという現状に気づきつつあるわけですから、今後、ありとあらゆる政治家は、好むと好まざるとにかかわらず、この「負担と受益」の問題から避けて通れないはずなのです。
このように考えたら、仮に今すぐ高市総理が解散総選挙に踏み切ったとして、自民党が圧勝するという保証はありませんし、また、税制という国家の基本事項で国民の期待を裏切り続けた場合には、やはり、中期的には減税政党が勢力を獲得してくると考えるのが自然でしょう。
正直、今般の「年収の壁」云々に関しても、「8割の人に恩恵が及ぶ」≒「2割の人に恩恵は及ばない」、ということですので、これに「税社保取り過ぎ問題」への人々の関心が高まっている点を踏まえれば、やはり「税社保取り過ぎ問題」はすでに国民民主党の手を完全に離れたと見るべきでしょう。
いや、高市総理ですら制御できない国民的課題となり得るものでもあります。
故・渡部昇一氏の警告
こうした文脈で、もうひとつ考えておきたいのが、限度を越えた税負担がもたらす社会不安です。
著者自身が過去に読んだ書籍のなかで、現在でもひとつの指針となっているものがあるとしたら、故・渡部昇一氏が執筆した『税高くして民滅び、国亡ぶ』かもしれません(ちなみにリンクは2012年、WACから出版された復刻版です)。
同著はこう説きます。
「高い税率は、税収の増加には結びつかずに、中産階級を滅亡させるだけだということは、戦後のイギリスが証明している。税率をどんなに高くしても、本当の大金持ち、大富豪はそれを回避する知恵も手段も持っているからだ」。
「著者はこの現実から、『万人一律で10パーセントの所得税にせよ』と主張する。古来、税が高くて乱が起こったり、国が衰亡した例は無数にあるが、税が安くなったので乱が起こったり、国が衰亡した例などは一つもない。増税より経済成長政策が先であり、国民の富は自由経済市場から生まれるのだ!」
「万人一律で10%の所得税」!
今読んでもなかなかに大胆な主張です。
オリジナルが出版されたのはたしか1990年代のことだったのではないかと思いますが、当時から渡部氏は日本が重税国家の道を歩んでいることを見抜き、その危険性を指摘していたのです。現在と比べて、少なくとも社会保険料の料率は遥かに低かったにもかかわらず、です。
有能な人材を徴税脱税に使うな
税逃れと当局対策のいたちごっこ
ただ、内容としては極めてまともで、そのなかでとくに多くの人に伝えたいのが、「有能な人材を徴税・脱税に使う愚かしさ」という一節です。
税制があまりにも複雑になって来ると、少しでも有利な節税方法が編み出され、そうした節税方法を塞ぐために法令の改正が行われる、といった「いたちごっこ」が生じます。
これって、現在進行形の話です。
たとえば最近も「一棟マンション節税」なるものがちょっとした話題になったことを記憶しているという方もいらっしゃるでしょう。
賃貸マンション一棟買い、節税効果大きく 政府税調で国税庁指摘
―――2025年11月13日 18:43付 日本経済新聞電子版より
また、相続税や所得税などに関連し、「節税」というキーワードを調べてみると、これらだけでなく、それこそさまざまなウェブサイトがヒットしますし、なかには「魔法の節税術」だ、「税務調査対策」だといった文言が踊っているサイトも多数見かけます。
こうした節税策は、これだけではありません。
資産や資金が潤沢にある本物の富裕層を中心に、日本の過酷な所得税や相続税を逃れるために、資産を海外に移す、住所を海外に移す、といった手法を使っている人もいるようなのです。
海外銀行口座開設
これに加えて、本稿で紹介しておきたいのが、過去に流行っていたと思しき「とある手法」です。
日本に居住している人たちの間でも、過去には現金をハンドキャリーで持ち出し、外国(香港あたりでしょうか?)の銀行に持ち込んで預金する、といった動きがあったようです。
もちろん、日本を含めた主要国では、金融規制上、多額の現金を自国から持ち出したり、外国から持ち込んだりする際には申告を義務付けています(例えば日本の場合は100万円、米国の場合は1万ドル、ユーロ圏の場合は1万ユーロなど。図表)。
図表 主要国で現金等の持込・持出しに際し申告が必要となる額
| 国・地域 | 入国時 | 出国時 |
| 日本 | 100万円以上 | (同左) |
| 米国 | 1万米ドル以上 | (同左) |
| ユーロ圏 | 1万ユーロ以上 | (同左) |
| 英国 | 1万ポンド以上 | (同左) |
| スイス | 1万フラン以上 | (同左) |
| 台湾 | 1万米ドル以上 10万台湾ドル以上 2万人民元以上 | 2万米ドル以上 10万台湾ドル以上 2万人民元以上 |
| 香港 | 12万香港ドル以上 | 申告不要だが税関職員からの質問に応じる義務あり |
| 中国 | 外貨は5,000米ドル以上 人民元は2万元以上 | ※外貨は入国時に申告した額、人民元は2万元までしか持ちだせない |
| 韓国 | 1万米ドル以上 | 外貨は入国時に申告した額までしか持ちだせない |
(【出所】各国政府ウェブサイト等を参考に作成。ただし、規制が最新のものではない可能性もある)
ハンドキャリーで現金を国外に持ち出すと…?
ただ、図表では香港は12万香港ドル(最近のレートだと約240万円程度でしょうか)を持ち込む際には申告が必要となっていますが、これはマネロン対策等で2018年7月に導入された措置であり、それ以前であれば規制なく自由に現金を持ち込むことが可能でした。
このため、日本から500万円程度の現金を鞄やスーツのポケットなどに入れて、無申告で空港の出国ゲートを潜り抜け(※この点は違法です)、そのまま飛行機に乗って香港に行き、銀行にその現金を預け入れることで、日本の税務当局が補足できない口座を持つことができていたのです。
ちなみに香港は居住者以外であっても銀行口座を開くことができることでも知られており、たとえば旅行でフラッと香港を訪れたついでにHSBCなどに銀行口座を開設し、かつ、日本円などの主要国通貨であればそのまま預け入れることが可能です。
ということは、高額所得者などは、たとえば年数回香港を訪れ、その都度多額の現金を(違法に)日本から無申告で持ち出し、それを自身の香港の銀行口座に預け入れれば、日本の税務当局の目につかない資産を持つことも可能だったのです。
この方式だと持ち出す資金は課税済みであり、無申告で資金を持ち出す点以外はべつに違法ではないはずですが、いったん資金を海外に移しておけば、自身が死去した際の相続税負担を(違法に)軽減することもできます。
もちろん、現在ではさまざまなルールが変わり、たとえばOECDの共通報告基準(CRS)に基づいて自動的情報交換がなされているため、日本の居住者が香港に保持している口座の情報は日本の税務当局に筒抜けです。
しかし、理屈のうえでは、このCRSによる口座情報交換を逃れる方法もいくつかあるようであり(※その具体的な手法を当ウェブサイトで紹介することはしません)、実際、そういうコンサルティングを行っている人もいるようです。
税逃れに加え社会不安の原因にもなる!
いずれにせよ、税率を上げ過ぎれば、やはりそこへの対策として、①国外脱出、②節税対策、③違法行為―――などが横行することは間違いありません。
ただ、もっと懸念すべきは、④「革命」「クーデター」です。
1990年代に旧共産圏諸国があっけなく崩壊したのは、旧共産圏諸国が圧政で人々を苦しめていたからですが、重税国家でもある日突然、人々が暴発し、国会や政府庁舎を取り巻いて、政権を倒してしまう、ということがあり得るのです。
温厚な日本人がこうした暴動を起こすかどうかは別問題です。
ただ、じつは、当ウェブサイトで政府に対し、税社保問題への真摯な取り組みを強く促しているのも、この問題が長い目で見て国家の安定と発展の大きな障害となるからです。
日本の財務省などによる「サラミスライス」的な増税は、ここに来て、限界を迎えています。
また、高すぎる社会保険料負担と「賦課方式」は、人々に対し、「報われない高負担」を強いています。
しかも、現在の日本のような「手厚すぎる社会保障」は、受益者(=高齢者)の数が増え過ぎ、負担者(=現役層)の数が激減してくれば、必ず崩壊します。現在の現役層からすれば、負担がこんなに重いのに、自分たちが高齢者になったときには現在の高齢者並みの受益ができないことは、ほぼ確定しているのです。
こうした実態が知れ渡れば、反政府運動、そして暴動にまで発展するリスクがあり得るのです。
政治家は真摯にこの問題に向合え
そのリスクを除去するためには、やはり現在、政権を担っている人たち、政治にかかわっている人たちがこの問題を正面から直視し、真摯に解決策を考えるしかありません。
幸いにも、当ウェブサイトで何度も指摘している通り、日本は単一通貨国であり、資産超過国です。
賦課方式の負の遺産を清算するために、「年金国債」を発行して厚生年金を解散・廃止し、払い込まれた年金保険料と国民年金保険料の差額を加入者に返済すること、膨張する医療費を抑制するために保険適用範囲や高齢者の自己負担割合を是正すること。
そしてなにより、すべての税目をゼロベースで総点検し、国民負担の軽減・適正化を図ること。
じつは、国債は税金だけでなく、経済成長を伴ったインフレによっても返済することが可能です。また、日本の場合、財務省が抱え込んでいる外為特会や財投特会の規模が大きく、これらを政府部門から切り離すだけでも、債務規模を圧縮することが可能です。
このように考えたら、カネ持ちが海外に移住するのを避けるのに加え、脱税が意味をなさないほどに税率を下げてしまう、というのがひとつのソリューションとして浮上してくるのではないでしょうか。
それに、日本は人口減少などの課題を抱えてはいるものの、人口減少していても経済成長している事例はありますし、経済学的にも人口減少は経済成長の制約条件のひとつに過ぎません。
「税負担の適正化」「社会保障の受益の適正化」。
高市早苗総理大臣にそれができるのかどうかはわかりませんが、当ウェブサイトではこれについて、今後も少しずつ考察を進めていきたいと思う次第です(当ウェブサイト自体、いつまで続けられるかわかりませんが…)。
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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